転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた

kisaragi

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第2章

第36話 お風呂で女子会

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 神歴1012年、3月4日――ギルティス大陸南東、滅びゆく村。

 午後8時37分――宿屋一階、大浴場。

 ルナは、お風呂に入っていた。

 宿の一階に設置された、ちょっと広めの中浴場(大浴場というくくりなのだろうが、大と言うほど広くはない。せいぜいが中といったところである)。

 その場所には、彼女のほかに『四人』の人間が混在していた。

 アリスと、レプと、先に来ていたリアとトッドを加えた四人である。

 ルナは湯船に肩まで浸かりながら、

「すみません、先客がいるとは思いませんでした」

「別にいいよ。けっこう広いし。このコの身体洗うの手伝ってもらえて、むしろ助かった。ありがと」

 洗い場で、トッドの背中を流していたリアが、小首を上げてそう答える。

 ルナは薄く笑ってそれに応じた。

 そのまま、しみじみと言う。

「トッドくん、リアさんに懐いてますね。ベタベタです」

「ベタベタされるの、あんま好きじゃないんだけど。引き離しても、すぐ抱きついてくるし、うっとうしい」

「ぐなあーっ、ぜいたくな悩みだ―っ! うらやましいーっ! あたしはベタベタ甘えてきて欲しいのにーっ!」

 そう言って、隣のアリスがバシャリと両手を振り上げる。

 その勢いで舞った飛沫しぶきが、ルナの顔面にビチャリと触れる。

 ルナは、ジトリと両目を細めて言った。

「アリスさん、知らないんですか? 子供は子供には懐かないんですよ?」

「んがーっ、あたしは子供じゃないーっ!」

 子供だ。

 めちゃ子供だ。

 ルナはあきれたように、細く長い息をそろりと落とした。

 が、子供のアリスには、その反応はどうやら禁忌タブーらしかった。

「なんだそのため息ーっ! ルナは年下のくせに生意気だーっ! このおっぱいも生意気だぁーっ!」

「ひゃあ!? ちょ、なにするんですか!? いきなりおっぱいわしづかみにしないでください! さすがに怒りますよ!?」

 背後から、アリスに両胸をがしりとつかまれ、ルナはビクリとのけ反った。

 不意打ち中の不意打ち。

 いくら頭に来たからといって、突然こんな幼稚な行動に出るとは、さすがに予期していなかったのである。
 
 むずがゆいような、妙な刺激が全身を駆け巡り――ルナは気恥ずかしくなって、顔半分を湯船の中に沈めた。
 
 と。

 気づくと、リアがこれ以上ないほどあきれた様子で両目を細めていた。

 彼女は右手と左手で、レプとトッドの目をそれぞれふさぎながら、

「……子供の前なんだけど? 一人は男のコなんだけど……?」

「……うぅ、ごめんなさい……」

「……すみません」

 アリスと共に、思わずルナも謝罪の言葉を吐き落とす。

 言ってから、でも自分自身も被害者だったことに気づいて、彼女はげんなりと肩を落とした。

 理不尽だ。

 こんなのは、いくらなんでも理不尽すぎる。

 が、理不尽な仕打ちはこれだけでは終わらなかった。

 若干と間を置いて、リアがぼそりと吐き落とす。

 それは理不尽極まる、ダメ押しの一打だった。

「……でも、あんたのそれ、ホントおっきいね。二個下とは思えない。アリスじゃないけど……なんかちょっとムカつく」

 ルナはこの日、生まれ初めて枕を濡らした。


      ◇ ◆ ◇


「リアさんのおっぱいは、ロケット型でかっこいいね。おっきくはないけど、憧れる」

「おっきくない、を強調するな。てゆーか、あんたなんでそんな胸の話ばっかするの?」

 訊かれて。

 アリスは、これ以上はない速度で即答した。

「おっぱいおっきくなりたいからーっ! かっこよくなりたいからーっ! 子供みたいなおっぱいはやなのーっ!」

「……なにそれ。くだらない」

「くだらなくないーっ! くだるー! じゃあ、リアさんはあたしとおっぱい交換してもいいのー!」

「……それはやだ。なんかやだ」

 なんかやだ。

 一番傷つく表現だった。

 アリスは消沈したように、湯船の中に再度身体を沈めた。

 と、間を置かず、レプが元気に言ってくる。

「レプはアリスと交換してもいい。どうやって交換する?」

「……うぅ、それはやだー。一からゼロになっちゃうー。ゼロはもっとやだー」

「……すみません、謝るのでもう胸の話はしないでください。夢に出そうです」

 ぼそりと、ルナ。

 彼女は洗い場の端っこのほうで、負のオーラ全開に身体を丸めていた(よく分かってないだろうトッドに、元気出せとばかりに背中をトントンと叩かれながら)。

 アリスは、おっぱいの話をやめることにした。

 彼女は、湯船のふちに両手をつきながらバタバタとバタ足をしているレプの身体を抱き寄せつつ、

「そう言えば、リアさんたちはいつからこの村にいるのー?」

