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第三十四話(ラスクは俺の味方)
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「そういやお前、タカヒロんとこ行くとか散々言って俺を困らせてたけど、あれからどうした?まったく動きがないな」
俺にとってはそっちの方が全然いいんだが、こいつがいつにいなくなるのかずっと気掛かりだった。だから直接聞いてみた。
「ああ、あの話ですか。あの件ならおじゃんになりました。正確に言うと私がそうしたんですが」
「マジかよ!さすがはタルトだ!お兄ちゃんは信じてたぜ!」
「いえいえ、礼には及びませんよ。了承を得られなかったのでオーガニックに残る選択をしたまでです」
「了承って誰のだ?タカヒロの?もしかして鬼子か?」
「らっちゃんがお兄ちゃんと離れて暮らすのを拒んだんです。半分冗談で言ってましたが、非常に残念です」
「半分冗談て……半分は本気だったのかよ……?」
「とーぜんです。あわよくばタカヒロさんのお店に行けるところだったのに」
こいつ、本気で言ってるのか冗談で言ってるのかマジでわからんな。
芝居が上手いせいか表情から察することも難しい。
……でも、そうか。ラスクが俺と一緒にいたいと思ってくれたから、タルトはタカヒロの店への転職を断念した。
俺の中じゃ俺の危機を防いでくれたラスクの功績はかなり大きい。
あいつがヒスイと近いくらい俺の味方をしてくれているのはわかっていたが、今回の件はいくら感謝してもしたりないな。
「……ごしゅじん、ごはんちょうだい」
ちょうどいいところにラスクが厨房にやってきた。
昼頃は窓際で日向ぼっこしてたからまだ昼飯食わせてなかったんだよな。
「らすく~!おまえのおかげで助かったぜ!ありがとうな!」
「ごしゅじん、くるしい……」
「おお、すまんすまん……嬉しさのあまり強く抱きしめすぎたな」
俺なりに感謝の気持ちを最大限に込めた抱擁だったが、うまく伝わらなかったみたいだ。
これ以上ラスクを苦しめるのは忍びないと、すぐさま抱擁を解く。
「どうしてありがとう?」
「お前が俺の窮地を救ってくれたからお礼を伝えたくてな。マジで助かったぜ」
「きゅうち?」
……そっか。まだ子供だもんな。
ラスクにも伝わるようにできるだけ簡単な言葉で話すか。
「タルトに引っ越ししようか相談されたろ。聞いたんだ。お前が俺と一緒にいたいって言ってくれたんだって。素直に嬉しかった」
「ごしゅじんのごはんが食べられなくなるのは困る。おいしいから」
ごはんが美味しいか……。
そんな言葉をかけてくれるのはお前とヒスイくらいなもんだよ。
「ごはんならタカヒロのところに行けば確実に此処よりも美味いもんが食えるぞ。それも毎日ずっとだ。俺のメシなんかあいつの作るメシと比べちまったらクソ不味いぜ。お前もいつか、それに気付く時が必ず来る」
「まずい?違う。ごしゅじんのごはんはおいしい。これはほんとうのこと」
思わず泣きそうになるような優しい言葉をかけられる。不覚にも涙がこぼれそうになった。
「ごしゅじん、なんで泣く?どこかいたい?」
「ななっ、泣いてなんかいねーよ……!ありがちな言い訳だけど目にゴミが入っただけだ……」
情けねーよな。こんな小さい子の前で泣いちまう男なんてよ。
袖でごしごしと目を擦ってりゃ誤魔化しようがねぇもんな。
目も赤くなってるかも知れねーし、そんくらい子供にでもわかる。
「……それよりラスク」
「なあに」
「お前はそれでも俺を選ぶのか?ずっと変わらず、そばにいてくれるのか?」
向こうに行ってタカヒロの作ったメシを食えば俺の作ったメシの味なんか一瞬で吹っ飛ぶだろうさ。きっとすぐに記憶から無くなっちまうよ。俺とあいつじゃレベルが違い過ぎるからな。
「いる。ごしゅじんのこと好きだから離れたくない。ずっとそばにいる」
「そうか。ラスクは俺のことが好きなんだな」
「好き」
「本当か」
「ほんとう」
「本当に本当か?」
大事なことなので何度も確認を取ることにする。
しばらくそれだけに徹した。
「ほんとうにほんとう」
「本当に本当に本当か?」
「……ほんとうにほんとうにほんとう」
「本当に本当に本当にほんーーうげっ!?」
突然頭に衝撃が走る。
タルトが抱えていたおぼんで俺をぶん殴ったようだった。
「しつこいですよ、お兄ちゃん。らっちゃんが困ってるじゃないですか。気持ち悪いのでその辺で満足してください」
「おまっ……今のめちゃくちゃ痛かったぞ!本気で殴りやがったな!」
