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第6章
第85話 再会
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神歴1012年5月12日――ミレーニア大陸東部、ピレネー街道。
午後10時1分――街道沿いのロッジ、大部屋。
「レプ……となんかついでに知らない男の子も一人寝かしつけてきたよー。二人ともグッスリ寝てる。自分で言うのもなんだけど、オイラの子守歌スキルまったく錆びついてなかった」
「ああ、こっちまで聞こえてきたよ。おまえのへったクソな子守歌がな。音痴ってレベルじゃねーんだよ。あれで爆睡できるレプが、逆に心配になってくるわ」
六人掛けの長テーブル、その椅子のひとつにどっかと腰を下ろし、ブレナは冷めた視線で『相棒』を見やった。
相棒。
相棒である。
相棒のチロが、同じ空間にいる。
一年前まで当たり前だったその光景が、再び戻ってきた。
なんの前触れもなく、あまりにも唐突に――。
拍子抜けするほど、それは呆気なく訪れた『待望の瞬間』だった。
(……なんだかなぁ。もうちょっと『ため』があっても良くない? 一年間、この瞬間のためだけに動いてきたのに、特別感ゼロの『再会』じゃねーか。まあ、俺とチロらしいって言やぁらしいけどさ……)
チロもチロで、一年ぶりに会ったというのに、これまた反応が昨日も一緒にいたかのようなそれ(「ただいま」の一言こそあったものの、それ以降はまったくの久々勘ゼロである)である。まあ、それもチロらしいと言えばチロらしいのだが……。
ま、ともあれ――。
「すみません、そろそろいいですか?」
「あたしもー。そろそろいいよね? もう町からはだいぶ離れたし。夕ご飯も食べ終わったし、レプもトッドくんも寝たし」
正面の席に座っているルナとアリスが、同じようなタイミングで似たような確認を口にする。
当然の反応だろう。口には出さなかったが、リアやセーナもおそらくは二人と同じ心境だったに違いない。
ブレナはため息まじりにこくりと頷き、続けて放たれた二人の言葉をすべからく受け入れた。
「紹介してください。このヘンテコリンなドラパピは何者ですか?」
「紹介してー。この可愛すぎる生き物はいったいなんなのー? なんなのー?」
「……ああ、そうだな。なんとなくタイミングを逸して、今の時間まで『まあいいか』でスルーし続けちまったが……紹介しよう。相棒のチロだ。ルナの言うとおり、ヘンテコリンなドラパピだ」
「ヘンテコ言うなーっ! オイラは由緒正しい巻きグソ――じゃなかった、ドラゴンパピーのチロだ! 変なふうに誤解されたらどうすんだー!」
がばっと小さな前足を二本、頭上に振り上げ、青きドラゴンパピーのチロが不平を並べる。
と、そのタイミングで、それまで黙っていたリアとセーナが、
「紹介だけじゃなく、説明も欲しいんだけど? これって、どういう状況?」
「同じく説明求む。何がどうなって、今これどーゆう感じの流れになってんの?」
「……ああ、それ聞く? 話けっこう長くなっちゃうけど? 長い間探してた相棒がようやく戻ってきた、って感じのライトな説明だけじゃダメ?」
「ダメですね。納得できません。ヘビーな説明求めます。これから仲間として行動を共にすることになるなら当然の工程かと。なにより、あんなに嬉しそうにはしゃいでいたレプや、見ているこっちが恥ずかしくなるくらい、ツンデレ全開な感じのブレナさんを見ると、三人の関係性がめちゃ気になります」
「めちゃ気になるー」
「めちゃ気になるね」
「めちゃ気になるわー」
「めちゃ面倒臭いんだけどな。つーか、俺そんなツンデレ全開な感じだった? 自覚まったくなかったんだけど? なんか急に恥ずかしくなってきたわ。ちょっと二、三分穴に入ってきていい?」
良いわけない、という四人の視線が同時にブレナへと注がれる。
嘆息。
彼は観念すると、チロに関する詳細な説明を彼女たちに話して聞かせた。
