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第十話(慈愛とお風呂)
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「お兄ちゃん、どうしてバケツに水何か汲んでるんですか?今日は一緒にお風呂って約束した筈です」
晩御飯の時間が終了し、日影が当たり前のようにバケツに水を注ぎ洗体の準備をしていたら、後ろから囚人服の裾をくいくいっと引っ張られる。
慈愛の表情は日影の行動にちょっとだけ怒っているのか、何だかむすっとしていた。
「俺は「うん」とは言ってないんだけどな。タオルで体拭くだけで良いよ」
「それじゃお兄ちゃんが汗臭いままじゃないですか。そんなの駄目です。もたもたしてないで一緒に入りますよー」
はっきりと断っているのにも関わらず、こっちの意思など完全に無視で、半ば強引に手を引っ張られ風呂場へ連れて行かれる。
見る人からしたら羨ましいそんな光景を、向かいの牢でデブのお方が妬ましそうに視線を向けていた。
ーー何度も言うようだが、俺はロリコンじゃないからな。
「……どう、ですか?気持ち良い、ですか?」
「そうだな……悪くはない」
「何ですかそれ?照れ隠しですか?」
結局は共に脱衣所に歩き(後ろから背中を押され)流されるままバスルームにまで入ってしまった。
気付けば後ろから背中をタオルでごしごし洗われている俺がいる。
女子と風呂に入るのは初めてじゃないけれど、ルナの頃は恋人同士と思えば普通のことに感じたが、今回はどう思えばいい?
兄と妹、あるいは父と娘か。
どちらかで言えば前者の方だろう。
日影と慈愛の年齢差は考えてみればそこまで変わらない。
「お兄ちゃん、私のことも洗ってくれませんか?」
……この子はいきなり何を言い出すんだ?
日影の返答はもちろん、いつも通りに素っ気ない台詞だ。
「自分で洗えるだろ」
「お兄ちゃんに洗って欲しいです。叔母さんのお家に居た頃は叔父さんが洗ってくれていました。上も下も全身念入りにです。あの人はやたら私の下半身ばかり洗っていましたが」
おお……そのおっさんは紛れもなくロリコンって奴ですよ。慈愛さん。
「その叔父は間違いなくお前の未発達でロリロリな体を楽しんで洗っていたんだろうな。いやらしく、にやにやと、丁寧に、舐めるように」
「私は洗いっこが大好きですからそれでも構いません。人に洗って貰うと気持ちが良いですよね」
「そうか……だが、断る」
子供なりの構って欲しいという気持ち。無邪気なじゃれ合いなのだろうが、そんなことをすれば俺は真正の変態と化す。
前々から思っていたことだが、此処の刑務所は色々と可笑しさで満ち溢れている。
普通男女で同室(ペア)にしたりするか?一緒に風呂に入らせるか?
いいや、あり得ない。
「どうしてでしょうか?」
「俺がロリコンじゃないからだな」
「なら、大丈夫じゃないですか」
よく大人達は「大人だから子供の体には興奮しない」と綺麗事を並べるが、それは嘘偽りだ。
口では何とでも言える。
そんな台詞を吐く輩も内心じゃ胸のどきどきを制御し切れていない筈だ。
「お兄ちゃん、私はもう二年生になりましたので大丈夫ですし、自分を幼女と思ったことはありません」
「世間一般的には小学二年生を幼女と言う」
