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第五話(お絵描きスキル)
しおりを挟む「可愛い看板犬とかいたら、この店もっと儲かるんじゃないのか」
俺は閑散としている店内を眺めながらそんなことを閃いていた。
客から追加の注文も来ないし、めちゃくちゃ暇だ。
これ、遊びに行っても全然問題ないわ。
「なんです?随分と唐突な発言ですね。お兄ちゃんはペットが飼いたいんですか?」
「いや、飼いたいとかはないな。単純に店のマスコットキャラみたいのがいればそれ目当ての客を新たに獲得できるんじゃないかって、そう思っただけだ。飼うなら飼うでそのときゃ、世話はお前に何から何まで全部押し付ける。散歩、エサの用意、フンの始末、予防注射、その他もろもろ」
「絶対にやりませんからね。私にお世話を押し付ける前提でペットを飼わないでください」
「何を隠そう、俺のスキルの中には『お絵描きスキル』というユニークなスキルがあってだな」
「私の主張は聞く耳無しですか」
スキルとは地獄内限定で使える能力のことだ。生前の経験や特技に見合うスキルが自然に形成されるらしいが、経験が浅い場合や長所が特にない場合は何も発生しないようである。
個々によって使えるようになるスキルの数は異なり、全く使えないやつもいれば、ありえない種類を使いこなす天才もいるとか。
「使い方は簡単。まずは手元に適当な紙を用意します。画用紙だろうがメモ帳だろうがいらない紙でもなんでも構いません。同様に書くものもどれでも構わないので用意します。マジックだろうがクレヨンだろうがシャーペンだろうが構いません」
店内にいたすべてのお客がおかえりになったのを見計らって、タルトに俺のスキルをちょいとばかし披露することにした。
まだ営業中だが構わないだろう。そこまで時間が掛かる作業というわけでもない。サササッと描いてちょちょいのちょいだ。
「は、はあ……とりあえず画用紙と鉛筆が手近にあったので持ってきましたよ。これでいいですか?」
「よかろう。では、説明を続ける」
「なんだか、とても偉そうです」
「このスキルはより正確さが求められると鬼子が言っていた。まだ一度も使ったことはないが、試しにやってみよう。成功すれば描いた絵に反応し、欲している物が姿を現わす筈だ」
「お兄ちゃん、デッサンだけはまあまあ得意でしたからね」
「まあまあは余計だ。……よし、こんなもんかな」
そう。俺は高校時代美術科だったからそれなりに絵が描ける。
だからこそ、この手のスキルが発現したに違いない。
「もう描き終えたんですか?見せてください」
「おう。このくらい朝飯前よ」
「お兄ちゃん、これって……犬じゃなくて、虎です」
「細かいこと気にすんなよ。虎も犬も大して変わらんさ」
「いや、結構変わると思いますが」
私の兄は犬と虎の区別もつかないお馬鹿さんだったのか。
とでも言いたげなタルトの視線が痛い。
「ん、んんっ?何も起きないな」
「ですね。使い方を間違えたんじゃないですか?」
「いいや、そんな筈はないんだが……」
我ながら惚れ惚れする出来だ。
仕上がりは申し分ないし、条件は満たしてるよな?
今度鬼子のやつに文句言ってやる。
「期待外れです。がっかりしました」
「なんだよおまえ、ペットの世話はしないとか頑なに嫌がってたくせに」
「私ががっかりしたのはスキルにですが。シルクハットからハトを出すみたいな大掛かりな手品を期待していたのに」
「ばっきゃろー。そこらの手品師と俺のお絵描きスキルじゃ比べ物にならねーよ。使い方によっちゃ、何でも欲しい物が手に入る結構すげースキルなんだぞ」
「でも、結局何も出てこないじゃないですか。もしかしなくてもお兄ちゃんに画力が足りないってことなのでは?」
「まあそれはあるかもな……悔しいが、失敗した理由がそれ以外に思い浮かばん。どれだけ精巧な絵を求めてんだよ……?クソの役にも立たねぇスキルだな」
「クソの役にも立たないって……さっき、自分でべた褒めしてたばっかりじゃないですか。少し前に言ってたこととまるで正反対……」
鬼子に「このスキル全然使えねーじゃねぇか」と抗議したところで「それはあんたに絵の才能がないからでしょ」とか明言されそうだからなー。
「もうやめだやめだ。俺はちょちょいと出掛けてくるからなー」
「あ、ちょっと待ってくださいっ、まだお仕事中で……行ってしまいました」
桃之介はオーガニックを飛び出して颯爽とどこかに行ってしまったが、幸いにも今日は客足が少ない。
(……でもまあ、今日はお店の中もガラガラですし大目に見ましょう)
タルトは桃之介の描いた絵を眺め、この絵に一体何が足りなかったのか考えてみることにした。
「いつ間にかこんな絵まで描いてたんですね……」
画用紙の裏面を見てみると、虎を擬人化させたイラストまでが描かれてあった。もはやデッサンでもなんでもない。
このイラストを見た後だと、正確さがどうのとか言ってた割には初めから真面目に描く気など無かったかのように思える。
(お兄ちゃんの描く絵は全体的に漫画っぽいんですよね……鬼子さんの説明通りに描くならキャラクターチックに描かずに本物に近づけて描くべきだと思います)
「えっと……ここをこうしてああして……」
桃之介の描いた虎の絵は、タルトの手によって訂正され、気付けば本物と見間違うほどの出来に生まれ変わっていた。
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