虚実織り交ぜながら。
そうしてジャスト三十七分間にも及ぶ、長大な昔話が始まり終わる。
◇ ◆ ◇
同日、午後10時39分――街道沿いのロッジ、大部屋。
「――と、いうわけだ。これがおまえらと出会う前までのいきさつで、俺とチロとレプ……つまりは俺たち三人の関係の全てだ。納得したか?」
全ての説明を終え、ブレナはそこでようやくと一息ついた。
まずチロと自分はミレーニアの辺境『ウォルフォート』出身だと説明した。まさか空に浮かぶ島から来た、とは言えるわけがなく、かといってすぐに嘘だと(世界に存在しない仮想の町など)分かる可能性のある話をするわけにもいかない。ウォルフォートは実際にミレーニアの奥地に存在する町(一年前にほんの少しだけ立ち寄ったことがある。辺境の中の辺境といったところで、まあ外から訪れたことがある人間などごく少数だろう)だし、話の信ぴょう性としては悪くないだろう。
次に、レプと出会ったいきさつはそのまま、嘘でコーティングすることなくありのままを伝えた。ここは偽る必要がない部分で、唯一、話していて良心の呵責のない箇所だった。
そして最後に、チロと離れ離れになることとなった『事件』のいきさつ。このエピソードには盛大に『出鱈目』を盛り込んだ。自分でも「これ大丈夫かな……?」と途中で心配になるほど、最終的には壮大な逸話となってしまった。が、さきの出身地の話とは違い、こういった話は大げさであればあるほど、意外と真実味が増すものである。ブレナは己の直感を信じ、勢いのまま、最後までノンストップで語り通した。
結果――。
「……そんなことがあったんですね。知りませんでした。まさかS級モンスターとの戦闘中、チロさんがでっかい雹《ひょう》に打たれて、そのまま奇跡的な確率で近くを流れていた巨大な滝に飲まれてしまったなんて……。でも、それよりもレプの生い立ちのほうが衝撃でした。そんなつらい過去があったんですね……」
「うぅ……レプ、可哀想……」
信じた。
信じて受け入れ、そして流した。少なくとも、ルナとアリスの二人は。
ブレナは恐る恐る、残りの二人へと視線を向けた。
「……あぁ、ごめん。そんな重い過去バナだったなんて思わなくて……茶化すような言い方して……ホント、ごめん」
「…………」
こちらの反応も、どうやら信じたと受け取って差し支えのないそれらしかった。
言葉で応じたセーナはもちろん、無言のまま、シリアスな表情を浮かべるリアにも疑っているようなそぶりはみじんもない。
――てゆーか、ちょっとリア泣いてない? うっすらと目に涙浮かべてない?
気のせいかもしれないが。
いずれ、セーナとリアの二人が信じてくれた、この二人の目をうまく切り抜けることができた、というのは大きかった。
ギルバードは、チロのことを知っているのは自分とナギだけ、と言っていたが、もしかしたら彼らがセブンズリードやほかの誰かに話している可能性もあるのではないかと疑っていたからである。とくにリアと彼の関係を考えれば、彼女が知っていたとしても不思議はない。
が、今のこの反応を見るかぎりは――いや、それ以前からの、チロが現れてから今までの反応とも合わせて考えると、おそらくは『知らされていなかった』と結論しておおむね問題はないだろう。
ブレナはホッと胸を撫でおろした。
と、そんなこちらの気苦労を知ってか知らずか、チロがいつもと変わらぬ様子で耳もとで囁く。
「うまく誤魔化せたね。オイラ、けっこう冷や冷やだったよー」
「…………」
嘆息。
波乱に彩られた一日が、ため息と共にそうしてようやくと終わりを迎える。
◇ ◆ ◇
同日、午後11時57分――街道沿いのロッジ、寝室。
レプは、唐突に目を覚ました。
ブレナたちの話し声が、隣の大部屋から室内に漏れ響く。
どうやら、自分とトッド以外はまだみんな起きているらしい。
睡魔で朦朧とする意識の中で、レプは寝言のようにつぶやいた。
「……チロ、いる?」
返事を求めての言葉ではなかったが、でも予想に反してすぐにそれはレプの耳へと返ってきた。
