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第二十九話(ルナとつるぎ)
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カラオケ店の奉仕作業が終了して数日後の夜。金髪ツインテールの少女、ルナ・ティアーズは牢の中、ベッドに腰掛けてぼんやりとしていた。
心ここに在らずといった感じで、晩御飯の時間だというのに一歩も動こうとしない。
見るに見兼ねた同室の桜葉つるぎが二人分の食事を運んできてくれた。
「ひーくん……ひーくんに会いたいな……」
「何日か前に会ったばかりでもう会いたいの?ほんとにルナは日影のことが好きよね」
ルナとつるぎがペアになったのは、つるぎのペアだったデブちゃんこと吉澤大地が仮釈放されてすぐだ。
ルナは一言「ありがとう」と口にして晩御飯を受け取った。
「好きじゃない。大好きなの」
「そう。ならさっさと罪を償って、此処から出ないとね。知ってる?奉仕作業を真面目に受けている囚人は刑期が短くなるって」
「……へっ、そうなの!?」
「あのおデブちゃん、本来懲役八年だったところ三年も短くなったって話よ」
「三年も……すごい……」
「あいつ、刑務作業も奉仕作業も真面目に頑張ってたからねぇ」
ルナはその話を聞いて単純に思った。
刑務作業に奉仕作業なら自分も毎日、全力で真面目に取り組んでいる。
もしかしたら、自分の刑期も短縮されるのではないか。……と。
「ほんと羨ましいわ。あたしみたいに懲罰牢経験してる囚人は評価ガタ落ちだし、仮釈放何て夢のような話ね」
「ちょっと待って……、懲罰牢ならあたしも一度経験してるんですけど」
「ああ。そういえばそうだったわね」
「それじゃあたしもつるぎと同じってことじゃない……!期待して損した……」
ルナが残念な結果に項垂れていると、つるぎは慰めの言葉をかける。
「評価ならこれから取り返せばいいじゃない。あたしが完全に詰んでるのは明白だけど、ルナならまだ挽回するチャンスは十分にあるでしょ」
「どうして自分が詰んでる何て言い切れるのよ?」
「だってほら、あたしはもう五~六回は懲罰牢経験してるし……ベテランだから」
つるぎの表情はどこか寂しげで、この場からの解放を諦めている感じさえする。
ルナはこうしてペアとなるまでつるぎと関わったことなど皆無だった為に、お互いがどんな罪を背負い此処に居るのか知らない。
「ねぇ。つるぎは……、その、どうして此処に居るの?」
遠慮がちに尋ねると、つるぎは何でもないようにすらっと返答した。
「親の仇を殺した。それだけ」
「えっと……。そう、だったんだ。……ごめんね。辛いこと思い出させちゃったね」
「別に気にしないわ。……でも、憶えておくのね。この世界は残酷。親の仇の命を奪ったってだけで懲役十五年って判決を下されたの。あまり人を殺すのはお勧め出来ないかもね」
「……十五年か。長いね」
「今後の生活の為に悔しさと悲しさを我慢してシャバで真っ当に生きていく。大切な人の為に仇を殺して刑務所で暮らす。ルナならどっちを選ぶのかしらね」
突然の二択にルナは押し黙ってしまう。大切な人を失った経験のない彼女にその答えは簡単に出せる筈がない。
ーーでも、ひーくんを誰かに殺されたとしたら?
勝手に日影を例えにするのは失礼かもしれないが、彼は彼女にとって現在で一番大切な人物だ。家族よりも友達よりも、誰よりも木ノ下日影が大好きで、その気持ちは誰にも負けない自信がある。
捕まったことで母親に軽蔑され、拗ねて落ち込んで泣いていた自分に優しく接してくれた。
最初こそ違ったが、彼の人柄の良さに気付いてからは日影と暮らす刑務所での生活が嬉しくて仕方がなかった。
何だか、新しい家族が出来た。……そんな感じがして。
「無理に答える必要はないからね。返答し辛い質問して悪かったわ」
************************
翌日の刑務作業終了後。ルナはホワイトボードで午後の奉仕作業内容を確認し、理解し難い内容に訝しげな表情を浮かべていた。
「何、これ……?こんな仕事初めて」
「そう?こういう意味の分からない奉仕作業が混じっているのは珍しくないと思うけど。日影とペアやってた頃は「恋人代行」とか「一人暮しのおばあちゃんの話し相手」とか面白い作業が豊富だったわ」
「そ、そうなの……何よ、恋人代行って?」
「彼氏彼女がいない人からの依頼で一日だけ恋人になってあげる仕事。一緒に映画館行ったり食事したりするの。まあ、デートみたいな感じね」
二人に与えられた奉仕作業は二日間の「家庭教師代行」だ。
……これって、人に勉強教えるってことだよね。
ルナは不安な気持ちでいっぱいだった。勉強など人に教えた経験は一度もないし、上手く教えられる自信もない。
こんな仕事が回ってきたのはもしかして暇つぶしにと取得した「教員免許」のせいだろうか?
