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第三十八話(クレープ丼の可能性)
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「どうなんだユキミ。美味いのか?それとも、やっぱ不味いのか?」
ユキミの小さな口がクレープ丼一口分をパクリとする。
他人任せであれだが、待ちきれなくなった俺はさっそく味の感想を求めた。
『悪くない味。それも、意外とイケる』
不味いという一言が出ずにとりあえず胸を撫で下ろす。
クレープ丼が食べられるものだというのはわかったが、もっと詳しい味の情報が知りたい。
「具体的にはどんな味なんだ?」
『子供が好きそうな味。ごはんってよりかはデザートに近い感じですな』
「ほう。こりゃデザートとして宣伝するのもアリか?」
フルーツ寿司とやらがあるくらいだ。
白米を酢飯に変えたのは正しかったということか。
「そんなデザートがあっても、注文する方は少数だと思いますよ」
「それたべてみたい。一口ちょうだい」
ラスクは元からこれを食べたいと言っていたからなぁ……ラスクの感想次第では俺も三番目に続く必要があるな。
『よかろう。篤と味わうがよい』
ユキミが自分の分をラスクへご丁寧に食べさせてやっている。
その光景はまるで、面倒見のいい姉と年の離れた小さな妹の微笑ましい一幕のようだ。
「おいしー。いちごもあまいしごはんもあまい」
「そりゃ甘いさ。いちごが甘いのは当然としてメシの方は酢飯なんだからな。ユキミ、俺にも一口くれ」
『クスクス。了解した』
特に気にすることなく、ラスクと同じように一口分を食べさせてもらった。
俗に言う「はいあーん」の構図だが、少しも恥ずかしい気持ちはない。
それはきっと普段のユキミがおちゃらけた性格だからかもな。
「うおっ……!?予想以上にあめーな。でも食ったときの不快感は特にない。100点中60点てところか」
クリームと酢飯の組み合わせがすげぇ。破壊力抜群だ。
非常に印象に残る味と言えよう。
「まあまあ高い評価ですね……ほんとーにそんなにおいしいんですか」
「タルトも食ってみるか?まだ食ってないのはお前だけだぞ」
「……私は大丈夫です。遠慮しておきます」
ヒスイから人魚のダシを取った時もタルトのやつはかなり頑なに拒んでたからなぁ。
無理に説得する必要も感じないし、食いたくないのならそれでいいか。
後でヒスイにも食わせてみよう。どんな反応するのか楽しみではあるな。
「もっとたべたい。もっとちょうだい」
『クスクス。好きなだけお食べ。なんならおかわりもあるよ』
ユキミの為に作ったクレープ丼だったが、そのほとんどをラスクが平らげてしまっていた。
ラスクにとっては食べるのをやめられなくなるほどのご馳走だったということか。
「明日もこれたべたい」
「よし、なら明日の限定メニューはクレープ丼にするか!」
『クスクス。調理師君、それ名案』
「それってもう決定なんですか……?今からこれを食べたお客さん達からのクレームが怖いんですが」
「大丈夫だよ。保険として新たに俺が考案したシューマイ丼の二種類から選択できるようにしとくわ」
「このお店、最近丼ものばっかり提供してる気がします……汗顔の至りです」
そんなわけで翌日、予告通りこの日の限定メニューはクレープ丼とシューマイ丼の二品を売り出すこととなった。
なったのだが……、
「おい、タルト。この張り紙はなんだ」
「ああ、それですか。昨日のうちに急遽作って貼っておいたんです。お客さん達にわかりやすく目に付きやすい場所に」
オーガニックの入り口であるドアにいつのまにか貼られていた張り紙には、こんな内容の忠告文が書かれてあった。
(今日の限定メニューは二品となっております。シューマイ丼とクレープ丼です。後者のクレープ丼はあまりオススメ出来ません。とにかく甘いらしいので、注文する方はそれを承知の上で心してご賞味ください。)
「こんな張り紙貼られたら商売あがったりだぜ。今すぐこれを撤去したまえ。早急にな」
「クレープ丼が売れなくてもシューマイ丼が売れたら済む話じゃないですか。お客さんにはシューマイ丼を頼んでもらえばいいんです。十分商売になりますよ」
こんな張り紙目にされちゃ、わざわざ危険をおかしてクレープ丼頼むお客なんざ誰一人としていないだろうさ。
好きなほうを選べるよう二品にしたってのに、これじゃ初めから一品しかないのと同じだな。
「いちおう聞いておこう。何故こんな無意味な愚行を敢行したのかを」
「愚行とは聞き捨てならないです。昨日言ったじゃないですか。お客さんからのクレーム対策に仕方なくです。立て看板にも同じものを貼っておきました」
「そっちにもかよっ!?抜かりねぇな!」
「当然です。お客さん達に嫌な思いはしてほしくないですから。こんなものばかり提供してるとそのうち誰もお店に来てくれなくなっちゃいますよ。それでもいいんですか?」