「いるよ。オイラはここ。レプのぬくい布団を絶賛満喫中」
布団の中がもぞもぞと蠢き、やがてそこからひょっこりと青い柔肌がのぞく。
現れたチロは、自慢の角をシャキリと反らし、
「目、覚めちゃったの? オイラまた、子守歌うたってあげようか?」
「…………」
弱々しく首を横に振り、レプは左手でチロの右手(右前足)をギュッと握った。
チロの温もりが、左手を伝って心に響く。
チロの温もり、チロの匂い、チロの声……。
生まれた安心が、母親の腕のようにレプの身体をやさしく包み込む。
レプはより強く、チロの右手をギュッと握った。
チロはやれやれと両目を細めて、
「ちょっと見ないあいだに、レプは甘えん坊になったなぁ。もうあと何か月かで十一歳になるんだから、もっとしっかりしなくちゃ」
「……ちょっとじゃない。チロはずっといなかった。レプは淋しかった……」
淋しかった。
いつも一緒に寝てくれたチロがいなくなって――ブレナには強がってへっちゃらなふりをしていたけど、一人で眠る夜が淋しくてたまらなかった。ブレナと離れて暮らしていた数か月で、少しは大人になったと思ったけど、でもダメだった。
別行動を終え、数か月ぶりにブレナと一緒に暮らすようになって、さらにはルナやアリスといった新しい仲間もできて、でもそれでも夜の淋しさは消えなかった。夜になるとチロのことを思い出した。思い出すと、余計に淋しくなった。
でも、もう……。
レプはまどろむ意識の中で、確認するように最後の問いをチロに放った。
「……チロ、もうどこにもいかない?」
「いかないよ。オイラはもう、どこにもいかない。ずっとレプたちと一緒さ」
力強く放たれたその言葉が、安らぎを運ぶ子守歌となってレプの心に優しく響く。
午後10時1分――街道沿いのロッジ、大部屋。
「レプ……となんかついでに知らない男の子も一人寝かしつけてきたよー。二人ともグッスリ寝てる。自分で言うのもなんだけど、オイラの子守歌スキルまったく錆びついてなかった」
「ああ、こっちまで聞こえてきたよ。おまえのへったクソな子守歌がな。音痴ってレベルじゃねーんだよ。あれで爆睡できるレプが、逆に心配になってくるわ」
六人掛けの長テーブル、その椅子のひとつにどっかと腰を下ろし、ブレナは冷めた視線で『相棒』を見やった。
相棒。
相棒である。
相棒のチロが、同じ空間にいる。
一年前まで当たり前だったその光景が、再び戻ってきた。
なんの前触れもなく、あまりにも唐突に――。
拍子抜けするほど、それは呆気なく訪れた『待望の瞬間』だった。
(……なんだかなぁ。もうちょっと『ため』があっても良くない? 一年間、この瞬間のためだけに動いてきたのに、特別感ゼロの『再会』じゃねーか。まあ、俺とチロらしいって言やぁらしいけどさ……)
チロもチロで、一年ぶりに会ったというのに、これまた反応が昨日も一緒にいたかのようなそれ(「ただいま」の一言こそあったものの、それ以降はまったくの久々勘ゼロである)である。まあ、それもチロらしいと言えばチロらしいのだが……。
ま、ともあれ――。
「すみません、そろそろいいですか?」
「あたしもー。そろそろいいよね? もう町からはだいぶ離れたし。夕ご飯も食べ終わったし、レプもトッドくんも寝たし」
正面の席に座っているルナとアリスが、同じようなタイミングで似たような確認を口にする。
当然の反応だろう。口には出さなかったが、リアやセーナもおそらくは二人と同じ心境だったに違いない。
ブレナはため息まじりにこくりと頷き、続けて放たれた二人の言葉をすべからく受け入れた。
「紹介してください。このヘンテコリンなドラパピは何者ですか?」
「紹介してー。この可愛すぎる生き物はいったいなんなのー? なんなのー?」
「……ああ、そうだな。なんとなくタイミングを逸して、今の時間まで『まあいいか』でスルーし続けちまったが……紹介しよう。相棒のチロだ。ルナの言うとおり、ヘンテコリンなドラパピだ」
