未成年囚人達のソーシャルサービス

SAKAHAKU

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第八話(奉仕作業。清掃会社。片手錠の秘密)

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日影と慈愛。つるぎとデブちゃんの二ペアは本日の奉仕作業先である大学病院に護送車で移動を開始した。

どうやら「マネジメントビル」という会社は病院の地下を事務所として使わせて貰っているようだ。

「あの、これって完全に塀の外に出ちゃってますよね。脱獄とかする人居ないんですか?」

地下の事務所で担当者を待っている中、慈愛から質問を受けたので、素直に知っている限りの返答をすることにした。

最初は皆一度は疑問に感じるよな。

「ああ。それはだな……これがあればその心配は不要何だ」

ーー片手錠かたてじょう

奉仕作業に出掛ける囚人一人一人が片方の手首に嵌められているこの手錠型アクセサリーには、GPSが内蔵されていて何処へ逃げようが追跡可能。

脱走などすれば刑期の延長+五年だ。
上手く逃げられたらラッキーだろうが、失敗するリスクを考えたらそんな無駄な抵抗はしない方がいい。

「そう、ですか……犯罪者を世に放つような行為自体が危険な気がしますが」

慈愛の更なる疑問に日影は返答を続ける。

「それも問題ない。一般の人間に危害を加えようとする囚人は、この片手錠によって手首を切断される。失血死する可能性があることを分かっていて、そんなことしようとする輩も中々いないだろ」

この「片手錠」は変形して、鋭利な輪っか型の凶器へと姿を変える。手首を切断し、対象の動きを封じるんだ。
周りに被害を出さないよう考案された特殊な囚人用アクセサリーである。
片手を失うことを思い浮かべただけでゾッとするぜ。

「こっ、これって、そんなに怖い物だったんですね……間違いで切断されたりしませんか?」

片手錠を改めて眺めて、慈愛が分かりやすくぷるぷると体を震わせていた。

「……まあ、無いとは完全に否定出来ないかもな。何年か前には、これによって命を奪われた囚人がいるって話だ。はは、こえーよな。悪いことはするもんじゃない」

片手錠について一通りの説明が済んだところで、事務所にようやく五十歳くらいのおっさんの担当者が姿を見せた。
早速、今日一日の流れ、仕事内容について説明される。経験者が三人いることを伝えたら俺達だけで洗浄作業をやらせてくれることになった。

(こりゃ、好都合だな)

自分達だけで仕事が出来るということはパートの爺さんや婆さん等と関わることはまず無い。

他の清掃会社での奉仕作業経験がこんな所で役に立つとは思わなかったな。

「お兄ちゃん、私は何をすれば良いですか?」

地下から指定された場所に移動して、早速慈愛が日影へ自分の役割を尋ねてきた。
小学生のこの子に出来ることなど限られているが、任せられるのは簡単な作業か。

「バケツに水を汲んできてくれるかな。とりあえず、二杯くらい」

「お水ですね。了解です」

本日日影達四人が任された清掃場所は大学と病院を繋ぐ渡り廊下。見た感じで言えば、大体百メートル近くあるだろうと思われる結構な広さだ。

この会社での奉仕作業は一日だけだから今日中に仕上げなくてはならないが、まあ順調に行けば余裕を持って終われるか。
何もアクシデントが起こらなければの話ではあるが……。


**********************


「慈愛の奴遅くね?」

「何だよ、日影。じーちゃんが気になるのか?」

「その呼び方止めろデブ。爺さん呼んでるみたいに聞こえるだろ」

床洗いに使う道具の準備はすでに完了し、後は慈愛の汲んで来てくれる水を待つだけだ。
床を磨く「ポリッシャー」という特殊な機械に水は必要不可欠で、水と洗剤を混ぜてタンクに入れて使う。

つまり、洗浄液を機械にセットしないことには作業が始められない。

「初めてで場所が分からなくなっちゃったんじゃない。日影、迷ってたら可哀想だし迎えに行ってあげたら」

「……そう、だな。ちょっと様子見てくるから二人は此処で待っていてくれ」

案の定、地下に向かって日影が見た光景は慈愛が床に零した大量の水をタオルで一生懸命に拭いている姿だ。
バケツに汲んだ水をひっくり返したっぽい。

(……にしても、全身びしょびしょじゃねぇか)

