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第二十七話(日影の職探しの日々)
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日曜日に届く新聞には種類豊富な広告と共に求人広告が挟まっている。
日影は一階のリビングに置いてあった新聞からそれを取り出すと、二階にある自分の部屋へ戻った。
本日は歌姉もばあちゃんも仕事で、家の中に居るのは俺と慈愛ちゃんだけ。二人は朝ご飯を食べたらさっさと出掛けて行った。
学校は土日が休みと決まっているが、社会人になればそんな法則は関係ない。
歌のようなトップアイドルとなれば休みは不規則。一ヶ月に一日か二日あったらいい方だろう。
(さてと。俺に相応しいエレガントでファンタスティックな職場はあるかな?)
求人広告に目を向けて慎重に自分に似合った仕事を探してみる。
刑務所で培った何十種とある職場体験は伊達じゃない。
「お兄ちゃん、入ってもいいですか?」
こんこんと廊下から日影の部屋をノックする音が聞こえる。OKの返答をすると中に慈愛が入ってきた。
「よう慈愛ちゃん。暇か?」
「暇してるんです。なのでお兄ちゃんに遊んで頂こうと考えたのですが……どうやら取り込み中のようですね。お邪魔でしたか?」
「いや、ちょうどいい。何処に面接に行こうか悩んでいたところ何だ。一緒に選んではくれないか?」
手招きして部屋のちょうど真ん中に置いてあるテーブルの前へ座らせ広告を覗かせる。
小学生の慈愛ちゃんからしたら職探しなど何年も先のことだが、相応しい職を選んで貰うくらいなら誰にだって出来る。年齢は関係ない。
「そう……です、ねぇ……」
求人広告に視線を落とし、まるで自分のことのように唸って真剣に考えてくれている。
やはりうちの妹はそこらの小学生とは格が違うな。体は小さな子供だが頭脳は大人みたいだ。
「お兄ちゃんなら、調理に清掃に配達。接客に保育に介護。他にも多種多様な経験がありますし、どこに就いても別段問題ないでしょうが……これだけ色々あると悩んでしまうのも頷けます」
「だよなぁ……。とりあえず、片っ端に面接受けてみるか?」
「片っ端に、ですか。数打てば当たる。ですね。履歴書書くのが大変そうですが、頑張ってください」
「はい。これ」
「へ……、何ですか、これ?」
日影が妹に手渡したのは昨日コンビニで買っておいた履歴書の束だ。
一つ百円で五枚入りのものが八つ程。この男は何社面接を受けるつもりなのか。
「慈愛ちゃん暇でしょ。履歴書書くの手伝って」
「えぇ……、私も書くんですか?仕方ないお兄ちゃんですね。暇してたんで別に構いませんが」
「流石慈愛ちゃん。歌姉とは優しさも可愛さも段違いだ」
歌姉にこんなこと頼みでもしたら腹に正拳突きを貰う自信があるな。
蹲っている俺を見下して「自分で書きなさいよ」と怒鳴られ会話が終了するのは目に見えてわかる。
あの姉はそういう冷たい女なのだ。世間がイメージしているような清楚で笑顔が素敵なアイドルなどこの家にはいない。
営業スマイル。正しくそれである。
「あの……筆跡とか大丈夫ですか?私とお兄ちゃんではもちろん字の形や書き方が異なっていると思うんです」
「平気さ。面接官に誰が書いたか見分ける能力何て備わっちゃいねぇよ」
「でも、後々困りませんか?何か大事な書類を会社内で書かされる日がやって来るかもですよ」
色々心配してくれている妹に構うことなく日影はすらすらと履歴書にペンを走らせる。
慈愛はどうしたら良いかあたふたしていたが、兄のある台詞で履歴書を書く決意を固めた。
「慈愛ちゃん。それ書き終わったら一緒にTVゲームしよう。実は買ったばかりのとっておきがあるんだ」
「TVゲームっ!?お兄ちゃんそれ本当ですか!お友達の男の子に聞いて一度遊んでみたいと思っていたんです!」
慈愛は目を輝かせていた。TVゲームで遊んだことが皆無な妹に興味をそそらせて履歴書作成を手伝わせるずる賢い男。それが木ノ下日影。
兄からの甘い誘いに簡単に乗ってしまうあたり、小学生らしさが垣間見えて何とも可愛らしい一面だ。
