なんちゃって調理師と地獄のレストラン

SAKAHAKU

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第四十二話(ラアルの職場体験最終日)

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「今日は麻婆麺を作りたいと思う」

今日はラアルがオーガニックで働く最後の日。
二日目であいつも少しは成長したみたいだし、ちょっとは凝って見える料理でも作ろう。そう考えての麻婆麺なわけだ。

「おお……!なんか今日の限定メニューは料理名からしてお兄ちゃんの本気度が違いますね。調理師っぽくて素晴らしいと思います」

「相変わらず褒めてんだか貶してんだか……ぽいとかじゃなくて実際俺は調理師なんだがな」

「ねぇねぇそんなことよりさー、昨日ももたろーくんがぼくに言った『究極のバカ』ってあれ、ほんとは思ってないよね。じょーだんってやつだよね」

面と向かってバカだと断言されたのがよほどショックだったらしいな。
自分を天才だと自負してるくらいだから当然か。

「ラアル、最初に言っとくが今日は毒味してくれるなよ。また同じことしたら究極のバカ確定な」

「なはは。そんなことするわけないじゃん。ぼくを誰だと思ってるのかな」

「あん……?誰かって、ただの駄メイドだろ」

こうは言ってるが、万が一こいつが毒味した時のために麻婆麺を激辛に仕上げておくのもいいかもな。
開店前に念押しまでしてんだから、さすがに大丈夫だと思うが……。

「だめいどってなーに?それってもしかして褒め言葉かな」

こいつがバカで助かったわ。
まあ、ラアルに意味を理解されたところでこれといった心配もないわけだが。

「はいはい、褒め言葉だよ褒め言葉。お前は今日もホールな。開店までテーブルでも拭いてろ」

さて、麻婆麺と言っても作り方は超簡単だ。
鍋にお湯入れて袋ラーメンを茹でたら、器に移して冷凍の麻婆豆腐をぶっかけるだけだからな。そう時間はかからずにできあがる。タルトが見たら絶対文句言ってくるだろうが、それは気にしないようにしよう。

「期待した私がバカでした。結局は手抜き料理だったんですね。いつもの冷凍食品に袋ラーメンです。麻婆豆腐くらいは手作りするのかと思ってました」

厨房の様子を見にきたタルトにさっそく気付かれちまった。
いずれバレることだからな。遅いか早いかの違いしかない。

「カップラーメンよりかはマシだろ。袋ラーメンは麺を鍋で茹でなきゃならないからな。お湯注ぐだけのカップラーメンよりは手間がかかるんだぜ」

「そうかもしれないですけど、冷凍食品の麻婆豆腐を使ってるのはいただけないです。それくらいいちから作れるじゃないですか」

「たしかに作れるがいかんせん時間がかかるからな。注文が混み合って来ると焦るし面倒だ。今日は冷凍食品の麻婆豆腐を使わせてくれ」

「「今日は」って言ってますが、結構な頻度で冷凍食品使ってるじゃないですか」

「とにかく決定だ。今日は何が何でも冷凍食品の麻婆豆腐を使います」

なんでもかんでも一から作ったものが美味いとは限らないからな。
その料理人の腕次第でいくらでも美味くも不味くも変わる。それが料理ってもんだ。
冷凍食品の麻婆豆腐のほうが俺の作る麻婆豆腐より美味いかもしれないぜ。

「ラアル、今回は汁物だ。くれぐれもこけてくれるなよ。こぼすと悲惨なことになるからな」

店を開けてすぐお客が来店、今日のオーガニックでの仕事が始まった。
さっそく麻婆麺の注文が入って調理を開始。速攻作り終えてラアルに盆を手渡す。

「なんども言われなくたってわかってるよー。ぼく今日は転ばない。そんな気がする」

こける回数が減ったとはいえ、全く無くなったわけじゃない。しつこいと思われようが一応注意喚起はしておかねぇとな。
熱々のスープが体にでもかかったら火傷くらいはするだろう。
最悪ラアルが自滅するパターンはセーフだとしても、お客にぶちまけちまったら大変だ。
タルトに運んでもらったほうが危なげなくて確実だが、ラアルにも何かしらやってもらわないと店を手伝ってもらっている意味がない。

