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SAKAHAKU

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第九十八話(高橋軍の兵隊)

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殺戮兵器。ハイブリッジ率いる高橋軍が打倒佐藤軍鈴木軍を目的に生み出したクローン人間450体。
その各々に何かしらの器量を宿らせて、まんまと使役しようという算段だったのだが、その策略は敢え無く頓挫することとなった。
佐藤軍鈴木軍殺戮の即戦力達は高橋軍に牙を剥き、人数を揃えるどころか極端に減らす自体を招く。
規格外の戦闘力を誇る殺戮兵器の半数が、彼等の支配に逆い全国津々浦々へ逃げ出した。


「それじゃ、くれぐれもお願いね」

「らじゃ」

「御意」

「わかったの」

「……です」

「了解であります」

「ふわぁ……おっけ~」


ーーとある日、戦隊ヒーローみたいにカラフルな奴らが便利屋事務所に招集された。
そこには間の抜けた返事をする『No.450』紫紺を始め、様々な色をしたが横一列に並んでいる。
ビシッと敬礼を決めて返事をするのは『No. 100』イエローカラーのイオン。
眠そうに目を擦りながら返事をするのは『No.230』ホワイトカラーのツミレ。
欠伸をしながら適当に返事をするのは『No.88』ブルーカラーのヤヤ。
まるでドラマから知識を享受したかのような返事をするのは『No.337』グリーンカラーのミミナ。
任せておけと頼もしい返事をする『No.70』レッドカラーのナオ。
これらの面々は木ノ下歌が結成した『虹色隊』のメンバーで、その仕事は主に歌のお手伝いだとか。一人一人の名前は紫紺と同様につるぎが命名した。
本来は戦闘を得意とする彼女達に与えられたミッションは、ある人物の護衛といった簡単な内容だ。


「へー。ルナ、先生の仕事辞めちゃうのか」

「うん。歌ちゃんが気を遣ってくれたみたい。ルナちゃんにいつまでも負んぶに抱っこじゃ悪いからって言ってた。何でも、他に護衛に特化した知り合いがいるから、慈愛たんのことはその子達にお願いするんだって。あたしは別に大丈夫だって話したんだけどね。あの一件以来、最近は慈愛たんに仇なす子もめっきり減ってるし」


あの一件とは、俺が二度目の刑務所暮らしを余儀なくされる切っ掛けとなったあの事件のことだ。
こう言っちゃ何だが、思い出すのも忌々しい。いちいちあの凶暴なクソガキの面が目に浮かんでくる。頭を何針も縫う大怪我を負わされた屈辱と大切な妹を危険な目に合わされた憎悪の感情が嫌でもフラッシュバックしちまう。
……まあでも、俺の起こした行動が結果的に抑止力になったんだとしたら、結果オーライと言えなくもないか。
それよりも、気になるのは護衛の方だ。
知り合いってワードから察するに、もしかしなくてもデブちゃんとかつるぎのこと何だろうけれど。


「みてみてひーくんっ!担当したクラスの子供達が寄せ書きくれたの!ルナ先生大好きだって!」


本日、何やら見せたい物があるとルナは木ノ下家へやってきた。
教育実習生相手に児童や生徒が一人一人書いて渡すあれだ。
どうやらこの寄せ書きを見せびらかしたかっただけっぽい。


「ほうほう。そりゃよかったな」

「うんうん!あたし感動しちゃったよ!これ一生の宝物にする!」


教え子から寄せ書き貰えるのは、先生の特権だしな。そりゃ嬉しいか。
……ルナは早々に退場しちまった俺の分まで、頑張って教師やってたんだもんな。
慈愛ちゃんの見守りまで任せっきりだったし、さぞ大変だったことだろう。本当に迷惑をかけた。
歌姉の考えには賛同する。
ルナの家は金持ちだし、無理して働く必要はないのだから……現在フリーターな上に貧乏な俺とは違って。


「さあて、教師もお役御免になったことだし、本格的にひーくんと一緒にアルバイトでもしよっかな」

「しよっかなって……お前はよく働くね。お金に困ってるって訳じゃないんだろ?俺は出来るものなら可能な限り働きたく何かないんだが」


まあここの所、俺のスペックが低すぎるせいか、まともなアルバイトにも採用されなくなった始末何だけどさ。
……全く、世知辛い世の中だぜ。
最近は専ら、歌姉が斡旋してくれる便利屋の仕事の手伝いばかりだ。
妹相手にやけになって『芸人やろうぜ』とか『お兄ちゃんの相方になってくれ』とかそんなしょうもない冗談を宣ったりもしたな。
なあに、簡単な話さ。昔、老人ホームでルナと二人で披露した1日限定の即興お笑いコンビ「月影るなひか」を思い出して、俺ってもしかして、芸で食っていけるんじゃね?と安易な考えに走っただけだ。
ノリの良い慈愛ちゃんは『良いですよ』『なんでやねん!とか言ってれば大丈夫ですよね?』とか、結構乗り気だった。
宿題をほったらかしにしてコンビ名を自由帳に書き連ね始めるくらいには本気にしてたとみえる。何だか悪いことをしたな。


『「あにいも」とかどうですか?』

『何かきもちわりい。却下だな』


こんな会話をしたのがつい三日前くらいだったか。我ながらどうかと思う内容だ。
何の捻りもないコンビ名にけち付けたら『これでも一生懸命考えました。気持ち悪いとかひどいです』とかなんとか言われて反論されたわ。
今思えば、るなひか(因みにルナ命名)でさえ何の捻りもねぇ……。