「そうか。そうか。…………んんっ?友達?男の子ぉ?」
「はい。約束ですよ。お兄ちゃん」
「いやいやいや。ちょっと待て、慈愛ちゃん。その男の子ってまさか、彼氏じゃないよね?好きな人ができたとか、お兄ちゃん許しませんよ」
日影が問い詰めると、慈愛はほんのりと顔を赤らめる。
……嫌な予感しかしない。
「じ、実は……その人と結婚を前提に……って、お兄ちゃん、いきなり立ち上がって何処に行こうとしてるんです?」
「ソイツぶん殴ってくる」
「止めてください。今の全部嘘です。冗談です。お兄ちゃんをからかってみたくなっただけです。妹のお茶目ですから、そんなに怒らないでください」
慈愛が部屋を出ようとする兄の腕に抱きついて動きを止める。
妹の発言が自分をからかっただけだと気付いて、怒りがすっかりと冷めた。
心臓に悪い冗談だ。
「びっくりさせるなよな。マジでそうなのかと思ったじゃねぇか」
普段冗談や嘘を付かない素直な子からの言葉は疑うに値しない。
日影は思った。顔赤くする演技とか、いつの間に覚えたんだろう。
「ごめんなさい。……えと、あの……、お兄ちゃん怒ってますか?」
「妹LOVEなお兄ちゃんが可愛い妹を怒ったりしないよ。ほら、慈愛ちゃん。さっさと履歴書書き終わすぞ」
「は、はい」
兄の優しく落ち着いた言葉にほっと胸を撫で下ろす。慈愛は少しでも日影の為になるようにと、自分に書ける限りの丁寧な字を履歴書に記入していく。
「お兄ちゃんの最終学歴って、中卒ですか?」
「そうだね。高校在学中に捕まったからなぁ……そのまま退学扱いになったみたいだよ」
「ごっ、ごめんなさい……きっと私のせいですよね。私に係わらなければお兄ちゃんは高校を卒業できていた筈です」
「何回も言ったと思うけど、慈愛ちゃんのせいじゃないよ。係わらなければとか、そんな悲しいこと言うなって。あの日出会えたからこそ、今こうして一緒にいられるんじゃねぇか。俺は可愛い妹が出来てハッピーだぞ」
後悔の表情を隠せないでいた慈愛にかけられた兄となった日影からの優しい言葉。
嬉しかったのか照れ臭かったのか、妹の顔が少しだけ紅潮した。
「そう、ですね。私もお兄ちゃんが出来て嬉しいです」
同意してにこっと可愛い笑顔を見せた慈愛に、日影は一安心した。
取り掛かっていた履歴書も二人で仲良く話しながら書いていたらいつの間にか全て書き終えていたし、あとは志望の動機だけ記入すれば完璧だ。
「お兄ちゃん、約束です。一緒にTVゲームで遊んでください」
「ああ。手伝って貰ったからな。とことん付き合ってやるぜ」
日影が取り出したゲームソフトは格ゲー。レーシング。RPG。ギャルゲー。の四タイトル。どれをプレイしてみたいか慈愛ちゃんに聞いてみたところ、選んだのはまさかまさかのギャルゲーだった。
「これやってみたいです」
「いや、これは慈愛ちゃんがプレイしてもつまらないんじゃないかな。ちょっとおふざけで選択肢に入れてみただけだったんだが…………マジでこれやるの?」
「駄目でしょうか。ギャルゲーって何をするゲーム何です?」
「現実の女の子と仲良くする為にプレイするシュミレーションゲームみたいな感じかな。主にモテない童貞男が好むゲームだと思ってくれていい」
「お兄ちゃんはプレイしたことがあるんですね。私にも女の子と仲良くする方法を教えてください」
妹の探究心を断るなど可哀想で出来ない。
慈愛ちゃんのお望み通りディスクを取り出してゲーム機にセット。リモコンの電源ボタンを押してTVを点けた。
「あ。観てください。TVにお姉ちゃんが映ってます」
TV画面には「鋼子のお家」にお邪魔している水嶋歌姫こと、木ノ下歌が映し出されていた。
慈愛はゲームで遊ぶことなどすっかり忘れてしまったかのように画面に見入っている。
どうやら兄妹揃って昼間からギャルゲーというカオスな空間を生み出さずに済んだようだ。
「あなた、アイドルになって今年で何年になられるの?」
「はい。十二の頃なので、六年になります」
ただ只管に大御所のおばさん「白柳鋼子」と人気絶頂中のアイドル「水嶋歌姫」のトークが展開する。
