なんちゃって調理師と地獄のレストラン

SAKAHAKU

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第三十六話(駆り出される幽霊)

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『うぅぅ……ユキミさん外はあまり得意じゃない』

とかなんとか言ってるユキミだが、こいつは以前に鬼子によってホームランされた俺を海にまで拾いに来たことがあるんだよなぁ。あんときは平気そうだったが、今回と何が違うんだろう。

『こんな朝っぱらからどこへ連れて行こうと?これからゲーム三昧と洒落込もうと思ってたのに』

「そりゃ済まないな。実はお前に相手をしてもらいたい困ったちゃんがいるんだよ」

ユキミを屋根裏部屋から無理に連れ出して向かっている先は言うまでもない。
もちろんあそこだ。何度言っても自分の仕事を最後まで成し遂げられない天使の住居兼職場である。
早朝ユキミのところへ直行し、リュックに大量の携帯ゲームを詰め込ましてオーガニックを後にした。
無論、ラアルにゲームでもプレイさせて暇な時間を無くすためだ。
よくゲームには対戦系のやつがあるだろ。ゲームはやり始めると中々やめられない魔性の機械だからな。一度ハマっちまえば何時間だってプレイしてられるさ。
これで気付いたら眠ってたなんて問題は嫌でもなくなる筈だ。

『困ったちゃん?』

「ああ。お前ももちろん知ってるだろ。あいつだって一応は管理者の一人なんだから。雲の上でぐうたらしてる天使様のことだよ」

ぐうたらに関してはユキミも似たようなもんだが、鬼子に特に何もうるさく言われていないところから察するに、俺の知らない内にちゃんと任務を遂行してるっていうことだろ。
だがラアルは違う。わざわざ鬼子が職場にまで出向き注意をしている。
二人の明確な違いはまさにそこだ。
俺も他人のことは言えないが、ラアルよりかはよくやっているほうだと思う。
鬼子の手を煩わせている点は非常に酷似していて親近感が半端ないがな。

『クスクス。会ったことないな~。ユキミさん基本、オーガニック内からほぼ出ないんで。ただ……』

「ただ?」

『その子の尻拭いをさせられてるのは知ってる』

「ああ……確かお前のスキルを行使して門前の監視までまかなってるんだったか」

そんな話を前にヒスイから聞いた。あの天使が不甲斐ないせいでな。
ラアルが門の見張りを怠っているせいで、ユキミが役目をカバーしているとかなんとか。
ユキミには何かをしながら同時に地獄全体を見渡せ監視できる能力があるらしい。
これってもはや、あいつが門前にいる意味ってねぇんじゃねぇのかな。
鬼子に用済み扱いされたらいよいよ鬼ヶ島から追放されそうだ。

『その子のところへ強引に連れて行ってユキミさんに何をするつもり……?はっ、まさか……さまざまな条件が揃わないと経験できない3Pと洒落込もうとーー』

「よし、お前はそこらへんで一旦黙ろうか。最初に言っとくがその予想は外れてるからな」

こいつ、いつも思うがよくそういうことを平気で口走れるな。
おそらくは羞恥心ってもんが限りなく薄いんだろう。どこまで本気で言ってるのやら。
……まあ、大概が俺をからかうための冗談なんだろうけども。

「よし、ここだ。今からこの雲を一つずつあがって門前まで行くぞ」

と言っても、常に浮遊して移動してるユキミにはあがるとかのぼるとかいう常識は通用しなそうだな。
そもそも存在自体が非常識なわけで、空の上まで当然のように浮かんでいけるんだろう。使える有能なスキルといいどこまでも便利なやつだ。

『ユキミさんは少々手荒な彼に戦々恐々としつつも、逆らっては後が怖いと大人しく「はい」と頷いて従うことにした』

「なんかその語り口調みたいな受け答え、俺がお前にDVしてるみたいに聞こえるな!?」

『クスクス。違った?とりあえず、ここまで有無を言わせず連れ出されたのは事実』

「まあ、それを言われたら反論しようがねぇな……」

ギャルゲーのやりすぎだろこいつ……もしくはラノベの読みすぎかなんかだな。
何にしても笑える冗談と笑えねー冗談は使い分けてもらわないと。誤解されても面倒なだけだ。

「マジかよ……今日は門前にさえ来ていやがらねぇ」

俺とユキミが門前の隣にあるラアルの住処に到着すると、相変わらず朝寝坊に勤しむ主の姿が確認できた。
まさしく、鬼の居ぬ間に洗濯ってやつだな……鬼だけに。
鬼子にこの光景を見られでもすれば、いつぞやの時のように地上に向けてフルスイングされちまうんだろうな。それも、問答無用で。

『クスクス。見事なサボりっぷり。鬼子に報告する?』

「やめてやれ。フルスイングされる瞬間は痛々しくて見ていられねぇよ」

鬼子って仕事サボるやつは男でも女でも性別関係なく制裁加えるし、これっぽっちも慈悲がない。そこらへんは差別しないだけあれでもマシなのかね。
あいつの場合、いくら言ってもわからない相手には痛みを与えて従わせるのが一番とか軽く考えてそうだが……ラアルの件を俺に任せてきたってことは、多少はためらいの気持ちもあるのかもしれないな。

