なんちゃって調理師と地獄のレストラン

SAKAHAKU

文字の大きさ
43 / 48

第四十三話(変人の味覚)

しおりを挟む
「ラアル、そこに大量のおにぎりがあるだろ。全部やる。持って帰れ」

「こんなにいっぱいもらっちゃっていいの?大っきな袋ぱんぱんに入ってるよ。20個近くありそう」

コンビニのおにぎりって、たまに無性に食べたくなる時あるよな。
トマトジュースをちびちび飲みながら食うと、これがまた美味い。
相変わらず、タルトには変人を見る視線を向けられるが……。

「今回は特別だ。手違いでちと生成し過ぎてな。ちなみに賞味期限は限界まで引き延ばしておいたから一週間はもつぞー」

オーガニックの手伝いという罰を受けて以来、ラアルがちょくちょく下界に降りてくるようになった。
休日になると決まってオーガニックに遊びに来てメシを集りやがるんだ。
今日もちょっと前に昼飯をごちそうしてやったばかりだったりする。

「ここで一つ食べてこー。ももたろーくん、どれが一番おいしーの?」

「コンビニのおにぎりで一番美味しいのはどれかって?そりゃ梅干しだな。あれが苦手ってやつは騙されたと思ってマヨネーズをかけて食ってみろ。中々美味いもんだぞ」

「私思うんですけど、調理師がマヨラーって色々と終わってませんか。食べる物なんでもつけて食べないと気が済まないんですよね。そんなの味覚も何もあったものじゃないです」

タルトが尤もなことを言うが、俺ってマヨラーだったのか?
自分じゃ自覚無いんだがな。まあ否定する気はない。

「俺はそこまで酷くないぞ。食べる物なんでもつけるやつは重症かもな」

「お兄ちゃん、コンビニのおにぎり全種類にマヨネーズかけて食べてました。十分に重症だと思います。高菜、こんぶ、シーチキン、明太子、赤飯。梅干しに限った話じゃないです」

「ねぇねぇ、たるたる。それなに食べてるの?」

今更ではあるが、ラアルがタルトを呼ぶ愛称が、俺にはタルタルソースの略称にしか聞こえなくて、笑いをこらえるのに必死だったりする。

「シュークリームです。急に食べたくなったのでさっきお兄ちゃんに生成してもらいました。クリームが甘くて美味しいですよ」

「おまえもいるか?ついでに親しい奴らにもやろうかと思って人数分生成しといたんだ」

「うん!ほしい!」

タルトが食べてるのと同じ物をラアルにくれてやった。
生成スキルは本当に便利だ。
食いたいと思った物を、いつでもすぐに簡単に生み出すことができる。
正直、このスキルを使うだけで商売は可能だが、楽しようとすると鬼子がうるさいからな。

「お兄ちゃんは食べないんですか?」

「シュークリームは皮が美味いんだ。どら焼きもからあげも皮だけでいい。皮だけ食うからクリームおまえにやるな」

最近、アメリカンドッグも皮が美味いんじゃないかと気付き始めた。俺にとって、中に隠れてるソーセージはおまけみたいな感じだな。

「かわかわうるさいです。変人のお兄ちゃんにシュークリームを食べる資格はありません」

「誰が変人だ!?俺は一応調理師で食のプロフェッショナルなんだぞ!」

調理師専門学校さえ卒業すりゃ誰だってなれちまうんだけどな。
それでも俺は一応調理師だ。これだけは譲れねぇ。

「イミフな料理を作る人がプロフェッショナルなんですね。色々と終わってます」

「はて……イミフな料理とはなんぞや」

「意味不明な料理の略です」

「意味不明な料理ってなにー?」

「食ってみたいか?」

「気にはなるかな」

ラアルははっきりと口にした。
と。
よし、ならばお見せしよう。俺が一度本気を出せばどんなすごい料理が生まれるのかを。

「ラアルさん。知らない方が身の為ですよ。あとできっと後悔しますから」

「たるたる大げさだよ。ももたろーくんの作る食べ物はおいしーしだいじょぶでしょ」

「お兄ちゃんの腕を絶賛するなんて、ラアルさんもヒスイさんと同じですか。やっぱり鬼ヶ島の人達の味覚っておかしーーなんでもないです」

「そこまで口走っちまったら、今更取り繕っても意味ないけどな」

ヒスイにラスクにユキミに続いて、まさかラアルまでもが俺の料理を認めてくれるとは。段々と味方が増えてきて嬉しい限りだ。

「というかお兄ちゃん、さっきからなにをにやにやしているんですか?度を過ぎる思い出し笑いは気持ち悪いだけですよ」

「いや、なんでもないから気にすんな……タルタルソースって美味いよね」

「美味しいですけど……それがどうかしましたか。もしかして晩御飯の話でしょうか。タルタルソースとエビフライの組み合わせは最強だと思います」

「ぷぷっ……!ダメだ、おまえがタルタルソースって言うとなんか笑っちまう……!」

タルトがタルタルソースと声を発した瞬間、俺はとうとう噴飯した。
こんなもん堪えきれるわけがねぇ。

「しつれーな!?どうせまた響きが似ているからとかそんなくだらない理由ですよね?にやにやしてたのがやっとわかりました!」

「うるさいタルトは放っておいて、意味不明な料理とやらを作り始めるとしますか」

「わーい!どんなのができあがるのかなー。楽しみー!」

「私のことは無視ですか、そうですか……もういいです。お兄ちゃんが名前のことで馬鹿にしてくるのなんて日常茶飯事ですからね。いちいち気にしてたらキリがありません」

昼飯を食ったばかりではあったが、追加でおにぎりやシュークリームを食ってるラアルならまだまだ余裕でいけるだろ。
これから俺が作るのは、タルタルソースを使った一品だ。
ふと思ったんだが、マヨラーやケチャラーの他にタルラーってのもあるんかな?

「ようし、まずは炊きたてほかほかご飯を茶碗にたんまりとよそってだな……」

「うんうん!それでそれで!」

「最後にあらかじめ用意しておいた大量のタルタルソースをぶっかけたら完成だ」

「…………え?これで完成…………?」

山のようにチューブから絞られたタルタルソースは、完全に真下の白米を覆い隠している。
この見た目と完成の早さには、アホなラアルでさえ驚愕するレベルだった。

「ん?おう。これで完成だ。名付けてタルタルソース丼ってところか」

まんまだが、それ以外に名付けようがない。
眼に映るのはタルタルソースのみという奇っ怪な料理だからな。

「タルタルソース丼……これがイミフな料理……なんか、すごい見た目……」

「うわ……これは酷い……いえ、いつもだいたいが酷い料理なんですが、今回はそれらを遥かに凌駕して酷い料理です」

「これがまた美味いんだよなー」

食ったことねぇからわからんけど、タルタルソース大好きな奴ならきっと美味いって言うんだろうなぁ。

「またまたご冗談を……もはや料理とは呼べないようなレベルですよ。これはさすがに怖いもの知らずなラアルさんもドン引き……」

「ほんとだー!これおいしー!」

「でもなかったみたいですね……」

タルトは確信した。
鬼子にヒスイと続いて今度はラアル。
やっぱり鬼ヶ島の管理者達の味覚は変わっているのだと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...