彼女が芸能界入りしてから何度もその活躍を観てきた日影からしたら、こんな映像は当たり前過ぎて、全く珍しくも何ともない。
慈愛ちゃんも現在は目をキラキラさせて姉の姿を追ってはいるが、時期に飽きる日がやってくる。
慣れってのは恐ろしいね。
「歌姉、今日もいい感じに猫被ってるな」
日影に対してはほとんど向けられたことのない最高の笑顔がそこにはあった。
俺にもあれくらいの可愛い顔で話しかけてくれたら、少しは好感が持てるというのに。
「歌お姉ちゃんって、男の人が嫌いって言ってましたよね。どうしても好きになれないんだって……過去に何かあったんですか?」
自分の口から姉の過去について勝手に喋ってしまってもいいのだろうか。
日影はほんの少しの間だけ考える。
必ずとは言い切れないけれど、歌姉にバレたら顔面に何発かグーで殴られるかも。
慈愛ちゃんも歌姉の妹になったんだし、話しても問題はないと思うけど。
「歌姉には俺から聞いたって言うのは無しな。此処だけの話だぞ」
妹はこくんと頷くと、俺の紡ぐ言葉に耳を傾けた。
「歌姉が男嫌いになったのは、元父親からの暴力を受けてからだってばあちゃんに聞いた。それ以上は俺も深く知らないんだ。ちょっと慈愛ちゃんと境遇が似ているかもな」
「い、いえ……全然違うと思います。私の両親は子供に暴力を振るうような人じゃありませんでしたから。叔母さんにしても、ご飯を食べさせてくれないだけで暴力はそこまで酷くなかったですし……歌お姉ちゃん、可哀想です」
「同感だな。何年も一緒に居るけど、一度も歌姉が男と楽しそうに話しているところを見たことがない」
日影と慈愛は画面の中で笑顔で話す姉に視線を戻す。
「あなた、ご家族は何人いらっしゃるの?」
「あたしに弟と妹。おばあちゃんの四人家族です。妹は小学生何ですけど、この子がとにかく可愛くて」
鋼子に笑顔で答えている歌に対して「俺は可愛くないのかよ」と心中でツッコミを入れていた。
姉は現在妹の学費を払ってくれているのと同じで、日影が高校に通っていた頃も学費を全て払ってくれていた。嫌っていたらそんなことはしてくれないだろう。
他の男達よりは心を開いてくれていると信じたい。だって家族何だから。
日影は一階のリビングに置いてあった新聞からそれを取り出すと、二階にある自分の部屋へ戻った。
本日は歌姉もばあちゃんも仕事で、家の中に居るのは俺と慈愛ちゃんだけ。二人は朝ご飯を食べたらさっさと出掛けて行った。
学校は土日が休みと決まっているが、社会人になればそんな法則は関係ない。
歌のようなトップアイドルとなれば休みは不規則。一ヶ月に一日か二日あったらいい方だろう。
(さてと。俺に相応しいエレガントでファンタスティックな職場はあるかな?)
求人広告に目を向けて慎重に自分に似合った仕事を探してみる。
刑務所で培った何十種とある職場体験は伊達じゃない。
「お兄ちゃん、入ってもいいですか?」
こんこんと廊下から日影の部屋をノックする音が聞こえる。OKの返答をすると中に慈愛が入ってきた。
「よう慈愛ちゃん。暇か?」
「暇してるんです。なのでお兄ちゃんに遊んで頂こうと考えたのですが……どうやら取り込み中のようですね。お邪魔でしたか?」
「いや、ちょうどいい。何処に面接に行こうか悩んでいたところ何だ。一緒に選んではくれないか?」
手招きして部屋のちょうど真ん中に置いてあるテーブルの前へ座らせ広告を覗かせる。
小学生の慈愛ちゃんからしたら職探しなど何年も先のことだが、相応しい職を選んで貰うくらいなら誰にだって出来る。年齢は関係ない。
「そう……です、ねぇ……」
求人広告に視線を落とし、まるで自分のことのように唸って真剣に考えてくれている。
やはりうちの妹はそこらの小学生とは格が違うな。体は小さな子供だが頭脳は大人みたいだ。
「お兄ちゃんなら、調理に清掃に配達。接客に保育に介護。他にも多種多様な経験がありますし、どこに就いても別段問題ないでしょうが……これだけ色々あると悩んでしまうのも頷けます」
「だよなぁ……。とりあえず、片っ端に面接受けてみるか?」
「片っ端に、ですか。数打てば当たる。ですね。履歴書書くのが大変そうですが、頑張ってください」
