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第三十三話(二人の差は計り知れない)
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「これ、タカヒロが教えてくれただけあってかなり美味しいわね」
翌日の昼時、さっそく売りに出したタコライスの売れ行きは好調で、閉店までタコライスを頼むお客が後をたたなかった。
「ですよね!ですよね!タカヒロさんが作るごはんはなんでも美味しいんです。アルバイト中は毎日まかないの時間が待ち遠しかったです」
タカヒロのやつも大変だっただろうよ。トマト使う料理って結構多いから、それを除外してまかないを作んなきゃならないんだからな。
あいつは優しくておまけに気遣いができる。相手の嫌いな食べ物が事前にわかってりゃ、それを使わないメニューを時間をかけてでも考えてくれる。料理の教え方も中々上手いんだぜ。何度聞いても嫌な顔一つせず教えてくれるしな。
「タコライスだっけ。これ、桃之介が作るどの料理よりも味がしっかりしてて美味しいんじゃない?」
「まあ、そうかもな。端からあいつに勝てるとは思ってねぇよ」
「このままじゃ不味いんじゃない?タルト、あんたに愛想つかしてタカヒロのとこに行っちゃうかもよ」
「それは一大事だな」
「でしょ」
非常に役に立つ雑用係がいなくなるのはマジ勘弁という意味でな。
タルトがこの店で一切働かなくなるということはつまり、俺の自由時間=サボる時間が目に見えて減少するってことだ。
それだけは何としても阻止したいところだが、タカヒロへの傾倒っぷりがすごいタルトを俺みたいなへなちょこ調理師がいつまで引き止めていられるだろう。
それこそ時間の問題ってやつじゃないか?
「え、お兄ちゃん……タカヒロさんのところに行ってもいいって本当ですか!」
「そんなこと一言も言ってねぇよっ!?つうか、その口ぶりからしてあいつのところに行く気満々だな!」
「行けるなら行きたいですよ。お料理のこととか色々勉強になりますからね。お兄ちゃんは優しくないですけど、タカヒロさんは私にすごく優しくしてくれますし」
いよいよ不味いかもな。こいつにいなくなられたら俺は一人でオーガニックを経営していかなきゃならなくなるわけだ。
そうなったらまたこの前みたいにユキミに頼るしかない。おむすびでタワー作ったり俺をからかって遊んでばかりで役に立ってたんだか微妙なとこだったけども。
タルトがいねーなら皿洗いとか厨房の掃除とか誰がやるんだよ……最低ホールに一人はいてくれないと注文だって取れねぇからな。
「じゃあ転職しちゃう?どうしてもそっちで働きたいならあたしが許可するけど」
「いいんですか!?ぜひお願いしたいです!」
「ちょちょちょちょちょっ、ちょっと待てい!」
「うるさいなー。何回ちょちょちょちょ言うのよ。一体なに?」
こいつ正気か。冗談にも程があるぜ。
なに勝手に転職勧めちゃってくれてんだ、全くよー。俺から無理やり従業員を奪ってほしくないんだが?ただでさえ人手不足なんだぞ。
「お前、俺からタルトを取り上げるつもりか?さっき言ったはずだよな!一大事だって!」
「でも、タルトがどうしても行きたいって言うから」
「ああ。あれはきっと軽いジョークってやつだろ。きっといつもみたいに俺を困らせて楽しんでんだ。だろ、タルトさんよ。ったく、冗談キツイぜ」
「いえいえ、冗談なんかこれっぽっちも言ってませんよ。これが私の本音です」
「うそ……だろ……」
「桃之介、潔く諦めたら?どうやらタルトの決心は固いみたいよ」
これまで俺と二人で面白おかしく暮らして来たオーガニックを、タルトが離れるだと……?
こうも簡単にあっさりと?ありえん。
ーー仕方ない、こうなったら最後の手段だ。
「おおお、お前がいなくなったらラスクが悲しむぞ……?それでもここから去るって言うのか」
「あ、そのへんは抜かりないので安心してください。らっちゃんは私が連れて行くので大丈夫です。タカヒロさんに一緒に住まわせていただけないかお願いしてみますので」
完敗だ。ラスクを寵愛してるタルトのことだから置いてはいけないと予想はしてたが、まさか本当にそうなるとはな。
これじゃ引き止める材料にならない。
どうするよ俺、このままタルトとラスクに出てかれちまっていいのか?
