未成年囚人達のソーシャルサービス

SAKAHAKU

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第五十九話(奉仕作業。弁当の配達)

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お肌の天敵である紫外線たっぷりの太陽が照り付ける、真夏の空の下。
一台の軽ワゴンが猫じゃらしや雑草が生い茂る狭い田んぼ道を億劫そうに走行していた。
ラジオから流れているのは正直どうでも良いようなおっさんの武勇伝で、ハンドルを面倒臭そうに握る日影にそれらを聞いている余裕など少しもない。
後部座席を埋め尽くすように積まれている配達件数の多い弁当にてんやわんやの状態だ。
運転席と助手席のみの車内にはもちろん相棒であるテイルも乗車しているが、彼女は窓から景色を眺めているばかりで微塵も役に立っていなかった。
陽炎が立ちのぼるジリジリと熱された道路は見るからに暑そうで、クーラーの効いた車の中から出るのを躊躇われてしまう。

「暑い……重い……暑い……重い……」

暑さにすっかりとやられてしまったテイルさんは、まるで呪文のように繰り返し弱音を吐いていた。

「我慢しろ。弁当置いてきたらすぐ戻れるんだから」

朝方五時頃に出勤したパートの婆さん爺さんが作った弁当を車に詰め込んで取引先にお届けする。
テイルのパートナーになって初めての奉仕作業がこれだった。
電卓叩いたり数を確認したりで、色々と面倒な作業は多いが、慣れてしまえばどうということはない。
配達の仕事は以前に経験済みだし、勝手が分からない訳じゃなかったから、手間取ったのは道を記憶するくらいか。
同じルートを五日も走ってりゃ嫌でも頭から離れなくなる。初日は地図みたり通行人に尋ねたりして色々と大変だったけどな。

「ひかげ~。暑い。お水飲みたい」

「別に良いんだけどさ、お前さっき二リットル飲み終えたばかりだろ。水分はあまり摂りすぎてもよくない。お腹壊すぞ」

やれやれと思いながらも、日影は自分の水をテイルに差し出した。
彼が次の配達先へ向かい車を走らせる中、助手席に座る相棒はドライブ気分を味わいながら呑気に渇いた喉を潤していた。
屈託のなさそうな笑顔は死が間近に迫っている人間の表情にはとても思えない。
この狼娘は死刑判決を言い渡されてもほとんど動じていないみたいだし、心が鋼で出来てるんじゃあるまいな。


**********************


「日影も帰って来たんだ。おかえり」

「おう、よろず。お前の班は毎回帰ってくるのが早いな。全然敵わねぇよ」

弁当を全て配り終えて会社の駐車場に戻って来た日影に声をかけたのは、一足先に帰って来ていた少女「森羅万しんらよろず」だ。
ニット帽を毎日のように被っている彼女はどことなく雰囲気がテイルに似ているような気がする。
髪型も性格も違うのに何でだろ?理由は不明だ。
左右の瞳が異なるオッドアイと腰あたりまで伸びた緑色のお下げ髪がチャームポイントと言えるだろう。

「別に速さを競ってるつもりはないよ。日影はこの仕事初めたばかり何だから遅くて当たり前だし、安全運転が一番じゃないかな」

プロの殺し屋だった彼女は人を殺め過ぎたせいか、終身刑を喰らっていて、残りの死ぬまでの時間一生を刑務所で暮らすことが決まっている。俺より一つ上の十九歳だってのに、波乱万丈な人生を十分に送ってきた。
テイルにしてもよろずにしても奉仕作業の成果次第じゃ報われる日は永遠に訪れない。

「テイル、弁当余ったから食べて良いってさ」

二人分の弁当を嬉しそうに抱えて、狼娘は事務所二階の休憩室へぱたぱたと走っていく。
今日のおかずにはミートボールが入ってたから肉が大好物のテイルにはちょうど良いだろう。

「テイル、ミートボールやるよ。今日は俺の腕に噛み付いてくんなよ」

「良いの?日影のおかず無くなっちゃう」

「おかずなら他にもたんまりと残ってるから心配すんな。肉不足が原因でお前の理性がぶっ飛びでもしたら面倒だからな」

人間の血と等しく狼の血を継承しているテイルは肉食体質で、一定の肉を摂取しなければ自我を保つことが困難だ。過去に人を襲った事例があり、四人の命を見ず知らずの内に奪っている。相棒の俺が五人目の被害者にならない為にも、出来る限りの協力は惜しまないつもりだ。

「……嬉しい。ありがとう」

大半が無口であまり感情を表に出さないテイルがミートボールを笑顔で頬張っている。
こいつが人を殺めた事実は永遠に消えないかもしれないが、テイルはまだ十三歳の未熟な女の子だ。うちの慈愛ちゃんとほとんど年齢に差はない。
それなのに……あと一年とちょっとで「死刑」が執行される何て可哀想過ぎるだろ。
肉食動物は生きている動物を捕食しその肉体を貪る。テイルの場合それが人間だったってだけのことだ。
身に潜む猛獣へ心を完全に支配されていたのなら、襲いたくなくても、自分ではどうしようも出来なかったんじゃないかな。

「僕とツクネのミートボールも分けてあげるよ。二人分じゃまだまだ食べ足りないよね」

休憩室の扉が開いて、森羅万とそのパートナーの滝登たきのぼりツクネが弁当を持ってやって来た。
テイルの体の事情を知っている為か、よろずは何かと気にかけてくれる優しい女の子だ。
元殺し屋とはとても思えない。

「ちょっと待った。あたしはあげるなんて一言もーー」

「配達中助手席でずっと居眠りしてたのは何処の誰だったかなぁ~?僕一人で運転したり抱えたりで大変だったんだよ。それに比べたらおかずの一品や二品差し出すくらいどうってことないよね」

ツクネの居た堪れない様子から察するに、万の口にした内容は事実っぽい。役立たずな相棒はぐうの音も出ないという感じで無様に押し黙っていた。

……ま、うちの相棒も似たような感じだったが、そこまでは酷くなかったな。

「はいはい、わかりました~。渡せば良いんだろ。仕方ないな~」

やれやれと少しの反省の色も見せずに、ツクネはテイルの隣へ腰掛けた。弁当箱を開けてミートボールを箸で摘まむ。

「ほら、テイル。ミートボールやるよ。ありがとうは?」

「うん。ありがとう。……よろず」

「ううん、お礼何て言わなくて平気だよ。僕があげたくて渡しただけだから」

「違うだろ!万にお礼じゃくて、あたしにお礼を言うの~!」

テイルは隣でぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるツクネを無視して、皆に貰ったミートボールを美味しそうに食べていた。














































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