そして今日も、押入れから推しに会いに行く

ツルカ

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サースティールート

小さな彼と変わらない想い(同日)

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 目を覚ましたらそこは真っ暗闇の世界で、ああきっと私はまた来てしまったんだな、と思う。

 呼ばれたのか、自分で来てしまったのかも分からないけれど……。

 暗闇の世界――私の知っているたった一つだけのそこは、心のどこかでずっとまた来たいと思っていた場所だった。

 もう一人のサースが……滅びた世界の果てに魔王として存在している、とても寂しい世界。
 あの人のことがずっと気がかりだったから、無意識に来てしまったとしても、何も不思議ではない気がする。

(……)

 とは思うのだけど、キョロキョロと辺りを見回しても、サース様の気配を感じない。
 魔力の気配も、濃縮された影も感じない。ただの闇が広がっている。

(えっと……)

 確か私は、意識を沈めているサースの隣に寄り添っていて……。
 たぶん、そのまま眠ってしまったんだよね。
 眠る前の私は、とても満たされた気持ちでいっぱいだった気がする。
 サースが、あ、あ、あっ愛してるって……言ってくれたから……。
 あんなにもまっすぐに彼の気持ちを伝えてくれたことは初めてだと思う。
 思わず泣き出してしまった私をサースは優しく抱きしめてくれて、一人にしないって言ってくれた。
 味覚を感じ合ってもいいかって言いだして……ああああ、これは思い出しちゃいけない奴だったかも……っ。

(……ともかく)

 深呼吸をして気を取り直す。

(サースは自分の身体に心を沈めて、自分に向き合ってくる時間が欲しいと言っていた)

 その横で、私はぐーすか寝てしまって、きっと今に至る。

(……ということは、やっぱり自分で来てしまったのかな)

 なんとなくそう思える。
 だってあれから私はず~~~~っと、魔王となったサース様のことを考え続けていた。
 出来るならもう一度会いたいと思っていた。
 だから……ここに来ていても、何もおかしな気持ちにならないし、不安にもならない。

(だって、ここは、サース様の世界だから……)

 真っ暗な闇は、不純物の混ざらない純粋で綺麗な何かのように、心に染み入って来る。
 少しだけ寂しさの混ざる澄んだ闇の空気。
 彼の心のような闇を、私は怖いとは思わなかった。

(さてと……どこかにサース様がいるんだろうな)

 そう思いながら立ち上がると、自分の心に聞いてみることにした。

(特別なものを何も持たない私が異世界に来るようになって……唯一、チートに目覚めたと胸を張って言えるんじゃないかと思えるものが一つだけある。それは……サースに関してだけの、絶対感知能力のようなもの。彼の居る場所をいつだってほんのり感じることが出来るのだ)

 恥ずかしすぎてサースにはとても言えないけど……。
 バレたら生きていけないけど……。

 手をニギニギさせながら彼の元に飛ぶようになってから……毎日訓練のようにサースの居場所を目指していたら、なんとなく気配のようなものを感じ取れるようになってきていた。
 もしかしたらこれはサースの魔力を感じ取っているのかもしれないけれど、私には彼の匂いとかフェロモンとか得体が知れないけれどとにかく色気を漂わせながら放出されている何かとか、彼の全部を総合的に感じ取ってのものに思えてる。

(私しか知らない……私にしか感じ取れない彼を感じ取ってる……)

 あれ、言葉にすると、なんかすごい台詞になりそうな気がする。
 あ、ダメだ、考えるだけで顔がにやけてしまう。
 しかもまだ全部じゃないし!み、味覚まだだし……いやそれは考えると頭がぐるぐるしだしちゃう奴だから!!

(はう……)

 考え事をしているだけでも息を乱しながら、気を取り直してこの世界のサース様を探し出そうと思う――

 きっと私になら彼を探し出せる気がする。

 それに……きっと待ってる。
 寂しさにも無自覚なあの人は、私のことをきっと、邪魔にはしないと思う。

(とても優しくしてくれていたから……)

 たった一度出会っただけのサース様は、最初から最後まで、紳士的で優しかった。

(よし……!)

 と気合を入れるようにしてから、私は目を瞑る。
 私を幸福にさせる、サースから出てくる色々なものを思い浮かべて……。
 甘くて苦くて爽やかな匂い、玉のような白い肌……長いまつ毛は美しさを描いた筆の跡のようで……私の名前を囁く低い声は、天上の音楽のように心に響いて来る……。

(ん?待てよ……)

 はたと気づく。

(このまま本気でサースのことを思い浮かべて彼の元に飛んだら、きっと元の世界に戻ってしまう……?)

