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第十一話(夢の中の少女)
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ーー夢を見ていた。
視界には見憶えのある懐かしい光景が広がっていて、その街は会社や学校に急ぐたくさんの人で溢れかえっている。
そんな中で高校へ登校中の日影の耳が微かに聞き取ったのは、誰かがすすり泣くような声で、足は誘われるようにその声の主を目指して歩きだしていた。
(ああ……これって……)
街を埋め尽くすくらいの沢山の人混みの中からやっと見つけ出したのは、銀髪の可愛らしい少女で、その子は現在と違い髪がロングヘアと長めで見た目は更に幼い。
迷子になって涙を流す小さい少女の存在に気付いていながらも、大人達は気付かない振りをして冷たくその場を通り過ぎて行く。
結局の所人間は自分の目的を優先に考える。他人のことをどうとも思ったりしない。
そういう奴等ばかりが暮らす世界を不快に感じ始めたのはいつ頃だっただろう。
「どこか痛いのか?それとも迷子?泣いてる理由、お兄ちゃんに教えてくれないか?」
不幸にも刑務所に服役する切欠となった藤野慈愛へ日影は手を差し伸べる。
あの日はお腹が空いたって言う慈愛と手を繋いでレストランに行ったんだったな。
今でもよく憶えてる。
一人で何品も食べる食欲旺盛な少女を眺めて、その小さい体のどこにそんな量を溜められるのか疑問に思ったもんだ。
「お兄ちゃん、朝です。起きて下さい。朝ごはん運んできました」
「ん……慈愛……」
元気な慈愛の声が聞こえて夢の世界から目を覚ます。
日影の寝起き顔を覗き込んで楽しそうに笑う彼女に、昔の泣き虫だった少女の面影は何処にも無い。
その笑顔を復活させる鍵となったのが刑務所ってのが皮肉なもんだが、悲しい思いをするよりは何倍もいい。
「はい。おはようございます。早く食べないと刑務作業に遅れちゃいますよ」
両親を失って叔母に預けられた慈愛は、家庭でも学校でも虐められて自分に居場所が無いと感じていた。我慢の限界で知らない隣街まで逃げて来てしまったのはそれが原因だ。
「どうしました?怖い夢でも見たんですか?」
寝起きでぼけっとしていながらも、先程まで見ていた夢の内容を頭に思い浮かべていた日影へ慈愛が尋ねる。
これは正直に話すべきだろうか。
「……いや、何でもない」
ふと、こんなことを考えてしまった。
慈愛は此処を出所しても帰る場所に当てはあるのだろうかと。
両親を失い叔母夫婦に預けられたはいいが、そこに居辛くなって刑務所に逃げ出して来た。
虐待を受けていた家へ帰りたいとは思う筈もなく、反対に児童相談所に預けられることになっても、それはそれで可哀想だよな。
「お兄ちゃん見て下さい。私にも鶴が折れました」
「おお、上手いな。俺も負けてられないぜ」
此処最近の刑務作業は何故か千羽鶴を製作するというもので、俗に言う折り紙。
小学生の慈愛でも馬鹿なデブちゃんにも簡単に出来る作業が与えられていた。
隣で楽しそうに鶴を作る少女に「刑務所を出たらどうするつもり何だ?」とか、触れていいのか不味いのか微妙な話を振る気はすぐに失せた。
慈愛の刑期は日影よりも遥かに短い。
この子が此処を出て、外の世界で幸せに暮らせる方法は何かないものか……。
外の世界はある意味此処より残酷で、何をするにも金が必要になる。
金のない貧乏人やホームレスが安定した刑務所暮らしをする為、どうでもいいような軽犯罪を犯す気持ちも何となく理解出来る。
食べることさえままならず、明日を生きることも難しいなら、此処に入る方が命を落とすよりかはずっとマシだと思うから。
誰だって好きに死は選びたくはないだろう。
「今度は手裏剣でも作ってみないか。デブちゃんのデブっ腹を的にしてさ、投げ飛ばして遊ぼうぜ」
「指定された鶴以外を作ったら怒られますよ。それに、そんなことしたら「デブちゃんさん」が可哀想です」
気付けば慈愛も日影の影響を受けてか、おデブのことを「デブちゃんさん」とご丁寧に「さん」付けで呼ぶようになっていた。
年上に対する敬意とか、失礼がないようにと考えての言動だろうが、その呼び方はどう何だ。
この呼び方にデブは満足気で、怒る所かむしろ喜んでいる。可愛い後輩ができたとでも思っているに違いない。
慈愛の頭をにやにやしながらじっくりと撫でる奴が異常に気持ちが悪かった。
「いや、慈愛ちゃんが遊びたいってんなら「デブちゃんさん」は喜んで的役プレイを引き受けるぜ」
日影と慈愛の会話を盗み聞きしていたのか、後ろの席で同じように鶴を作っているデブが胸をたたき愉快に反応する。
「うるせーよ。デブ。今の台詞はシャバで小学生相手に口にしたら即刻捕まるレベルだからな。お前は大人しく俺が作った紙飛行機でも食ってろ。この変態ヤロー」
「ああ?デブだぁ?俺はデブちゃんさんだ」
「手裏剣当てていいのね。なら遠慮なく。えい」
「ぎゃあぁあああああっ!!誰も目を狙っていい何て言ってねぇええええええっ!!」
デブの隣に座るつるぎが折り紙で作った手裏剣を回転させ、それが見事に片目を直撃した。
どうやらつるぎは、日影やおデブよりも先に鶴だけを無限に生産する拷問のような作業に飽き飽きしていたみたいだ。
デブの耳障りな悲鳴は作業部屋に響き渡って、数人の刑務官を周りへ集める結果にしかならなかった。