なんだかこれ、離婚間近の夫婦みたいなやりとりになってんな……。
「うおぉぉい!鬼子!なんとかしてくれ!頼むからタルトを踏みとどまらせてくれよおぉおお!」
食事中の鬼子の両肩を鷲掴みにしてぶんぶんと揺らし、俺は懇願した。
それでも鬼子は、俺にとことん冷たかった。
「あんたが嫌いなトマト食べさせたりしていじめるから出て行きたくなったんじゃない?自業自得でしょ。少しは反省したら」
「鬼子……俺実はな、鬼萌えなんだよ」
「はあ?あんたこんな状況で何言ってんの」
俺は悪あがきとして本当に本当の最後の手段を発動させた。
これだけは使いたくなかったんだけどな……背に腹は何とやらってやつだ。
「一目見たときから俺はお前にゾッコンだったぜ。その二本角、燃えるような真紅の髪、ドンピシャだね。クラっときたよ」
褒めたくもないのに鬼子を執拗に褒めまくる。心にもない言葉を連発し、鬼子を味方に引き込む作戦だ。ったく、鬼萌えってなんだよ。そんなもんは存在しねぇ。自分で言ってて恥ずかしくなってくんな。
「本当になんなのよ、その歯が浮くような台詞は……?急にべた褒めなんかして……気色悪い」
「どう思われようが構わねぇ。何度でも言う。お前は最高だ」
「あんたそれ、本当はこれっぽっちも思ってないでしょ」
「そそ……そんなこたぁねぇよ……お前が俺にとって魅力的なのは本当だって。嘘じゃないさ」
その横暴な性格を除けばの話だがな。
見た目が上級なのは真実で、例え正体が悠久の時を生きるロリババアでも返答を変えるつもりはない。
「ふーん、そう。桃之介に褒められたのなんて初めて。ここは素直に喜んでおく場面かしら?」
「ああ、よろこべよろこべ。俺がこんなキザな台詞を吐く機会なんて中々ないんだぜ?レアだよレア。スーパーレアだ」
「でもお生憎様、甘い言葉で褒めちぎって言うこと聞かせようって魂胆なんでしょうけど、あたしにタルトは止められないわ」
やはりこいつには俺の企みなんざすべてお見通しだったか。もう為すすべがない。こうなりゃヤケだ。
「鬼子てめぇ、なんでだよ!」
「だって可愛いそうじゃない。タカヒロのところで働きたいならそっちに行かせてあげるべきでしょ。これ以上ここにいても更なる高みは目指せない成長は望めない伸び代がない次のステップに進めない。タルトがそう判断したの!」
ーーいつしか俺は、鬼子の畳み掛けるような的を得た言葉に屈服し、それ以上なにも言い返すことが出来なくなっていた。
くそ……完全なる敗北を味わった気分だぜ。
「それじゃタルト、今日にでも転職の手続きを始めるから、近いうちにタカヒロのところへ移動で構わないかしら?」
「やっとお兄ちゃんの魔の手から解放される時が来たんですね。ずっとこの日を待っていました。感涙ものです」
好き勝手にタルトが宣うが、俺は鬼子の口撃で意気消沈し、もはやもうどうでもよくなってきていた。
翌日の昼時、さっそく売りに出したタコライスの売れ行きは好調で、閉店までタコライスを頼むお客が後をたたなかった。
「ですよね!ですよね!タカヒロさんが作るごはんはなんでも美味しいんです。アルバイト中は毎日まかないの時間が待ち遠しかったです」
タカヒロのやつも大変だっただろうよ。トマト使う料理って結構多いから、それを除外してまかないを作んなきゃならないんだからな。
あいつは優しくておまけに気遣いができる。相手の嫌いな食べ物が事前にわかってりゃ、それを使わないメニューを時間をかけてでも考えてくれる。料理の教え方も中々上手いんだぜ。何度聞いても嫌な顔一つせず教えてくれるしな。
「タコライスだっけ。これ、桃之介が作るどの料理よりも味がしっかりしてて美味しいんじゃない?」
「まあ、そうかもな。端からあいつに勝てるとは思ってねぇよ」
「このままじゃ不味いんじゃない?タルト、あんたに愛想つかしてタカヒロのとこに行っちゃうかもよ」
「それは一大事だな」
「でしょ」
非常に役に立つ雑用係がいなくなるのはマジ勘弁という意味でな。
タルトがこの店で一切働かなくなるということはつまり、俺の自由時間=サボる時間が目に見えて減少するってことだ。
それだけは何としても阻止したいところだが、タカヒロへの傾倒っぷりがすごいタルトを俺みたいなへなちょこ調理師がいつまで引き止めていられるだろう。
それこそ時間の問題ってやつじゃないか?
