なんちゃって調理師と地獄のレストラン

SAKAHAKU

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第四十五話(不気味な粘土細工)

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「とても美術デザイン科を卒業した人が手掛けた作品だとは思えません。ってなんですか」

「味があっていいだろ」

なにやらタルトさんは、俺が店内に飾った粘土細工に文句があるらしい。
この作品は男の人魚と言って、俺が高校時代に製作した芸術作品である。
当時、半ばヤケになって作ったのだが、自分では案外気に入っている。

「いいわけないです。作品名が安直すぎて作品に対する情熱が微塵も感じられません」

「いいと思ったんだけどな。ヒスイには好評だったぞ?」

「このお粗末な作品がですか?俄かには信じられませんね」

「おまーー相変わらず口が悪いな。お粗末とか言うなや。でもま、タルトさんは素人中の素人だからな。俺の作品の良さがわからないのは当然か」

「まさか、この紙粘土のかたまりにピカソ的な価値があるとでも?」

桃之介の手によって紙粘土に針金を仕組んで作り上げられたそれは、首を傾げながら何かを絶叫しているような風貌だ。
パーマっぽいヘアスタイルは細く形成した紙粘土をいくつも重ねて作られている。三角型の鼻もまた紙粘土だ。
さらに小さく丸めた紙粘土の瞳、大きめの穴を開けただけの口。上半身裸のボディは何故かムキムキで腹筋が割れている。
仕上げに絵の具で塗られた色は独特で、髪は黄色、目は青、上半身は肌色、人魚の部分は赤、完成した姿はまるで外人っぽいなりをした人魚だった。

「ヒカソ…………?お、おお、まさしくそれだ!」

「何故でしょう。なんか返答までに随分な間がありましたね……まさかとは思いますが、美術を三年間も学んできたその道のプロがピカソを知らないなんて言いませんよね?」

さて、どう返答したもんか……その偉人、マジで知らんわ。
正直に知らないと答えてバカにされるのも癪だしな。

「……お、おう。あたぼーよ。ヒカソだろ。もちろんしってらぁ」

「いよいよ怪しくなって来ましたね。ヒカソじゃなくてピカソです」

「い、言い間違えただけだ」

「ほんとーですか?なら、ピカソのフルネームを言ってみてください。結構長いですよ」

長いって鬼子みたいにってことか?
あいつの名前でさえ長くて覚えるのを断念したってのに、そんなんわかるはずがねぇ。

「えーっと、えーっとだな……ヒカソ……ヒカソ……あれ、ヒカソであってる?」

「墓穴を掘りましたね。ピカソを知らないとかかなりヤバイです。小学生でもわかると思いますよ」

「ばっきゃろー。俺が知らない事柄が小学生に理解されてたまるかよ。そうだ、ヒスイ、ヒスイにも聞いてみよう」

「何か困った問題が生じるたびにヒスイさんに頼るのはお兄ちゃんの悪い癖ですよ。ヒスイさんに気に入られてるからってあまり調子に乗らないでください」

「はいぃい?調子に乗ってなんかねぇし……とにかく、こいつはヒスイが絶賛した作品だ。店内に飾っておいて何が悪い。そのうち他の客だってこの作品の良さに気付いて崇め奉る筈よ」

窓から海が見渡せるこのレストランにぴったりの置物だろうが。
海には人魚と相場が決まっている。

「ヒスイさんとお兄ちゃんはきっと波長が合うんでしょうね。鬼子さんが見たら間違いなく馬鹿にされますよ」

「わかんないだろ。案外手放しで賞賛してくるかもな。もも様ステキ!とか、爛々と目を輝かせて」

「ないです。ないですよ。……とにかく、そんな不気味な物置いといたらただでさえ少ないお客さんのあしが遠のきます。なので早々の撤去を」

「おまえはこれを捨てろと!?俺が学生時代制作した中で手元に残して置いた唯一の作品だぞ!鬼だな!」

「どうしてこれを大切に残しておいたのか意味がわかりませんね。紙粘土のボディに亀裂が入ってますし、所々中の針金も露出してるじゃないですか。いい加減捨てましょう。ただのゴミですよ」

「ごごご、ごみ……だと、おまえは俺を怒らせた」

この男人魚は、高校生の夏休みに貴重な時間を1時間も無駄にして作った作品だ。
そう簡単には捨てられない。時間と材料が無駄になるじゃねぇか。

「おーい!もものすけー!今日はさぼらずにちゃんと働いてるー?遠路はるばる監視に来てあげたわよ。あたしに感謝しなさい」

「おうおう鬼子ちゃんじゃねぇの。ちょうどよかった。おまえさん、この作品を見てどう思うよ」

ちょうどいいところにオーガニックへ顔を出しに来た鬼子へ感想を求める。
タルトとよく意見が合うこいつに俺の作品の良さがわかるとは思えねぇが、一応だ。僅かでも賞賛される可能性はある。