何ともつまらんイベントシーンを回収してしまったものだな。
こんなCGいらねぇよ。
視界には見憶えのある懐かしい光景が広がっていて、その街は会社や学校に急ぐたくさんの人で溢れかえっている。
そんな中で高校へ登校中の日影の耳が微かに聞き取ったのは、誰かがすすり泣くような声で、足は誘われるようにその声の主を目指して歩きだしていた。
(ああ……これって……)
街を埋め尽くすくらいの沢山の人混みの中からやっと見つけ出したのは、銀髪の可愛らしい少女で、その子は現在と違い髪がロングヘアと長めで見た目は更に幼い。
迷子になって涙を流す小さい少女の存在に気付いていながらも、大人達は気付かない振りをして冷たくその場を通り過ぎて行く。
結局の所人間は自分の目的を優先に考える。他人のことをどうとも思ったりしない。
そういう奴等ばかりが暮らす世界を不快に感じ始めたのはいつ頃だっただろう。
「どこか痛いのか?それとも迷子?泣いてる理由、お兄ちゃんに教えてくれないか?」
不幸にも刑務所に服役する切欠となった藤野慈愛へ日影は手を差し伸べる。
あの日はお腹が空いたって言う慈愛と手を繋いでレストランに行ったんだったな。
今でもよく憶えてる。
一人で何品も食べる食欲旺盛な少女を眺めて、その小さい体のどこにそんな量を溜められるのか疑問に思ったもんだ。
「お兄ちゃん、朝です。起きて下さい。朝ごはん運んできました」
「ん……慈愛……」
元気な慈愛の声が聞こえて夢の世界から目を覚ます。
日影の寝起き顔を覗き込んで楽しそうに笑う彼女に、昔の泣き虫だった少女の面影は何処にも無い。
その笑顔を復活させる鍵となったのが刑務所ってのが皮肉なもんだが、悲しい思いをするよりは何倍もいい。
「はい。おはようございます。早く食べないと刑務作業に遅れちゃいますよ」
両親を失って叔母に預けられた慈愛は、家庭でも学校でも虐められて自分に居場所が無いと感じていた。我慢の限界で知らない隣街まで逃げて来てしまったのはそれが原因だ。
「どうしました?怖い夢でも見たんですか?」
寝起きでぼけっとしていながらも、先程まで見ていた夢の内容を頭に思い浮かべていた日影へ慈愛が尋ねる。
これは正直に話すべきだろうか。
「……いや、何でもない」
ふと、こんなことを考えてしまった。
慈愛は此処を出所しても帰る場所に当てはあるのだろうかと。
両親を失い叔母夫婦に預けられたはいいが、そこに居辛くなって刑務所に逃げ出して来た。
虐待を受けていた家へ帰りたいとは思う筈もなく、反対に児童相談所に預けられることになっても、それはそれで可哀想だよな。
「お兄ちゃん見て下さい。私にも鶴が折れました」
「おお、上手いな。俺も負けてられないぜ」
此処最近の刑務作業は何故か千羽鶴を製作するというもので、俗に言う折り紙。
小学生の慈愛でも馬鹿なデブちゃんにも簡単に出来る作業が与えられていた。
隣で楽しそうに鶴を作る少女に「刑務所を出たらどうするつもり何だ?」とか、触れていいのか不味いのか微妙な話を振る気はすぐに失せた。
慈愛の刑期は日影よりも遥かに短い。
この子が此処を出て、外の世界で幸せに暮らせる方法は何かないものか……。
外の世界はある意味此処より残酷で、何をするにも金が必要になる。
金のない貧乏人やホームレスが安定した刑務所暮らしをする為、どうでもいいような軽犯罪を犯す気持ちも何となく理解出来る。
食べることさえままならず、明日を生きることも難しいなら、此処に入る方が命を落とすよりかはずっとマシだと思うから。
誰だって好きに死は選びたくはないだろう。
「今度は手裏剣でも作ってみないか。デブちゃんのデブっ腹を的にしてさ、投げ飛ばして遊ぼうぜ」
「指定された鶴以外を作ったら怒られますよ。それに、そんなことしたら「デブちゃんさん」が可哀想です」
気付けば慈愛も日影の影響を受けてか、おデブのことを「デブちゃんさん」とご丁寧に「さん」付けで呼ぶようになっていた。
年上に対する敬意とか、失礼がないようにと考えての言動だろうが、その呼び方はどう何だ。
この呼び方にデブは満足気で、怒る所かむしろ喜んでいる。可愛い後輩ができたとでも思っているに違いない。
慈愛の頭をにやにやしながらじっくりと撫でる奴が異常に気持ちが悪かった。
「いや、慈愛ちゃんが遊びたいってんなら「デブちゃんさん」は喜んで的役プレイを引き受けるぜ」
日影と慈愛の会話を盗み聞きしていたのか、後ろの席で同じように鶴を作っているデブが胸をたたき愉快に反応する。
「うるせーよ。デブ。今の台詞はシャバで小学生相手に口にしたら即刻捕まるレベルだからな。お前は大人しく俺が作った紙飛行機でも食ってろ。この変態ヤロー」
「ああ?デブだぁ?俺はデブちゃんさんだ」
「手裏剣当てていいのね。なら遠慮なく。えい」
「ぎゃあぁあああああっ!!誰も目を狙っていい何て言ってねぇええええええっ!!」
デブの隣に座るつるぎが折り紙で作った手裏剣を回転させ、それが見事に片目を直撃した。
どうやらつるぎは、日影やおデブよりも先に鶴だけを無限に生産する拷問のような作業に飽き飽きしていたみたいだ。
デブの耳障りな悲鳴は作業部屋に響き渡って、数人の刑務官を周りへ集める結果にしかならなかった。
何ともつまらんイベントシーンを回収してしまったものだな。
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