「すいません。ずっとほんとほんと言ってて耳障りでしたのでつい。いけませんでしたか」
「いけないに決まってんだろ。いきなり人の頭を殴るバカがどこにいる?」
「それよりお兄ちゃん、早くらっちゃんにごはんを出してあげてください。いつまでもこんなところで待たせておくのは可愛そうですよ」
それよりって……いきなり話を変えやがった感は否めないが、まあそうだよな。
元々厨房にラスクが赴いたのはごはんが目当てだった。
「悪かったなラスク。長々と俺の話しに付き合わせちまった。メシすぐに用意するからな。ホールのどこでもいい。好きな席座って待ってろ」
「わかった」
ラスクは嬉しそうに俺の言葉に頷く。
虎尻尾を振りながら厨房を出て、ホールの方へとてとてとかけていった。
「お兄ちゃん、らっちゃんに何を作ってあげるんです?」
「そうだな。お子様ランチにするか。あれを目の前に出されて喜ばないお子様はいないだろ?」
「ですね。いい考えだと思います」
めちゃくちゃ豪勢なお子様ランチに仕上げよう。なんてったって俺には生成スキルがある。
どんな食材もぽこぽこ出したい放題だからな。
定番のチキンライスやエビフライは外せないが、ラスクの好きな食べ物をたんまりプレートに乗せてやるのが一番いいだろうな。今からあいつの驚く顔が目に浮かぶようだ。
「しかし、泣いてしまうほどお兄ちゃんが参っていたとは思いもしませんでした。いつもサボったり怠けているお兄ちゃんをほんのちょっとだけ懲らしめようと言ってみただけだったんですが、少しやり過ぎてしまったみたいですね。ごめんなさいです」
「……は、あれって本気で言ってたんじゃ無かったのか?」
「はい。タカヒロさんのところでずっと働いていたかったのは事実ですが、半人前でだらしのないお兄ちゃんを見捨てていけるほど私は冷酷ではないですから」
つまりはあれか。普段やる気皆無な俺を少しでも本気にさせようと芝居を打ったってか?
まんまと騙されたぜ。鬼子まで巻き込んで転職がどうこう言ってやがったから、等々愛想尽かされたのかと思ったわ。
「色々言いたいことはあるが……とにかく、おまえが転職しないでいてくれてよかったよ」
「これに懲りたなら、これからはお仕事にまじめに取り組んでくれると嬉しいです」
「そうだな、考えておこう。今回の件でタルトの有り難みを酷く思い知らされたからな」
ここらで本気を出しておかないと、いつか本当にタルトに見放される日がやって来るかもしれない。
そんな最悪な結果にはならないよう最低限の努力はしていこう。
そう心に誓った。
俺にとってはそっちの方が全然いいんだが、こいつがいつにいなくなるのかずっと気掛かりだった。だから直接聞いてみた。
「ああ、あの話ですか。あの件ならおじゃんになりました。正確に言うと私がそうしたんですが」
「マジかよ!さすがはタルトだ!お兄ちゃんは信じてたぜ!」
「いえいえ、礼には及びませんよ。了承を得られなかったのでオーガニックに残る選択をしたまでです」
「了承って誰のだ?タカヒロの?もしかして鬼子か?」
「らっちゃんがお兄ちゃんと離れて暮らすのを拒んだんです。半分冗談で言ってましたが、非常に残念です」
「半分冗談て……半分は本気だったのかよ……?」
「とーぜんです。あわよくばタカヒロさんのお店に行けるところだったのに」
こいつ、本気で言ってるのか冗談で言ってるのかマジでわからんな。
芝居が上手いせいか表情から察することも難しい。
……でも、そうか。ラスクが俺と一緒にいたいと思ってくれたから、タルトはタカヒロの店への転職を断念した。
俺の中じゃ俺の危機を防いでくれたラスクの功績はかなり大きい。
あいつがヒスイと近いくらい俺の味方をしてくれているのはわかっていたが、今回の件はいくら感謝してもしたりないな。
「……ごしゅじん、ごはんちょうだい」
ちょうどいいところにラスクが厨房にやってきた。
昼頃は窓際で日向ぼっこしてたからまだ昼飯食わせてなかったんだよな。
「らすく~!おまえのおかげで助かったぜ!ありがとうな!」
「ごしゅじん、くるしい……」
「おお、すまんすまん……嬉しさのあまり強く抱きしめすぎたな」
俺なりに感謝の気持ちを最大限に込めた抱擁だったが、うまく伝わらなかったみたいだ。
これ以上ラスクを苦しめるのは忍びないと、すぐさま抱擁を解く。
「どうしてありがとう?」
「お前が俺の窮地を救ってくれたからお礼を伝えたくてな。マジで助かったぜ」
「きゅうち?」
……そっか。まだ子供だもんな。
ラスクにも伝わるようにできるだけ簡単な言葉で話すか。
