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04:天人は豪快 sideカリナン

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「番とか言っても、人間にはただの呪いよね」
 公園のベンチに座って空を見上げながら、ペレーザは呟いた。
 亜人が優秀な子孫を残す為に選ばれるのが番である。
 そこに人間の意思は存在しない。

 勿論、互いに惹かれ合う事もあるだろう。
 【人間の国】を創設した魔人王とその番の人間は、本当に仲が良く愛し合っているのは有名な話だ。
 現在進行形なのは、魔人の寿命が長い上に更に王ともなると、何千年も生きるかららしい。
 魂の番となった人間は、相手の亜人と同じ寿命になるそうだ。

「魂の番って、普通の番と何が違うのかしら?」
 大きく伸びをしながらペレーザが言う。
 答えが欲しかった訳では無い。
 単なる独語どくごだ。
 だから返事が返ってきて、心底驚いた顔をした。


 声は上から落ちてきた。
 ペレーザは伸びをするのに目を閉じていたので、急いで声のした方へと視線を向ける。
「……天使様?」
 幼い頃に絵本で見たような、緩やかにウェーブした長い金髪に、真っ白い羽を持つ人物がペレーザの頭上に浮いていた。


 見た目が天使のように麗しいその人物は、天人のカリナンと名乗った。
 今は羽を閉じ、ペレーザの横に座っている。
「先程のお話ですけど……」
 ペレーザは貰ったホットドッグにかぶりつく。
「あぁ、魂の番だっけ?」
 カリナンの方は、大きな肉串に豪快に食いついている。

 先程、ペレーザの独言ひとりごとに「本当に繋がった番の事だよ」と、カリナンは返答していた。
 本当に繋がった、の意味を、ペレーザも予想はしている。
 しかし勘違いだったら嫌なので、説明を求めたのだ。

「下世話な言い方をすると、子作り行為をしちゃったって事だね」
 カリナンが肉を食いちぎる。
 天使のような、それこそ天上の神が趣味を詰め込んで作ったのかと思う程の美貌なのに、カリナンは中身が伴っていないようである。

 ペレーザが食べているホットドッグと、今自分が食べている肉串を手に持ち、カリナンはベンチの上に浮いていた。
 この公園に出る屋台の食べ物が好きで、よく買い食いをしに来ていたのだ。
 呆然と見上げるペレーザにホットドッグを差し出し「食うか?」と聞いた。
 ナンパにしても、酷い誘い文句である。
 そこで「はい」と即答したペレーザも、なかなかの人物ではあった。



「では、肉体が繋がる事で魂も繋がると?」
 揚げ物の屋台に並びながら、ペレーザが横のカリナンへと問い掛ける。
「そこは神の領域だから俺も詳しくは説明出来ないけど、番じゃないと同じ寿命にはならんな」
 カリナンが顎に手を当て、首を傾げる。
 その仕草を見ただけて、周りの女性……いや、男性も含めて全員から感嘆の溜め息が漏れる。

「まぁ、私の場合は番が獣人だったので、寿命はほぼ同じだから関係無かったですね」
 亜人の中でも、獣人だけは人間と寿命が変わらない。
 他の魔人や鬼人、竜人や天人は10倍は有るのが普通だ。
 妖精に至っては更に10倍だと言われていた。

「番が居るのか!?」
 カリナンが驚いてペレーザを見た。
 番の居る相手と二人きりで過ごすのは、亜人の中では厳禁タブーとされていたのだから当然の反応だ。
「過去形ですね。昨日、教会で『番の婚約』の解約手続きをしたので」
 ペレーザの言葉を聞いて、カリナンは元より、列に並んでいる他の人達も微妙な表情になった。

「勘違いされたのか~」
 カリナンが同情するように、ペレーザを見る。
『番の婚約』の解約は、番では無く単なる一目惚れで、愛情が冷めてしまった場合に行われるのが一般的だった。
「いえ、本当の番でしたよ」
 何でも無い事のように、ペレーザが言う。
「は?」
 更に驚いて凝視したカリナンの視界の中で、当のペレーザは「何を食べようかな」と屋台のメニューに夢中だった。


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