転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた

kisaragi

文字の大きさ
97 / 112
第7章

第96話 誰がサラか(この話以降、第7章においての重大なネタバレが生じます。途中から読むタイプの方はご注意ください)

しおりを挟む
 神歴1012年、6月10日――ミレーニア大陸中部、ラドン村。

 午前7時57分――ラドン村、宿屋1階の食堂。

 ブレナは、軽く周囲を見まわした。

 八人掛けのテーブルには、自分とナミを含む七人の人間が座っている。

 すなわち、ブレナ、ナミ、リリー(ナミの側仕えの、オッドアイの少女はリリーという名らしい)、ルナ、アリス、リア、セーナの七人である(レプとトッドはいまだ夢の中だった)。

「……おじいさんたちの姿も、ありますね」

 と、ルナのその囁きにうながされるように、視線を食堂の隅へと滑らせる。

 彼女の言うように、確かにそこにはくだんの三老人の姿もあった(今、思い出したが、宿屋の主の名前がタンである。つまりはもう片方がロンだ)。四人掛けの丸テーブルを囲うように、それぞれ席についている。

 自分の頭の上をパタパタと飛んでいるチロも含めれば、今現在、この村に滞在するほとんど全ての人間がこれで一堂に会したことになる。

 つまりはもう、

「前説は必要か? あまり得意じゃないが、おまえがやってほしいと言うのなら盛り上げる努力はしてみるが」

 真面目に言っているのか、冗談で言っているのか、区別がつかないような口ぶりでナミが言う。

 ブレナは短く、首を左右に振った。

「いや、必要ない。さっさと済ませて、新たな気持ちで朝飯を食いたいからな」

「……ちょっと、ブレナ? ホントにもう、誰がサラか分かったの? 三人とも違いあんま感じられないし、アタシには誰がサラだかサッパリなんだけど……」

「あたしもー。宿屋のおじいちゃんが怪しい気もするけど、それだと単純すぎるし」

「うんうん、オイラもサッパリ。まだ日にちに余裕あるし、焦って結論出さなくてもいいんじゃない?」

「いや、出す。自信はあるから心配するな。おまえたちも、納得済みだよな?」

「……はい。ブレナさんに任せます。ブレナさんがをするときは信用できるって分かってますから」

「うんうん、あたしもブレナさんのその目を信じる! 本気の目だもん!」

「……いやあんたらと違って、アタシはブレナの『本気の目』とか全然信用できないんだけど? いつもとどこが違うのか、そんなよく分かんないし」

「よく分かんないなら、分かる奴らのこと信用しようよ。あたしやセーナ姉より、ルナやアリスやチロのほうがブレナをよく分かってる」

「……いや、オイラ誰よりよく分かってるけど、ブレナの本気の目はそんな信用してない……」

 どうやらあまり納得していない者もいるようだが。

 が、ブレナの出した結論は揺るがない。

 彼はまっすぐにナミを見つめると、

「じゃあ、言うぞ?」

「待て。その前に、隅のテーブルにいる三人を呼んでこよう。そのほうが――」

「いや、呼ぶは必要ない。

「……どういう意味だ?」

 どういう意味?