「タルトに引っ越ししようか相談されたろ。聞いたんだ。お前が俺と一緒にいたいって言ってくれたんだって。素直に嬉しかった」
「ごしゅじんのごはんが食べられなくなるのは困る。おいしいから」
ごはんが美味しいか……。
そんな言葉をかけてくれるのはお前とヒスイくらいなもんだよ。
「ごはんならタカヒロのところに行けば確実に此処よりも美味いもんが食えるぞ。それも毎日ずっとだ。俺のメシなんかあいつの作るメシと比べちまったらクソ不味いぜ。お前もいつか、それに気付く時が必ず来る」
「まずい?違う。ごしゅじんのごはんはおいしい。これはほんとうのこと」
思わず泣きそうになるような優しい言葉をかけられる。不覚にも涙がこぼれそうになった。
「ごしゅじん、なんで泣く?どこかいたい?」
「ななっ、泣いてなんかいねーよ……!ありがちな言い訳だけど目にゴミが入っただけだ……」
情けねーよな。こんな小さい子の前で泣いちまう男なんてよ。
袖でごしごしと目を擦ってりゃ誤魔化しようがねぇもんな。
目も赤くなってるかも知れねーし、そんくらい子供にでもわかる。
「……それよりラスク」
「なあに」
「お前はそれでも俺を選ぶのか?ずっと変わらず、そばにいてくれるのか?」
向こうに行ってタカヒロの作ったメシを食えば俺の作ったメシの味なんか一瞬で吹っ飛ぶだろうさ。きっとすぐに記憶から無くなっちまうよ。俺とあいつじゃレベルが違い過ぎるからな。
「いる。ごしゅじんのこと好きだから離れたくない。ずっとそばにいる」
「そうか。ラスクは俺のことが好きなんだな」
「好き」
「本当か」
「ほんとう」
「本当に本当か?」
大事なことなので何度も確認を取ることにする。
しばらくそれだけに徹した。
「ほんとうにほんとう」
「本当に本当に本当か?」
「……ほんとうにほんとうにほんとう」
「本当に本当に本当にほんーーうげっ!?」
突然頭に衝撃が走る。
タルトが抱えていたおぼんで俺をぶん殴ったようだった。
「しつこいですよ、お兄ちゃん。らっちゃんが困ってるじゃないですか。気持ち悪いのでその辺で満足してください」
「おまっ……今のめちゃくちゃ痛かったぞ!本気で殴りやがったな!」
「すいません。ずっとほんとほんと言ってて耳障りでしたのでつい。いけませんでしたか」
「いけないに決まってんだろ。いきなり人の頭を殴るバカがどこにいる?」
「それよりお兄ちゃん、早くらっちゃんにごはんを出してあげてください。いつまでもこんなところで待たせておくのは可愛そうですよ」
それよりって……いきなり話を変えやがった感は否めないが、まあそうだよな。
元々厨房にラスクが赴いたのはごはんが目当てだった。
「悪かったなラスク。長々と俺の話しに付き合わせちまった。メシすぐに用意するからな。ホールのどこでもいい。好きな席座って待ってろ」
「わかった」
ラスクは嬉しそうに俺の言葉に頷く。
虎尻尾を振りながら厨房を出て、ホールの方へとてとてとかけていった。
「お兄ちゃん、らっちゃんに何を作ってあげるんです?」
「そうだな。お子様ランチにするか。あれを目の前に出されて喜ばないお子様はいないだろ?」
「ですね。いい考えだと思います」
めちゃくちゃ豪勢なお子様ランチに仕上げよう。なんてったって俺には生成スキルがある。
どんな食材もぽこぽこ出したい放題だからな。
定番のチキンライスやエビフライは外せないが、ラスクの好きな食べ物をたんまりプレートに乗せてやるのが一番いいだろうな。今からあいつの驚く顔が目に浮かぶようだ。
「しかし、泣いてしまうほどお兄ちゃんが参っていたとは思いもしませんでした。いつもサボったり怠けているお兄ちゃんをほんのちょっとだけ懲らしめようと言ってみただけだったんですが、少しやり過ぎてしまったみたいですね。ごめんなさいです」
「……は、あれって本気で言ってたんじゃ無かったのか?」
「はい。タカヒロさんのところでずっと働いていたかったのは事実ですが、半人前でだらしのないお兄ちゃんを見捨てていけるほど私は冷酷ではないですから」
つまりはあれか。普段やる気皆無な俺を少しでも本気にさせようと芝居を打ったってか?
まんまと騙されたぜ。鬼子まで巻き込んで転職がどうこう言ってやがったから、等々愛想尽かされたのかと思ったわ。
「色々言いたいことはあるが……とにかく、おまえが転職しないでいてくれてよかったよ」
「これに懲りたなら、これからはお仕事にまじめに取り組んでくれると嬉しいです」
「そうだな、考えておこう。今回の件でタルトの有り難みを酷く思い知らされたからな」
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