「ラアルさん、急がなくて大丈夫なので、そーっと、そーっとです」

「そーっと……そーっと」

多少はお客を待たせることになるが、すっ転んでせっかく作った麻婆麺を台無しにされるよりかはマシか。
作り直すとなると時間が倍かかっちまうからな。

「お、おまたせしました。麻婆麺です」

タルトの助言が功を奏し、ラアルは無事にお客へ麻婆麺を届けることに成功した。毎回毎回冷や冷やさせやがる。
ラアルには下手げにホールを任せるより、視界に入る厨房内でこもってもらってるのが一番いいのかもな……いちいち見守ってなきゃならんし面倒だ。
ホールにはタルトが居れば十分だろう。

「ホール始めたばかりでもーちゅうぼー?ぼくなんかやったのかな」

「いや、特には何も。ただおまえがいつまでもホールにいると、何かやらかさないか不安で苦痛なだけだ。めっちゃストレス感じる」

「不安で苦痛でおまけにストレス……!?ももたろーくんひどい!」

「つーわけで、おまえ今から厨房な。俺の手伝い雑用係。オーケー?」

「それは別にいーけどさー……ももたろーくん、ぜんぜんぼくのことしんよーしてないよね?」

「ああ。まあそうね。ぜんぜんしてないわ。わりーけど」

「ちょっとは否定する努力ってやつをしてよ!?はっきりと言いすぎ!嘘でもいーからしんよーしてるっていおーよー」

実際そうなんだ。はっきりと伝えてやらずにどうする。
ほら、俺って正直者だからさ……嘘とか付けないタイプなんだよ。

「嘘で信用してるなんて言われたって虚しいだけだろ。嘘は所詮嘘でしかないんだからな」

親睦を深めるために仕方なく、可愛くもない同僚を可愛いと言って褒める社交辞令みたいな感じかな。
あれはほんとーにメンタルやられるぜ。実際は一ミリも可愛くなんざねぇんだからな。

「くだらねーことごちゃごちゃ言ってねーで仕事するぞ。さて、おまえには何をやってもらおうかな……」

「これ、おいしーね。まーぼーどーふってゆーんだっけ?」

「て、おい!それこれから使おうとしてたやつだぞ!」

ラアルがラーメンの上にかけるんで置いておいた麻婆豆腐をいつのまにか食ってやがる。
天真爛漫と表現するなら聞こえはいいが、ちょっと目を離しただけでこれだもんな……マジで使えねぇ天使様だ。

「え、ここにスプーンといっしょにおいてあったからてっきり……ししょくよーかと思った」

こいつはこれを本気で言ってるんだから憎めない。マジでそう思ってたんだろうよ。

「いつ注文が入ってもいいように一食分あっためておいたんだよ……言っとかなかった俺も悪いか。食っちまったもんはしかたない」

食っちまった麻婆豆腐の件は、これからの頑張り次第でチャラにしてやることとしよう。

「麺を茹で終わったら器に移してスープを流し入れる。お前の仕事は麻婆豆腐をその上に乗せることだな。簡単だろ」

「乗せるだけでいいの?たしかにめっちゃかんたんだね」

それくらいしかやることがねーからな。
なんども言うが超が付くほど簡単だ。
その作業分担する必要あんのかって疑問を持たれそうだが、きっとこいつには麺をお湯で茹でるというごくごく簡単なことすらできないぞ。
レンジも満足に使えなさそうだからな。使用する麻婆豆腐を温めるのも俺が担当する。

「お兄ちゃん、注文二つです」

「おうよ。超特急で作っからな」

二つの鍋に湯を沸かして粉末スープを投入、二つ分の麺を同時に茹でていく。その光景を横でラアルがまじまじと見ていた。

「これが仕上がったらお前の出番だ。準備はできてるか?」

「いつでもいーよ。ぼくにまかせといて」

「よし。こんなもんでいいだろ……」

麺が十分にほぐれたのを確認して器に流し入れる。
未だに半信半疑だが、ラアルへ後の工程は任せよう。躊躇してたって何も始まらない。俺にできるのはヘマされないよう天に願うだけだ。

「あとは頼んだ……急がなくていい。なるだけ慎重にな」

「しんちょーにだね。しんちょーにー」

麻婆豆腐をラーメンの上に乗っけてくだけだ。本来なら心配する必要はなにもない。何もない筈なんだが……ラアルだからなぁ。

「できた!これでいいんだよね!ももたろーくん!」

「……なんとか上手くいったみたいだな。量も奇跡的にちょうどいい。この調子でばんばん頼むぞ」

「うん!」

どうやら俺の考え過ぎだったようだ。
その後ラアルは一度もヘマをすることなく、与えられた仕事をきちんとやり遂げた。













































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