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第十二話(とろろの味噌汁)
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本日のレストラン営業終了後、お客に提供して余った味噌汁を愉快な仲間達に振舞っていた。
「ももちゃん、このスープ美味しいね。これは誰からダシを取って作ったの?」
「いや、それは誰からもダシを取っちゃいないな。単純にタルトが作った味噌汁にとろろを投入してかき混ぜたものがそれだ」
とろろと味噌汁。
以前試しにこの二つを混ぜてみたら存外美味かったから、皆にも是非知ってほしくてな。
「とろろってなあに?」
「そこから説明しなきゃならねーのかよ。とろろってのは、山芋をすりおろしてつくる……えーっと、なんかどろどろしたやつだな。それに触ると痒くなるとか言われてる」
まあラスクはまだ子供だし、知っていなくても不思議じゃない。説明ぐらいしてやるさ。
そもそも、地獄に山芋が存在するのかどうか。
「鬼ちゃん。とろろスープ美味しいよ。試しに飲んでみなよ」
「ヒスイ、今日も変な物食べさせられてるのね。かわいそう。同情するわ。いくら桃之介のことを好いているからって嘘を付くのはよくないから。そんなのが美味しいはずないじゃない。タルトが頑張って作ったスープに勝手にドーピングして改造したゲテモノ料理なんだから」
「そんなことないもん。ももちゃんが作る料理は何だって美味しいんだから」
「そもそもこれは、作ったって自信を持って言えるのかしらね。他人が作ったスープに具を一品投入しただけじゃない」
それに関してはたしかにその通りだ。反論のしようがない。
だが、飲んでもいないくせに最初から不味いと決めつけられては困るな。
「俺の作った料理がウケるのは鬼ヶ島限定かもな。元いた下界で、この味噌汁がバカ売れするとは思えない」
「不思議ですよね。お兄ちゃんの作った料理がこんなにも多くの人に受け入れられるなんて……鬼ヶ島の人達ってもはや舌がおかしいとしか」
「おい、言い方に気をつけろよ」
タルトの容赦ない毒舌が相も変わらず俺にクリーンヒットした。
「らっちゃんも5回くらいおかわりしてましたし味については認めざるをえませんが、なんだか負けた気分です。とろろを勝手に混ぜられただけでお客さん達に好評されるなんて」
「ふっ。なんでも美味くしちまう俺の才能が恐ろしいな」
「味のほうは確かに悪くないのよね。不味くもないしそれほど美味しいってわけでもない。なんとか食べられるふつーの腕前。見た目は壊滅的で見るに堪えないけど」
鬼子のやつ、褒めてるんだか貶してるんだか微妙な評価だな。
そこは素直に褒めとけよ。
「はい。もしもこの日常が映像作品だとしたら、ほぼ全ての料理にモザイクが施されるレベルで酷いです」
酷評を連発する二人のクレーマーの前に、メンタルが強い俺もさすがに顔を覆った。
「しくしく……お前ら、そこまで言うか?俺はこれでも一生懸命にだな、試行錯誤を重ねて……」
「ももちゃん泣いてるの?あたしはももちゃんが作る食べ物全部好きだよ。自信持って。鬼ちゃんの言うこと間に受けちゃダメ。ふぁいとふぁいと」
「ごしゅじん、おかわり」
いつでもどんな時でも、俺の味方をしてくれるヒスイとラスクの優しさが身にしみる。
「およよ……ありがとう。お前達二人だけだよ。俺のことを心から褒めてくれるのは」
「気持ち悪いので嘘泣きやめてください。なんですか、しくしくおよよって。目薬で涙作ってるの私見ましたよ」
「ちっ、さすがは俺の妹君。伊達に長年俺の妹やってねぇわ」
タルトの洞察力により、泣きたくても涙を流せない三流俳優や女優よろしく目薬を使用したのが速攻で露呈した。
「こんなお兄ちゃんですが、私が小さい時はオムライスとかお子様ランチとか手の込んだごはんを一から作ってくれた優しい一面もありました。あの頃の尊敬できるお兄ちゃんはどこへ行ってしまったのやら」
「へー。桃之介が手の込んだ料理をねぇ……」
何だよ、その「信じられなーい」とでも言いたそうな顔は?
