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第二話(ルナ・ティアーズ)
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金髪ツインテールの美少女。ルナ・ティアーズ。
現在の木ノ下日影のペアであり、奉仕作業に共に励む相棒でもある。
日本語を流暢に話す外人さんと俺が出会ったのは冤罪で逮捕されてからちょうど四ヶ月が経過した頃だった。
日影には「桜葉つるぎ」という同い年のペアがいたのだが、その子が刑務官の命令に逆らい、懲罰牢に移動してからは暫くの間一人寂しい思いをしていた。本来二人専用のペア牢の中が広く感じたは今では懐かしい思い出だ。
そんな時に現れたのがルナだったんだよな。
俺からしたら二番目の相棒で、今じゃ俺にぞっこんで懐き過ぎの可愛らしい女の子。
**********************
「本日から同室となるルナ・ティアーズだ。入りなさい」
刑務官に連れられて牢の前までやって来たのは、少し前まで泣いていたのか目がほんのりと潤んだ女の子。
眉を吊り上げている表情から察するに、何だか機嫌が悪そうだ。
「よ、よう。今日から同室の木ノ下日影だ。よろし、く……あれ、あれれれれ?」
今でこそ仲の良いペアだと刑務所内で評価の高い俺達だが、最初から仲が良かった訳ではない。
昔のルナは何ていうか、ツンツンしてたな。
簡単に言えばツンデレのツンだけの状態だ。
デレた顔何て一度も見たことは無かった。
自己紹介に続いてするつもりだった宜しくの握手もスルーされ、現在使われていないもう一つのベッドにダイブ。さっさと横になって顔を伏せた。
あの日はとっくに晩飯の時間も過ぎてて、就寝時間手前の遅い時間だったから、ただ眠かっただけかもしれないけど。
「……ママのばか……ばかっ……」
決して盗み聞くつもりなど無かった。
囚人達が全員寝静まった頃、彼等のいびきだけが微かに聞こえる暗い空間の中。
日影がキャッチした音はルナが涙声で母親への不満や陰口を呟く声だった。
刑務所に収容された理由は知らないが、母親と喧嘩中だということは何となく分かった。
**********************
「ほら、ルナ。朝食持って来てやったぞ。たんとお食べ」
「いい。食欲無い……、あと、気安く名前で呼ばないで」
ベッドの上で何時になっても起きようとしない寝坊助の為に運んで来てやった朝食を容易く断るとは何事か。どうやらこの外人さんは俺の優しさを無下に扱うつもりらしい。
「ただでさえ少ない量の食事だってのに一口も食わないとかありえねぇ。俺何か作業中に腹減って集中が途切れるくらい何だぞ。良いから食え食え。ほら、口開けてみ。食べさせてやるから」
「い~いって言ってるでしょ。お節介なことしないで」
親切に朝食のシチューを食べさせようする日影の動きをルナの声が制した。
「もう、うるさい。ロリコンの癖して偉そうにしないで」
「おいおい、確かに俺はそんな容疑で捕まってはいるが、今はそんなこと関係ないだろ。だったらパンだけでも齧ってけ」
中々言うことを聞いてくれない彼女へあげぱんを手渡した。口では断り続けていたが、体の反応は案外素直。腹の虫が空腹の合図をし牢の中に響いた。
「今腹が鳴ったな。恥ずかしい思いを何度もしたくなかったら、それだけでも食ってけよ」
ルナは色白で綺麗な頬を赤く紅潮させて、恥ずかしそうな表情でぱんを口に入れた。
**********************
「えっと、何々……今日の奉仕作業はラーメン屋の厨房とホールか。行くぞ。ルナ」
午前中の刑務作業終了後、日影が立っていた場所は横長のホワイトボードの目の前だ。
そこには囚人達が午後向かう奉仕作業先が細かく書き出されている。
二人の向かう先はラーメン屋だ。
「えっ……行くって何処に?」
「奉仕作業だよ。刑務官に聞いてないのか?俺達未成年囚人にはシャバに出た後すばやく社会に復帰出来るようにだな……」
「説明とか聞きたくない。もう良い」
「おまっ、折角教えてやってんのに、そりゃねーだろ」
「ラーメン屋で働くんでしょ。分かったから」
ルナが何もない所で転ぶドジで愉快な奴だと知ったのはその日、二人で向かったラーメン店で働いていた時だった。