日影が頑なに拒むので、慈愛は少し不機嫌そうな口調になって自分の気持ちをぶつけ始める。
「だったら、どうすれば洗ってくれるんです?ロリコンロリコンと気にしていますが、そこまで歳が離れている訳でもないじゃないですか。小学生の妹が高校生のお兄ちゃんとお風呂に入っちゃ駄目何ですか。そんなことを誰が決めたんですか?私がお兄ちゃんの彼女さんになってあげれば問題は解決するんですか?それとも本当は二十歳です。と嘘を付けば良いんですか」
真剣を感じさせる表情で懇願する慈愛の言葉に圧倒され、日影は仕方なく観念するしかなくなった。
どっちにしてもこの子は、俺がどんな意見を述べようが聞く耳を持たなそうだ。
「わ、分かった……お前がそこまで言うなら洗ってやる。先に言っておくが、あとで後悔すんなよ」
ーーという流れで、慈愛のおねだりに負けを認めて、渋々と大好きな洗いっこに付き合うことに。
全身を誰かに洗って貰うとか、俺なら恥ずかしくて嫌だけどな。
「お兄ちゃん、背中ばかりじゃなくてちゃんと前も洗って下さい」
「……いや、それは色々と不味いだろ」
「早く洗って下さい。入浴の時間過ぎちゃいます」
「へ、へい……」
こうなりゃ焼けだ。もう何も気にしないからな。
「あっ……ん……、んんっ、あぅ、ふぁっ……くすぐったい……」
堪えろ、俺の理性。
こいつは妹だ。兄が妹と風呂に入るのは普通だ。体を洗ってやることだって当たり前に見る何でもない光景だ。兄妹でじゃれ合っている微笑ましい場面何だ。
自分にそう言い聞かせて覚悟を決めたのち、洗いやすいよう慈愛を膝の上に座らせて、腕、胸、お腹と上半身をタオルでごしごしと洗い順番に片付けていく。
そのたび、慈愛が色っぽい声を出して喘ぐが、そんな些細なことに構っていられるような暇はない。
一刻も早くこの課せられた任務を終了させなければ、何かもう目覚めてはいけない趣味に走ってしまいそうだ。
「ふぁ、ひゃう……」
ああ、ルナの体とはまた違う柔らかさを感じるなぁ……軽くてふにふにしていてマシュマロみたいだ。女の子ってすげぇ……。
「気持ち良かったです。ありがとうございます」
ふぅ。と満足そうに息を吐く慈愛に、日影のロリコンレベルが思わず「こちらこそ」と言ってしまいそうな所まで到達していた。
マジで目覚める五秒前、胸のどきどきが収まる気配がない。
「お、おお……そりゃ良かった……」
銀髪少女の体を上から下まで一通り洗い終わったあとで、二人仲良く湯舟に浸かる。
慈愛が頬を赤くした状態でこっちを見つめてくるから、思わず視線を逸らしてしまった。
ルナの時も同じようなことを感じたが、やっぱ女子とお風呂は心臓に悪い。恥ずかしさと緊張と興奮で片時も落ち着けない。
だからと言って男と一緒に風呂に入るのも、それはそれで気持ちが悪い。
日影みたいな人間には一人部屋(シングル)の方がしっくりするのかもしれない。
**********************
「お兄ちゃん、怖いので一緒に寝て下さい。頭を撫でて下さい。ぎゅっと抱きしめて欲しいです」
「うお……お前、取る行動一つ一つがルナと同じだな。今モーレツにデジャヴってる」
就寝時間になって灯りが消されると同時に、慈愛が日影のベッドの上に侵入してきた。
一緒にお風呂の次は同じ布団で寝ようってか?
