クズには生きづらい世の中だ

まこと

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やめた

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土曜日。
午前で部活を終え、家に帰って来てシャワーを浴びご飯を食べて、今はマッタリタイム。
布団の上からボーと天井を見上げている。
そうすると、不意に涙が溢れてくることがある。
悲しいことを考えている訳では無いが、ポロポロと涙が枕に染みていく。
この時間は嫌いじゃない。
なんだか心の汚れが涙になって目から出ていくような、そんな気がして。
流れる雫をそのままにして、ボヤけた天井をただ見つめていた。
と、急に携帯が振動した。
涙が滴る感触を惜しみつつ、ティッシュで目を拭いて携帯を手に取る。
俺とは苗字の違う母からのメッセージだった。
数ヶ月ぶりに連絡が来たような気がする。
実際にいつぶりの連絡なのかは、履歴が残っていないのでわからないのだ。
元気にしてる?
まだ母親気取りなのか、と思った。
血の繋がっている母なのだから母親気取りは当然のはずだが、なんだか気に食わなかった。
話すことなどなにもないから、うんとだけ送って携帯を閉じる。
今更なんの用があって話しかけてきたのだろうか、と疑問に思ったがわざわざ聞くのも面倒なのでやめた。
どうせひまなのだろう。
携帯を枕元に置いたところでまた着信を告げる振動がある。
本当にめんどくさい。
俺は父も母も嫌いだ。
なのになぜ構ってくる?
嫌いだ、と直接言った方がいいのだろうか。
ひまだったらいつでも遊びにおいでね、と送られてきた。
ひまなのはお前だろ、もう俺に構わないでくれよ
一瞬送ろうかと思った。
言いたいことならいくらでもある。
お前が俺を産まなければこんなに苦しむこともなかった。
再婚のことも、弟のことも教えてくれなかったのはなぜだ
ぶつけたい怒りも膨らむ疑問も、最後にはめんどくさいの一言で口から出ることはなくなる。
純粋に、ただ話したくなかった。
俺はまた、うんとだけ送信して携帯を置いた。

遊びになんて行くわけがない。
つい先日、数年ぶりに会った母親は、まるで他人のようだった。
母親が変わったわけではない。
外見はすこし衰えたように見えるが、だいたい同じだと思う。
性格もたぶん変わっていないだろう。
しかし俺は、そこにいる人を母親だとは思えなかった。
というか、俺が母親のことをほとんど覚えていなかった。
顔、声、色、形、匂い。
優しさや温もりすらも、覚えていなかった。
あるいは最初からなかったのかもしれないが。
とにかく数年ぶりに会った母親に、俺は敬語で話しかけそうになってしまった。
まるで近所のおばさんに話しかけるような感覚で。
そのとき俺は思った。
俺の中でお母さんはもう死んでしまったんだなって。
別に悲しいとも思わなかったが。

気づいたら少し寝ていたようだ。
時刻は午後五時の少し前。
携帯を開くと、母からメッセージが来ていた。
今から迎えに行こうか?
寝ていたので自然に無視してしまった。
素直に、寝てたとメッセージを送る。
きっと信じないだろうが、別に構わない。
そろそろ父が帰ってくる。
また美味しくないお弁当を買ってくる。
母は料理が得意だった気がするな。
もう味なんか覚えていないけれど。
久しぶりに手料理を食べに行くのも悪くないかも、と思ったがその場合、母の再婚相手と食卓を共にすることになる。
それはとても嫌なので、やめた。
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