日影が厨房で調理。ルナは客にオーダーを取ったり注文された料理を運んだりする接客。
ルナは出来上がったラーメンや餃子を運ぶ際に盛大に転け、材料や食器をダメにする失敗を何度か繰り返し、店長にお怒りを受けていた。
このラーメン屋で働くのは一週間。明日もこの職場で働くと考えただけで一日目から憂鬱だ。
**********************
「はあ。やっと晩飯かよ……今日も疲れたぁ~」
「ーー怒らないの?」
「怒らないのって、何に?」
「決まってるでしょ。あたし、ラーメン屋でいっぱい失敗した。貴方に迷惑かけた」
腹が減り過ぎて晩御飯にがっついていたそんな中、すっかりと傷心状態となり落ち込んでいたルナが重たい口を開いた。
「別に。気にしてないよ。絶対に失敗しない人間何か、この世に存在するとは思えない」
昨日は会話を全くしなかった二人だが、少しはルナも日影と目を合わせて話すくらいには心を開いたようだ。
前相棒のつるぎが懲罰牢に移動し、暫く一人で晩ご飯を食べていたせいか、何だか嬉しく感じてしまう。話し相手がいるって良いものだな。
「お前が何をそんなに落ち込んで悩んでるのかは知らないけどさ、あんまり馬鹿やってると此処を出る日もその分遅くなるぞ。早く出所したいだろ。こんなとこ」
「……別に。此処を出たってあたしに帰る場所は、無いも同じだし」
自分に帰る場所は無い。
そんな、聞いているこっちが虚しくなるような寂しげな台詞を耳にして、昨日の晩、刑務官が口にしたルナのフルネームを頭に浮かべていた。
「ルナ・ティアーズ」
「……どうしたの?いきなりあたしの名前口にしたりして」
「いや……ティアーズって、どこかで聞いたことあるな~って」
「そりゃ、そうでしょ。ママが有名な人だもん」
俺が知っている限りで「ティアーズ」何て名を持つ有名人と言えば、さっと思い浮かぶのは一名のみ。
ーー確か、米国の現在の大統領の名前だ。
「「サニィ・ティアーズ」それがあたしのママの名前」
「マジかよ!?お前、本当にあの人の娘なのか?」
「そ、そんなに声を上げて驚くようなこと?」
「ああ。何気に世界が狭いことにビックリしてな」
日影は自分の家族に、サニィ・ティアーズよりも有名な芸能人である姉がいたことを思い出していた。
「それで、お前が昨日泣いていた理由ってティアーズさんと何か関係あるの?」
「お喋りが過ぎたみたい。そう簡単に何でも教えて貰えると思わないで。貴方には関係無いでしょ」
ま、そうだな。
まだ出会って一日しか経っていない、ほとんど話したこともない他人に、自分のことを知られたいとは思わないよな。
……さて、後は風呂に入って寝るだけなのだが、此処で発生する問題が一つ。
「ルナ、風呂の時間だってさ。入って来いよ」
そう言ってバスタオルを金髪のツインテールさんに手渡した。
女の子のルナとご一緒する訳にもいかないだろ。
俺は、今日は良いや。
「入浴の時間は決まってるから、頑張って十五分で出て来るんだぞ」
「ーー貴方は入らないの?」
「入らないよ。俺に裸見られるの嫌だろ」
「別に気にしない。貴方も今日一日働いて汗掻いてるでしょ」
「大丈夫だから気にしないで入って来いって。俺はほら、てきとーに濡れタオルとかで体拭けばそれで十分だから」
ルナは俺の言葉に頷いて「ありがとう」と口にしてからカーテンの向こう側にある風呂場へと入って行った。
待っている間は特にすることもなく、ベッドに寝転がっていたら気付かない内に夢の世界へと意識が飛んでいた。
きっと一日働いた後で体が疲れていたのだろう。
**********************
「……うっ、く……、うぅ……ママ何か、嫌い」
その夜も昨日と同じようにルナが泣いている声が聞こえてきて、眠りから目を覚ました。
彼女が何を思って何を考え、何故涙を流しているのかは知らない。
ーーペアの俺にしてやれることはこれくらいか。
「大丈夫か?」
「平気……だか、ら、頭撫でないで……」
日影が善かれと思って取った行動は、どうやらお気に召さなかったようで、余計にルナの機嫌を悪化させただけだった。
泣いている女の子を慰めるには頭を撫でてあげるのが一番。
という俺の常識は間違っていたか。
「……悪い。何かお前の役に立てないかって、そんなこと考えてたら自然と体が動いてた」
「……そう、何だ。ありがと……」
