転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた

kisaragi

文字の大きさ
96 / 112
第7章

第95話 決断の夜

しおりを挟む
 神歴1012年、6月10日――ミレーニア大陸中部、ラドン村。

 午後9時37分――ラドン村、宿屋近くの坂道。

 ルナは軽く辺りを見まわすと、

「ブレナさん、見当たりませんね。逆方向に行ったのかな?」

「丘のほうに行ったんじゃない? あたしたちも、そっちに行く?」

「いえ、わたしたちはここで話しましょう。ブレナさん、一人で考えたいって言ってたし」

 もしこの場所にいたら、ブレナにもを聞いてもらうつもりだったが、いなかったのならしようがない。リアだけに話そう。

「で、話って?」

 さっそく、リアが訊いてくる。

 ルナは慎重に言葉を選びながら、

「この村に入る前――わたしたちが『二手』に分かれたときの話です。いえ、違いますね。正確には、行き止まりに行き着いたあと――わたしが単独行動に走ったあとの話です」

「…………」

「あのあと、リアさんがわたしを追いかけるまでのあいだ、?」

「どうって、別に変わった行動してる奴はいなかったけど? そんな注意して見てたわけじゃないけど。一分もしないうちに、あんたを追うとみんなに伝えて、あたしもその場を離れたし」

「……そう、ですか」

 短くそう答えると、ルナはあごの下に右手を潜らせ、黙考した。

 と。

「単刀直入に訊くけどさ。あんた――」
 
 数秒と経たないうちに、リアによって強制的に思考がカットされる。

 彼女はその口のまま、ことさら強調するようにその先を続けた。

「もしかして、、って考えてるの?」

「…………」

 …………。

 沈黙。

 短い沈黙のあと、だがルナは覚悟を決めて答えた。

「はい。


      ◇ ◆ ◇


 同日、午後9時39分――ラドン村、宿屋近くの坂道。

「まず、あの出入り口の洞窟で『黒髪黒目の男に化けたサラ』と相対しているわたしたち四人は除外できます。でも、それ以外の四人に関しては――」

「それ、ちょっと無理があると思うけど? まず、あたしたちより後方にいたセーナ姉たちがどうやって先回りしてあの洞窟に行ったの?」

 当然の疑問だろう。

 ルナは、用意していた答えをリアに返した。

「それに関しては、あたしたちの知らない『抜け道』のようなものがあるのかもしれませんし、その抜け道が大幅な『ショートカット』として機能している可能性もありえます」

「でも、セーナ姉たちがあたしたちと合流したときには四人全員揃ってた。セーナ姉は先行して道中の安全を確保、レプは後方で伏兵の襲撃に備えてたって話だから、別行動になってた時間は確かにそれぞれそれなりにはありそうだけど……。けど、だとしてもそんな発想に至る? いくらなんでもリスクありすぎる行動だと思うけど」