「はい。これ」
「へ……、何ですか、これ?」
日影が妹に手渡したのは昨日コンビニで買っておいた履歴書の束だ。
一つ百円で五枚入りのものが八つ程。この男は何社面接を受けるつもりなのか。
「慈愛ちゃん暇でしょ。履歴書書くの手伝って」
「えぇ……、私も書くんですか?仕方ないお兄ちゃんですね。暇してたんで別に構いませんが」
「流石慈愛ちゃん。歌姉とは優しさも可愛さも段違いだ」
歌姉にこんなこと頼みでもしたら腹に正拳突きを貰う自信があるな。
蹲っている俺を見下して「自分で書きなさいよ」と怒鳴られ会話が終了するのは目に見えてわかる。
あの姉はそういう冷たい女なのだ。世間がイメージしているような清楚で笑顔が素敵なアイドルなどこの家にはいない。
営業スマイル。正しくそれである。
「あの……筆跡とか大丈夫ですか?私とお兄ちゃんではもちろん字の形や書き方が異なっていると思うんです」
「平気さ。面接官に誰が書いたか見分ける能力何て備わっちゃいねぇよ」
「でも、後々困りませんか?何か大事な書類を会社内で書かされる日がやって来るかもですよ」
色々心配してくれている妹に構うことなく日影はすらすらと履歴書にペンを走らせる。
慈愛はどうしたら良いかあたふたしていたが、兄のある台詞で履歴書を書く決意を固めた。
「慈愛ちゃん。それ書き終わったら一緒にTVゲームしよう。実は買ったばかりのとっておきがあるんだ」
「TVゲームっ!?お兄ちゃんそれ本当ですか!お友達の男の子に聞いて一度遊んでみたいと思っていたんです!」
慈愛は目を輝かせていた。TVゲームで遊んだことが皆無な妹に興味をそそらせて履歴書作成を手伝わせるずる賢い男。それが木ノ下日影。
兄からの甘い誘いに簡単に乗ってしまうあたり、小学生らしさが垣間見えて何とも可愛らしい一面だ。
「そうか。そうか。…………んんっ?友達?男の子ぉ?」
「はい。約束ですよ。お兄ちゃん」
「いやいやいや。ちょっと待て、慈愛ちゃん。その男の子ってまさか、彼氏じゃないよね?好きな人ができたとか、お兄ちゃん許しませんよ」
日影が問い詰めると、慈愛はほんのりと顔を赤らめる。
……嫌な予感しかしない。
「じ、実は……その人と結婚を前提に……って、お兄ちゃん、いきなり立ち上がって何処に行こうとしてるんです?」
「ソイツぶん殴ってくる」
「止めてください。今の全部嘘です。冗談です。お兄ちゃんをからかってみたくなっただけです。妹のお茶目ですから、そんなに怒らないでください」
慈愛が部屋を出ようとする兄の腕に抱きついて動きを止める。
妹の発言が自分をからかっただけだと気付いて、怒りがすっかりと冷めた。
心臓に悪い冗談だ。
「びっくりさせるなよな。マジでそうなのかと思ったじゃねぇか」
普段冗談や嘘を付かない素直な子からの言葉は疑うに値しない。
日影は思った。顔赤くする演技とか、いつの間に覚えたんだろう。
「ごめんなさい。……えと、あの……、お兄ちゃん怒ってますか?」
「妹LOVEなお兄ちゃんが可愛い妹を怒ったりしないよ。ほら、慈愛ちゃん。さっさと履歴書書き終わすぞ」
「は、はい」
兄の優しく落ち着いた言葉にほっと胸を撫で下ろす。慈愛は少しでも日影の為になるようにと、自分に書ける限りの丁寧な字を履歴書に記入していく。
「お兄ちゃんの最終学歴って、中卒ですか?」
「そうだね。高校在学中に捕まったからなぁ……そのまま退学扱いになったみたいだよ」
「ごっ、ごめんなさい……きっと私のせいですよね。私に係わらなければお兄ちゃんは高校を卒業できていた筈です」
「何回も言ったと思うけど、慈愛ちゃんのせいじゃないよ。係わらなければとか、そんな悲しいこと言うなって。あの日出会えたからこそ、今こうして一緒にいられるんじゃねぇか。俺は可愛い妹が出来てハッピーだぞ」
後悔の表情を隠せないでいた慈愛にかけられた兄となった日影からの優しい言葉。
嬉しかったのか照れ臭かったのか、妹の顔が少しだけ紅潮した。
「そう、ですね。私もお兄ちゃんが出来て嬉しいです」
同意してにこっと可愛い笑顔を見せた慈愛に、日影は一安心した。
