転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた

kisaragi

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第3章

第50話 聖王ナギ

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 神歴1012年、3月7日――ギルティス大陸南東、神都アスカラーム。

 午後5時51分――ラーム神殿、聖王の間。

「よく来てくれた。来てくれるものと、信じていたよ。ブレナ・ブレイク」

「…………」

 しらじらしい。

 ブレナは無言のまま、一歩を踏み出した。

 と。

「ひざをつきなさい、ブレナ・ブレイク。ここは聖王の間。ナギ様の御前で不遜は許されませんよ」

 聞こえてきた声に。

 ブレナは、やれやれと視線をその方向へと滑らせた。

 ナギの右隣に立つギルバードの反対側、つまりはナギの左隣に立つ『女』へと。

 真っ先に視界に飛び込んだのは、ハーフアップにした栗色の髪。次いで同色の双眸。いや、正直に白状すれば、その二つの特徴よりも前に――。

 嘆息し、ブレナはつぶやくようにその名を吐き落とした。

「エルフレア・ストックホルム……」

 エルフレア・ストックホルム。二十八歳。ギルバード・アイリス率いる、聖堂騎士団の副長を務める雪肌の聖女である(別に言われるほど肌は白くないと思うのだが。それならば、巷で囁かれている『山脈の聖女』のほうがまだしっくりくる。彼女の胸は確かに『山脈』だ。どんな聖人君子でも、おそらくはそこに真っ先に目がいくだろう。ルナのそれが可愛く思えるレベルの宝玉である。まあ、それ以前にそもそも中身が聖女でもなんでもないのだが。完全に聖女詐欺である)。

 獲物はシンプルな剣式ソードタイプのAランクダブル、アーネストリー。最高峰のヒーラーと称される彼女にふさわしい、回復魔法特化のダブルだ。

「かまわないよ、エル。彼は特別だ。この程度は、不遜でもなんでもない」

「ですが、ナギ様――」

「エルフレア、それ以上はになるぞ。ナギ様がかまわないと言ったのだ。話はそれで終わりだ」

「……申し訳ありません。出過ぎた真似をいたしました」

 そう言って、エルフレアが一歩下がる。その流れのまま、彼女はその場に片ひざをついた。

 ブレナはそれを見届けると、

「要件は奥の間で聞くよ。ここにはが二人もいるからな。かまわないだろ?」

「――――っ!?」

 エルフレアの栗色の瞳が、真ん丸に見開かれる。

 が、彼女の口から反発の言葉が放たれることはなかった。片ひざをついた体勢のまま、何も言わずにそのまま流す。強く噛みしめられた下唇からは、怒の鮮血が滴ってはいたが。

 ブレナは、視線をナギへと戻した。

 ちょうど、彼の口から答えが落ちるところだった。

「かまわないよ。二人で話そう。最初から、そのつもりだったがね」

「…………」

 一年ぶりの、がそうして始まる。


      ◇ ◆ ◇


 同日、午後5時53分――ラーム神殿、最奥の間。

 身長は百六十センチそこそこといったところだろうか。成人男性としては小柄な部類に入るのだろうが、よりは遥かに成長している。千年前の――あのとき別れた、十歳だった彼ではもうないのだと、ブレナは改めてそう思い知らされた。

「父上《・・》、さっそくですが『本題』に入っても?」

「…………」

 ブレナは答えなかった。

 無言のまま、ナギから視線を外し、を見やる。

 チロ。

 巨大なクリスタルに閉じ込められた、ドラゴンパピー。

 色のない瞳で、ただぼんやりと虚空を見つめるその姿が胸をしめつける。

 ブレナは、胸もとのペンダントをきつく握った。

 と。

「一年前にも話しましたが、チロの魂を元に戻す方法はしかありません」

 背後から、ナギが冷静沈着に言う。

 ムッとして、ブレナは皮肉を返した。

「よく知ってるな。さすがは、。見事な博識っぷりだ」

「嫌味のおつもりですか? あのときは、ああするほかなかった。ああしなければチロは死んでいたかもしれない。悪いのは『邪王』であって私ではない」

 邪王。

 ナギの口から落ちたその言葉に、ブレナは短く嘆息した。

 そのまま、若干と瞳を曇らせ、言う。

「邪王、ね……。もう『ナミ』とは呼ばないんだな……」

「ああ……そう言えば、そんな名前でしたね。あの女にはでも、邪王の名のほうがよく似合っている。自分でそう名乗るくらいだから、きっとあの女もその名が気に入っているのでしょう。意味など分からずに、響きだけで名乗ったのだとは思いますが」