俺だって本気を出せばそれくらい簡単に作れるんだぜ。
「その言い方だと、今は優しくない兄みたいに聞こえるぞ」
「優しいお兄ちゃんは妹に嫌いな食べ物を強制したり仕事を押し付けて遊びに行ったりしないですから」
誰だいその酷い兄は?そんなやつが君のお兄ちゃんなのかい?
「正論ね。桃之介、あんたこのままだと大切な妹に嫌われちゃうんじゃない?」
「は?ありえねぇ。タルトに限ってそんなこと……あるわけないよな。だってタルトはお兄ちゃんが大好きな妹の中の妹みたいなやつで、ちっちゃな頃はよく俺に甘えてーー」
「寝言は寝てから言ってください。例え妄想の中でもそれ以上私を辱しめたら怒りますよ」
「妄想でも想像でもねぇ。俺は事実をだな……」
「ごしゅじん、おかわり」
本日何度目かもわからないおかわりの言葉と共に、ラスクが空の茶碗を俺に差し出す。
あまりにも多すぎて途中から数えるのをやめたが、軽く10回は超えてるんじゃなかろうか。
「お前さっきからいったい何回飲む気だよ!?そんなに飲むとトイレが近くなるぞ!」
「だってこれ、美味しいから」
「そっか。俺の作ったとろろの味噌汁はそんなに美味いか。もう何も言うまい。存分に飲みまくれ」
「うん」
「よかったですね、お兄ちゃん。らっちゃんに褒めてもらえて。今幸せですか?」
「おうよ。幸せだ」
鬼子が言ったように、これはほぼタルトが作ったものだ。
それを褒められて嬉しくなっている俺はただの馬鹿なんじゃないだろうか。
「ももちゃん、このスープ美味しいね。これは誰からダシを取って作ったの?」
「いや、それは誰からもダシを取っちゃいないな。単純にタルトが作った味噌汁にとろろを投入してかき混ぜたものがそれだ」
とろろと味噌汁。
以前試しにこの二つを混ぜてみたら存外美味かったから、皆にも是非知ってほしくてな。
「とろろってなあに?」
「そこから説明しなきゃならねーのかよ。とろろってのは、山芋をすりおろしてつくる……えーっと、なんかどろどろしたやつだな。それに触ると痒くなるとか言われてる」
まあラスクはまだ子供だし、知っていなくても不思議じゃない。説明ぐらいしてやるさ。
そもそも、地獄に山芋が存在するのかどうか。
「鬼ちゃん。とろろスープ美味しいよ。試しに飲んでみなよ」
「ヒスイ、今日も変な物食べさせられてるのね。かわいそう。同情するわ。いくら桃之介のことを好いているからって嘘を付くのはよくないから。そんなのが美味しいはずないじゃない。タルトが頑張って作ったスープに勝手にドーピングして改造したゲテモノ料理なんだから」
「そんなことないもん。ももちゃんが作る料理は何だって美味しいんだから」
「そもそもこれは、作ったって自信を持って言えるのかしらね。他人が作ったスープに具を一品投入しただけじゃない」
それに関してはたしかにその通りだ。反論のしようがない。
だが、飲んでもいないくせに最初から不味いと決めつけられては困るな。
「俺の作った料理がウケるのは鬼ヶ島限定かもな。元いた下界で、この味噌汁がバカ売れするとは思えない」
「不思議ですよね。お兄ちゃんの作った料理がこんなにも多くの人に受け入れられるなんて……鬼ヶ島の人達ってもはや舌がおかしいとしか」
「おい、言い方に気をつけろよ」
タルトの容赦ない毒舌が相も変わらず俺にクリーンヒットした。
「らっちゃんも5回くらいおかわりしてましたし味については認めざるをえませんが、なんだか負けた気分です。とろろを勝手に混ぜられただけでお客さん達に好評されるなんて」