「三日前。あんたたちが来る、ちょっと前からだよ。そんな変わらない」

「リアはいつまでレプたちの仲間? ずっと仲間?」

「ずっとじゃない。この村出るまで。てゆーか、別に今も仲間じゃない。敵じゃないってだけ」

「仲間じゃない。レプは仲間が良かった。レプはいつか仲間を百人作る。子分も百人作る。レプ様と呼ばせる。やんごとなきお方になる」

 けっこう大それた野望を持っていた。

 アリスはレプの身体に両手を回して、彼女の身体を胸の前でロックすると、

「でも、この村――」

「ちょっと待って! そこに誰かいる!」

「……え?」

 アリスは、ぽかんと固まった。

 唐突すぎて、思考が追いつかない。

 リアが鋭い声を上げ、立ち上がると同時に、背後の小窓をバシっとひらいたそのあとも、何が起こったのかしばらくのあいだ理解できなかった。

 三秒、四秒、五秒――。

 そうして七秒が過ぎた頃、彼女はようやくと理解の両目を見開いた。
 
 振り向き、叫ぶ。

「覗き!?」

 覗きだ。

 覗き魔だ。

 生まれて初めて、お風呂を覗かれた。

 まったく気にも留めてないレプと、いまだ『しょんぼりの世界』から戻っていないルナとは裏腹、アリスの鼓動は爆発的に高鳴った。

 彼女は湯船の中で、サッと身体を丸め、

「……リアさん、覗き魔は……」

「逃げられた。でも、誰かは分かった」

 振り向き、リアが確信の語調で答える。

 アリスは、震えた声で再度尋ねた。

「……誰?」

 リアは。

 リアは迷いなく、確固たる語調でハッキリと言い切った。

「レイニー・レイン。この宿の、主だよ」

 悪寒が、アリスの背筋を支配した。


      ◇ ◆ ◇


 同日、午後8時50分――宿屋一階、玄関近くの共有スペース。

「はぁ!? あんたらと一緒に村の外に出ろって!? なんだそれ!?」

 デービットが、素っ頓狂な声を上げる。

 ブレナはもう一度、同じ言葉を繰り返した。

「ああ、そうだ。もし殺人鬼が追って来たら、俺たちが守ってやる。おまえは何も心配する必要はない」

 

 この考えを思いついたのは、アリスである。

 村の外に出ても結局殺されてしまう、という宿屋の主レイニーの話から、彼女はこの方法を思いついたらしい。

 殺される、ということは、裏を返せば、追ってきて殺す、ということ。つまりはこちらから『犯人』をおびき寄せることも可能なのではないかと。

 言われてみれば、確かにそうだ。レイニーの話が事実なら、造作もなく犯人を特定することができる。そうして、そのまま追ってきた相手を返り討ち。事は終わりだ。

 が、そう思っていたのだが――。

「冗談じゃない。やなこった。犯人は十二眷属の可能性が高いんだろ? あんたらが奴らより強いとは到底思えない。自殺行為にオレを巻き込むな」

「だが、このままここにいても、貴様は長くてあと三日の命だ。リスクを取る価値はあるだろう? それに私たちは十二眷属より強い。信じる信じないは貴様の勝手だがな」

 隣の椅子に座っていたジャックが、脅しをかけるように言う。

 が、効果はまるでなかった。

「信じないね。どのみち殺されるなら、一秒でも長くオレは生きたい。それに百パーセント殺されると決まったわけじゃないしな。気まぐれで、どこかのタイミングで殺しをやめるかもしれない。あーこんなこと言ってるからって、オレを犯人扱いするのはやめてくれよ? オレは普通の人間だ」

「普通の人間じゃなくても、そう言うだろうがな」

「ま、そりゃそうだ」

 デービットはそう言って立ち上がると、

「あんたらがホントに自信あるってんなら、トッド坊でも連れて村の外に出てみなよ。あのガキなら喜んであんたらについてくだろうぜ。囮にするとか言わずにうまく言いくるめてたら、リベカだってあんたらについていったと思うがね。あいつ、村から逃げ出したがってたわけだし。あいつが殺人鬼かもしれんけど」

 捨て台詞まがいのことを言い捨て、そのまま二階へと上がっていった。

 ブレナは、短く息を吐いた。

 まさか三人全員に断られるとは思っていなかった。

 せっかく妙案を得たというのに、ままならない。

 ブレナは小さく舌打ちした。

 まんがいちのリスクはあるが、やはりここはトッドを連れてでも――。

 と、そこまで考えたところで、だが『それ』は起こった。

 風呂場のほうから叫び声のようなものが響き、次いでドタバタという荒い足音が宿の外で鳴り響く。

 ブレナは、ジャックと顔を見合わせ、

「外の奴は俺が追う。おまえは風呂場に行け」

「なんだと!? 冗談じゃない! 貴様が風呂場に行け! 私が外の奴を追う!」

「いやなんでだよ!? 俺のがおまえより強い! 俺が追うのが正解だ!」

「――――っ!? 貴様――」

 結局。

 この馬鹿なやり取りのせいで、外の男(あとから聞いた話だと、宿屋の主レイニーだったらしい)には逃げられ、中の女たちからは冷ややかな視線を浴びせられるという最悪の結末――否、最悪の結末はその翌朝こそが本番だった。

 不穏の風が、隙間を通って宿の内部に吹きつける。
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