 ということは、一番近くにサースの気配を感じる場所を探してみるといいのかな……。

(この闇の世界の中の……サース様の気配のある場所に……私を連れて行って)

 そう願いながら、私は魔法を発動させて、飛んだ。







 目を開けると、そこはまだ闇の世界の中だったけれど、目の前の空間が少しだけさっきと違って見える気がした。
 純粋な闇が更に濃縮されて、美しい宝石のように煌めいている……そんな空気が漂っている。

(ああ、きっとサース様がいる……)

 確信を持ってそう思えた。
 居ると思ってみると見えてくるものなんだって。前回私はそれを学んでいた。

(ここに、サース様がいる。私には見える――)

 そう思いながら食い入るように暗闇の空間を見つめていると、じんわりと浮かびあがるように、闇色の中に人の輪郭が浮かび上がって来た。
 細身の美しい身体……長い黒髪……だけどその輪郭は、私の知っているあの人よりずっと小さくて……。

(ん?小さい……?)

 なんで小さいんだ?って思いながら目を凝らしていると、ぼんやりとしていた輪郭がくっきりと見えてくる。
 細くて、小さくて、綺麗で美しいけれど、その姿はまるで子供のよう。

(子供……?)

 言葉にしてみるとしっくりくる。
 私よりも背が小さくて、小学生くらいの男の子のように見えるその姿は、確かに美しい子供のものだ。
 あどけなさの残る少しだけ幼い顔立ちをしながらも、その子供の姿は、確かにサースだった。

(か、か、か、可愛い~~~~~~~~!)

 だって頬が、大人のサースのシャープな顎のラインではなくて、少しだけぽちゃっとしてて、そのせいか瞳も心なしか大きく感じる。

 例えるなら……そう例えるなら……!

(天使がここに居る……!)

 無垢な瞳の、この世界の純粋なものを凝縮したかのような、澄んだ空気を纏う世界一の美少年。
 少年バージョンの……サース様がいる!

 これだけ毎日サースにときめきながらも、まだ開けてなかった新たなときめきの扉があったのかと、興奮し過ぎて頭がクラクラとする。

(なんでそんな貴重な存在に私はお目にかかれたの……?)

 さっぱり分からないけれど、理由なんてこの際どうでもいい。
 神の与えたもうたこの奇跡。
 きっともう二度と訪れないだろうこのめぐり逢いを、めいいっぱい堪能しておきたいと思います!

 その男の子は、ぼんやりと空間を眺めるように立って居たけれど、私がゆっくりとその子に近寄ると、ふっと視線を私に移してきた。

 無垢な瞳に映されると、私の穢れた心を見透かされるかのような気持ちになってドキドキする。
 まっすぐに私を見つめる瞳は、少しも私から逸らされることはない。

 その瞳が語っているような気がした。
 あなたは、誰?と――

 目の前に立つとやっぱり私の方が背が高くて、見下ろすサースがあまりに可愛くて、私はふふふと笑ってしまう。

「はじめまして……サリーナです。あなたはサースティー・ギアン?」
「……俺を知っているのか?」

 返事をしてもらえたことが嬉しくて、私はまた微笑んでしまう。
 そんな私に彼は戸惑うような視線を寄こした。

(ああ、やっぱり、この子は私のことを知らないんだな。サースとも、サース様ともまた違うんだ……)

 きっとこの子は、魔王のサース様とは違って、今の、この出会いの意味さえ教えてはくれない気がする。
 だけど、そんなことは、私には気にならないことだった。

「うん。大人になったあなたを良く知っているの……」

 小さなあなたに出会えたことが、ただ嬉しい。
 私の返事に、彼は不思議そうな表情をした。

「大人になったあなたとずっと一緒に過ごしていたんだよ」

 彼は私の言葉に考えるようにしてから、俯いて言った。

「俺と共に居るものなど、誰も居ない……」

 その言葉の意味を理解すると、胸がズキリと痛んだ。
 小さな子供のころから、サースはきっとそんなことを思いながら生きて来ていたんだろうな。

 たった一人で、誰かに期待することもなく、きっと寂しさすら気づかずに。

 彼は興味を失くしたように私から視線を外すと、私を置いて歩いて行ってしまおうとした。

「ま、待って……」

 走って追いかける私を振り返ることもなく、彼は歩き続ける。
 目を凝らさないと見失ってしまいそうに思えた。
 今にも闇の中に溶けて消えていってしまいそう。

 やっと隣に追いついたところで、私は彼に話しかけた。

「どこに行くの……?」
「……」
「私も一緒に行くよ」

 というかお願いだから連れて行って欲しい。
 横を歩く彼を見下ろすと、日頃お目にかかるのは難しい彼の頭のつむじが見えて、それだけでときめきが止まらないと言うのに置いて行かないで欲しいの……!