一人でも狭いのに二人でとかあり得ねぇ。
「ルナって誰ですか?」
お互いの唇が触れ合いそうな程近い、真横の小さき少女からの質問に、日影は正直に口を開く。
「俺の相棒だった女の子だよ。金髪ツインテールの外人さんだ」
「そうですか。お兄ちゃんはつるぎさんともペアだったそうですね。三人の中で誰が一番可愛かったですか?」
ちゃっかりと俺の布団に潜り込んだ慈愛が、真に答え辛い問いをぶつけてくる。
この子はどんな解答を求めているんだろう。
「皆可愛かったよ。つるぎもルナも慈愛も」
日影はルナが聞いていたら高確率で喜びそうな台詞を恥ずかしげもなく口にした。
「……自分で聞いておいてこんなことを言うのも変ですが、とても恥ずいです」
「ならこんなこと二度と聞くなよ。次は本気で辱めるからな」
隣で寝ている慈愛と顔を合わせないように、反対側を向いて目をつぶる。
例え相手が子供だとしても目が合うのは何だか照れ臭い。
きっと俺はシャイボーイ何だなと、これまでの十七年の人生を呪った。
彼女無し=年齢のチェリー男子には、こういうイベントは不慣れで刺激が強すぎるんだ。
晩御飯の時間が終了し、日影が当たり前のようにバケツに水を注ぎ洗体の準備をしていたら、後ろから囚人服の裾をくいくいっと引っ張られる。
慈愛の表情は日影の行動にちょっとだけ怒っているのか、何だかむすっとしていた。
「俺は「うん」とは言ってないんだけどな。タオルで体拭くだけで良いよ」
「それじゃお兄ちゃんが汗臭いままじゃないですか。そんなの駄目です。もたもたしてないで一緒に入りますよー」
はっきりと断っているのにも関わらず、こっちの意思など完全に無視で、半ば強引に手を引っ張られ風呂場へ連れて行かれる。
見る人からしたら羨ましいそんな光景を、向かいの牢でデブのお方が妬ましそうに視線を向けていた。
ーー何度も言うようだが、俺はロリコンじゃないからな。
「……どう、ですか?気持ち良い、ですか?」
「そうだな……悪くはない」
「何ですかそれ?照れ隠しですか?」
結局は共に脱衣所に歩き(後ろから背中を押され)流されるままバスルームにまで入ってしまった。
気付けば後ろから背中をタオルでごしごし洗われている俺がいる。
女子と風呂に入るのは初めてじゃないけれど、ルナの頃は恋人同士と思えば普通のことに感じたが、今回はどう思えばいい?
兄と妹、あるいは父と娘か。
どちらかで言えば前者の方だろう。
日影と慈愛の年齢差は考えてみればそこまで変わらない。
「お兄ちゃん、私のことも洗ってくれませんか?」
……この子はいきなり何を言い出すんだ?
日影の返答はもちろん、いつも通りに素っ気ない台詞だ。
「自分で洗えるだろ」
「お兄ちゃんに洗って欲しいです。叔母さんのお家に居た頃は叔父さんが洗ってくれていました。上も下も全身念入りにです。あの人はやたら私の下半身ばかり洗っていましたが」
おお……そのおっさんは紛れもなくロリコンって奴ですよ。慈愛さん。
「その叔父は間違いなくお前の未発達でロリロリな体を楽しんで洗っていたんだろうな。いやらしく、にやにやと、丁寧に、舐めるように」
「私は洗いっこが大好きですからそれでも構いません。人に洗って貰うと気持ちが良いですよね」
「そうか……だが、断る」
子供なりの構って欲しいという気持ち。無邪気なじゃれ合いなのだろうが、そんなことをすれば俺は真正の変態と化す。
前々から思っていたことだが、此処の刑務所は色々と可笑しさで満ち溢れている。
普通男女で同室(ペア)にしたりするか?一緒に風呂に入らせるか?
いいや、あり得ない。
「どうしてでしょうか?」
「俺がロリコンじゃないからだな」
「なら、大丈夫じゃないですか」
よく大人達は「大人だから子供の体には興奮しない」と綺麗事を並べるが、それは嘘偽りだ。
口では何とでも言える。
そんな台詞を吐く輩も内心じゃ胸のどきどきを制御し切れていない筈だ。
「お兄ちゃん、私はもう二年生になりましたので大丈夫ですし、自分を幼女と思ったことはありません」
「世間一般的には小学二年生を幼女と言う」
日影が頑なに拒むので、慈愛は少し不機嫌そうな口調になって自分の気持ちをぶつけ始める。
