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第二十二話(門を守護する者)
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珍しく早起きして野菜の収穫に来ていた。
そんな殊勝な俺をまんまと発見した鬼子は、菜園の中に入ってきて「ちょうどよかった」と一言。
続けて「今からあんたを叩き起こしに行くところだったの」と宣い、俺の手を掴んでどこかへ連れて行こうとする。
まさか、これから灼熱だか極寒の地獄へ引っ越しさせられるんじゃないだろうな……。
「おい……確かここって……!」
「いいから、ちょっとついてきてくれる」
鬼子が俺の手を引いて遠慮なくのぼっていったのは、選ばれし者以外の立ち入りをかたく禁じている雲の階段だった。
これをのぼりおえた先にあるのは確か、天国へ繋がるゲートだったと思ったが。
「あー……やっぱり今日も寝過ごしてる」
「ラファエル起きなさい。あんたにあたしが与えた役目ってなんだったっけ。さっさと起きないとどうなるかわかってるわよね?」
「うーん……うるさいな~、せっかくきもちよく眠ってたのになんだよ~」
地獄の管理者に連れられて難なくご立派な門の前にやってきてしまった。
門の真横には雲で作られた部屋みたいな空間があって、そこはラファエルと呼ばれた少女の生活スペースになっているようだ。
鬼ヶ島のトップが直々に起こしにやって来たというのに、少しも動じず二度寝を敢行しようとしている。
「ごちゃごちゃうるさいわね。こっちはわざわざ起こしに来てやってるってのに。十数え終わる前に起きなかったらお仕置きするから。桃之介、カウントお願い」
「はあ?なんで俺が?」
まさか、カウント係をさせるためにここまで連れてきたんじゃあるまいな……。
「いいから数えて」
「あ、はい。いーち、にー……」
命令されたとおりに十まで数えたものの、雲形のベッドで惰眠を貪っている少女が起きる気配はない。
結果、このあとどうなったかと言うと、銀髪の見目麗しい少女は金棒で容赦なくフルスイングされて雲の上から地上へと叩き落とされた。
「あぁあ……ありゃ死んだかな」
少しもためらいが無かったな。
まさか俺みたいに金棒による制裁を受けているやつがいたとは。
しかも、見た目だけは可憐な天使っぽい翼を背中に生やした女の子。
「わぁあああああん!!また下に落としたーっ!ぼくいちおー天使なのに!えらいのに!くろーしてここまでのぼりつめたのにぃ~っ!こんな扱いひどいよぉ~!」
「あー、うるさい。あんたの苦労話なんか知らないっての。耳障りだから奇声あげるのやめてくれる。いいから早く仕事して」
派手に地面に激突したにも関わらず、ラファエルは大した怪我も見当たらずピンピンしていた。
話の内容から察するに、今回が初めてではないようだ。
「うーん、あと3時間寝てからやるね。ぼくまだねむいんだよー」
しかしぶれないやつだ。
こいつは鬼子の命令に背けばどうなるかわかっていてやってるんだよな?
「懲りないわね……重ねて酷い目に会いたいのかしら?」
「痛い痛い痛い痛い痛い!わかったってばわかったってばー!起きるったら起きるからーっ!!」
「ほんとうね?つぎゆうこと聞かなかったら大空を羽ばたけない天使にしてやるからそのつもりで」
これがほんとうのシーチキンってやつだろうか。
今度は背中に生える真っ白な翼を毟り取ろうとしていた。
新しいタイプの拷問。鬼子だからなせる技だ。
「鬼子引くわー。仮にも女の子相手にやっていい仕打ちじゃねぇって」
「こいつにはこのくらいやんなきゃ効果ないの。天国へ繋がるゲートの門番って重要な役目を任せてるのに、何度起こしてもすぐに寝ちゃう。これじゃ、仕事サボって遊びに行っちゃうどこかの誰かさんと同じね」
「さてな……いったい誰のことやら……」
どこかの誰かさんと濁しているつもりなのかもしれないが、妙に具体的でもろ俺のことを指していた。
「おまえは俺にこんな光景を見せるためにここへ連れてきたのか?お世辞にもいい趣味とは言えねぇぞ」
「んなわけないでしょ。それじゃあたしがこの子をいじめてるみたいじゃない」
「実際、いじめてるように見えるんだが」
高所から落下させたり大事な翼毟り取ろうとしたり、いじめの域を超えてるけどな。
「うぅう……いたた~。もー、いっつも手加減が無いんだよね。まだ背中じんじんする~。きみもそんなとこでぼーかんしてないで助けてよー。目の前でかわいい天使ちゃんが痛めつけられてるんだよ。男の子ならゆーきを振り絞ってわるものに立ち向かわなくちゃ。この残酷極まりない鬼を退治してくれたらぼくきみに惚れちゃうかもよ?こんなチャンスは二度とないんだよ」
「誰が残酷極まりない鬼だってぇ~?」
「ひぃぇ……!?ごめんなさい!冗談です!」
「鬼子、そろそろ話を進めろ。だんだん可哀想に思えてきた」
激怒した鬼子が金棒を振り上げると、ラファエルは自分が守護する門の方へ駆けて行った。
「そうね。そろそろ本題に入りましょうか。早い話がラファエルを仕事をサボらない真面目さんに更生させてほしいの。あたしじゃもう手に負えないから。安心して、タダ働きとか酷なことはさせないし時間外で給料も弾む。成功させた暁には法外な報酬も用意する。どう?悪い話じゃないと思うけど」
法外な報酬かぁ。
どんなにすごい見返りなのかちょっと気になるが、要求された内容の達成条件がかなり難解過ぎやしないか?
