未成年囚人達のソーシャルサービス

SAKAHAKU

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第七十話(奉仕作業。万引きGメン 其の1)

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夏の暑さも随分収まってきた今日この頃。

本日の奉仕作業先で店長を名乗る黒縁メガネの男が四人に手渡したのは、トランシーバーとインカム。二タイプの通信機。

どちらか好きな方を使用してくれとのことだ。

とりあえず訳が分からない。今時の店員は全員がこんな物を身に付けているのだろうか。

日影達がこの日派遣された場所はスーパー「佐々木屋」
連日此処で万引き被害が相次いでいるらしい。
店員が監視カメラのチェックと店内の見回りに徹したが、犯人の全容は掴めず、一ヶ月が経過した。毎日のように合計二万円程の商品が窃盗され、赤字が続き店を閉めようかと考えていたと心境を述懐された。

万引きGメンを雇う余裕も無しに、無償で雇える未成年囚人に依頼を申請したってとこか。
プロでもない素人に過多な期待は持って欲しくはないが、依頼された以上は捕まえるしかないんだよな……。

監視室でモニターをチェックし、指示を出す者を一名。
客に扮装し店内で不審な行動を取る人物を捜す者三名。

重要とされるモニター係には冷静沈着な万を推薦したのだが、お馬鹿さんのツクネがやりたいと騒ぐので仕方なくそのように。

通信機に関しては日影とツクネがトランシーバー。万とテイルがインカムを選んだ。

「万引き犯を捕まえろ。何て言われてもなぁ」

ツクネを除いた三人が店内に散開し配置に付く。
犯罪者が犯罪者を捕まえるという滑稽で愉快な茶番劇が今始まろうとしていた。
唯一懸念を抱くのは誤認逮捕くらいか。いや、ツクネのアホが奇天烈な指令を送ってこないかも心配だ。

誰彼構わず疑って掛からないと良いのだが、

「アイツ怪しいな。日影、お前の前方にいるハゲのおっさんだ。ソイツがきっと万引き犯だ」

ツクネが監視室から発した声音はトランシーバーを通じてそれぞれの通信機に届く。
コイツの利便性は携帯とは違って複数と会話が可能なところだ。

「怪しいって、何処が怪しいんだよ」

「ハゲだ。ハゲてる奴は高確率で犯罪に手を染めたがる」

「それ何処情報だよ。ただの偏見じゃねぇか。ハゲてる人全員に謝れ」

禿げてるかどうかは一旦置いといて、犯人が男か女、容貌や体型、大人か子供かも不明のこの状況。そもそも現在来店しているのかどうかすら分からない。店の中に居ないなら捕まえる何て不可能。無理難題過ぎる。
誰もそいつの姿を見ていないってのが不思議だ。防犯カメラにも映ってないなら透明人間か幽霊の存在に危惧の念を抱いてしまう。

「こちら木ノ下。テイル、そっちはどうだ。どうぞ」

「こちらブラウニー。現在パンコーナーにてフランスパンの実食中。美味しい。どうぞ」

「どうぞじゃねぇ。普通にサボってんじゃねぇか」

容易にフランスパン丸々一個を頬張る相棒の姿が想像できた。
ケーキ店甘菓子で働いた時もフランスパン食ってたよな。それも客を目の前にして堂々と。

「テイルずるいぞ。あたしにもパンの差し入れ持って来いよな」

「皆楽しそうで良いね。僕とレジ変わって欲しいくらいだよ」

万はレジのヘルプを頼まれたようで、現時点で店内の見回り係は日影のみとなった。
ツクネは明らかに無実な客ばかりを疑ってかかるし、テイルはお菓子売り場とデリカコーナーばかり行き来してるし。

