なんちゃって調理師と地獄のレストラン

SAKAHAKU

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第九話(ニートみたいな幽霊)

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レストランオーガニックの二階。生活スペースの最奥に屋根裏部屋があるのはなんとなく知ってはいたんだが、一度も中を覗いたことはなかった。
別に立ち入りを禁じられていたわけではない。ただ単純に興味がなかったってだけだ。
まさか、そこでひっそりと暮らす第四の住人がいたなんて思いもしなかった。
しかもその人物が幽霊だなんて……ときおり夜中に聞こえるシャワーの音、ひとりでに流れるトイレの謎もこれですべてが解決した。

「鬼子のやつ、居候抱えてるなら最初に言っとけって」

屋根裏部屋に住んでいるのはユキミという名の幽霊で、朝昼晩とぶっ通しで大好きな携帯ゲームに熱中している。
よく耳を澄ますと聞こえてくるボタンをぴこぴこする音が地味にホラーだ。
俺が風呂場で邂逅した相手がまさにこいつである。

「ユキミ、メシ持ってきたぞ。冷めないうちに食えよ」

なんだか、頑なに部屋から出ようとしないひきこもりの世話をしているみたいな状況だ。
まあ、実際そうなんだけど……、

「うわっ!?天井すり抜けてくんなよ。驚くだろ」

こういうことができるのは本当に幽霊って感じだな。

『アリガトウ。運んでくれて』

「……え?別に。気にすんなよ。ついでだからな」

朝食の乗ったトレイをユキミに手渡す。
これまでだって三人分のメシを用意してきたんだ。一人増えたところで大した違いはない。

「お兄ちゃんがひとりごとをぶつぶつと呟いてます……君が悪いを通り越して、めちゃくちゃ気持ち悪いです」

廊下の曲がり角からこちらを覗きこみながら、タルトが本日最初の毒を吐く。
一人分の朝食をどこかに持っていこうとしている俺のことが気になって後をつけてきたってところか。

「しつれーな。おまえにはこいつが見えねぇのか?話しただろ、ユキミだよユキミ。テレパシーで俺に語りかけてきてんだよ。……あっ、そうか。お前ってバカには見えない系の幽霊なのね」

『そうならどれほど面白かっただろう』

俺の隣で何故かユキミが落胆していた。

「なに勝手に閃いて納得してるんですか。私をバカだと決め付けるのはよくないです」

「だってお前、七の段も八の段も暗記できてなかったよな。その歳でかけ算も満足にできないなんてはっずかしー!」

『そうなのか……ガンバレ』

ユキミがテレパシーでタルトにエールを送っている。
何も見えないし聞こえないこいつには全く伝わっていないのが悲しいところだが。

「いったいいつの話をしてるんですか。小学生の頃の失敗を蒸し返さないでください。それに、たとえかけ算ができなかったとしてもそれですべてが決まるわけじゃないです」

「そんじゃ、今は完璧に覚えたんだな?」

『どうなんだ?』

「聞かれるまでもないですね。今じゃ完璧にマスターして、他人に教えるのだって容易いですから」

そんなことで胸を張れるなんて、お前は幸せなやつだな。
ちょうどいいからラスクにでも教えてやれよ。

「普通はそのくらいできて当たり前なんだがーー」

『このコは誰?』

「ん、こいつか?こいつはタルトっていって、焼き菓子みたいなふざけた名前のやつだが、正真正銘俺の妹だぞ」

『イモウト……?クスクス。全然ニテナイ』

よく言われる。自分でもそう思うわ。
こいつが俺と兄妹という事実を周りは頑なに信じようとしないんだ。似てる部分がほぼないのよ。似てる部分と言ったら変な名前くらいのもんだ。

「そのふざけた名前をつけた張本人が口にしていいセリフじゃないです」

「へー。そうなのか。なるほどな……」

唐突にユキミが俺に耳打ちし、興味深い話を告げた。
どうせ姿が見えない声も聞こえないんだから、内緒話する意味が無いと思うんだが。

「なるほどって何がですか?」

「いやな、俺にユキミの姿が見えるのは一応の理由があったっぽいんだわ。タルト、手貸してみ」

「藪から棒になんです……?」

「いいからいいから」

「はあ……これで満足ですか?」

頭上に?マークを浮かべるタルトの手首をちょいと拝借。そして、

「ああ。上出来だ」

「ひっ……!?」

『クスクス』

タルトが正面に浮かんでいるユキミの存在に気付いて、小さな体をびくんと震わせた。
驚愕するタルトを見て、ユキミがクスクス笑っている。

「あっはっは。驚いたか?」

「驚きましたよ!どうして私、気付いたら幽霊さんの手を触ってるんですか!?」

「触らせたんだよ、俺が」

「どうしてですか!?」

「ユキミが『おいらの姿が見たければ、触れ合うことでその不都合は解消できる』って言うからさ」

俺にユキミの姿が見えてたのは、風呂場でユキミに触れたからだったんだな。
あの時の胸の感触は中々忘れられないぜ。

「おいら!?ユキミさんは「おいら」が一人称なんですか?」

「いや、しらね。俺が勝手に面白いと思って付け足した」

「絶対おいらなんて言わないですよ。見たところとっても可愛らしい方ですし、あったとしても「ぼく」とかじゃないですか?」

「は?それじゃ腐女子みたいだろ。そっちこそ絶対にねーよ。な、ユキミ。おいらの方が似合ってるよな」

俺がユキミに同意を求めたとき、隣でぐぎゅるるるる~という感じの凄まじい腹の音が鳴った。
そういやユキミは飯まだ食ってないんだったな。

「幽霊さんでもお腹って空くんですね。そもそも幽霊さんってごはん食べられるんですか?」

「人や物に触れる時点でお察しだろ。こいつはトイレだって行くし風呂にも入るんだぜ。それに、そんなこと言ったら俺達だって同じような存在だ」

俺の言葉にユキミが腕を組んでうんうんと頷いている。
なんてったって一度死んで鬼ヶ島に来たんだからな。
俺やタルトだって裏を返せば幽霊みたいなものなのかもしれない。

「悪かったな、うちの妹がどうでもいいようなくだらねー話を長々と」

「むむっ、聞き捨てならないです。どうでもよくてくだらないおしゃべりをしてたのはお兄ちゃんの方じゃーー」

「屋根裏部屋に戻っていいぞ。おかわりもたんまりあるから、欲しかったら声かけてくれ」

俺がそんな言葉をかけると、ユキミは一度こくんと頷いて屋根裏部屋に帰って行った。

「お兄ちゃんの言ってた通りでしたね」

「あん?何がだよ?」

「ユキミさんです。最初こそびっくりしてしまいましたが、全然怖くなかったです。想像していたのとだいぶ違いました。容姿端麗でホラーの要素が全くなくて」

「美人ならぬ美幽霊だな。鬼ヶ島の住人は見て呉れのいいやつばかりで目のやり場に困る。ヒスイはもちろん、性格はあれだが鬼子もな」

「ですね。オーガニックのお客さんも鬼子さんやヒスイさん目当ての方が多いですから。お兄ちゃんの作る食べ物が食べたくて訪れるお客さんは極少数かと」

「おまえはいつも一言多いんだよなぁ」

あいつらが手伝いに入ってないとき、やたら客の入りが少ないのはそのためだったか。
女性陣の見て呉れがいいのはその通りだが、うちは美少女を目の保養にするようなメイドカフェじゃねぇんだぞ……。






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