「俺にあいつを更生させろって……?無理だ無理。おまえにできなかったことは多分他の誰に頼んでもできないと思うぞ。こう見えても俺はオーガニックの仕事で忙しいんだ。知ってるだろ」
「いつもサボってばかりいるくせにどの口が言うのよ。出勤前と退勤後は暇してるわよね」
「いや、仕事前はなるだけギリギリまで寝てたいし仕事終わりは趣味にフル活用するから暇じゃないな」
「……飽きれた。すこしは妹のために汗水流して働こうとか考えないわけ?」
「考えないな、残念ながら。可能な限りできるだけ楽に過ごしたい」
そもそもだ。さっき言ったとおり、鬼子にできないことが俺や別のやつにできるわけがない。
こいつなら金棒で脅すなりなんなりして無理にでも従わせようとするはずなのに、何故俺なんかにその役目を託す?
「聞いたわよ。あんた、タルトがわざわざ起こしに来てくれてるのに中々布団から出たがらないんだって?それに比べてタルトは仕事熱心ないい子ね。開店1時間前には店に降りてきて、客席拭いたり食材や食器の準備を始めてる。何食わぬ顔で平然と遅刻してくる不真面目な兄とはおおちがーー」
「喜んで引き受けさせていただきます!」
「よろしい。最初から素直にそう言えばいいのよ。余計な手間をかけさせないで」
渋々と難易度の高い依頼を引き受けた俺は、鬼子の話を一通り聞いた。
議題はラファエルをどう更生させるかの一点につきるわけだが……、
「ねぇねぇ、さっきから二人でなんのお話してるの?ぼくも仲間に入れてほしいんだけど」
いつのまにか俺の隣には、門の方から戻ってきたラファエルがいた。
「あんたは門の前に行って仕事してなさい。途中で転寝したらあたしの金棒が黙っちゃいないから」
「う~、わかったよ~。行けばいいんでしょ、行けば~」
会話の内容を聞かせないようにするためか、鬼子が金棒に物を言わせてラファエルを追い払う。
「更生させろとか簡単に言ってくれるがな、人には向き不向きってもんがあるだろ。俺にそんな難易度高そうなことできると思ってんのか?」
「手懐けるやり方なんかいくらでもあるでしょ。そんなのバカでもできるわ」
「うん。とりあえず、俺をバカだと決めつけるのはやめようか」
「褒めちぎろうが愛でようが痛みを与えようが、とにかく何をしても構わない。あたしが容認するわ。あんたは一応調理師なんだから食べ物で釣るとか……まあ、色々方法はあるでしょ。多少の例は出してあげたんだからあとは自分で考えなさい。それじゃ、あたしは行くから。頼んだからね」
「ちょ、ちょっと待てって……!」
……マジかよ。
俺をこんなとこに置き去りにしてほんとうに行っちまいやがった。
しかし、どうする?
