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17:婚約破棄2

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 スティーグは焦っていた。
 オズヴァルドをフェデリーカの不貞相手だと思っていたので、二人の前で平気でカーラの腰に手を回していたし、フェデリーカを見下す発言もしていた。
 それが兄だったとは!

 そもそも早急に家族の顔合わせをしない方が悪いんじゃないか!
 スティーグはそう思い至り、フェデリーカとオズヴァルドを睨み付ける。
「兄だったのか!……クソッ」
 スティーグの小さな呟きを、ベッラノーヴァ侯爵夫妻が拾う。
「まさか不貞相手じゃなかったの?」
 小声で夫人がスティーグに問うが、ティツィアーノ家には筒抜けである。

「いやぁ、何かすれ違いがあったようですな!どうやら婚約者に恋人が居ると勘違いして、それなら自分も……となったようですなぁ」
 ベッラノーヴァ侯爵は、シレッとフェデリーカ側に非が有るように話す。
「まぁ業務提携もする事ですし、お互い水に流しましょう」
 まるで自分達が許す側だと言わんばかりに、尊大に提案してくる。

「流さなくて結構ですよ。そちらの有責での婚約破棄ですからね」
 フランチェスコは、ベッラノーヴァ侯爵を睨み付けた。


「な、何だと!?たかが伯爵家が無礼な!業務提携の話が無くなっても良いのか!」
 ベッラノーヴァ侯爵が顔を真っ赤にしながら声を荒らげる。
「別にうちは全然困りませんが?既に充分な利益を出している事業です」
 ティツィアーノ伯爵領で作られている高級繊維は、そのままでも充分に売れている。
 今回の業務提携は、布を優先的に回してもらえ、大量に定期購入する事で単価を下げてもらえるベッラノーヴァ侯爵側に利が多い。
 ベッラノーヴァ侯爵は言葉に詰まる。

「そもそもがそちらが不貞したからなのに、なぜうちが悪いみたいに言うのか……」
 フランチェスコはヤレヤレ、と言うように首を振る。
「誤解させるような行動をする方が悪いのでしょう!?」
 ベッラノーヴァ侯爵夫人が間髪入れずに反論する。

「あらぁ?そちらが先ですわよねぇ?」
 デルフィーナが扇で口元を隠しながら言う。
「そんなのそっちが勝手に言ってるだけでしょ!?」
 ベッラノーヴァ侯爵夫人は扇を広げ、やはり口元を隠す。
 泥仕合である。


「証人もおります」
 オズヴァルドが静かに告げる。
 その瞬間、スティーグの表情が「まずい!」というように歪んだ。
 その証人に思い当たったのだろう。
 こんな事になるとは思っておらず、相手側の交友関係など報告していない。

「証人?伯爵家の子供か?」
 フンッとベッラノーヴァ侯爵は鼻で笑う。
 通常は近い爵位の者同士で友人となるからだ。
 学校内で不貞行為を目撃されていても、家同士の繋がりである婚約を破棄する際に、証人として名乗り出る家は少ない。
 特に今回は侯爵家側が有責である。
 ベッラノーヴァ侯爵の予想では、フェデリーカと仲の良いロザリア・ベルティネッリ伯爵令嬢だった。



 トントントン、トントントン。
 応接室にノックの音が響く。
 既に呼んであったらしく、タイミング良く証人が到着したようだ。
「失礼しますよ」
 執事が開けた扉から入って来た人物に、ベッラノーヴァ侯爵夫妻は目を見開く。

 ティツィアーノ伯爵家側も、同じように目を見開いていた。
 なぜならそこに居たのは、証人を頼んだイレーニアとジェネジオだけでなく、二人の父であるダヴォーリオ公爵が立っていたからだ。


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