 怪訝に眉をひそめるナミに、ブレナはハッキリと告げた。

 取るに足りないことを言うのかのような口調で。

「どういう意味? ああ、そいつはいたってシンプルだ。。よって彼らが席を移動する必要はない。単純な話だろ?」

 
      ◇ ◆ ◇


 同日、午前8時3分――ラドン村、宿屋1階の食堂。

「え、え、え、それってどういう意味!? あの三人の中にいないって――ちょっと言ってる意味分かんないんだけど!」

「セーナさんの言うとおりだよ! あたしも意味分かんないー!」

「オイラもだー! あの三人の中にいないなら、じゃあどこの中にいるのさー!」

 と、周囲の面々から続々と驚きの声が上がる。

 が、無論、想定内の反応である。

 むしろ思ったよりも少ないな、とブレナは感じた。

 彼は、反応が薄かった二人へと視線を向けた。

 ルナとリア。

 彼女たちは黙ったまま、視線を若干と下方向に向けていた。

 どうやら、二人も同様の結論に至っていたらしい。

 一緒かどうかは別にして。

「……よく分からないな。この村の住民は、あの三人だけだと伝えたはずだが?」

「ああ、知ってるよ。それを受けての、今の言葉だ。何か矛盾があるか?」

 ひそめた眉のまま、そう訊いてくるナミにたんたんと応じる。

 受けたナミは何か言いたげに口をひらいたが、先に言葉を発したのは彼女のそれではなかった。

「あー、そういうことか。理解した。。盲点だった」

「え、なになに? セーナさん、どーゆう意味? 何か分かったの??」

 セーナとアリス。

 二人の会話が、視界の外で続く。

「住民、じゃないけど、この村にはほかにあと二人いるじゃない? 思い込みで除外しちゃってたけど。目の前に、候補となるのが二人も」

「あーっ、そっか! ! 二人のうちのどっちか、に化けてる可能性もあるんだ!」

 ナミとリリー。

 アリスの言うように、この二人も『条件を満たす』候補であるのは間違いない。

 だが――。

「……あ、そっか。の可能性もあったんだ」

 と、ルナがぼそりとつぶやく。

 その可能性は考えていなかった、という顔だ。どういう心境なのかは分からないが、どことなくホッとしているような表情にも見えた。

「なるほど。そういうことか。確かにわたしたちも候補者の一人だったな」

「ボクッちは違うよー! ナミ様も違うー! 変な言いがかりはよせー!」

「そりゃ違うって言うでしょ? そうでも、そうじゃなくても」

 セーナの言を借りるまでもなく、当たり前のことである。

 が、

 ブレナは、ゆっくりと首を左右に振った。

「いや違う。ナミでもないし、そっちのガキでもない。サラが化けてるのは、

「……は? それ以外って……どういう意味?」

 セーナが、混乱したような顔で訊く。

 ブレナは間髪いれずに答えた。

、という意味だ。サラは、俺たちの中の誰かに化けている」

「……はぁ? あんた何言ってんの? そんな馬鹿なこと……」

 言いかけ、セーナが同意を求めるような視線でリアを見やる。

 と、ほぼ同時に、アリスも同種の眼差しでルナを見やった。

 が、二人はそれに応じない。

 ルナとリアの二人は、どうやら自分と同じ見解らしかった。

 ブレナは、言った。

「もったいぶるのは好きじゃない。そろそろ答えを示すぜ。ナミ、応じる準備はできてるか?」

「……ああ、いつでもかまわない。それにしても、自分たちの中に紛《まぎ》れていると考えるとはな。驚いたよ。柔軟な発想だ。正解かどうかは別にして」

 ナミが、シニカルな笑みを浮かべて答える。

 ブレナは、深く長い息を吐いた。

 そのまま、その場にいる全員を順繰りに見まわす。

 溜めたのは、だがその短い時間だけだった。

 もったいぶるのは好きじゃない。

 ブレナは、速やかに『答え』を示した。

 

 彼は何も言わずに、ただその方向を指さした。

 その方向――。

 

 名状しがたい沈黙が、見る間に周囲を席巻する。

 
      ◇ ◆ ◇


 同日、午前8時8分――ラドン村、宿屋1階の食堂。 

「そんな!? それはおかしいです! ありえません!!」

 最初に反応したのは、思いがけず『ルナ』だった。

 ブレナは彼女のほうを見やると、

「なぜ? なんでありえないんだ?」

「だって、チロさんはあのとき、わたしたちと一緒にじゃないですか!? あの場所にいて、黒髪黒目の男に化けたサラと会ってる! 身体がふたつないかぎり――」

、な」

「…………え?」

 ルナが、その瞬間にポカンと固まる。

 ブレナは続けざまに言った。

「あいつがサラだった、という確証は何もないだろ? 自分で自分のことをサラだと言っただけだ。奴がサラの共犯者で、サラに言われたとおりの言葉をただ喋っただけの『役者』だとしたら、あの場にいた俺たち四人も『候補者』となり得る」

「…………」

 ルナが、黙る。

 否、ルナだけじゃない。

 当のチロも含め、誰一人、言葉を発することはなかった。

 ブレナは一人、言葉を紡いだ。

「ペンダントを失くした俺には、実際にチロが復活していたかどうかを確認するすべがなかった。おそらくはその状況に付け込まれた。フェリシアの町でチロと合流したとき、ほんの一瞬だけ違和感を感じたんだ。あのときは興奮とうれしさで、その感覚をすぐに右から左に流しちまったが、今になってその正体がわかった。こういう状況になってあらゆる可能性を考えていくうちに、それに行き着いたんだ。きっかけは昨日の夜、アリスとチロがしていた会話だ」

 ――ねえねえ、チロくんってさ、ギルティスから何日くらいでこの大陸まで飛んできたのー?

「あのとき、チロは一週間くらいでギルティスからミレーニアまで渡ってきたとアリスに答えた。実際、チロの飛行能力なら七日なのか程度で大陸間を渡ることは不可能じゃないだろうが――でも、チロにそんな根性はない。ないんだ。休み休みで、実際はその倍以上かかる。それにチロは単純なんだ。絶品アップルパイで機嫌を直さないはずがない。そうだと思って考えると、ほかにもおかしな瞬間は少なからずあった。、考えるとな」

 そうだと思って考えなければ、でも気づかないくらいの小さな違和感だ。

 いや、それは言い訳か。

 一年や二年の付き合いではない。今までそれに気づかなかった時点で、相棒失格だと言わざるを得ない。

 が。

 それは昨晩、ベッドの中で飽きるほど反芻した。

 今はもう、前を向いている。

 前を向き、そうしてナミの言葉を待っている。

 確信に満ちた面持ちで。

 やがて、彼女は言った。

 想定した通りの言葉を、感心したような口ぶりで。

「……だ。まさか当てられるとは、後ろの『サラ』も思ってなかっただろうな」

 後ろ。
 
 振り向くと、そこにはもうチロの姿はなかった。

 代わりに――。

「……にゃはは、当てられちゃった。愛弟子のリリーに、カッコいいとこ見せたかったんだけどなー」

 笑うサラが、その正体を白日のもとに晒していた。

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

【第2章完結】王位を捨てた元王子、冒険者として新たな人生を歩む

凪木桜
ファンタジー
かつて王国の次期国王候補と期待されながらも、自ら王位を捨てた元王子レオン。彼は自由を求め、名もなき冒険者として歩み始める。しかし、貴族社会で培った知識と騎士団で鍛えた剣技は、新たな世界で否応なく彼を際立たせる。ギルドでの成長、仲間との出会い、そして迫り来る王国の影——。過去と向き合いながらも、自らの道を切り開くレオンの冒険譚が今、幕を開ける!

処理中です...