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08:家族として
しおりを挟むフローレスと共に自室に戻って来た瑠璃は、衣服を脱ぎ捨ててさっさとベッドへと潜り込む。
まだ就寝するには早い時間。
更に、部屋の中には一応は客人であるフローレスが居るのに、だ。
言うなれば、フローレスの存在を完全に無視して寝てしまったのである。
しかしフローレスの方も慣れているのか、勝手に棚を開けて自分の為の香実茶を淹れる。
しばらくすると、ベッドの中から寝息が聞こえてきた。
本当に疲れていたらしく、香実茶からはまだ湯気が立っている程の短時間。
ベッドサイドに椅子を移動したフローレスは、そこに座り香実茶に口をつけた。
一息ついて、ベッドの中の瑠璃を見つめる。
「私では、お前の苦しみを分け合う家族にはなれないのか?」
フローレスの指が瑠璃の頬に触れる。
瑠璃の瞳がゆっくりと開いた。
「悪い。起こしてしまったか?」
フローレスの問いに、瑠璃は何も言わない。
見つめてくる瞳にも力がない。
どうやら寝ぼけているようだ。
「大丈夫だから、寝なさい」
布団の上から瑠璃の身体をポンポンっと叩くと、フローレスは立ち上がった。
つられるように瑠璃も身体を起こす。
その腕がフローレスの長い髪を掴んだ。
「瑠璃?」
優しい声が瑠璃を呼ぶ。
いつもより数段幼い表情の瑠璃がフローレスの髪を引っ張った。
フローレスがベッドに腰をおろすと、やっと髪を掴んでいた手が離された。
しかし、今度は両手でフローレスの服を掴む。そのまま自分の方へと引き寄せ、ギュッと抱きつく。
まるで心音を聞くかのように胸に寄り掛かって、そのまま眠りに落ちてしまった。
「……またか」
瑠璃の頭に手を添えて、フローレスが苦笑した。
まだ夜が明けるには早い時間。
瑠璃が窮屈さを感じて身動ぐ。目を開けると、目の前に整った顔があった。
いきなり寝起きに予想外の物を見て、数秒固まる。
腕の中に守るように抱えられて眠っていたようだ。
相手を起こさないように、瑠璃はそっとベッドを抜け出した。
それほど寒い季節では無いのに、肌に触れる空気が冷たく感じる。
フローレスの体温で、身体が温められていたせいだ。
「子供みたいで……恥ずかしい」
冷蔵箱から冷たい水を取り出し、コップへと注ぎながら、瑠璃は頬を染める。
人間ならば完全に成人している年齢なのに、幼子のように扱われたのが恥ずかしいのだ。
そしておそらく、それを誘発したのは自分なのだとの自覚もある。
記憶には、無い。
しかし、放任主義に見えるほど瑠璃の自主性を尊重するフローレスが、瑠璃の意志を無視して子供にするように添い寝する事は無いだろう、と。
大人と子供の間のような危うい年齢で成長の止まってしまった瑠璃にしてみれば、見た目に精神が引き摺られているようで、さらに自己嫌悪してしまう。
しかも甘やかされる原因になった行動を、無意識のうちに行ってしまっている羞恥。
部屋に付いてきたフローレスを居ないものとして扱い、お茶の一杯も出さずに無視してベッドに潜り込んだのに。
蓋を開けたら、いつも以上に甘えていた。
恥ずかしくないわけが無い。
甘えれば、頼れば、それに応えてくれる親のような存在。
本当の親には与えられなかった愛情を与えてくれる保護者。
母親はそれなりに愛してくれていたようだが、瑠璃の記憶には、悲しそうに謝る顔しかない。
実の父親だと名乗る男が金を請求しに来たのは、もう十年以上前になる。
宝石人が神殿に上がる際、俗世との縁を切る為に、親には一般家庭の平均年収五十年が渡される。それを受け取った時点で家族では無くなる。
元々父親は瑠璃を無視しており、家族と認めなかった男だった。
それなのに……。
「お前が瑠璃か! 弟が結婚するから、家族なら祝い金を払え!」
瑠璃を見るなり、父親だった男が叫んだ。
「あ? こんな子供が兄貴なの?」
男と一緒に居た若い男は、瑠璃を見るなり暴言を吐いた。
この二人の間には、間違いなく血の繋がりを感じる。
これまでに何度も面会申請が来ていたが、理由が『家族として』なので瑠璃の所へ届く前に却下されていた。その為の強行だと思われる。
この時は、神殿内に勝手に入って来たのだろう。それだけで処罰の対象になるのに。
「宝石人の家族って、恩恵が有るんでしょ? 何が貰えるの?」
男と腕を組み、撓垂れかかるようにしていた女は、瑠璃を見て嬉しそうに笑った。
卑しさを隠しもしない三人を、瑠璃は冷めた目で見つめた。
その後、見回りの衛兵に捕えられた三人は、自分達は瑠璃の家族だと騒いだ。
瑠璃が円卓の十三人だと発表された途端に、実はうちの子なんだと周りに吹聴し、貢ぎ物を受け取っていた事も発覚した。
無論、犯罪である。
後に手引きした神殿内で働く人間も、解雇されるだけでなく犯罪者として捕まった。
それから十年以上経っても、神殿内では瑠璃を他の宝石人より下に見る傾向がある。
進んで孤立を選ぶ瑠璃にも問題が有るのだが……。
to be continued……
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