上 下
67 / 249
ビビりとモフモフ、冒険開始

何も知らずにお風呂タイム

しおりを挟む
「ぅぁ~……やっぱ風呂はいいわ~。」
「気持ちいいですね~♪」
『ちゃぷちゃぷ、たのしーです!』

猫鍋亭の庭先に作った即興風呂にて、ただいま疲労とか色々回復中。
湯船に寄りかかって上を見ると、向こうとは比べもんにならない星空が、目を楽しませてくれる。
胸板に乗った小梅を、落とさないように支えれば、ちょっとザラザラな舌で、顔を舐めてくれた。
いやぁ、猫と風呂に入れるとは。
水属性吸収万歳。

排水はディアさんに相談してみるとして、とりあえず釜は作ったよ。
試しに炎入れてみたけど、浴槽が割れる気配も無かった。
よしよし。流石小梅だ。

脱衣スペースは、サニーちゃんが作ってくれた土壁で囲んだ小さい空間に、綺麗な木箱を置いただけ。無いよりいいよね!
脱衣スペースから湯船にかけて、地面に石畳まで作ってくれたから、裸足で大丈夫♪

そんで、よっしゃ入るぞ~って思ったら…風呂のことを聞き付けた他のお客さんが、怒濤の勢いで「入らせてくれ」と寄ってきたよ。怖かった。
ファルさんの一喝で、一番風呂は俺らってなったけどね。
後ろに何人つっかえてんのやら…数えるのは怖くてやめといた。
某ネズミの国よりは、マシだと断言できる。うん。

「しっかし、なんで一緒に入ろうと思ったの、詩音。」
「だって、その方が他の方を、お待たせしませんから。」
「狭くね?」
「大丈夫ですよ~。」

いや、俺が狭いんだって。
必然的に、お前を脚の間へ入れることになってだな…ふの付く女性が歓喜しそうな絵面に成ってんだが。
…狼に戻ろう。小梅、頭に移動してくれ。

ぽふっ

『ふぃ~♪』
『ふにゃ~♪』
「スマホを防水仕様にしてくれた、彼方の技術者の方に感謝ですね。」

詩音に写真を撮られるのも慣れたなぁ。
俺も早くスマホ弄りたいよ。
あと何よりゲームしたい。
でも今日はもう、疲労感半端なくてヤバスだから、風呂上がったら寝る所存。
明日は昼まで寝る。何がなんでも休む。

[ラルフとレナさんにも、入って欲しいなー。親父さんも。]
「きっと、皆さん気に入ってくれますよ♪」
『みんなと ちゃぷちゃぷ、あそぶです?』
[全員は無理かな~w]

大浴場レベルの湯船作れば、入れるけども。
でも、そもそも、レナさんが女の子だしね。

[…ハッ…男湯と女湯作った方がいいかな?!]
「…ファルさんとレヴァンさんに、相談しましょうか。」

うーん、浴槽もう1つ作るべき?
壁どうしよ…覗き防止策とか……

……あれ?何だろう…何か光ってる。

[蝶々……?]
「未來くん?」
[なんか、光ってる蝶々が飛んでる……]
『ちょうちょ?どこです?』

ん…どんどん増えてるんだけど?
そこまで遠くに居るわけでもないから、詩音と小梅にも見えると思うんだけどなぁ。

…なんと言うか、獣の本能ってやつかな?
追いかけたくなってきた。

[俺、先出るね~。]
「え、もうですか?マッサージしようかと思ってたんですが…。」
[寝る直前でいいよ。]

魅力的な提案だけど、それより今は蝶々が気になる。
…濡れたまま走ったら風邪引きそう。
発火で乾かせないかなぁ。

[ん……あれ?蝶々消え…]
「ぐぁあっ?!」
 
ドサッ!

[おわぁっ?!]
「ひゃあっ?!」
『みゃっ!だ、だれですか?!』

な、何?…おじさん覗き?
木の上から落ちてきたけども…。
詩音狙いかな…シバくべきか?
……シバいとこ。

[《ヴァリアント》]

ぽふっ

ぅ…服は擬人化すると、自動で着らさるんだけど……濡れた肌に張り付いて、気持ち悪い…。
でも、我慢だ我慢。今はこの覗き野郎をどうにかしよう。

「おい、オッサン…。」
「いてて…ん?ひぃっ?!」

昔取った杵柄…というか、つい最近までやってた要領で、二度と近付かないよう誓ってもらおう。
とりあえず、胸ぐら掴んで持ち上げる。

「墓標に刻む言葉は、決まってんだろうなぁ……?」

いや、殺らないけども。
向こうでの経験上、これくらい言った方が、ビビってくれる確率上がるんだよ。

「ぐっ…わ、わわ悪かった!その、俺はただ、アンタに着いてきて欲しいところがあっただけでな?!」
「ぁん?…覗き目的じゃねぇのか?」
「違ぇよ!何が悲しくて、野郎の裸を覗かねぇといけねぇんだ!」

……なんだ、詩音狙いの変態野郎じゃないのか。
降ろしてやろう。

「もー、早く言ってよ。」
「有無を言わさず、持ち上げてきたのは誰だ…。」
「で、なんで木の上から落ちてきたの?」
「俺が聞きてぇよ…どっからか、何か飛んできたみてぇで……。」

何か飛んできた?……そこの石とか?

「おや、風呂か?良い物を作ったな。」
「あ、ディアさんお帰り!」
「お、お帰りなさい、ディアドルフさん。」
『ディーさん、おかえりです!』

やっと帰って来たー。何してたの?

「でぃ、ディアドルフ……っ?!」
「ああ、既に捕獲してたのか。」
「ん?このおじさん、捕まえるべき人?」
「宿の庭木に身を隠しているなど、明らかな不審者ではないか。」
「ま、待ってくれ!俺は頼まれただけで……っ!」
「ほう?話はゆっくり、部屋で聞こうか。」

あ…いい笑顔で、引き摺ってっちゃった。

「え、えっと、未來くん。私も上がって着替えたので…とりあえず、体拭きません?」
「…狼状態で乾かしてもらいたい、かな。」
「あ、では風属性魔法で…《ホット・カームウィンド》。」

コウメは?全部吸収したから乾いてるって?
いいなー、俺も水属性吸収欲しい。

[ふぁ~……眠い。]
「あの、おじさんのお話、聞けそうですか?」
[…ディアさんに丸投げようかな……。]

暖かい風と、詩音のマッサージで眠くなる。
でも、ディアさん行っちゃったしなぁ。
排水の件も話せてないのに。

毛が再びフワフワに成るまで、なんとか耐えて、半分寝ながら部屋へ戻る。
途中、知らない人々に超撫でられたけど、嫌な気はしない。
やっぱ、好意が感じられるって、大事だね…。
しおりを挟む

処理中です...