「……」

 不思議そうな視線を投げかけられて、私はにっこりと笑う。

「側に居させて欲しいな」
「……」
「一緒に行きたいな……」

 だんだんと気持ちを押し付けていないか心配になって声がしぼんで来てしまう。
 だけど、そんな私の様子を見ていた彼は、暫くしてからこくんと頷いてくれた。

 嬉しくて、いつものくせでサースの手を繋いで歩き出そうとしてしまった。
 立ち止まったまま、じっと繋いだ手を見下ろす彼の視線でそれに気づく。

「あ……ごめんね」

 慌てて手を放すと、彼は不思議そうに自分の手を見つめた後に、私に向かって手を伸ばして来た。

(ん……これは?)

 まっすぐに伸ばされた手は、まるで繋いでも構わないと言われているように見えるけれど……。
 ドキドキとしながら手を重ね合わせると、彼の方からぎゅっと握ってくれた。

(ふわあぁぁぁぁ……!)

 なんだこれ。なんだこれ。ときめき値はマックスだよ……!!

 彼は手を繋いだまま歩き出して、私は連れられるままに隣を歩いた。

 ちらりと横を窺い見ると、サラサラキューティクルな御髪が、いつもより更に艶々としているように見える。若いってすごい!天使ってマジ天使!

 ニマニマしている私をよそに、彼は目指す場所でもあるかのようにまっすぐに歩き続けていた。
 暫くしてから、彼に話しかけてみることにした。

「どこに向かっているの……?」

 私の言葉に、ちらりと視線を寄こして答えてくれた。

「居場所、のある場所」
「居場所?」

 はて。
 この暗闇の空間で、何か少し違う感じの場所でもあるんだろうか。

「息を吸える場所。温かい場所。休める処」
「……え!?」

 今息を吸える場所って言った?

 驚き過ぎて私の方が息を吸えない気持ちになりながら、彼の頬を両手でがしっと掴んで言った。

「息苦しいの!?大丈夫?寒いの?熱あるの?疲れ取れないの???」

 こんなところで一人ぼっちの子供が病気になったら、誰が見てくれるって言うんだろう。

「大丈夫?他にしんどいことある??」

 サース君の頭を思い切り抱きしめた。

「心細かったよね。大丈夫だよ。一緒に居るよ……」

 何が何やら哀しい気持ちでいっぱいになって、思わずぼろりと涙を流してしまう。 

 だって、この子は、間違いなく、サースなんだ。
 ずっと一人で育って来て、きっと病気になっても一人ぼっちで、居心地のいい場所を探して歩き続ける猫のように生きてるんだ。

「これからは、ずっと一緒に居るよ……」

 泣きじゃくりながら言った私の背中に腕を回すようにした彼は、戸惑うようにポツリと言った。

「君は……誰なの?」

 顔を上げてぶさいくな泣き顔を美しい人の前に晒すと、彼は少しだけ驚いたような顔をしてから、はにかむような笑顔を見せた。












 結局私は、子供のサース君に促されるままに、サース様にしたのと同じように異世界のことやゲームのことを全部話してしまった。

「魔王……」

 サース様のことを説明したくだりで、彼は考えるように黙り込んでしまった。

 サース君の受け答えがあまりに聡明だったから話してしまったのだけど、子供に話す内容ではなかったと気が付いて落ち込んだ。

「ごめんなさい……」

 私の台詞に彼は顔を上げると、言葉の意味を探るような視線を寄こした。

「こんな辛い話を聞かせてしまってごめんなさい」
「……どんなことでも、本当のことを知らないことより辛いことはない」

 この子は子供なのに、私よりずっと大人びたことを言っている気がする。

「つまり君は……」
「うん?」
「俺の伴侶となるものなのか?」

 は、は、は、伴侶!!
 言葉のチョイスがまさにサース!
 この子は本当に小さなサースだ!