「だったら、どうすれば洗ってくれるんです?ロリコンロリコンと気にしていますが、そこまで歳が離れている訳でもないじゃないですか。小学生の妹が高校生のお兄ちゃんとお風呂に入っちゃ駄目何ですか。そんなことを誰が決めたんですか?私がお兄ちゃんの彼女さんになってあげれば問題は解決するんですか?それとも本当は二十歳です。と嘘を付けば良いんですか」
真剣を感じさせる表情で懇願する慈愛の言葉に圧倒され、日影は仕方なく観念するしかなくなった。
どっちにしてもこの子は、俺がどんな意見を述べようが聞く耳を持たなそうだ。
「わ、分かった……お前がそこまで言うなら洗ってやる。先に言っておくが、あとで後悔すんなよ」
ーーという流れで、慈愛のおねだりに負けを認めて、渋々と大好きな洗いっこに付き合うことに。
全身を誰かに洗って貰うとか、俺なら恥ずかしくて嫌だけどな。
「お兄ちゃん、背中ばかりじゃなくてちゃんと前も洗って下さい」
「……いや、それは色々と不味いだろ」
「早く洗って下さい。入浴の時間過ぎちゃいます」
「へ、へい……」
こうなりゃ焼けだ。もう何も気にしないからな。
「あっ……ん……、んんっ、あぅ、ふぁっ……くすぐったい……」
堪えろ、俺の理性。
こいつは妹だ。兄が妹と風呂に入るのは普通だ。体を洗ってやることだって当たり前に見る何でもない光景だ。兄妹でじゃれ合っている微笑ましい場面何だ。
自分にそう言い聞かせて覚悟を決めたのち、洗いやすいよう慈愛を膝の上に座らせて、腕、胸、お腹と上半身をタオルでごしごしと洗い順番に片付けていく。
そのたび、慈愛が色っぽい声を出して喘ぐが、そんな些細なことに構っていられるような暇はない。
一刻も早くこの課せられた任務を終了させなければ、何かもう目覚めてはいけない趣味に走ってしまいそうだ。
「ふぁ、ひゃう……」
ああ、ルナの体とはまた違う柔らかさを感じるなぁ……軽くてふにふにしていてマシュマロみたいだ。女の子ってすげぇ……。
「気持ち良かったです。ありがとうございます」
ふぅ。と満足そうに息を吐く慈愛に、日影のロリコンレベルが思わず「こちらこそ」と言ってしまいそうな所まで到達していた。
マジで目覚める五秒前、胸のどきどきが収まる気配がない。
「お、おお……そりゃ良かった……」
銀髪少女の体を上から下まで一通り洗い終わったあとで、二人仲良く湯舟に浸かる。
慈愛が頬を赤くした状態でこっちを見つめてくるから、思わず視線を逸らしてしまった。
ルナの時も同じようなことを感じたが、やっぱ女子とお風呂は心臓に悪い。恥ずかしさと緊張と興奮で片時も落ち着けない。
だからと言って男と一緒に風呂に入るのも、それはそれで気持ちが悪い。
日影みたいな人間には一人部屋(シングル)の方がしっくりするのかもしれない。
**********************
「お兄ちゃん、怖いので一緒に寝て下さい。頭を撫でて下さい。ぎゅっと抱きしめて欲しいです」
「うお……お前、取る行動一つ一つがルナと同じだな。今モーレツにデジャヴってる」
就寝時間になって灯りが消されると同時に、慈愛が日影のベッドの上に侵入してきた。
一緒にお風呂の次は同じ布団で寝ようってか?
一人でも狭いのに二人でとかあり得ねぇ。
「ルナって誰ですか?」
お互いの唇が触れ合いそうな程近い、真横の小さき少女からの質問に、日影は正直に口を開く。
「俺の相棒だった女の子だよ。金髪ツインテールの外人さんだ」
「そうですか。お兄ちゃんはつるぎさんともペアだったそうですね。三人の中で誰が一番可愛かったですか?」
ちゃっかりと俺の布団に潜り込んだ慈愛が、真に答え辛い問いをぶつけてくる。
この子はどんな解答を求めているんだろう。
「皆可愛かったよ。つるぎもルナも慈愛も」
日影はルナが聞いていたら高確率で喜びそうな台詞を恥ずかしげもなく口にした。
「……自分で聞いておいてこんなことを言うのも変ですが、とても恥ずいです」
「ならこんなこと二度と聞くなよ。次は本気で辱めるからな」
隣で寝ている慈愛と顔を合わせないように、反対側を向いて目をつぶる。
例え相手が子供だとしても目が合うのは何だか照れ臭い。
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