想いゆえに

セライア(seraia)

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5.『いつもの場所』で (まだ3日目)

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 ~(子爵家別邸の『いつもの場所』にて)~


「改めて……。俺と結婚してくれるよな? 俺が愛する女性はジュリアだけだ。」
「はい、喜んで。私も……ヒューお兄様を愛してます。」

 ヒューお兄様に連れられて、私たちも場所を移し……着いたのは『いつもの場所』。そこでの改めての求婚と告白に、承諾と告白を返す。


「ありがとう。」
「私も、嬉しいです。」

 ぎゅっと抱きしめられて、甘いキスに酔わされて……。



 『いつもの場所』である東屋だけど、この時、庭の南東のそこは朝の陽ざしの中で爽やかで穏やかな明るさに満ちていて……。
そんな場所での情熱的なプロポーズと抱擁ほうようとキス。
 しかも相手は、ずっと大好きで、でも諦めなくちゃならないかもと絶望しかけてたヒューお兄様。
 夢のような状況にうっとりとしてしまう。



「それで? ジュリアはいつから俺を想っていてくれた?」

 物語のような雰囲気から一変、少し体を離したヒューお兄様が意地の悪い表情で私の顔をのぞき込んでくる。さっきまでの、せっかくの甘い雰囲気を壊されたと思ったら、その後に来たのは意地の悪い笑顔と恥ずかしすぎる質問だなんて!


「今、言えと?」
「そうだ。俺の想いは伝えたけど、ジュリアのは本人からは聞いてないからな。」
「この状況で?」
「この状況なのに、ヒューお兄様なんて呼んだ罰でもあるからな。」
「え?」

 あまりな状況に、思わずヒューお兄様をジトリと見ると思いがけない言葉が出て来て……。


「もう、お兄様なんて付けさせない。他に余分なもの付けるのもダメ。付けたら無視する。」

 驚きが引かないうちに、今度は呼称を変更しろと言われて、また驚く。


「そんな……。だって、でも、あれは習慣というか癖で」

 結婚するなら『お兄様』呼びがおかしいのは分かるけど、無意識みたいなものだから突然言われても変えるのは難しい。しかも、結婚相手だと意識してしまうから、恥ずかしいし照れるし……。


「ダメだ。許さない。」
「え、じゃぁ……。ヒュー……?」
「お兄様を付けそうになっただろ? やり直し。」
「そんな……。」

 そんな私の気持ちは分かってるくせに、ヒーお兄様は譲る気は全く無いみたいで、誤魔化すことさえ許してくれない。


「……ヒュー?」

 何度目かで、やっと、なんとか不自然にならない言い方が出来たけど、まだダメなのかなと疑問形っぽくなってしまう。


「っ!ぎこちないのも可愛いから今回は許す。早く慣れろよ?」

 またダメかも、とヒューお兄様を見上げると同時に抱きしめられて……。
やたら甘い言葉を聞いた気がした次の瞬間、聞き返すことも出来ないうちにキスされる。
 それも、キスにも慣れろとばかりに、さっきより長くて甘くて……ぼんやりしてしまう。 



「で、さっきの答えは?」

 キスでとろけたところに、いきなり質問を繰り返された。


「え?」
「ジュリアの想いは?」
「え、その話は」
「終わってない。」

 表情は楽しんでる風だけど、目は真剣で、退く気配は無し。


「だって名前」
「それは別問題。ほら、白状しろ? レオンたちの前で言わされたいか?」
「っ!……もう、分かったわよ!」

 それどころか、ホントに家族の前で告白させられかねなくて……私が抵抗を諦めるしかなかった。


「言っておくけど、いつからなんて、私にだってホントに分からないんだからね?」

 恥ずかしくて、話し始める前から顔が真っ赤になる。それが分かってるから、恥ずかしさで話せなくなる前に一気に話してしまおうと、息を吸い込む。

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