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21:婚約破棄からの暗
しおりを挟む暗く狭い部屋で、アンソニーは何も載っていないテーブルを前に、ただ座っていた。
仕事は3日前にクビになり、昨日から何も食べていない。
「アンタ、元貴族で、更に婚約破棄した相手が幸せそうなのが気に食わなくて暴力ふるって犯罪者に堕ちたんだって?本当なのかい?」
店の女将に言われ、何も言えなくなったアンソニー。
それを見て、女将は肯定だと判断したらしい。
「前科持ちでも真面目に働けば良いと思って雇ったけど、お店の娘達が怖がっちまってね。すまないが明日から来なくて良いよ」
ここは女性が給仕しながら男性の横に座って相手をする店で、それなりに格がある客層相手だったから、見た目が良く元貴族でマナーの良いアンソニーはそれなりに重宝されていた。
雇われてから何年か経ち、お店でもそれなりの地位についた頃、それは突然訪れた。
学園の同級生だった男が来店したのだ。
その男はアンソニーを見るなり「こんな所にいたのか!元侯爵家子息様は!」と店内に響く声で叫んだ。
そして頼まれもしないのに、勝手に学園での婚約破棄騒動から王宮での暴行事件までを語ったのだった。
女将はせめてもの退職金として、3ヶ月は働かなくても食べていける程度のお金を最後に渡してくれた。
そのお金は手付かずでテーブルの上に置いてある。
もう、食糧を買いに行く気力も起きなかった。
トントントンと、控えめなノックがされた。
「アンソニーさん、いらっしゃいますか?」
静かな声での問い掛けに、アンソニーは視線を扉に向ける。
「開いている」
3日ぶりに出した声は掠れていたが、相手には聞こえたらしく、扉が開かれた。
「こんにちは、初めまして」
入って来たのは、神官と修道女だった。
そしてよく見えないがもう一人。
「奥様をお連れしました」
神官の言葉に、今更なぜローズが!?とアンソニーは思った。
しかしチラリと見えた髪は金髪で……神官の後ろから出て来たのはリリーだった。
20代半ばだというのに、少女のような服装をしているリリー。
「アンソニー!」
立ち上がったアンソニーに抱き着いた行動は、とても20代の女性とは思えない。
しかし、その理由は直ぐに判明した。
「彼女は16歳から下がる事はあっても、成長する事はありません」
あの婚約破棄騒動の年から、成長していないと神官兼医者に説明された。
「しかし、彼女よりも重病の方が待っているのです。申し訳ないですが、当院ではもうお預かりできません」
他人の手助けは必要だが、市井での生活が出来ると判断されたリリーは、もう修道院に居る事は出来ないのだと説明された。
「これはアムネシア家の方からお預かりしたお金です」
何もなければ一生暮らせるほどのお金は、驚くほど減っていた。
その代わりと、宝飾品を沢山渡された。
「定期的にプレゼントをしないと、貴方や元婚約者に会いに行くと脱走しようと暴れたので」
高そうな宝飾品だが型落ちなので、宝石自体の値段でしか買い取って貰えないだろう。
「今度はご本人が居るのだから、それほどお金は必要無いでしょう」
神官と修道女は、リリーを置いて帰って行った。
リリーは、確かに宝飾品を強請る事はしなかった。
しかし、少しでも視界からアンソニーが居なくなると、子供の様に泣きながら探し回るのだ。
近所の人が憲兵に通報したのも、一度や二度ではなかった。
今日もアンソニーは、リリーが寝ている間に短期で稼げる肉体労働をして、食糧を買って帰る。
目覚める前に帰らないと、また通報されてしまう。
精神的にも肉体的にもボロボロになりながら、アンソニーは愛する妻の待つ家へ向かった。
終
_______________
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
感想欄を開けますが、申し訳ありませんが返信は致しません。
しかし、全て読ませていただきます!!
また次作でお会い出来たら幸いです
(*^_^*)
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(9件)
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アンソニーに対する作者の感情が
もろ出しで笑ってしまいました笑!!