心ここに在らずといった感じで、晩御飯の時間だというのに一歩も動こうとしない。
見るに見兼ねた同室の桜葉つるぎが二人分の食事を運んできてくれた。
「ひーくん……ひーくんに会いたいな……」
「何日か前に会ったばかりでもう会いたいの?ほんとにルナは日影のことが好きよね」
ルナとつるぎがペアになったのは、つるぎのペアだったデブちゃんこと吉澤大地が仮釈放されてすぐだ。
ルナは一言「ありがとう」と口にして晩御飯を受け取った。
「好きじゃない。大好きなの」
「そう。ならさっさと罪を償って、此処から出ないとね。知ってる?奉仕作業を真面目に受けている囚人は刑期が短くなるって」
「……へっ、そうなの!?」
「あのおデブちゃん、本来懲役八年だったところ三年も短くなったって話よ」
「三年も……すごい……」
「あいつ、刑務作業も奉仕作業も真面目に頑張ってたからねぇ」
ルナはその話を聞いて単純に思った。
刑務作業に奉仕作業なら自分も毎日、全力で真面目に取り組んでいる。
もしかしたら、自分の刑期も短縮されるのではないか。……と。
「ほんと羨ましいわ。あたしみたいに懲罰牢経験してる囚人は評価ガタ落ちだし、仮釈放何て夢のような話ね」
「ちょっと待って……、懲罰牢ならあたしも一度経験してるんですけど」
「ああ。そういえばそうだったわね」
「それじゃあたしもつるぎと同じってことじゃない……!期待して損した……」
ルナが残念な結果に項垂れていると、つるぎは慰めの言葉をかける。
「評価ならこれから取り返せばいいじゃない。あたしが完全に詰んでるのは明白だけど、ルナならまだ挽回するチャンスは十分にあるでしょ」
「どうして自分が詰んでる何て言い切れるのよ?」
「だってほら、あたしはもう五~六回は懲罰牢経験してるし……ベテランだから」
つるぎの表情はどこか寂しげで、この場からの解放を諦めている感じさえする。
ルナはこうしてペアとなるまでつるぎと関わったことなど皆無だった為に、お互いがどんな罪を背負い此処に居るのか知らない。
「ねぇ。つるぎは……、その、どうして此処に居るの?」
遠慮がちに尋ねると、つるぎは何でもないようにすらっと返答した。
「親の仇を殺した。それだけ」
「えっと……。そう、だったんだ。……ごめんね。辛いこと思い出させちゃったね」
「別に気にしないわ。……でも、憶えておくのね。この世界は残酷。親の仇の命を奪ったってだけで懲役十五年って判決を下されたの。あまり人を殺すのはお勧め出来ないかもね」
「……十五年か。長いね」
「今後の生活の為に悔しさと悲しさを我慢してシャバで真っ当に生きていく。大切な人の為に仇を殺して刑務所で暮らす。ルナならどっちを選ぶのかしらね」
突然の二択にルナは押し黙ってしまう。大切な人を失った経験のない彼女にその答えは簡単に出せる筈がない。
ーーでも、ひーくんを誰かに殺されたとしたら?
勝手に日影を例えにするのは失礼かもしれないが、彼は彼女にとって現在で一番大切な人物だ。家族よりも友達よりも、誰よりも木ノ下日影が大好きで、その気持ちは誰にも負けない自信がある。
捕まったことで母親に軽蔑され、拗ねて落ち込んで泣いていた自分に優しく接してくれた。
最初こそ違ったが、彼の人柄の良さに気付いてからは日影と暮らす刑務所での生活が嬉しくて仕方がなかった。
何だか、新しい家族が出来た。……そんな感じがして。
「無理に答える必要はないからね。返答し辛い質問して悪かったわ」
************************
翌日の刑務作業終了後。ルナはホワイトボードで午後の奉仕作業内容を確認し、理解し難い内容に訝しげな表情を浮かべていた。
「何、これ……?こんな仕事初めて」
「そう?こういう意味の分からない奉仕作業が混じっているのは珍しくないと思うけど。日影とペアやってた頃は「恋人代行」とか「一人暮しのおばあちゃんの話し相手」とか面白い作業が豊富だったわ」
「そ、そうなの……何よ、恋人代行って?」
「彼氏彼女がいない人からの依頼で一日だけ恋人になってあげる仕事。一緒に映画館行ったり食事したりするの。まあ、デートみたいな感じね」
二人に与えられた奉仕作業は二日間の「家庭教師代行」だ。
……これって、人に勉強教えるってことだよね。
ルナは不安な気持ちでいっぱいだった。勉強など人に教えた経験は一度もないし、上手く教えられる自信もない。
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