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ビビりとモフモフ、冒険開始

お疲れお兄ちゃんズ

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うーん、ゼラチン使ったおかず……

「…テリーヌなら、ゼリーと並べても飽きないか…?」
「てりーぬ…?」
『人の名前みたいなのです。』
「肉や魚の滑らかなパテを、テリーヌ型っていう、型に入れて焼いた料理の事だよ。」

細かく切った野菜を、ゼラチンで固めて『野菜テリーヌ』って言ったりもするけど。
厳密には『テリーヌ型に入った油とゼラチンたっぷりのパテ』なんだよ。
もっと言えば、『テリーヌ型』に入った状態が『テリーヌ』なんであって、型から外されれば『パテ』だ。

『ミライくん、魚料理もレパートリーあるのね。捌くところから、できたりするの?』
「流石にマグロ解体は自信無いけど、鮭なら親戚から丸ごと貰うから捌けるよ。」
『鮭丸ごと……?!』

毎年送られて来てたよ。でっかい子持ち鮭。

よし、明日は簡単サーモンテリーヌ作って、チーズと一緒にパンで挟もう。

「今から作るか?」
「いや、明日にするよ。パテにする時、詩音手伝って。」
「は、はい!」

ある程度なら俺の包丁捌きでイケるけど、ペーストにする自信は無い。
てなわけで、詩音の魔法に頼る。
ビルムさん、フードプロセッサー作ってたりしないかな?とも思うけど…7桁の借金返すまで買えない。
テリーヌのレシピも、ちゃんと書くべきかな。
書いた方が良いよね。

「あ。」
「どうした?」
「魚屋のお兄さんにあげる、レシピ書いてねぇ!!」

せめて魚の捌き方と、鮭フレークくらいは書いてあげなきゃ!
あと、鰻のレシピどうしよう!
蒲焼き?うな卵の方が良いかな?
えーい、両方書く!

レシピに起こす料理を考えながら、割り当てられた部屋へ。
夕食まで、まだもう少し時間あるなー。
早速レシピ書き始めないとなー。
なんて思いつつ、ドアを開けると

「ミライぃ~!お兄ちゃん色々頑張ったよ褒めてぇ~っ!」
「ぐぇっ……?!」
「ひゃあっ?!」
『にゃっ…!!』
「…………!?」

深緑色の何かが、ラガーマンの如く突撃して来た。

今、メキョッって…!胸の辺りでメキョッって音がした…!
め、めっちゃ痛い……!!呼吸止まるレベルで痛い…!

「うぁーもう疲れたぁー!ミライの毛並み気持ちいい~っ!!」
「はわわわわ……」

ぎゅうぎゅう絞められ、わしゃわしゃ撫でられ。
デイヴィー兄ちゃん、乱暴が過ぎるよ!!
詩音、腰抜かしてないでヒール…ヒールして…!
馬鹿力な実兄に、絞め殺される……!!

「み、ミライ…生きてる、か……?」
『デイヴィーお兄さん、総長さん死んじゃうのですっ!!』
「あ、ゴメン。ミライ~大丈夫~?」

大丈夫なわけあるか。

「……兄ちゃん。弟妹か自分の子、ハグで絞め殺した経験無い……?」
「ん?無いよ。相手の歳とレベルと防御力、考慮してるし。」
「…………へぇー…。」

考慮された割りに、HP4分の1くらい削れてるんだけど…
コレ、初期ステだったら、ほぼダブルスコアのオーバーキルだかんね……?

「ぶ、無事…ではないかもしれないが、生きていて良かった…」
「デイヴィーお兄ちゃん…どう、されたんですか…?」
「精神的に疲れたから、癒されに来た。」
『それで攻撃紛いのハグをするのは、辞めて欲しいのです!』
「HP半分以上残ってるし、大丈夫大丈夫。」
「いや、大丈夫じゃねぇよっ!!」
「ほら、ミライ元気じゃん。」

確かに、叫ぶ気力あるだけマシかもだけど!!

「ね、念のため…《ヒール》!!」
「ありがと、詩音。…兄ちゃん、癒されたいなら、姉ちゃんに抱きついてよ。」
「ルゥは、お料理中。俺、キッチン立ち入り禁止令出されてるから、近付けないんだ。」
「でしたら、お子さんは…?」
「末の子達、最近『もう、あかちゃんじゃ、ないもんっ!』って…抱っこさせてくれないんだよね~…。」
「おいくつですか?」
「3歳。」

地味に『末の子複数人居るらしい』って事が判明した。
双子?三つ子?

「他の子は、成獣前の子達でも、20歳は越えちゃってるから、もうそこまでチビちゃんじゃないし。だから、『ちょっぴり』力入れて抱き締めても大丈夫で、尚且つ、まだチビちゃんなミライに、癒してもらおうと。」
「…ちょっぴり……?」

『ちょっぴり』でコレか。
まあいい。要は兄ちゃん、小さいモフモフに、飢えてるんだね?
仔犬サイズで癒してしんぜよう!