「とりあえず、起こさないことには何も始まらねーからな。すやすや気持ち良さげに寝ているところ可愛そうだが……」

『起こした瞬間3Pに……起き抜けは視界も定まらないし意識もはっきりしていないというのに。何という鬼畜』

もはやいちいち反応するのもだるくなってきたな。
無視を決め込んでラアルを起こす方に専念しよう。

「おいラアル。とっくに起床する時間だぞ。とっとと起きろ」

「……やだ。ねむい……あとはちじかん……」

「8時間って、普通この状況で言うならあと5分とかだろ。いくらなんでもそりゃ容認できねーレベルだ」

「やだやだやだ!だってほんとーに眠いんだもん……!」

「早く起きないと俺の隣で浮かんでる幽霊さんが鬼子に知らせるそうだぞ。お前が仕事サボってのうのうと寝てたって」

「いまおきる!いまおきるからそれだけは勘弁してください!!」

よっぽどフルスイングされるのがトラウマになっているらしいな。当然と言えば当然の反応だが。俺だってホームランされるのは気持ちの良いもんではないしな。

「ももたろうくん酷いよ~!ボクのこと脅した~!」

「脅してねーよ、人聞きが悪い。俺はお前が起きようとしないから仕方なくだな」

「その隣の子は誰?なんかゆーれいみたいなかっこしてるけど……?」

幽霊みたいというか、マジモンの幽霊さんだ。 
ユキミが浮いていることに関しては何も突っ込まないんだな。

『よっ!』

ユキミがそんな感じで軽い挨拶をかます。
こいつら本当に初対面なんだな……俗に言う似た者同士ってやつだ。
ほぼ部屋の中から外に出ない奴らだからなぁ。ちょっと納得してしまった。

「あっ、うん……はじめまして」

「こいつはユキミといってお前と同じ管理者の一人だ」

「そうなの?ぼくが知ってるのは暴君とスイスイだけだけど……」

スイスイ……? ああ、ヒスイのあだ名みたいなもんか。暴君は鬼子のことだとこの前に聞いた。本人が聞いたら間違いなくブチ切れると思うが。

『暴君て鬼子のこと?だいたいあってる……いいネーミングセンスだね。ぷぷぷ』

「だよねだよね!あんな乱暴な子は暴君で十分だよ。なんかユッキーとは気が合いそう!友達になろう!」

『ユッキー……そんな呼ばれ方初めて』

「ずいぶんと唐突な友達になろう発言だな……どうするんだユキミ」

『ふむ。我も鬼子を陰でディスりあえる共通の同志が欲しかったところ』

「は?我?同志?」

こいつ普段自分のこと「我」とか言わねぇだろ。一人称は最近よく聞く「ユキミさん」の方かと思ってたわ。

「それはぼくと友達になってくれるってことでいいんだよね」

『思う存分にディスりあおうぞ。幾星霜の時を生きる鬼ババアに感付かれないよう永遠に』

「わーい!友達が増えたー。ももたろうくんに引き続きふたりめー!」

今思えばラアルの一人称は「ぼく」なんだよな。
やべー、タカヒロの野郎と被ってるわ。なんか変な感じだ。
そもそも俺等の世代で自分のことを「僕」って呼ぶのはかなりレアだと思う。始めて聞いた時は耳を疑ったもんだ。
まあ、あの甘いルックスの優男にはピッタリとも思ったが。

「ところで暴君ってそんなに歳いってるの。見た目からしたらそうは見えないけど?」

『クスクス……あれでも軽く老婆に該当する齢は超えてる筈。人間で例えるならとっくの昔に火葬か土葬されてるレベル。見た目は十代っぽく見えるけど、正真正銘の鬼ババア』

「おいお前等、あんまりあいつのこと悪く言わない方が身の為だぞ。万が一あいつに知られたらーー」

そこまで口にしたとき、何故だか分からないが例えようもない殺気を感じ背筋が凍りついた。
ユキミは逸早くを感知したようで……、

『はっ。この足音は……サササササー……』

「あれ……ももたろうくん、ユッキー消えちゃったよ。どこに行ったの?」

「……逃げたんだろうよ。聞こえないか?たったいまここに向かっている何者かの足音が」

「そう言われてみれば……」

ーー入れ替わるようにちょうどそこに現れたのは鬼だけに鬼の形相をした鬼子だった。

「えっ……!?なになにっ……その顔こわいよ……?ぴぎゃっ!!」

「うおぉぉ……久々に見たな、ラウルがフルスイングされるとこ……おっかねー……」

好き勝手に罵られて相当頭に来ていたのだろう。
鬼子は無言でラアルの側まで歩み寄り、一言も声を発することなく凶器の金棒を振り下ろした。
どこから聞いていたのか知らんが、恐るべき地獄耳だ。
まとめて俺もフルスイングされるかと思いきや、運良く見逃してもらえたらしい。
ターゲットを一人片付けたその得物は早くも次のターゲットを探している。
ユキミがラアルと同じようにお灸を据えられるのも時間の問題だろう。

「桃之介、ユキミはどこ。下手に庇うとあんたもタダじゃ済まないからね……」

「いや、別に庇う気はないが……お前に気付いてすたこらさっさと逃げたっぽいぞ」

「ふーん。あっそ」

それだけ呟いて、鬼子はラアルの部屋を重厚な金棒を引き摺りながら出て行く。
つうかこれ完全な貰い事故だろ。
俺だけはあいつの悪口一言も声に出してないんだけど?
































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