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第九話(マヨ好きのデブラー)
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(……ああ。どうにか間に合ってよかった)
ちょっとしたアクシデントが発生したものの、一日に与えられた作業は何とか終了し、時間通りに帰路に着くことに成功した。
あの後着替えの済んだ慈愛を連れて二人の待つ渡り廊下に戻り、ポリッシャーのタンクに水を入れ洗浄作業をスタート。
日影が機械を使い古いワックスを洗い落とし、その作業によって発生した汚水をつるぎが回収。慈愛がモップで床を拭いていき、最後におデブが仕上げのワックスを塗りたくる。
途中でデブちゃんがワックスボトルを蹴って倒し、床に零れた液体を踏ん付け激しく転んだ時は俺とつるぎで爆笑したな。
慈愛だけは心配そうに手を差し伸べていたが。
「……ははっ」
「どうしたんですか?思い出し笑い?」
牢の中で二人仲良く晩御飯に舌鼓を打っている途中、日影が突然に笑いだし慈愛がきょとんとしていた。
「ああ。デブが転倒した名シーンを思い出して、つい」
「何が名シーンだ。デブとか言ってんじゃねぇよ。喧嘩売ってんのか?」
誹謗と嘲笑にデブがすぐ様に反応する。
俺と慈愛の他愛ない会話を向かいの牢で聞き耳立てていたようだ。良い趣味とは言えんね。
「ああ、悪い。デブ……ちゃん。これで良いんだろ」
「お前、いつか憶えてろよ」
「思い出して笑うくらい別に良いじゃない。あれは確かに日影の言う通りの名シーンだったし」
つるぎが俺の見方をしてくれている。
何と心強い。
「何を憶えておけば良いんだ?お前が半乾きの塗りたての床に倒れて、自分のシルエットを残していたことなら、心配せずとも生涯記憶に残り続けると思うぞ」
「嫌なこと思い出させるんじゃねぇよ」
ワックスってもんは塗り始めて誤って踏んでしまっても、初期段階なら修正が可能だ。
それとは打って変わって、半乾きのワックスはそう簡単にはいかない。
その上から新たに塗り直しても殆どの確立で跡が残ってしまう。
そうなった場合には戻って洗い直すしか方法はなく、そうしようと考えたのだが……如何せん時間の問題もあり、やむを得ずしらばっくれることにした。
あれを見た医者や学生はどう思うだろうな。
病院側から清掃会社にクレームがあっても可笑しくない仕上がりだったが。
「ああ……カツ丼うめぇ」
今更すでに終わったことを日影が後悔している中、おデブはといえば「そんなこと知るかよ。ははっ」とでも言いたげな表情で満足そうにカツ丼に食らいついていた。
囚人とカツ丼の組み合わせが刑事ドラマのようである。
「お兄ちゃんの方も食べてみたいです。一口味見しても良いですか?」
「ん……あ、ああ。でもこれ俺が口付けた後だぞ。それでも良いのか?」
「はい。私は別段そういうの気にしないタイプなので」
今日も慈愛には俺達と違うお子様専用のメニューが用意されていて、カツ丼の代わりにカレーが置いてあった。おそらくは甘口だ。
「いやいや、そんなことを言うがな慈愛。よく考えてみろよ。デブちゃんが食いかけのカツ丼何か汚すぎて食えたもんじゃないだろ。あれを見ろ」
「へ?」
デブがどうカツ丼を食しているのか教えてやろうと、すぐ様目を向けさせる。
奴の手に握られているのは左手にお椀と右手に黄色い調味料。
ーーそう。奴は生粋のマヨラー。
もといマヨ好きのデブラーなのである。
「あの大量のマヨが注がれた汚ならしいカツ丼でも、お前は平気と言い切れるのか?+で言っておけば、デブの唾液と顔から滴る大量の汗もブレンドされてるからな。どうだ?無理だろ」
「えっと……」
そこで言葉を詰まらせる慈愛は、子供とは思えない程に気を使える子だよな。
「ほんと、汚ないわー」
「マヨラーを馬鹿にすんじゃねぇよ。お前の発言は全国の同士を敵に回したな」
「いや、俺が馬鹿にしたのはお前個人だが?」
「日影に同感するわ。くちゃくちゃ音を立てて食べるとことか物凄く耳障りね。次から口を結んで食べて」
「けっ。お前等は俺を馬鹿にすることしか出来ないのかよ。痩せたらカッコ良い男ランキング第一位にランクインした色男に罵声ばかり浴びせやがって」
何処でそんなふざけたランキングやってんだよ。糞デブの癖に出鱈目言いやがって。
……まさかとは思うが、俺達の笑いを誘ってるんじゃあるまいな。まあ、とりあえず無視だ、無視。
デブの目の前にいるつるぎさえ「お前の何処がイケメンだよ。デブメンの間違いじゃないのか」と言いたそうな冷たい視線でデブを眺めている。
「ほら、慈愛。口開けてみ。食べさせてやるよ」
「おいこら、俺の華麗な台詞をスルーするんじゃねぇよ。てめぇ等、何か言いたいことはねぇのか?」
「態々俺の口から言わせる気か?お前がなれるのは力士かフードファイターくらいだろ。何て、残酷な事実を」
そんな日影の台詞を聞いて、つるぎはある職業を一つ付け足した。
「日影「デブモデル」を忘れてるわ」
「おお、それだ。激しく同意」
「勝手に俺の未来を予想して盛り上がってんじゃねぇよ」
