クズには生きづらい世の中だ

まこと

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勉強会

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「暑っついな…」
誰に言うともなく独り言のように口に出した言葉は、一番に俺の耳に侵入してくる。
暑いという声に反応した頭が、体温を下げるべく全身に汗をかかせる。
じっとりとした気持ちの悪い湿気をTシャツの中に湛えたまま、俺は目的地へと足を運んでいた。

事の始まりは金曜の放課後。
掃除も適当に終わらせ、部活に行こうとしていた俺に一人の女の子が声をかけてきた。
その子の名前はなづき、クラスメイトだ。
土曜日に勉強を教えて欲しいとのこと。
テスト週間に入るので土日の部活はなく、これといった予定も入れていなかったので、二つ返事で快諾した。
場所と時間を決め、なづきと別れた。

そして土曜日、時刻は十一時半。
俺はママチャリを漕ぐとこ十五分、家から最寄り駅の南甲府駅に来ていた。
服装はTシャツにパーカー、下はジーンズにスニーカーという無難なもの。
パーカーのチャックを全開にし袖を捲ったらそこそこいい感じになった。
右手小指にピンキーリングはめ、右足首にミサンガを結んでいる。
背が高いというのは本当に素晴らしいな、と改めて思う。
適当でもかっこよく見える。
優秀な遺伝子をくれたことだけは、両親に唯一感謝できることだ。
自動改札機など無い田舎の改札を、定期券を左手に掲げ駅員に頭を下げつつ通り過ぎる。
ちょうど電車が来たようだ。
まばらに目立つ空席を眺めて座る場所を考える。
決めかねているとこちらを見つめる女子高校生と目が合った。
その子の近くまで行き、左の席に腰を下ろす。
理由があったわけではないが、これも何かの縁だろう。
人は左側に肩が触れるほどの距離で人がいるとドキドキするらしい。
それが他人だった場合、ほとんどは不愉快に感じると思う。
吊り橋効果的な感じでその不愉快が好きに変わったら面白いなと考えながら、甲府駅に着くのを待っていた。

甲府駅に着くと、俺は右肩の感触を惜しみつつホームに降りた。
待ち合わせ場所は韮崎駅の近くにあるニコリという施設である。
なぜ甲府駅で降りたかというと、韮崎駅に行くためには一度乗り換えが必要なのだ。
ホームを進み、韮崎方面に向かう電車に乗る。
さらに空席の目立つ中央線の電車は、俺が乗り込むのを待っていたかのように自らドアを閉めて発進した。
一番端の席に座り、ゆったりとスピードをあげる電車の窓をぼんやりと眺めていた。
向かいのホームが徐々に速くなりながら流れて行く。
その隅の方、階段のところ。
そこにりょうこがいた。
まさに一瞬、あっと言う間もなかった。
しかしそれは確実にりょうこだった。
間違えるはずもない。
そのままりょうこはホームとともに流れて行き、見えなくなった。
楽しそうに笑うりょうこの隣には、楽しそうに笑う男の子がいた。

目まぐるしく変わる窓からの景色に、りょうこの笑顔が上書きされないように俺は目を閉じた。
だが、目を閉じているとりょうこの隣にいた男の子を思い出す。
苦しくて、吐き気がした。
人の少ない電車の中で、小さな嗚咽と涙が零れた。
俺の気持ちを知ってか知らずか、電車は構わず甲府駅から離れて行く。
壊れた俺を運んで行く。
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