「ヘンテコ言うなーっ! オイラは由緒正しい巻きグソ――じゃなかった、ドラゴンパピーのチロだ! 変なふうに誤解されたらどうすんだー!」
がばっと小さな前足を二本、頭上に振り上げ、青きドラゴンパピーのチロが不平を並べる。
と、そのタイミングで、それまで黙っていたリアとセーナが、
「紹介だけじゃなく、説明も欲しいんだけど? これって、どういう状況?」
「同じく説明求む。何がどうなって、今これどーゆう感じの流れになってんの?」
「……ああ、それ聞く? 話けっこう長くなっちゃうけど? 長い間探してた相棒がようやく戻ってきた、って感じのライトな説明だけじゃダメ?」
「ダメですね。納得できません。ヘビーな説明求めます。これから仲間として行動を共にすることになるなら当然の工程かと。なにより、あんなに嬉しそうにはしゃいでいたレプや、見ているこっちが恥ずかしくなるくらい、ツンデレ全開な感じのブレナさんを見ると、三人の関係性がめちゃ気になります」
「めちゃ気になるー」
「めちゃ気になるね」
「めちゃ気になるわー」
「めちゃ面倒臭いんだけどな。つーか、俺そんなツンデレ全開な感じだった? 自覚まったくなかったんだけど? なんか急に恥ずかしくなってきたわ。ちょっと二、三分穴に入ってきていい?」
良いわけない、という四人の視線が同時にブレナへと注がれる。
嘆息。
彼は観念すると、チロに関する詳細な説明を彼女たちに話して聞かせた。
虚実織り交ぜながら。
そうしてジャスト三十七分間にも及ぶ、長大な昔話が始まり終わる。
◇ ◆ ◇
同日、午後10時39分――街道沿いのロッジ、大部屋。
「――と、いうわけだ。これがおまえらと出会う前までのいきさつで、俺とチロとレプ……つまりは俺たち三人の関係の全てだ。納得したか?」
全ての説明を終え、ブレナはそこでようやくと一息ついた。
まずチロと自分はミレーニアの辺境『ウォルフォート』出身だと説明した。まさか空に浮かぶ島から来た、とは言えるわけがなく、かといってすぐに嘘だと(世界に存在しない仮想の町など)分かる可能性のある話をするわけにもいかない。ウォルフォートは実際にミレーニアの奥地に存在する町(一年前にほんの少しだけ立ち寄ったことがある。辺境の中の辺境といったところで、まあ外から訪れたことがある人間などごく少数だろう)だし、話の信ぴょう性としては悪くないだろう。
次に、レプと出会ったいきさつはそのまま、嘘でコーティングすることなくありのままを伝えた。ここは偽る必要がない部分で、唯一、話していて良心の呵責のない箇所だった。
そして最後に、チロと離れ離れになることとなった『事件』のいきさつ。このエピソードには盛大に『出鱈目』を盛り込んだ。自分でも「これ大丈夫かな……?」と途中で心配になるほど、最終的には壮大な逸話となってしまった。が、さきの出身地の話とは違い、こういった話は大げさであればあるほど、意外と真実味が増すものである。ブレナは己の直感を信じ、勢いのまま、最後までノンストップで語り通した。
結果――。
「……そんなことがあったんですね。知りませんでした。まさかS級モンスターとの戦闘中、チロさんがでっかい雹《ひょう》に打たれて、そのまま奇跡的な確率で近くを流れていた巨大な滝に飲まれてしまったなんて……。でも、それよりもレプの生い立ちのほうが衝撃でした。そんなつらい過去があったんですね……」
「うぅ……レプ、可哀想……」
信じた。
信じて受け入れ、そして流した。少なくとも、ルナとアリスの二人は。
ブレナは恐る恐る、残りの二人へと視線を向けた。
「……あぁ、ごめん。そんな重い過去バナだったなんて思わなくて……茶化すような言い方して……ホント、ごめん」
「…………」
こちらの反応も、どうやら信じたと受け取って差し支えのないそれらしかった。
言葉で応じたセーナはもちろん、無言のまま、シリアスな表情を浮かべるリアにも疑っているようなそぶりはみじんもない。
――てゆーか、ちょっとリア泣いてない? うっすらと目に涙浮かべてない?