「そ、そうですね。いつか伴侶になれたらいいなと思いながら今を励んでます……」
「……そうか」

 間違ってない……よね?
 サースにあ、あ、あ……愛してるって言ってもらった今、これくらいのことを思ってもいいよね。
 彼はじっと私を見つめていた。

「俺と共にいるのは苦痛ではないのか?」
「まさかとんでもない……!毎日幸福を貰う一方です。幸福貯金が溜まり過ぎていつか悪いことでも起こるんじゃないかと逆に心配になるくらいです……」
「その状況で、まだ悪いことが起きてないと言うのか……?」
「え?」

 きょとんと彼を見返すと、彼は困ったように微笑むだけだった。
 子供なのに、すごく大人びた表情をする子だと思った。

「君は、どうして俺のことが好きなの?」
「ふぇぇぇぇっ!?」

 サース本人からも聞かれた事が無いのに、小さなご本人様から聞かれてしまった。
 というか、この子、ゲームのことも、万能魔法のことも、魔王サース様のことも何も聞いてこないのに私のことばかり聞いてくる気がする。
 な、なんでなんだろう……。

 返事に困っていると、彼は私の手を両手で握り締め、軽くさすり出した。

(ぎょわわわわわっ)

 小さな美しい御手にさすられると、こんなにもぞわぞわするのかと生まれて初めて知りました!

「……温かいな」

 一応、生きてますから……。

「……」

 私にまっすぐに大きな漆黒の瞳を向けた彼は、ゆっくりと体を近づけると、私の首筋の匂いを確かめるように嗅いだ。

(ひぃぃぃぃぃぃ……)

 今まさに汗かきまくってるのにっ。

「良い匂いがする……」

 彼はそのまま私の首に手を回すとぎゅっとしがみ付いてきた。
 小さな手や頭が、私の心をきゅんきゅんと刺激して来て、思わず彼の頭と背中をなでなでしてしまう。

「気持ちが良いな……」

 心地よさそうに私に身を任せる美少年は、永遠に守ってあげたくなるくらい可愛く思えた。

「俺の還る場所。たった一つの、安らげる居場所。それはもう、存在していたんだな」
「……え?」

 じっと私を見つめる彼の瞳は、真理を見据えるように煌めいている。

「それで、どうして俺のことが好きなの?」

 ぎょわわわわっ。
 蒸し返される話題に逃げ場を失くし、澄んだ瞳を前に目を逸らすことも出来ない。

 仕方なく……。
 本当に仕方なく、私はしどろもどろと、本当のことをご本人(小)に告げることにした。

「サース様は……ゲームの中のサースティー・ギアンは、私に元気をくれたの」

 彼を好きになってからの日々は、寂しかった心に、上手くいかない日常に、生きるための元気をくれ続けた。

「元気をくれた彼に……幸せになってもらいたいなって願ったの」

 願い続けたら、その気持ちがいつしか本物の彼に出会わせてくれた。
 今でも夢みたいだって思う。
 だけど、夢なんかじゃない。
 あの人は、本物のサースティー・ギアンだった。

「毎日、彼の幸せを願い続けていたら、笑ってくれるようになったの。毎日、楽しそうに笑ってくれるの」

 とても嬉しかった。
 一人ぼっちだったサースが、目の前で笑ってくれている。
 本当はずっと、彼の笑顔を見るだけで、涙が出そうに嬉しかった。

「私と共に生きて行きたいって言ってくれた。愛しているって言ってくれた。信じられないくらい嬉しかった……」

 思い出して語るだけで、声が震えて涙が零れ落ちそうになる。

「ただ生きていてくれるだけで……私を幸福にしてくれたのに、一緒に生きて行きたいって思ってもらえるなんて夢みたいだったの……」

 我慢しきれずに涙がボロボロ溢れだす。

「彼の存在も、その想いも、全部がただ私に幸福を教えてくれた。側に居られるだけで、私の心が、肌が、幸福で震えるの。生きていてくれるだけで、それだけで、私は幸せなの……」

 世界を滅ぼす魔王となる為に存在していたと、サース様は語っていたけれど、そうじゃない。
 私には間違いなく、ゲームの中のサース様も、私に幸福をくれる存在だった。

 生きて、存在してくれるだけで、それだけでも十分だった。

 気が付くと小さな彼の手が私の頬を撫でていた。
 涙をぬぐうように動く形の良い指は、間違いなくサースと同じ指だと思えた。

「もう一度言って」
「え……?」
「ただ生きていてくれるだけで……?」
「えっと……?」

 なんだっけ?