そんな感じに無駄にデブを蔑んでいたら、あっという間に晩御飯の時間は過ぎ去った。
ーーさて、今度は風呂か。
ちょっとしたアクシデントが発生したものの、一日に与えられた作業は何とか終了し、時間通りに帰路に着くことに成功した。
あの後着替えの済んだ慈愛を連れて二人の待つ渡り廊下に戻り、ポリッシャーのタンクに水を入れ洗浄作業をスタート。
日影が機械を使い古いワックスを洗い落とし、その作業によって発生した汚水をつるぎが回収。慈愛がモップで床を拭いていき、最後におデブが仕上げのワックスを塗りたくる。
途中でデブちゃんがワックスボトルを蹴って倒し、床に零れた液体を踏ん付け激しく転んだ時は俺とつるぎで爆笑したな。
慈愛だけは心配そうに手を差し伸べていたが。
「……ははっ」
「どうしたんですか?思い出し笑い?」
牢の中で二人仲良く晩御飯に舌鼓を打っている途中、日影が突然に笑いだし慈愛がきょとんとしていた。
「ああ。デブが転倒した名シーンを思い出して、つい」
「何が名シーンだ。デブとか言ってんじゃねぇよ。喧嘩売ってんのか?」
誹謗と嘲笑にデブがすぐ様に反応する。
俺と慈愛の他愛ない会話を向かいの牢で聞き耳立てていたようだ。良い趣味とは言えんね。
「ああ、悪い。デブ……ちゃん。これで良いんだろ」
「お前、いつか憶えてろよ」
「思い出して笑うくらい別に良いじゃない。あれは確かに日影の言う通りの名シーンだったし」
つるぎが俺の見方をしてくれている。
何と心強い。
「何を憶えておけば良いんだ?お前が半乾きの塗りたての床に倒れて、自分のシルエットを残していたことなら、心配せずとも生涯記憶に残り続けると思うぞ」
「嫌なこと思い出させるんじゃねぇよ」
ワックスってもんは塗り始めて誤って踏んでしまっても、初期段階なら修正が可能だ。
それとは打って変わって、半乾きのワックスはそう簡単にはいかない。
その上から新たに塗り直しても殆どの確立で跡が残ってしまう。
そうなった場合には戻って洗い直すしか方法はなく、そうしようと考えたのだが……如何せん時間の問題もあり、やむを得ずしらばっくれることにした。
あれを見た医者や学生はどう思うだろうな。
病院側から清掃会社にクレームがあっても可笑しくない仕上がりだったが。
「ああ……カツ丼うめぇ」
今更すでに終わったことを日影が後悔している中、おデブはといえば「そんなこと知るかよ。ははっ」とでも言いたげな表情で満足そうにカツ丼に食らいついていた。
囚人とカツ丼の組み合わせが刑事ドラマのようである。
「お兄ちゃんの方も食べてみたいです。一口味見しても良いですか?」
「ん……あ、ああ。でもこれ俺が口付けた後だぞ。それでも良いのか?」
「はい。私は別段そういうの気にしないタイプなので」
今日も慈愛には俺達と違うお子様専用のメニューが用意されていて、カツ丼の代わりにカレーが置いてあった。おそらくは甘口だ。
「いやいや、そんなことを言うがな慈愛。よく考えてみろよ。デブちゃんが食いかけのカツ丼何か汚すぎて食えたもんじゃないだろ。あれを見ろ」
「へ?」
デブがどうカツ丼を食しているのか教えてやろうと、すぐ様目を向けさせる。
奴の手に握られているのは左手にお椀と右手に黄色い調味料。
ーーそう。奴は生粋のマヨラー。
もといマヨ好きのデブラーなのである。
「あの大量のマヨが注がれた汚ならしいカツ丼でも、お前は平気と言い切れるのか?+で言っておけば、デブの唾液と顔から滴る大量の汗もブレンドされてるからな。どうだ?無理だろ」
「えっと……」
そこで言葉を詰まらせる慈愛は、子供とは思えない程に気を使える子だよな。
「ほんと、汚ないわー」
「マヨラーを馬鹿にすんじゃねぇよ。お前の発言は全国の同士を敵に回したな」
「いや、俺が馬鹿にしたのはお前個人だが?」
「日影に同感するわ。くちゃくちゃ音を立てて食べるとことか物凄く耳障りね。次から口を結んで食べて」
「けっ。お前等は俺を馬鹿にすることしか出来ないのかよ。痩せたらカッコ良い男ランキング第一位にランクインした色男に罵声ばかり浴びせやがって」
何処でそんなふざけたランキングやってんだよ。糞デブの癖に出鱈目言いやがって。
……まさかとは思うが、俺達の笑いを誘ってるんじゃあるまいな。まあ、とりあえず無視だ、無視。
デブの目の前にいるつるぎさえ「お前の何処がイケメンだよ。デブメンの間違いじゃないのか」と言いたそうな冷たい視線でデブを眺めている。
「ほら、慈愛。口開けてみ。食べさせてやるよ」
「おいこら、俺の華麗な台詞をスルーするんじゃねぇよ。てめぇ等、何か言いたいことはねぇのか?」
「態々俺の口から言わせる気か?お前がなれるのは力士かフードファイターくらいだろ。何て、残酷な事実を」
そんな日影の台詞を聞いて、つるぎはある職業を一つ付け足した。
「日影「デブモデル」を忘れてるわ」
「おお、それだ。激しく同意」
「勝手に俺の未来を予想して盛り上がってんじゃねぇよ」
そんな感じに無駄にデブを蔑んでいたら、あっという間に晩御飯の時間は過ぎ去った。
ーーさて、今度は風呂か。
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