 そう言って、ナギがほんの少しだけ口もとを緩める。

 が、彼はすぐにその微細な変化を打ち消すと、

「さっきも言いましたが、チロを元に戻す方法はひとつしかない。十二眷属を倒して、彼らの中に封印されているチロの魂を解放する――それ以外に方法はありません」

(自分で封印しといて、その言い草か……)

 ぼそりと、だがそれは声には出さない。

 ナギは反応が返ってこないことなどまるで意に返さず、

「そこで、父上にお願いがあります。、父上にも手伝っていただきたい。もし引き受けてくださるなら、彼らの居場所をお教えしましょう。『神の目』に頼らずとも、ギルバードなら彼らの居場所をサーチできる。おおよその、という注釈は付きますが」

「……まったく意味が分からないな。いや、分からない。おまえがなぜ、十二眷属を狩る? あいつらはおまえらにとって、息子や娘みたいなもんだろう?」

「手に負えないほどの愚息に成り果てたからですよ。そもそもが、彼らは元より失敗作です。最初に作った生命体だったので、正直、勝手がよく分からなかった。力を与えすぎたのも失敗だったし、あとから作った生物――特に人間に対してあれほどの執着を見せるとは想定外でした。他の生物を排除することで自我を保とうとする。危険で野蛮な失敗作です」

 手に負えないほどの愚息。

 ブレナは心中でニヒルに笑った。そっくりそのまま、その言葉を目の前の馬鹿息子に返してやりたいという気持ちをギリギリのところで抑える。

 彼は代わりに、

「その考えに、至ったってのか? 一年前はそんなことつゆほども言ってなかったのに」

「言ってはいませんでしたが、思ってはいましたよ。だから父上が十二眷属退治の旅に出るのもお止めしなかった。ギルバードだけは、私の忠実なしもべなので守らなければなりませんでしたが。彼は唯一の成功例だ」

「そのギルバードも、場合によっては倒すことになるかもしれないぜ?」

「そうなる可能性は低いでしょう。その前に、チロの魂は戻りますよ」

「だといいがな……」

 確かに、そうなる可能性は低いだろう。十二分の一のクジを引き続けて、最後まで当たりが出ない確率は相当低い。が、ゼロではない。

 否、それ以前に――。

「どうですか、父上? 力をお貸しいただけますか? 父上にとっても、利がある話だと思うのですが。もちろん私も、チロには早く元気になってもらいたい」

「……ハッ、思ってもないことを。まあいい。俺にとっても渡りに船の話だ。手を貸すよ。ここを離れるわけにはいかないおまえの代わりに、誰よりも強いこの俺がおまえの望みを叶えてやる。チロの魂が戻ったあとも、ギルバード以外の十二眷属を皆殺しにする。。それでいいんだろ?」

「理解が早くて助かります。邪王が、という信じられない報せを受けたものでね。なりふり構っていられなくなったのか、愚かしいことです。ついでにあの破廉恥極まる女も始末していただければ嬉しいのですが、さすがに父上には心苦しいでしょう。あの女の始末は私がします。なので、父上には彼女の鎧を剥いでいただきたい」

「…………」

 ああ、そうか……。

 利用されているのか……。

 ブレナはこのとき、改めてそう思った。

 一年前、千年ぶりに再会したあの日から、おそらくは全てナギの計画通りに事が運んでいる。

 チロを封印したことも、それを餌に自分を使ってナミの戦力を削ごうとしていることも。

 ブレナは、両目を瞑って天を仰いだ。

 そのまま、深く長い息を吐く。

 一秒、二秒、三秒と続く長い息。

 やがて彼はゆっくりと両目をひらくと、目の前の『愚息』に向かって『警告』の言葉を強く放った。

「おまえにひとつだけ忠告しておくぜ。この世界、ヴェサーニアの神は俺だ。おまえじゃない。それを、ゆめゆめ忘れるな」

 ナギにもナミにも、いずれはそれを分からせる。
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