気のせいかもしれないが。
いずれ、セーナとリアの二人が信じてくれた、この二人の目をうまく切り抜けることができた、というのは大きかった。
ギルバードは、チロのことを知っているのは自分とナギだけ、と言っていたが、もしかしたら彼らがセブンズリードやほかの誰かに話している可能性もあるのではないかと疑っていたからである。とくにリアと彼の関係を考えれば、彼女が知っていたとしても不思議はない。
が、今のこの反応を見るかぎりは――いや、それ以前からの、チロが現れてから今までの反応とも合わせて考えると、おそらくは『知らされていなかった』と結論しておおむね問題はないだろう。
ブレナはホッと胸を撫でおろした。
と、そんなこちらの気苦労を知ってか知らずか、チロがいつもと変わらぬ様子で耳もとで囁く。
「うまく誤魔化せたね。オイラ、けっこう冷や冷やだったよー」
「…………」
嘆息。
波乱に彩られた一日が、ため息と共にそうしてようやくと終わりを迎える。
◇ ◆ ◇
同日、午後11時57分――街道沿いのロッジ、寝室。
レプは、唐突に目を覚ました。
ブレナたちの話し声が、隣の大部屋から室内に漏れ響く。
どうやら、自分とトッド以外はまだみんな起きているらしい。
睡魔で朦朧とする意識の中で、レプは寝言のようにつぶやいた。
「……チロ、いる?」
返事を求めての言葉ではなかったが、でも予想に反してすぐにそれはレプの耳へと返ってきた。
「いるよ。オイラはここ。レプのぬくい布団を絶賛満喫中」
布団の中がもぞもぞと蠢き、やがてそこからひょっこりと青い柔肌がのぞく。
現れたチロは、自慢の角をシャキリと反らし、
「目、覚めちゃったの? オイラまた、子守歌うたってあげようか?」
「…………」
弱々しく首を横に振り、レプは左手でチロの右手(右前足)をギュッと握った。
チロの温もりが、左手を伝って心に響く。
チロの温もり、チロの匂い、チロの声……。
生まれた安心が、母親の腕のようにレプの身体をやさしく包み込む。
レプはより強く、チロの右手をギュッと握った。
チロはやれやれと両目を細めて、
「ちょっと見ないあいだに、レプは甘えん坊になったなぁ。もうあと何か月かで十一歳になるんだから、もっとしっかりしなくちゃ」
「……ちょっとじゃない。チロはずっといなかった。レプは淋しかった……」
淋しかった。
いつも一緒に寝てくれたチロがいなくなって――ブレナには強がってへっちゃらなふりをしていたけど、一人で眠る夜が淋しくてたまらなかった。ブレナと離れて暮らしていた数か月で、少しは大人になったと思ったけど、でもダメだった。
別行動を終え、数か月ぶりにブレナと一緒に暮らすようになって、さらにはルナやアリスといった新しい仲間もできて、でもそれでも夜の淋しさは消えなかった。夜になるとチロのことを思い出した。思い出すと、余計に淋しくなった。
でも、もう……。
レプはまどろむ意識の中で、確認するように最後の問いをチロに放った。
「……チロ、もうどこにもいかない?」
「いかないよ。オイラはもう、どこにもいかない。ずっとレプたちと一緒さ」
力強く放たれたその言葉が、安らぎを運ぶ子守歌となってレプの心に優しく響く。
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