「はあ?唐突ね。いきなりなに……うわあ、きーー」

「もういい。おまえの言いたいことはだいたいわかった」

「きもいですよね。さすが鬼子さん、私と同じ意見でよかったです」

「ちなみにヒスイはこう言っていた。はい、回想をどうぞ」

『えぇ……これ人魚なの……?体ムキムキでボディビルダーみたい。凛々しい顔立ち……もしかしてこれって女の子じゃなくて男の子なのかな』

回想終了。
ヒスイさんのこの作品に対する感想は以上だ。

「……おかしい、ですね。今の台詞、ヒスイさん一言も褒めた部分無かったと思ったの私だけでしょうか」

「え、これヒスイが褒めてたの?何かの間違いでしょ。さすがにこれを擁護するのはあの子でも難しいんじゃない」

「いやいやいや、おまえ達はまた共闘して俺を困らせやがる。ヒスイは十二分に褒めてくれてるよ。体ムキムキ、凛々しい顔、それにこいつが男だってすぐに気付いた。よく観賞してる証拠じゃんか」

普通人魚を作ろうと思ったら、常人は女の人魚をモチーフに選ぶ。
男の人魚をセレクトするあたりが、俺と常人とのセンスの差と言えよう。

「第一声が『えぇ……』でしたけど。明らかにどう評価していいか困惑して言葉に詰まってる感じだったじゃないですか。ヒスイさん忖度してくださったんですよ。絶対そうです」

「いんや、俺はヒスイを信じるぜ。おまえらの戯言は聞く耳持たないね。ようし、こうなったらラスクを味方に引き込んでーー」

「あ、らっちゃんはいまお昼寝中なので起こしたら可愛そうですよ。どうでもいいことにらっちゃんを巻き添えにしないでほしいです」

どうでもいいと素気無い言葉を口にするタルトの表情は、心底どうでも良さそうだ。そんなガラクタとっとと捨てればいいのにとでも言いたげだな。

「小さな子のお昼寝を進んで妨げようとは感心しないわね。あんたそれでも成人した大人なの?まるで鬼ね」

「鬼はおまえだろ。俺にツノはない」

「ごしゅじん……よんだ?」

ラスクが覚束ない足取りで、眠い目をこすりながら店内へ歩いて来た。

「らっちゃん、起きちゃったんですか。お兄ちゃんうるさかったですもんね」

「ラスクラスク、起き抜けで悪いんだがこの作品について感想をくれないか」

「かんそー?これの……?」

困ったときのヒスイ頼み。ヒスイがその場にいなきゃ、代わりにラスクだっていい。
鬼子やタルトと違って、この二人はとりあえず俺の味方をしてくれるからだ。

「そうそう。これの」

「まずそう。これ、たべられる?」

「食べられるかい!こんなもん食ったら腹壊すーーてか死ぬぞ!」

「きっとらっちゃんはこれをお魚か何かと勘違いしたんですよ」

「あー、ダメだわ。やっぱがきんちょに芸術作品は理解できないか。使えねー」

ラスクにもこの作品の価値をわかって欲しかったんだがな。
この男人魚には、食べられるか食べられないかの二択以上の価値は無いらしい。

「ごしゅじんのきたいにそえなかった」

「らっちゃんがしょんぼりする必要無いですよ。悪いのは使えない呼ばわりしたお兄ちゃんです」

「もものすけサイテー」

「あ、わりぃ。ちょっと言い過ぎたわ」

そうだ。ラスクはただ正直な感想を言っただけだ。非難するのはお門違いだよな。

「心がこもってないですね。ほんとうに悪いと思ってるなら行動と態度で示してほしいです。らっちゃん、三時のおやつは何が食べたいですか?コックさんがなんでも作ってくれるそうですよ」

「なんでも?」

「はい。なんでもです」

何でもと言われても、俺に本格的な料理は作れない。
その場合は自動的に生成スキルを行使することになるだろう。

「ちゃーはんがたべたい」

「だそうです。至急お願いします」

「はいはい。わかったよ。作りゃいいんだろ、作れば」

それから俺はやむなしと、調理師専門学校仕込みのチャーハンを作り、お詫びの気持ちとして生成した冷凍餃子もサービスした。



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