「ただ生きていてくれるだけで……私を幸福にしてくれたの」
「うん」
「存在してくれるだけで、私は幸せなの……」
「うん……」

 小さな彼の美しい頬に、涙が伝う。
 一瞬、宝石が煌めいたのかと思って目をみはる。
 私はとても綺麗なものを見るような気持ちで、涙を流す小さなサースを見つめた。

「ねぇ……どうして泣いているの……?」

 小さな彼は、その無垢な瞳から零れる涙を止めようとしなかった。
 綺麗な宝石を煌めかせるような頬をそっと撫でてから、彼をふんわりと抱きしめた。
 彼はされるがままに私の胸に頭を預けた。

 少しだけ、すりすりと、頭を私に擦り付ける動きをしたのがまるで猫みたいで、懐かない猫が懐いてくれたような不思議な気持ちになった。

 ああ、そういえば、サースは最初から猫みたいだったなって思いだす。
 気まぐれで、気品のある、近寄ったと思ってもするりとどこかに行ってしまいそうなところ。

 黒猫のサースを買って来たときの、みんなの反応は面白かったな。
 そっくりだって、大反響があったんだよね。

 ふふっと笑ってしまうと、彼は顔を上げて私を見つめた。

「……いつ会えるんだ?」
「え?」
「俺はお前にいくつで出会うんだ?」
「えーと……」

 確かサースに歳を聞いたら17歳って言ってたよね。

「17歳かな?でも、会えるのかな……?」

 今抱きしめている小さなサース君は、一体どんな存在なんだろう。
 一週目のサース様の子供時代なら、出会えないのかもしれない……。

「お前の話を聞いた限り、俺は成し遂げるんだろう。そうしたら俺も、俺の還る場所に辿り着く。7年後、俺はお前の元へ間違いなく行くだろう」

 な、7年……?10歳だったのサース君!?

(よく分からないけれど……)

 サース君は確信を持ったような表情で私を見つめているから。

「また会えるの……?」

 私の言葉に彼は頷く。

「ああ」
「会ってくれる……?」
「当たり前だ……」

 思わずと言った風に笑い出した顔がサースとそっくりだったから、嬉しくなって私もニマニマと笑ってしまう。

「楽しみにしてるね」
「ああ。だから今は……」
「うん?」

 私の首の後ろに回されていた彼の手が大きく持ち上げられて、私の首からペンダントの入った布袋が取りあげられた。

「あ……!」

 言っていないのに、サース様に続いてサース君にもペンダントを取られてしまった。

「………やっぱり持たせてるんだな」

 サース様と同じように、くっくっと楽しそうに笑う。
 そうして袋の中からペンダントを取り出すと、私の首の後ろに腕を回した。

「早く帰った方がいい……きっと、俺が待ってる」
「え?ええ?」

 あれ、帰っちゃ駄目だよね!?

「具合は大丈夫なの?息は吸えてる?熱は無いの??」

 小さな頬に両手を添えながら、漆黒の瞳を覗き込むと、優しく細められた眼差しが私に向けられた。

「……もう、大丈夫になったんだ」
「ええ!?」

 小さな子供がやせ我慢を言っているような状況にどうしたらいいのか分からなくなる。

「一人にしないよ。側に居るよ」

 戻らなくちゃいけないことも分かっているけれど、こんな子供を置いては帰れない。きっとサースだって分かってくれると思うんだ。

 彼は、少し困ったような顔をしながら、だけど頬を染めて嬉しそうに微笑んだ。

「また会える時まで……今はこれだけで我慢しておくから」

 そう言うと私に顔を近づけて来て、そっと、形の良い唇を私の頬に触れさせた。

「ふ、ふぇぇぇ!?」

 いきなり、10歳児サースに頬チューされたことに、動揺を隠せない。

「また、会えるよ……」

 目の前の天使のような美しい顔が、花が咲いたような笑顔に変わる。思わず見惚れてしまうと、彼は私の首の後ろにペンダントを回した。

 はっとしているうちに、ぽとりとペンダントが首に落とされた。






 ――私はどうして、小さな彼に出会えたのだろう?

 理由も分からないまま、私はまた意識を失った――







(夢なのかもしれない。夢じゃないのかもしれない。だけど、私は確かに、小さなサースに会って来たんだ)
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