「ひーくん、今なにか、しつれーなこと考えたでしょ」

「いんや、そんなことないぞ」

「じゃあ、何考えてたの?」

「ルナと一緒に芸人デビューして、一攫千金って前途も悪くないかなぁと」


人気を博すことができれば、俺も晴れて芸能人の仲間入りだ。歌姉みたいな金満家になるのも夢じゃないからな。大金が転がり込んできた芸人は掛け持ちしていたアルバイトを躊躇なく辞めるらしい。彼等が優越感に浸るのは正しくその瞬間からだろう。
るなひか。何かようわからんけど、爺さん婆さんには好評だったんだよなぁ。これがリアル忖度ってやつか。


「……るなひか。再結成するか」

「えっ……? あれ、またやるの?」

「珍しいな。ルナだったら二つ返事で頷いてくれると思ったんだが……」

「えっとね……別に嫌って訳じゃないんだけど、ひーくんにツッコミ入れる時、頭ペシペシするのが何かかわいそーで……あたしの叩き方、間違ってなかったかな?強過ぎなかった?痛く、なかった……?」

「いやいや、ルナの加減何て可愛いもんだろ。最近は相方の頭を容赦なくぶっ叩くツッコミがいるくらいだしな。遠慮はいらん。どんどん叩いてくれ」

「ほんとっ!ほんとーにいいのっ!?ひーくん叩かれ過ぎて頭真っ白になっちゃわない?ひーくんがそれでも良いならあたしやるよ!芸人やる!」

「本気にするなよ、ルナ。ちょっと言ってみただけだ」

「嘘だったの!?それとも、ひーくんの相方はあたしじゃ役不足ってこと?」

「そうじゃない。元々なる気がなかっただけだ。ここんとこバイトの面接落とされてばかりで中々仕事にありつけなくてさ。ちょっとだけブルーになって現実逃避してた。芸人になって有名になれば、歌姉みたいな素封家になれるのにって」


いつまでも歌姉に頼りっきりなのはよくないってわかっちゃいるんだけど、人生中々思い通りにはいかないもんだ。
ルナと組んで芸人をやれば間違いなく成功する自信がある。主にルナの美貌と可愛らしさで人気はうなぎのぼり確定だ。
けれど、俺の個人的な事情にルナを巻き込むのはよくないよな。
不本意だが、まともな職に就けるまでは歌姉の世話になるしかなさそうだ。ルナのたった一度きりの人生を左右して台無しにすることはできない。


ーーそいつ等と俺が邂逅したのは、将来を悲観し途方に暮れていたそんな時だった。


深夜12時頃。
その日「お腹が空いた」と訴えるテイルの為に、俺は食べ物の調達に出掛けたんだ。夜食を求めて、甲斐甲斐しくも最寄のコンビニに一人で。
その帰り道、さっき通った時は無かった筈のを見つけた。


「こんなところにトンネル何かあったっけ……?」


興味本位で足を踏み入れたトンネルは、夏場の肝試しには打ってつけと思われるほどに不気味さを感じさせる。
一つの灯りもない真っ暗な空間を、怖いもの見たさで恐る恐る進んでいく。
一体この先には何があるんだろう。何故か気になった。導かれるように無意識に足だけが動いている。
奥まった方から微かに聞き取れる奇妙な声音は、人間のものとも動物のものとも違う。
戦々恐々としながらも引き返すことが出来ない。まだ間に合う、それ以上近づいてはならない。関わってはいけない。頭では理解しているが、何故か止まらない。
自分に何度警告しようとも、まるで正体不明の何者かに操られているかのように、体が言うことを聞かない。
……何だこれ、急に頭がぼーっとしてきた。心なしかひどく怠い。声さえ出せない。



「その先は行かない方が賢明なの」


背後から上着の裾を掴まれた瞬間、制御がままならなかった体に自由が舞い戻ってきた。
まるで操られているみたいだった。止めて貰えなかったら今頃何処へ連れてかれていたのか、想像するだけでゾッとする。
……金縛りに酷似した体験をしたことから察するに、下手をすると霊界にでも招かれていたかもしれない。
俺の体は半ば引きずられるように、トンネルの中から真夏の星空の下へと放り出される。
多少雑な扱いだったが、おかげで助かった。窮地を救ってもらっておいて、偉そうに大目に見ようなどと言える立場じゃないよな。とりあえず礼は言っておこう。
……しかし、待ちきれなくなって迎えに参上するとかどれだけ腹空いてんだって話だ。
晩飯食ってからそんなに時間は経っていないというのに。


「テイル、ありが……」


そこまで言いかけて、何か違う……そう思った。
見た目はほぼ同じだが、髪の色に獣耳の色が異なっている。
初見ではトンネルの中で暗くて分かりにくかったが、今では街灯の明かりに照らされてはっきりとわかる。
例えるなら、テイルは色で分類すると夕日のようなオレンジ色。紫紺はラベンダーの花のような紫色だ。
対して、俺を助けてくれたこのテイルは燃え盛る炎のような赤色。
俺はこいつに見覚えがある。スーパーの奉仕作業中遭遇したテイルがまさにこんな色合いだった。
あの日、不覚にも不気味に感じてしまった赤いやつによく似ている……。


「お前……俺と会ったことっーー」

「こりゃ驚いたな。日影じゃねぇか」


何者かの親しげな呼び掛けに、赤色のテイルへの問いかけを途中で遮られる。
その声の主は、近場に停車している大型の商用車から降りてきた。
そいつは便利屋の作業員、デブちゃんこと吉澤大地だった。


ーー尚、獲物を取り逃がした不気味なトンネルは、暗闇に呑まれるように忽然と姿を消した。










































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