言われて確認してみると、店の外に置いてある立て看板にも同じものが貼ってあった。つまりは予防線を張ったわけだ。
つうか、クレームなんか気にする必要ねぇんだけどな。
俺がオーガニックで働き始めてこのかた、お客から文句を言われたことなんて一度も無いんだから。
「まあ、お前がどーしても注意喚起したいってんなら俺はこれ以上何も言わねーよ。好きにすりゃいいさ」
クレープ丼が甘すぎるくらいでクレーム入れてくる客がいるなら、鬼子の作る激辛野菜炒めを食った客からすでに苦情が入ってたっておかしくねぇんだがな。
タルトは真面目を絵に描いたようなやつだから、どーしても細かいことが気になっちまうんだろう。
ほんと、とことん俺とは正反対の妹様だ。
『クレープ丼、おいしいよー甘いよー。クスクス』
タルトの思いとは裏腹に、ユキミがホール内を飛び回りクレープ丼の宣伝をしていた。
料理の運搬をまかせていたのだが、気付けば頼んでもいない宣伝をクスクス笑いながら面白半分に行なってやがる。
張り紙の効果か今のところクレープ丼に手を出そうとする客はいないようだが、こりゃ興味本位で頼む輩が現れるのも時間の問題かな。
「注文入りました。シューマイ丼二つ……それと、クレープ丼一つです」
「お前の忠告よりユキミの宣伝が勝っちまった瞬間だな。俺はご愁傷様とでも言うべきか?」
「いえ、たまたま……たまたまじゃないですか。ユキミさんが宣伝したからお客さんが注文したとは限りませんよ。シューマイが苦手な方ならクレープ丼を頼む選択肢しかなくなりますし。きっとそうです」
俺は思う。シューマイが嫌いなやつなんて中々いないだろうと。
「そんじゃ今から作るな。本日初のクレープ丼だ。客の反応が楽しみだぜ!」
「そうですね……楽しみですね……」
俺は厨房でシューマイ丼を手早く作り終えたあと、続けてクレープ丼を作りに取り掛かる。
タルトには多少同情するが、注文が入ったときはちょっと嬉しかった。
張り紙のせいでクレープ丼を頼む客は一人もいないと思ってたからな。
こういうのを僥倖と言ったりするのだろうか……?
多分違うだろう。
「クレープ丼シューマイ丼完成!とっとと持ってってやんな!」
「はい……なんか嬉しそーですね、お兄ちゃん」
「ははっ、気のせいだろ」
「そうですか。別にいいですけど」
クレープ丼を頼んだ客は「甘っ!?」っと、あまりの激甘さに驚愕しながらも、少しずつ食べ進めお残しすることなく綺麗に完食していた。
タルトが心配していたクレームも全くなく、この日の営業は終了。
ちなみに売れたクレープ丼の数はその一つのみで、それ以降はシューマイ丼を頼む客ばかりが永遠と続いた。
ユキミの小さな口がクレープ丼一口分をパクリとする。
他人任せであれだが、待ちきれなくなった俺はさっそく味の感想を求めた。
『悪くない味。それも、意外とイケる』
不味いという一言が出ずにとりあえず胸を撫で下ろす。
クレープ丼が食べられるものだというのはわかったが、もっと詳しい味の情報が知りたい。
「具体的にはどんな味なんだ?」
『子供が好きそうな味。ごはんってよりかはデザートに近い感じですな』
「ほう。こりゃデザートとして宣伝するのもアリか?」
フルーツ寿司とやらがあるくらいだ。
白米を酢飯に変えたのは正しかったということか。
「そんなデザートがあっても、注文する方は少数だと思いますよ」
「それたべてみたい。一口ちょうだい」
ラスクは元からこれを食べたいと言っていたからなぁ……ラスクの感想次第では俺も三番目に続く必要があるな。
『よかろう。篤と味わうがよい』
ユキミが自分の分をラスクへご丁寧に食べさせてやっている。
その光景はまるで、面倒見のいい姉と年の離れた小さな妹の微笑ましい一幕のようだ。
「おいしー。いちごもあまいしごはんもあまい」
「そりゃ甘いさ。いちごが甘いのは当然としてメシの方は酢飯なんだからな。ユキミ、俺にも一口くれ」
『クスクス。了解した』
特に気にすることなく、ラスクと同じように一口分を食べさせてもらった。
俗に言う「はいあーん」の構図だが、少しも恥ずかしい気持ちはない。
それはきっと普段のユキミがおちゃらけた性格だからかもな。
「うおっ……!?予想以上にあめーな。でも食ったときの不快感は特にない。100点中60点てところか」
クリームと酢飯の組み合わせがすげぇ。破壊力抜群だ。
非常に印象に残る味と言えよう。
「まあまあ高い評価ですね……ほんとーにそんなにおいしいんですか」
「タルトも食ってみるか?まだ食ってないのはお前だけだぞ」
「……私は大丈夫です。遠慮しておきます」
ヒスイから人魚のダシを取った時もタルトのやつはかなり頑なに拒んでたからなぁ。
無理に説得する必要も感じないし、食いたくないのならそれでいいか。
後でヒスイにも食わせてみよう。どんな反応するのか楽しみではあるな。
「もっとたべたい。もっとちょうだい」