このまま鬼子の依頼をガン無視してのこのこと帰宅すりゃ、あとで俺がどんな目に遭うのかだいたいの予想がつく。
弱みを握られてる以上、断るという選択肢は選べない。
あまり気乗りはしないが、あいつが例にあげた「食べ物で釣る」って手段が一番まともだろうな。
そんな殊勝な俺をまんまと発見した鬼子は、菜園の中に入ってきて「ちょうどよかった」と一言。
続けて「今からあんたを叩き起こしに行くところだったの」と宣い、俺の手を掴んでどこかへ連れて行こうとする。
まさか、これから灼熱だか極寒の地獄へ引っ越しさせられるんじゃないだろうな……。
「おい……確かここって……!」
「いいから、ちょっとついてきてくれる」
鬼子が俺の手を引いて遠慮なくのぼっていったのは、選ばれし者以外の立ち入りをかたく禁じている雲の階段だった。
これをのぼりおえた先にあるのは確か、天国へ繋がるゲートだったと思ったが。
「あー……やっぱり今日も寝過ごしてる」
「ラファエル起きなさい。あんたにあたしが与えた役目ってなんだったっけ。さっさと起きないとどうなるかわかってるわよね?」
「うーん……うるさいな~、せっかくきもちよく眠ってたのになんだよ~」
地獄の管理者に連れられて難なくご立派な門の前にやってきてしまった。
門の真横には雲で作られた部屋みたいな空間があって、そこはラファエルと呼ばれた少女の生活スペースになっているようだ。
鬼ヶ島のトップが直々に起こしにやって来たというのに、少しも動じず二度寝を敢行しようとしている。
「ごちゃごちゃうるさいわね。こっちはわざわざ起こしに来てやってるってのに。十数え終わる前に起きなかったらお仕置きするから。桃之介、カウントお願い」
「はあ?なんで俺が?」
まさか、カウント係をさせるためにここまで連れてきたんじゃあるまいな……。
「いいから数えて」
「あ、はい。いーち、にー……」
命令されたとおりに十まで数えたものの、雲形のベッドで惰眠を貪っている少女が起きる気配はない。
結果、このあとどうなったかと言うと、銀髪の見目麗しい少女は金棒で容赦なくフルスイングされて雲の上から地上へと叩き落とされた。
「あぁあ……ありゃ死んだかな」
少しもためらいが無かったな。
まさか俺みたいに金棒による制裁を受けているやつがいたとは。
しかも、見た目だけは可憐な天使っぽい翼を背中に生やした女の子。
「わぁあああああん!!また下に落としたーっ!ぼくいちおー天使なのに!えらいのに!くろーしてここまでのぼりつめたのにぃ~っ!こんな扱いひどいよぉ~!」
「あー、うるさい。あんたの苦労話なんか知らないっての。耳障りだから奇声あげるのやめてくれる。いいから早く仕事して」
派手に地面に激突したにも関わらず、ラファエルは大した怪我も見当たらずピンピンしていた。
話の内容から察するに、今回が初めてではないようだ。
「うーん、あと3時間寝てからやるね。ぼくまだねむいんだよー」
しかしぶれないやつだ。
こいつは鬼子の命令に背けばどうなるかわかっていてやってるんだよな?
「懲りないわね……重ねて酷い目に会いたいのかしら?」
「痛い痛い痛い痛い痛い!わかったってばわかったってばー!起きるったら起きるからーっ!!」
「ほんとうね?つぎゆうこと聞かなかったら大空を羽ばたけない天使にしてやるからそのつもりで」
これがほんとうのシーチキンってやつだろうか。
今度は背中に生える真っ白な翼を毟り取ろうとしていた。
新しいタイプの拷問。鬼子だからなせる技だ。
「鬼子引くわー。仮にも女の子相手にやっていい仕打ちじゃねぇって」
「こいつにはこのくらいやんなきゃ効果ないの。天国へ繋がるゲートの門番って重要な役目を任せてるのに、何度起こしてもすぐに寝ちゃう。これじゃ、仕事サボって遊びに行っちゃうどこかの誰かさんと同じね」
「さてな……いったい誰のことやら……」
どこかの誰かさんと濁しているつもりなのかもしれないが、妙に具体的でもろ俺のことを指していた。
「おまえは俺にこんな光景を見せるためにここへ連れてきたのか?お世辞にもいい趣味とは言えねぇぞ」
「んなわけないでしょ。それじゃあたしがこの子をいじめてるみたいじゃない」
「実際、いじめてるように見えるんだが」
高所から落下させたり大事な翼毟り取ろうとしたり、いじめの域を超えてるけどな。
「うぅう……いたた~。もー、いっつも手加減が無いんだよね。まだ背中じんじんする~。きみもそんなとこでぼーかんしてないで助けてよー。目の前でかわいい天使ちゃんが痛めつけられてるんだよ。男の子ならゆーきを振り絞ってわるものに立ち向かわなくちゃ。この残酷極まりない鬼を退治してくれたらぼくきみに惚れちゃうかもよ?こんなチャンスは二度とないんだよ」
「誰が残酷極まりない鬼だってぇ~?」
「ひぃぇ……!?ごめんなさい!冗談です!」
「鬼子、そろそろ話を進めろ。だんだん可哀想に思えてきた」
激怒した鬼子が金棒を振り上げると、ラファエルは自分が守護する門の方へ駆けて行った。
「そうね。そろそろ本題に入りましょうか。早い話がラファエルを仕事をサボらない真面目さんに更生させてほしいの。あたしじゃもう手に負えないから。安心して、タダ働きとか酷なことはさせないし時間外で給料も弾む。成功させた暁には法外な報酬も用意する。どう?悪い話じゃないと思うけど」
法外な報酬かぁ。
どんなにすごい見返りなのかちょっと気になるが、要求された内容の達成条件がかなり難解過ぎやしないか?