日影の悪意の籠っていない誠実な台詞に、ルナはほんの少しだけ明るさを取り戻した。
現在の木ノ下日影のペアであり、奉仕作業に共に励む相棒でもある。
日本語を流暢に話す外人さんと俺が出会ったのは冤罪で逮捕されてからちょうど四ヶ月が経過した頃だった。
日影には「桜葉つるぎ」という同い年のペアがいたのだが、その子が刑務官の命令に逆らい、懲罰牢に移動してからは暫くの間一人寂しい思いをしていた。本来二人専用のペア牢の中が広く感じたは今では懐かしい思い出だ。
そんな時に現れたのがルナだったんだよな。
俺からしたら二番目の相棒で、今じゃ俺にぞっこんで懐き過ぎの可愛らしい女の子。
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「本日から同室となるルナ・ティアーズだ。入りなさい」
刑務官に連れられて牢の前までやって来たのは、少し前まで泣いていたのか目がほんのりと潤んだ女の子。
眉を吊り上げている表情から察するに、何だか機嫌が悪そうだ。
「よ、よう。今日から同室の木ノ下日影だ。よろし、く……あれ、あれれれれ?」
今でこそ仲の良いペアだと刑務所内で評価の高い俺達だが、最初から仲が良かった訳ではない。
昔のルナは何ていうか、ツンツンしてたな。
簡単に言えばツンデレのツンだけの状態だ。
デレた顔何て一度も見たことは無かった。
自己紹介に続いてするつもりだった宜しくの握手もスルーされ、現在使われていないもう一つのベッドにダイブ。さっさと横になって顔を伏せた。
あの日はとっくに晩飯の時間も過ぎてて、就寝時間手前の遅い時間だったから、ただ眠かっただけかもしれないけど。
「……ママのばか……ばかっ……」
決して盗み聞くつもりなど無かった。
囚人達が全員寝静まった頃、彼等のいびきだけが微かに聞こえる暗い空間の中。
日影がキャッチした音はルナが涙声で母親への不満や陰口を呟く声だった。
刑務所に収容された理由は知らないが、母親と喧嘩中だということは何となく分かった。
**********************
「ほら、ルナ。朝食持って来てやったぞ。たんとお食べ」
「いい。食欲無い……、あと、気安く名前で呼ばないで」
ベッドの上で何時になっても起きようとしない寝坊助の為に運んで来てやった朝食を容易く断るとは何事か。どうやらこの外人さんは俺の優しさを無下に扱うつもりらしい。
「ただでさえ少ない量の食事だってのに一口も食わないとかありえねぇ。俺何か作業中に腹減って集中が途切れるくらい何だぞ。良いから食え食え。ほら、口開けてみ。食べさせてやるから」
「い~いって言ってるでしょ。お節介なことしないで」
親切に朝食のシチューを食べさせようする日影の動きをルナの声が制した。
「もう、うるさい。ロリコンの癖して偉そうにしないで」
「おいおい、確かに俺はそんな容疑で捕まってはいるが、今はそんなこと関係ないだろ。だったらパンだけでも齧ってけ」
中々言うことを聞いてくれない彼女へあげぱんを手渡した。口では断り続けていたが、体の反応は案外素直。腹の虫が空腹の合図をし牢の中に響いた。
「今腹が鳴ったな。恥ずかしい思いを何度もしたくなかったら、それだけでも食ってけよ」
ルナは色白で綺麗な頬を赤く紅潮させて、恥ずかしそうな表情でぱんを口に入れた。
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「えっと、何々……今日の奉仕作業はラーメン屋の厨房とホールか。行くぞ。ルナ」
午前中の刑務作業終了後、日影が立っていた場所は横長のホワイトボードの目の前だ。
そこには囚人達が午後向かう奉仕作業先が細かく書き出されている。
二人の向かう先はラーメン屋だ。
「えっ……行くって何処に?」
「奉仕作業だよ。刑務官に聞いてないのか?俺達未成年囚人にはシャバに出た後すばやく社会に復帰出来るようにだな……」
「説明とか聞きたくない。もう良い」
「おまっ、折角教えてやってんのに、そりゃねーだろ」
「ラーメン屋で働くんでしょ。分かったから」
ルナが何もない所で転ぶドジで愉快な奴だと知ったのはその日、二人で向かったラーメン店で働いていた時だった。
日影が厨房で調理。ルナは客にオーダーを取ったり注文された料理を運んだりする接客。
ルナは出来上がったラーメンや餃子を運ぶ際に盛大に転け、材料や食器をダメにする失敗を何度か繰り返し、店長にお怒りを受けていた。