『クスクス。好きなだけお食べ。なんならおかわりもあるよ』
ユキミの為に作ったクレープ丼だったが、そのほとんどをラスクが平らげてしまっていた。
ラスクにとっては食べるのをやめられなくなるほどのご馳走だったということか。
「明日もこれたべたい」
「よし、なら明日の限定メニューはクレープ丼にするか!」
『クスクス。調理師君、それ名案』
「それってもう決定なんですか……?今からこれを食べたお客さん達からのクレームが怖いんですが」
「大丈夫だよ。保険として新たに俺が考案したシューマイ丼の二種類から選択できるようにしとくわ」
「このお店、最近丼ものばっかり提供してる気がします……汗顔の至りです」
そんなわけで翌日、予告通りこの日の限定メニューはクレープ丼とシューマイ丼の二品を売り出すこととなった。
なったのだが……、
「おい、タルト。この張り紙はなんだ」
「ああ、それですか。昨日のうちに急遽作って貼っておいたんです。お客さん達にわかりやすく目に付きやすい場所に」
オーガニックの入り口であるドアにいつのまにか貼られていた張り紙には、こんな内容の忠告文が書かれてあった。
(今日の限定メニューは二品となっております。シューマイ丼とクレープ丼です。後者のクレープ丼はあまりオススメ出来ません。とにかく甘いらしいので、注文する方はそれを承知の上で心してご賞味ください。)
「こんな張り紙貼られたら商売あがったりだぜ。今すぐこれを撤去したまえ。早急にな」
「クレープ丼が売れなくてもシューマイ丼が売れたら済む話じゃないですか。お客さんにはシューマイ丼を頼んでもらえばいいんです。十分商売になりますよ」
こんな張り紙目にされちゃ、わざわざ危険をおかしてクレープ丼頼むお客なんざ誰一人としていないだろうさ。
好きなほうを選べるよう二品にしたってのに、これじゃ初めから一品しかないのと同じだな。
「いちおう聞いておこう。何故こんな無意味な愚行を敢行したのかを」
「愚行とは聞き捨てならないです。昨日言ったじゃないですか。お客さんからのクレーム対策に仕方なくです。立て看板にも同じものを貼っておきました」
「そっちにもかよっ!?抜かりねぇな!」
「当然です。お客さん達に嫌な思いはしてほしくないですから。こんなものばかり提供してるとそのうち誰もお店に来てくれなくなっちゃいますよ。それでもいいんですか?」
言われて確認してみると、店の外に置いてある立て看板にも同じものが貼ってあった。つまりは予防線を張ったわけだ。
つうか、クレームなんか気にする必要ねぇんだけどな。
俺がオーガニックで働き始めてこのかた、お客から文句を言われたことなんて一度も無いんだから。
「まあ、お前がどーしても注意喚起したいってんなら俺はこれ以上何も言わねーよ。好きにすりゃいいさ」
クレープ丼が甘すぎるくらいでクレーム入れてくる客がいるなら、鬼子の作る激辛野菜炒めを食った客からすでに苦情が入ってたっておかしくねぇんだがな。
タルトは真面目を絵に描いたようなやつだから、どーしても細かいことが気になっちまうんだろう。
ほんと、とことん俺とは正反対の妹様だ。
『クレープ丼、おいしいよー甘いよー。クスクス』
タルトの思いとは裏腹に、ユキミがホール内を飛び回りクレープ丼の宣伝をしていた。
料理の運搬をまかせていたのだが、気付けば頼んでもいない宣伝をクスクス笑いながら面白半分に行なってやがる。
張り紙の効果か今のところクレープ丼に手を出そうとする客はいないようだが、こりゃ興味本位で頼む輩が現れるのも時間の問題かな。
「注文入りました。シューマイ丼二つ……それと、クレープ丼一つです」
「お前の忠告よりユキミの宣伝が勝っちまった瞬間だな。俺はご愁傷様とでも言うべきか?」
「いえ、たまたま……たまたまじゃないですか。ユキミさんが宣伝したからお客さんが注文したとは限りませんよ。シューマイが苦手な方ならクレープ丼を頼む選択肢しかなくなりますし。きっとそうです」
俺は思う。シューマイが嫌いなやつなんて中々いないだろうと。
「そんじゃ今から作るな。本日初のクレープ丼だ。客の反応が楽しみだぜ!」
「そうですね……楽しみですね……」
俺は厨房でシューマイ丼を手早く作り終えたあと、続けてクレープ丼を作りに取り掛かる。
タルトには多少同情するが、注文が入ったときはちょっと嬉しかった。
張り紙のせいでクレープ丼を頼む客は一人もいないと思ってたからな。
こういうのを僥倖と言ったりするのだろうか……?
多分違うだろう。
「クレープ丼シューマイ丼完成!とっとと持ってってやんな!」
「はい……なんか嬉しそーですね、お兄ちゃん」
「ははっ、気のせいだろ」
「そうですか。別にいいですけど」
クレープ丼を頼んだ客は「甘っ!?」っと、あまりの激甘さに驚愕しながらも、少しずつ食べ進めお残しすることなく綺麗に完食していた。
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