「俺にあいつを更生させろって……?無理だ無理。おまえにできなかったことは多分他の誰に頼んでもできないと思うぞ。こう見えても俺はオーガニックの仕事で忙しいんだ。知ってるだろ」
「いつもサボってばかりいるくせにどの口が言うのよ。出勤前と退勤後は暇してるわよね」
「いや、仕事前はなるだけギリギリまで寝てたいし仕事終わりは趣味にフル活用するから暇じゃないな」
「……飽きれた。すこしは妹のために汗水流して働こうとか考えないわけ?」
「考えないな、残念ながら。可能な限りできるだけ楽に過ごしたい」
そもそもだ。さっき言ったとおり、鬼子にできないことが俺や別のやつにできるわけがない。
こいつなら金棒で脅すなりなんなりして無理にでも従わせようとするはずなのに、何故俺なんかにその役目を託す?
「聞いたわよ。あんた、タルトがわざわざ起こしに来てくれてるのに中々布団から出たがらないんだって?それに比べてタルトは仕事熱心ないい子ね。開店1時間前には店に降りてきて、客席拭いたり食材や食器の準備を始めてる。何食わぬ顔で平然と遅刻してくる不真面目な兄とはおおちがーー」
「喜んで引き受けさせていただきます!」
「よろしい。最初から素直にそう言えばいいのよ。余計な手間をかけさせないで」
渋々と難易度の高い依頼を引き受けた俺は、鬼子の話を一通り聞いた。
議題はラファエルをどう更生させるかの一点につきるわけだが……、
「ねぇねぇ、さっきから二人でなんのお話してるの?ぼくも仲間に入れてほしいんだけど」
いつのまにか俺の隣には、門の方から戻ってきたラファエルがいた。
「あんたは門の前に行って仕事してなさい。途中で転寝したらあたしの金棒が黙っちゃいないから」
「う~、わかったよ~。行けばいいんでしょ、行けば~」
会話の内容を聞かせないようにするためか、鬼子が金棒に物を言わせてラファエルを追い払う。
「更生させろとか簡単に言ってくれるがな、人には向き不向きってもんがあるだろ。俺にそんな難易度高そうなことできると思ってんのか?」
「手懐けるやり方なんかいくらでもあるでしょ。そんなのバカでもできるわ」
「うん。とりあえず、俺をバカだと決めつけるのはやめようか」
「褒めちぎろうが愛でようが痛みを与えようが、とにかく何をしても構わない。あたしが容認するわ。あんたは一応調理師なんだから食べ物で釣るとか……まあ、色々方法はあるでしょ。多少の例は出してあげたんだからあとは自分で考えなさい。それじゃ、あたしは行くから。頼んだからね」
「ちょ、ちょっと待てって……!」
……マジかよ。
俺をこんなとこに置き去りにしてほんとうに行っちまいやがった。
しかし、どうする?
このまま鬼子の依頼をガン無視してのこのこと帰宅すりゃ、あとで俺がどんな目に遭うのかだいたいの予想がつく。
弱みを握られてる以上、断るという選択肢は選べない。
あまり気乗りはしないが、あいつが例にあげた「食べ物で釣る」って手段が一番まともだろうな。
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