慈愛は頭からシャワーでも浴びたかのように髪も顔も服も全てが濡れていて、床を拭いても拭いても自分の体から滴り落ちる水に邪魔をされ中々終わりが見えてこない。
水を目一杯吸ったタオルで何時までも拭いていても意味が無いだろう。
あのままでは一日中床を拭いて終了しそうだ。

「慈愛」

「あ、お兄ちゃん……ごめんなさい。バケツに汲んだ水を零してしまって……」

日影に視線を向ける慈愛の目は、涙ぐんでいるのかほんのりと赤い。すっかりと水浸しとなった床へ、落ち込んだように膝を付きしょぼんとしている。

「別に良いよ。失敗しない人間何ていないんだから。後は俺に任せて着替えてきな」

「だ、大丈夫です……、拭き終わってから着替えるので……」

「はいはい。良いからお兄ちゃんに任せて行ってきなって。そんな状態でいると風邪引くぞ」

「で、ですが……」

このままでは言葉の応酬が何時までも続きそうだ。

仕方ない。それではこうしよう。

「分かった。俺も手伝うからさっさと終わらせよう。着替えはそれからだ。それなら納得してくれるか?」

慈愛は渋々とそれで了承し、二人で濡れた床を乾いたモップを使い拭き取った。

思わぬところで時間をロスしてしまったが、仕事よりも相棒の着替えが最優先だ。

「慈愛、ハンドタオルしかないがこれを使ってくれ」

「あ、ありがとうございます……、それと、ごめんなさい」

「それさっき聞いた」

「駄目ですね、私は。お兄ちゃんの役に立とうと、恩返しのつもりで刑務所に来たのに……さっそく迷惑かけちゃいました」

突然飛び出した台詞に、日影はそうだったなと思い出す。

昨日は無理に聞かなかったものの、慈愛がどんな罪を犯して捕まったのかは、やはりペアとしては気になる訳で、

「言いたくなかったら無理に話す必要は無いんだけどな……慈愛は、その、どうして捕まったんだ?」

「駄菓子屋さんでお菓子の食べ逃げです。お兄ちゃんに会いたくて、お婆ちゃんに110番してってお願いしました」

聞くところによれば実際は食い逃げなどしておらず、駄菓子屋のご老人がいつもお腹を空かせている慈愛を可哀想に思って、お菓子を食べさせてくれていたらしい。
貰えるお小遣いも無いに等しく、十円や二十円と安く買える駄菓子を買って飢えをしのいでいた時期もあったとのことだ。

「どうして、俺の所に行きたい何て思ったんだ?」

刑務所何か行きたいと思って訪れる場所じゃないだろ。あそこは別にアミューズメントパークでも世界遺産でも無い。ただ只管に罪を償うだけの囚人の溜まり場だ。得体の知れない危険な連中ばかりが集う場所に好んで来たいと思うのは金の無いニートや老人くらいのもんだろ。

「だって、お兄ちゃんは私を誘拐しよう何てしてないじゃないですか。お腹を空かせて、道に迷って、心細くて泣いていた私に手を差し伸べてくれた良い人。ご飯を食べさせてくれた優しい人です。だから決めました。恩返ししようって」

「あれは俺が好きでしたことだ。恩返し何てする必要は無いからな」

「駄目です。それでは私が刑務所に来た意味がなくなるじゃないですか。昨日はお言葉に甘えてしまいましたが、今日は一緒にお風呂に入りましょう。お背中流します」

「いや、いい。大丈夫だ。遠慮しておく」

「私はお兄ちゃんにご奉仕することを目的に捕まったんです。ご迷惑をおかけした分きちんと体で償わせて下さい」

「断る。お前とお風呂に入るという行為は俺を更にロリコンの道に引きずり込む悪い結果にしかならない。断固反対だ」

それから日影と慈愛は一歩も譲ることなく、同じようなお願いと拒否を繰り返した。
何か大切なことを忘れているのに気付いたのは、それから三十分も経過した後だった。


























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