取り掛かっていた履歴書も二人で仲良く話しながら書いていたらいつの間にか全て書き終えていたし、あとは志望の動機だけ記入すれば完璧だ。
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「ああ。手伝って貰ったからな。とことん付き合ってやるぜ」
日影が取り出したゲームソフトは格ゲー。レーシング。RPG。ギャルゲー。の四タイトル。どれをプレイしてみたいか慈愛ちゃんに聞いてみたところ、選んだのはまさかまさかのギャルゲーだった。
「これやってみたいです」
「いや、これは慈愛ちゃんがプレイしてもつまらないんじゃないかな。ちょっとおふざけで選択肢に入れてみただけだったんだが…………マジでこれやるの?」
「駄目でしょうか。ギャルゲーって何をするゲーム何です?」
「現実の女の子と仲良くする為にプレイするシュミレーションゲームみたいな感じかな。主にモテない童貞男が好むゲームだと思ってくれていい」
「お兄ちゃんはプレイしたことがあるんですね。私にも女の子と仲良くする方法を教えてください」
妹の探究心を断るなど可哀想で出来ない。
慈愛ちゃんのお望み通りディスクを取り出してゲーム機にセット。リモコンの電源ボタンを押してTVを点けた。
「あ。観てください。TVにお姉ちゃんが映ってます」
TV画面には「鋼子のお家」にお邪魔している水嶋歌姫こと、木ノ下歌が映し出されていた。
慈愛はゲームで遊ぶことなどすっかり忘れてしまったかのように画面に見入っている。
どうやら兄妹揃って昼間からギャルゲーというカオスな空間を生み出さずに済んだようだ。
「あなた、アイドルになって今年で何年になられるの?」
「はい。十二の頃なので、六年になります」
ただ只管に大御所のおばさん「白柳鋼子」と人気絶頂中のアイドル「水嶋歌姫」のトークが展開する。
彼女が芸能界入りしてから何度もその活躍を観てきた日影からしたら、こんな映像は当たり前過ぎて、全く珍しくも何ともない。
慈愛ちゃんも現在は目をキラキラさせて姉の姿を追ってはいるが、時期に飽きる日がやってくる。
慣れってのは恐ろしいね。
「歌姉、今日もいい感じに猫被ってるな」
日影に対してはほとんど向けられたことのない最高の笑顔がそこにはあった。
俺にもあれくらいの可愛い顔で話しかけてくれたら、少しは好感が持てるというのに。
「歌お姉ちゃんって、男の人が嫌いって言ってましたよね。どうしても好きになれないんだって……過去に何かあったんですか?」
自分の口から姉の過去について勝手に喋ってしまってもいいのだろうか。
日影はほんの少しの間だけ考える。
必ずとは言い切れないけれど、歌姉にバレたら顔面に何発かグーで殴られるかも。
慈愛ちゃんも歌姉の妹になったんだし、話しても問題はないと思うけど。
「歌姉には俺から聞いたって言うのは無しな。此処だけの話だぞ」
妹はこくんと頷くと、俺の紡ぐ言葉に耳を傾けた。
「歌姉が男嫌いになったのは、元父親からの暴力を受けてからだってばあちゃんに聞いた。それ以上は俺も深く知らないんだ。ちょっと慈愛ちゃんと境遇が似ているかもな」
「い、いえ……全然違うと思います。私の両親は子供に暴力を振るうような人じゃありませんでしたから。叔母さんにしても、ご飯を食べさせてくれないだけで暴力はそこまで酷くなかったですし……歌お姉ちゃん、可哀想です」
「同感だな。何年も一緒に居るけど、一度も歌姉が男と楽しそうに話しているところを見たことがない」
日影と慈愛は画面の中で笑顔で話す姉に視線を戻す。
「あなた、ご家族は何人いらっしゃるの?」
「あたしに弟と妹。おばあちゃんの四人家族です。妹は小学生何ですけど、この子がとにかく可愛くて」
鋼子に笑顔で答えている歌に対して「俺は可愛くないのかよ」と心中でツッコミを入れていた。
姉は現在妹の学費を払ってくれているのと同じで、日影が高校に通っていた頃も学費を全て払ってくれていた。嫌っていたらそんなことはしてくれないだろう。
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