「でも、成功したときのリターンは大きいです。勝てる確率が一気に高まる」

「……まあ、それは……そうかも、だけど」

 歯切れ悪く、リアが応じる。

 彼女はそのまま、思い出したように、

「でも、そもそもセーナ姉とアリスはサラと直接会ってない。ブレナの話では、直接会ってなければ化けられないはずなんじゃなかった?」

「どこかで会った可能性は捨てきれません。サラだと気づかずに、サラが化けた人物と会っていた可能性は否定できないです」

「…………」

 リアが、黙る。

 自分の中で、考えを整理しているのだろう。

 やがて、彼女は『改めて』といった調子で口を切った。

「けど、仮にサラがあの四人の誰かに化けていたとして、?」

「分かりません。どこかのタイミングで入れ替わったのかもしれませんし、かもしれません」

「最初からって、フェリシアの町にいたときからってこと?」

「そういうことになります。自然という意味では、そのタイミングが一番自然と言えるかもしれません」

「そのあいだずっと、あたしたちをだまし続けてたってわけ? ありえない。いくらなんでも荒唐無稽すぎる。少なくても、セーナ姉だったらあたしが絶対気づく」

「…………」

 否。

 記憶までコピーするのだから、それに自分たちが気づくのは至難の業である。

 どれだけ親しい間柄でも、それっぽく振舞われたら感づくのは容易ではない。

 ましてや、入れ替わっている、という発想そのものが頭になかったのだから尚更《なおさら》である。

 が、ルナはそのことについては何も言わなかった。

 いや、言わなかったというより、

 唐突に、がルナの頭の中にスッと浮かび上がったからである。

 今までそのことについて考えなかったのがたちの悪い冗談であるかのように、そうして『それ』はあっという間にルナの脳裏を支配した。

 と、リアが言う。

「……じゃあ、聞くけど」

 重々しい語調トーン

 聞いた瞬間、ルナは悟った。

 リアが今から言おうとしている内容と、今しがた、自分の脳裏に浮かび、またたくうちに脳内を席巻していった『それ』が同じであるということを。

「あんたの仮説どおり、仮にもし、サラがあの四人の誰かに化けていた場合――」

 化けていた場合――。

 ルナは、自らの鼓動が急速に高鳴っていくのを自覚した。

 ああ、そうだ。

 その場合は――。

 若干の間を置き。

 リアは、苦しげに言った。

「化けられた相手は、?」

 不安の二文字が、怒涛の如くルナの心に押し寄せる。

 
      ◇ ◆ ◇


 同日、夜9時50分――ラドン村、村はずれの小高い丘。

 ブレナは、遠くを見ていた。

 ただ、ぼんやりと遠くを。遠くを見ていたい、気分だった。

 と。

「どうした? 眠れないのか? 枕もとで、子守歌でも歌ってやろうか?」

「…………」

 振り向く必要などなく、声の主が誰なのか分かる。

 いや、声などかけられなくても、気配だけで分かる。

 分かるのだ。

「なんの用だ、ナミ? 俺の乳でも恋しくなったか?」

「気持ちの悪いことを言うな。貴様の乳など飲んだ覚えは一度もない」

 ナミ。

 十年間、娘として育てた原初の生命体。

 ずいぶんと美しく成長したものだ。親のひいき目抜きにしても、そう思う。

 スッと隣に並び立った彼女は、絶世と称してもなんら不都合のない、見事な美女に育っていた。
 
「なんだ、見惚れているのか? 素直に白状すれば、目の間で見つめることを許可してやってもいいぞ」 

「そうか。じゃあ、素直に白状するよ。。てことで、もっと近くで見させてもらうぜ」

「…………っ!?」

 言われたとおり、素直に白状し、スッと目の前まで顔を寄せると――だが、ナミは驚いたようにバッと視線をそらした。

 そのまま、若干と頬を赤らめ、感情を露わに言う。
 
「……なんの真似だ! 冗談に決まっているだろう! 真に受けるな!!」

「……いやあの出方で、その反応はないだろ?」

 ない。

 ブレナは呆れたように一息吐くと、ことさら両目をジトリと細めて、

「ったく、無理すんなよ。尊大クールキャラなんておまえには似合わない。ちょっとくらい作る必要はそりゃあるかもしれないが、ここまで変える必要あるのか?」

「……変える?」

 と、その瞬間、ナミの表情に目に見えて険が混じる。

 彼女はキッと両目を鋭く切り替え、

「知ったふうな口を聞くな。これがだ。作ってなどいない。貴様にわたしの何が分かる? あれから千年経った。千年だぞ? いろいろなことがあった。あのときのわたしとは、違うわたしとなって当然だ。千年間、ただの一度も訪ねてこなかった貴様に、とやかく言われる筋合いはない」

「…………」

 ああ、そうだ。その通りだ。

 とやかく言える立場にはとてもない。

 ナギやナミの身になって考えたことなど、ただの一度もなかった自分に二人をどうこう言える資格なんてありはしないのだ。

 ブレナは、何も言わずに両目を伏せた。

 自分は、二人のことを何も分かっていない。

 何も分かっていないのだと、改めて分かった。

 否、

 ブレナは、視線を上げた。

 なんとも言えない複雑な表情を浮かべているナミと、そうして再度両目が合う。

 彼は、言った。

「なあ、ナミ。サラが誰に化けているか分かったら、おまえにそれを伝えればいいんだったな?」

「……ああ、そうだ。正否はその場でわたしが偽ることなく答えよう。だが、期限があることを忘れるな。期限は明後日あさっての――」

「いや、期限の確認はいらない。明日の朝八時、宿屋一階の食堂に来てくれ。そこでサラが誰に化けていると思うかをハッキリと伝えるよ」

 ブレナは、濁すことなく言い切った。

 受けたナミが、少し困惑したように両の瞳を震わせる。

「……もう目星がついているというのか?」

「ああ、ついさっき確信した。今晩、ベッドの中で覚悟を決めるよ」

 覚悟を決める。

 ブレナは、空を見上げた。

 満天の星。

 今の自分の心とは真逆の、雲ひとつない美しい夜空だった。

 覚悟の夜が明け、そうして激動の朝が始まる……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

処理中です...