ぽふっ シュルルル…

『乱暴にしないなら、モフモフどーぞ。』
「お、気が利く!じゃあ、遠慮無く愛でるね!」

いや、遠慮はして?主に力加減。
兄ちゃんは俺を抱き上げたまま、ベッドに倒れこんだ。
そのまま軽く揉まれたり、撫でられたりする。
良かった、最初の突撃よりずっと優しい。

『癒される?』
「めっちゃ癒される。」
「…………俺も、撫でていいか…?」
『うぉっふぉう?!』

上から、急にモフる手が増えた…!

「ひゃっ…!ジェイクさん!?」
「…何故天井から……」
『隠密さんは、天井が好きなのです?』
「お疲れ、ジェイク。面倒事押し付けてゴメンねぇ。」

んん?何かしてたの?

「クレーム処理を、ちょっとね。ほら、俺って家の商会の副会長だし。それなりに頑張らないと。」

え、兄ちゃんが商会の副会長なの?初耳なんだけど。

『クレームって、どんなのです?』
「多かったのは『子供に労働を強いるな』『子供達だけで金を稼がせるのは危険だ』というものだな。」
『要するに、正義感に満ちた、勘違いです。労働を強いたわけではありませんし、安全面も確保されています。』

それって、買い出し代行のことだよね。
兄ちゃんが提案したのか。

「提案っていうか、孤児院の大人達に、少し商売のヒントあげただけ。あ、売り上げで子供達のおやつとか、服とか買ってあげるようには言ったかな。勿論1G足りとも受け取ってないよ。」
『成る程。』
「安全面も大丈夫。風の精霊ちゃん達に、警護してもらってるんだ。…その報酬に、美味しい果物沢山用意しないと…それに食料の無償配布の費用が……あーもー、帳簿つけたくなぁーい!帝国復興の費用出したばっかなのに!災害救援用金庫の中身がヤバい!避けられた筈の人災が原因で、俺の・・緊急一時補填用貯金崩すのはヤダぁー!!」

ちょっと待て兄ちゃん。
もしかして、ベッドでウダウダゴロゴロしてる暇、無いんじゃね?
てか、個人的な貯金に『補填用』の枠あんの?!

「『配布される食事が質素過ぎる』とかいうお貴族様(笑)の我儘に、『御触れを無視するな、今すぐ商売を辞めろ』って言い掛かりまで来るし!緑風屋俺の店全店ブルーム領から撤退してやろーかコノヤロー!つか、貴族は普通に買い物してろバーカ!!」
『この通り、緑のお義兄様は現在、物凄くストレスが溜まっていらっしゃいます。』
『コレは荒れても、仕方ないです。思う存分、総長さんをモフモフするのです。』
「……あの…最後のクレームって……」
「確実にムスカル殿だな。」

おいやめろロリコンクズ野郎。
お前ただでさえ、兄ちゃんに命狙われてんだぞ。

『食料を配布してるだけで、物は売ってないです。御触れを無視しては、いないのです。』
「ねー?お馬鹿さんってのは、コレだから困る。元凶以外からも、同じようなクレーム来たんだよ。しかも商人から。笑っちゃうよねぇアハハ。連帯責任とか取らさせない・・・・・・から、安心して黙っててくれ切実に。」

笑っちゃうとか言いつつ、目が全く笑って無いよ兄ちゃん!

「元凶とは、俺が兄さんに化けて、副会長として話して来た。店先で。」
「今、元凶に遭ったら、即首落としかねないから、代役頼んだ。」
『うん、それが正解だと思う。』
『あのお馬鹿さん、理解力…いえ、話を聞くつもりが全くありませんでした。』
「奴の置かれた状況も含め、子供でも理解できる程度に噛み砕いて、ゆっくり丁寧かつ冷静に説明はした。アレが理解できたとは思えないが。」
「最終的に、どうなりました?」
「隣町に行かされていた執事が、全速力で戻って来てな。解雇覚悟の当て身で黙らせ、周囲の皆に誠心誠意謝罪してから、引き摺って行ったぞ。」

解雇覚悟の当て身……執事さんの無事を祈ろう。

「この御触れについては、執事へ相談しなかったらしい。故に、内容の緩和や、馬鹿の説得が出来なかったようだ。」
「家の商会と冒険者ギルドと商業ギルドには、領主さんから謝罪文来てる。…慰謝料どんだけふんだくるか、決めなきゃ。ああ、ギルマス達との擦り合わせも必要だ…お兄ちゃんお仕事が終わらないよ、助けてミライ。」
『助けれはしないけど、せめて癒されて行って。』

兄ちゃんマジで大丈夫?
やること終わったら、休暇取りなよ?

「……夕食できたみたい!家帰る!」
『う、うん。』
「…お気をつけて。」
「えっと…ルゥナさんとお子さん達に、沢山癒されてくださいね。」
『今日はもう、ゆっくりするのです。』
「うん、今日じゃなくても間に合うことは、明日に回す!皆、沢山食べて、しっかり寝るんだよ。おやすみ~。」

おやすみ~。
……そっちこそ、ちゃんと寝てね?

「俺達も、父さん母さんに報告したら帰る。」
『皆さん、おやすみなさい。』

あ…返事する前に消えちゃった。
お疲れ様。

……明日のゼリー、いっぱいあるし…兄ちゃん達に差し入れする分、取っておこうかなぁ。
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