このラーメン屋で働くのは一週間。明日もこの職場で働くと考えただけで一日目から憂鬱だ。
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「はあ。やっと晩飯かよ……今日も疲れたぁ~」
「ーー怒らないの?」
「怒らないのって、何に?」
「決まってるでしょ。あたし、ラーメン屋でいっぱい失敗した。貴方に迷惑かけた」
腹が減り過ぎて晩御飯にがっついていたそんな中、すっかりと傷心状態となり落ち込んでいたルナが重たい口を開いた。
「別に。気にしてないよ。絶対に失敗しない人間何か、この世に存在するとは思えない」
昨日は会話を全くしなかった二人だが、少しはルナも日影と目を合わせて話すくらいには心を開いたようだ。
前相棒のつるぎが懲罰牢に移動し、暫く一人で晩ご飯を食べていたせいか、何だか嬉しく感じてしまう。話し相手がいるって良いものだな。
「お前が何をそんなに落ち込んで悩んでるのかは知らないけどさ、あんまり馬鹿やってると此処を出る日もその分遅くなるぞ。早く出所したいだろ。こんなとこ」
「……別に。此処を出たってあたしに帰る場所は、無いも同じだし」
自分に帰る場所は無い。
そんな、聞いているこっちが虚しくなるような寂しげな台詞を耳にして、昨日の晩、刑務官が口にしたルナのフルネームを頭に浮かべていた。
「ルナ・ティアーズ」
「……どうしたの?いきなりあたしの名前口にしたりして」
「いや……ティアーズって、どこかで聞いたことあるな~って」
「そりゃ、そうでしょ。ママが有名な人だもん」
俺が知っている限りで「ティアーズ」何て名を持つ有名人と言えば、さっと思い浮かぶのは一名のみ。
ーー確か、米国の現在の大統領の名前だ。
「「サニィ・ティアーズ」それがあたしのママの名前」
「マジかよ!?お前、本当にあの人の娘なのか?」
「そ、そんなに声を上げて驚くようなこと?」
「ああ。何気に世界が狭いことにビックリしてな」
日影は自分の家族に、サニィ・ティアーズよりも有名な芸能人である姉がいたことを思い出していた。
「それで、お前が昨日泣いていた理由ってティアーズさんと何か関係あるの?」
「お喋りが過ぎたみたい。そう簡単に何でも教えて貰えると思わないで。貴方には関係無いでしょ」
ま、そうだな。
まだ出会って一日しか経っていない、ほとんど話したこともない他人に、自分のことを知られたいとは思わないよな。
……さて、後は風呂に入って寝るだけなのだが、此処で発生する問題が一つ。
「ルナ、風呂の時間だってさ。入って来いよ」
そう言ってバスタオルを金髪のツインテールさんに手渡した。
女の子のルナとご一緒する訳にもいかないだろ。
俺は、今日は良いや。
「入浴の時間は決まってるから、頑張って十五分で出て来るんだぞ」
「ーー貴方は入らないの?」
「入らないよ。俺に裸見られるの嫌だろ」
「別に気にしない。貴方も今日一日働いて汗掻いてるでしょ」
「大丈夫だから気にしないで入って来いって。俺はほら、てきとーに濡れタオルとかで体拭けばそれで十分だから」
ルナは俺の言葉に頷いて「ありがとう」と口にしてからカーテンの向こう側にある風呂場へと入って行った。
待っている間は特にすることもなく、ベッドに寝転がっていたら気付かない内に夢の世界へと意識が飛んでいた。
きっと一日働いた後で体が疲れていたのだろう。
**********************
「……うっ、く……、うぅ……ママ何か、嫌い」
その夜も昨日と同じようにルナが泣いている声が聞こえてきて、眠りから目を覚ました。
彼女が何を思って何を考え、何故涙を流しているのかは知らない。
ーーペアの俺にしてやれることはこれくらいか。
「大丈夫か?」
「平気……だか、ら、頭撫でないで……」
日影が善かれと思って取った行動は、どうやらお気に召さなかったようで、余計にルナの機嫌を悪化させただけだった。
泣いている女の子を慰めるには頭を撫でてあげるのが一番。
という俺の常識は間違っていたか。
「……悪い。何かお前の役に立てないかって、そんなこと考えてたら自然と体が動いてた」
「……そう、何だ。ありがと……」
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