「え、お兄ちゃん……タカヒロさんのところに行ってもいいって本当ですか!」
「そんなこと一言も言ってねぇよっ!?つうか、その口ぶりからしてあいつのところに行く気満々だな!」
「行けるなら行きたいですよ。お料理のこととか色々勉強になりますからね。お兄ちゃんは優しくないですけど、タカヒロさんは私にすごく優しくしてくれますし」
いよいよ不味いかもな。こいつにいなくなられたら俺は一人でオーガニックを経営していかなきゃならなくなるわけだ。
そうなったらまたこの前みたいにユキミに頼るしかない。おむすびでタワー作ったり俺をからかって遊んでばかりで役に立ってたんだか微妙なとこだったけども。
タルトがいねーなら皿洗いとか厨房の掃除とか誰がやるんだよ……最低ホールに一人はいてくれないと注文だって取れねぇからな。
「じゃあ転職しちゃう?どうしてもそっちで働きたいならあたしが許可するけど」
「いいんですか!?ぜひお願いしたいです!」
「ちょちょちょちょちょっ、ちょっと待てい!」
「うるさいなー。何回ちょちょちょちょ言うのよ。一体なに?」
こいつ正気か。冗談にも程があるぜ。
なに勝手に転職勧めちゃってくれてんだ、全くよー。俺から無理やり従業員を奪ってほしくないんだが?ただでさえ人手不足なんだぞ。
「お前、俺からタルトを取り上げるつもりか?さっき言ったはずだよな!一大事だって!」
「でも、タルトがどうしても行きたいって言うから」
「ああ。あれはきっと軽いジョークってやつだろ。きっといつもみたいに俺を困らせて楽しんでんだ。だろ、タルトさんよ。ったく、冗談キツイぜ」
「いえいえ、冗談なんかこれっぽっちも言ってませんよ。これが私の本音です」
「うそ……だろ……」
「桃之介、潔く諦めたら?どうやらタルトの決心は固いみたいよ」
これまで俺と二人で面白おかしく暮らして来たオーガニックを、タルトが離れるだと……?
こうも簡単にあっさりと?ありえん。
ーー仕方ない、こうなったら最後の手段だ。
「おおお、お前がいなくなったらラスクが悲しむぞ……?それでもここから去るって言うのか」
「あ、そのへんは抜かりないので安心してください。らっちゃんは私が連れて行くので大丈夫です。タカヒロさんに一緒に住まわせていただけないかお願いしてみますので」
完敗だ。ラスクを寵愛してるタルトのことだから置いてはいけないと予想はしてたが、まさか本当にそうなるとはな。
これじゃ引き止める材料にならない。
どうするよ俺、このままタルトとラスクに出てかれちまっていいのか?
なんだかこれ、離婚間近の夫婦みたいなやりとりになってんな……。
「うおぉぉい!鬼子!なんとかしてくれ!頼むからタルトを踏みとどまらせてくれよおぉおお!」
食事中の鬼子の両肩を鷲掴みにしてぶんぶんと揺らし、俺は懇願した。
それでも鬼子は、俺にとことん冷たかった。
「あんたが嫌いなトマト食べさせたりしていじめるから出て行きたくなったんじゃない?自業自得でしょ。少しは反省したら」
「鬼子……俺実はな、鬼萌えなんだよ」
「はあ?あんたこんな状況で何言ってんの」
俺は悪あがきとして本当に本当の最後の手段を発動させた。
これだけは使いたくなかったんだけどな……背に腹は何とやらってやつだ。
「一目見たときから俺はお前にゾッコンだったぜ。その二本角、燃えるような真紅の髪、ドンピシャだね。クラっときたよ」
褒めたくもないのに鬼子を執拗に褒めまくる。心にもない言葉を連発し、鬼子を味方に引き込む作戦だ。ったく、鬼萌えってなんだよ。そんなもんは存在しねぇ。自分で言ってて恥ずかしくなってくんな。
「本当になんなのよ、その歯が浮くような台詞は……?急にべた褒めなんかして……気色悪い」
「どう思われようが構わねぇ。何度でも言う。お前は最高だ」
「あんたそれ、本当はこれっぽっちも思ってないでしょ」
「そそ……そんなこたぁねぇよ……お前が俺にとって魅力的なのは本当だって。嘘じゃないさ」
その横暴な性格を除けばの話だがな。
見た目が上級なのは真実で、例え正体が悠久の時を生きるロリババアでも返答を変えるつもりはない。
「ふーん、そう。桃之介に褒められたのなんて初めて。ここは素直に喜んでおく場面かしら?」
「ああ、よろこべよろこべ。俺がこんなキザな台詞を吐く機会なんて中々ないんだぜ?レアだよレア。スーパーレアだ」
「でもお生憎様、甘い言葉で褒めちぎって言うこと聞かせようって魂胆なんでしょうけど、あたしにタルトは止められないわ」
やはりこいつには俺の企みなんざすべてお見通しだったか。もう為すすべがない。こうなりゃヤケだ。
「鬼子てめぇ、なんでだよ!」
「だって可愛いそうじゃない。タカヒロのところで働きたいならそっちに行かせてあげるべきでしょ。これ以上ここにいても更なる高みは目指せない成長は望めない伸び代がない次のステップに進めない。タルトがそう判断したの!」
ーーいつしか俺は、鬼子の畳み掛けるような的を得た言葉に屈服し、それ以上なにも言い返すことが出来なくなっていた。
くそ……完全なる敗北を味わった気分だぜ。
「それじゃタルト、今日にでも転職の手続きを始めるから、近いうちにタカヒロのところへ移動で構わないかしら?」
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