「お~い、お前等~。そろそろ休憩しようぜ~。疲れた~」

ーー万引きGメン擬きの仕事を始めて三時間後。

店内を映し出すモニターを永遠と見つめるワンパターンな仕事に飽きがきたのか、トランシーバーを通じて、休憩の指示が飛んできた。

やれやれ。とことん指示役には向いていないツクネさんである。


***********************


「あれ、万は?」

「レジが忙しくて抜けられないんだとさ。可哀想にな」

一人だけ黙々と仕事に励む万には悪い気がしたが、お先に休憩を取りにテイルと共に控え室へ。
自分の相棒が文句の一つ漏らすことなく働いてるってのに、ツクネはTVを点け「鋼子の部屋」を脱力した状態で視聴している。

ーー腹が減っては軍は出来ぬ。

スーパーでの仕事ってことで、デリカの弁当くらいは支給されると勝手に予想していたが、そう上手いようにはいかず空腹でやる気さえ湧かない。ツクネの気持ちも分からないでもなかった。

何故かは知らないが、いつの間にかテイルの口には美味しそうなコロッケが咥えられている。
噛むたびに聞こえる衣のサクサクが食欲を誘った。

「デリカコーナーのおばちゃんに貰った。皆で食べてって」

「おお!?でかしたテイル!褒めて遣わす!」

「お前っていろんな人に食べ物貰ってるよな。マスコットみたいに可愛いのは確かだし、おばちゃんの母性本能をくすぐったのかも知れないな」

テイルから人数分のコロッケの入った紙袋を受け取って、一つを口に運ぶ。
僥倖に巡り会った感じだ。朝から何も食べてないから有難い。
何の変哲もないコロッケだってのに、五臓六腑に沁み渡る的な美味さだ。

「おっ。最後の一個もーらい!」

「駄目。これは万にあげるの」

勝手気儘にも万に渡すコロッケに手を伸ばそうとしたツクネにテイルが一喝。
すばやい身の熟なしで紙袋を胸に抱きかかえ、控え室の中を食い意地の張った鬼から逃げ回る。

これから午後の仕事が控えてるってのに鬼ごっことは、タフで元気な奴らだ。

超能力の使えるツクネがテイルの動きを停止させるという荒技を披露しない辺り、本気で万の分に手を付ける気はないのだろう。

単に馬鹿過ぎてそこまで頭が回らないだけだとしたら笑えるが。


***********************

「テイル。コロッケありがとね。美味しかったよ」

三人が一足先に休憩を終え、作業に戻ってから丁度三十分後。
レジから解放された万が日影達と合流し、テイルにお礼の言葉を伝える。
入れ替わりで休憩に入る直前に彼女から受け取ったプレゼントが思わず顔が綻ぶ程に嬉しかった。

「ツクネに取られないように守るのが大変だった。超能力を使われた時はもう駄目かと思った」

「そっか。テイルは優しいなぁ。どこかの誰かさんとは大違いで」

「がう……」

慈母のような優しい微笑みを浮かべて、テイルの頭をやんわりと撫でる。
万に褒められたテイルは嬉しさのあまり心地よさそうな声を漏らし、狼の尻尾を具現化させ、飼い主に可愛がられるペットのように左右にバタつかせていた。
傍目から見ても喜んでるのがよく分かる。

「どこかの誰かさん?陰口はよくないぞ」

「通信で声は届いてるんだから、陰口でも何でもないでしょ」

通信機越しではあるが、監視室でモニターを暇そうに眺めているツクネにもこっちの会話は丸聞こえの筈だ。
というか、故意に聞こえるようにしている。
細やかながら万からの仕返しだ。

「ねぇ日影。万引き犯て今日も来ると思う?」

「さあな。店長の話じゃ毎日欠かさず足を運んでるって話だったけど、正直微妙だ」

テイルの問いかけに曖昧な言葉で返し、行く先に不安を覚える。

かれこれ午前と午後を合わせた七時間近く店内を歩き回ってはいるが、それらしい怪しい人物の発見に至っていない。

万引き犯捕まえられなかったらこの奉仕作業どうなるんだろう。

尻尾を掴めるまで終わらないエンドレススーパーとか洒落にならないぞ。
飽きる以前に一日中歩き続けるだけで結構な体力を消費するし、何気に辛い。

ーー大した結果も残せないまま、スーパーでの奉仕作業一日目が終了した。















































































































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