「ふっ。なんでも美味くしちまう俺の才能が恐ろしいな」
「味のほうは確かに悪くないのよね。不味くもないしそれほど美味しいってわけでもない。なんとか食べられるふつーの腕前。見た目は壊滅的で見るに堪えないけど」
鬼子のやつ、褒めてるんだか貶してるんだか微妙な評価だな。
そこは素直に褒めとけよ。
「はい。もしもこの日常が映像作品だとしたら、ほぼ全ての料理にモザイクが施されるレベルで酷いです」
酷評を連発する二人のクレーマーの前に、メンタルが強い俺もさすがに顔を覆った。
「しくしく……お前ら、そこまで言うか?俺はこれでも一生懸命にだな、試行錯誤を重ねて……」
「ももちゃん泣いてるの?あたしはももちゃんが作る食べ物全部好きだよ。自信持って。鬼ちゃんの言うこと間に受けちゃダメ。ふぁいとふぁいと」
「ごしゅじん、おかわり」
いつでもどんな時でも、俺の味方をしてくれるヒスイとラスクの優しさが身にしみる。
「およよ……ありがとう。お前達二人だけだよ。俺のことを心から褒めてくれるのは」
「気持ち悪いので嘘泣きやめてください。なんですか、しくしくおよよって。目薬で涙作ってるの私見ましたよ」
「ちっ、さすがは俺の妹君。伊達に長年俺の妹やってねぇわ」
タルトの洞察力により、泣きたくても涙を流せない三流俳優や女優よろしく目薬を使用したのが速攻で露呈した。
「こんなお兄ちゃんですが、私が小さい時はオムライスとかお子様ランチとか手の込んだごはんを一から作ってくれた優しい一面もありました。あの頃の尊敬できるお兄ちゃんはどこへ行ってしまったのやら」
「へー。桃之介が手の込んだ料理をねぇ……」
何だよ、その「信じられなーい」とでも言いたそうな顔は?
俺だって本気を出せばそれくらい簡単に作れるんだぜ。
「その言い方だと、今は優しくない兄みたいに聞こえるぞ」
「優しいお兄ちゃんは妹に嫌いな食べ物を強制したり仕事を押し付けて遊びに行ったりしないですから」
誰だいその酷い兄は?そんなやつが君のお兄ちゃんなのかい?
「正論ね。桃之介、あんたこのままだと大切な妹に嫌われちゃうんじゃない?」
「は?ありえねぇ。タルトに限ってそんなこと……あるわけないよな。だってタルトはお兄ちゃんが大好きな妹の中の妹みたいなやつで、ちっちゃな頃はよく俺に甘えてーー」
「寝言は寝てから言ってください。例え妄想の中でもそれ以上私を辱しめたら怒りますよ」
「妄想でも想像でもねぇ。俺は事実をだな……」
「ごしゅじん、おかわり」
本日何度目かもわからないおかわりの言葉と共に、ラスクが空の茶碗を俺に差し出す。
あまりにも多すぎて途中から数えるのをやめたが、軽く10回は超えてるんじゃなかろうか。
「お前さっきからいったい何回飲む気だよ!?そんなに飲むとトイレが近くなるぞ!」
「だってこれ、美味しいから」
「そっか。俺の作ったとろろの味噌汁はそんなに美味いか。もう何も言うまい。存分に飲みまくれ」
「うん」
「よかったですね、お兄ちゃん。らっちゃんに褒めてもらえて。今幸せですか?」
「おうよ。幸せだ」
鬼子が言ったように、これはほぼタルトが作ったものだ。
それを褒められて嬉しくなっている俺はただの馬鹿なんじゃないだろうか。
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