病気呼ばわりされて田舎に引っ越したら不良達と仲良くなった昔話

潮海璃月

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 1.邂逅

(1)挨拶

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「英凜《えり》ちゃんは紺色がよう似合うね」

 新品のセーラー服を見て、おばあちゃんがそんなことを言った。

 灰桜《はいざくら》高校のセーラー服は、紺色に臙脂《えんじ》のラインが入り、そのラインと同じ色のスカーフを結ぶ、ごくごくありふれたセーラー服だ。しいていうなら、胸に桜の模様が入っているけれど、校章が入っているという意味ではやはりありふれたセーラー服であることに変わりはない。そして、一応、ここ近辺では一番可愛い制服らしいけれど、私にはそれがよく分からない。いや、可愛くないというつもりはないのだけれど、近辺で一番というほどかといわれると、迷いなく首を縦に振るほどではない。

 そうやって首を捻る私の後ろで、おばあちゃんはせっせと荷物を準備していた。当然、入学式の準備なのだけれど、それはそれとして、私が代表挨拶をするからと張り切っているのだ。お陰で荷物の中にはオペラグラスがある。

「……おばあちゃん、別に代表挨拶っていっても、決まった文章読むだけなんだから。そんなじろじろ見ないでよ」
「なにを言っとるかね、立派なことなのに」

 入学式の代表挨拶は、挨拶の内容は決まっている。それでも、一応、毎年、生の原稿を挨拶者が提出することになっている。つまり、毎年毎年、代表挨拶者は決められた用紙に決められた挨拶文を写経しなければならないのだ、しかも毛筆で。

 だから、そのお知らせを読んだ瞬間、私はおばあちゃんにその仕事を押し付けることにした、おばあちゃんは毛筆が上手いから(というか、多分鉛筆よりも筆を握って生きてきた世代だと思う)。おばあちゃんには自分で書きなさいと言われたけれど、おばあちゃんとしても孫の入学式の挨拶文の代筆は嬉しかったらしく、意気揚々と書いてくれた。お陰で私の代表挨拶文は書道の先生顔負けの達筆な字で書かれている。ちなみに最初は草書で書かれてしまったので、原稿を読めないと書き直してもらった。

 そんなこんなで迎えた入学式は、柔らかな日差しに包まれ、春の蕾《つぼみ》が希望に膨らんでいる――とまさしく挨拶文の冒頭のとおりのいい天気なのだけれど、天気がいいのと治安がいいのとは、まったく別の話だった。
 おばあちゃんと一緒に校門をくぐれば、そこに広がるのは、初々しさを体現するかのように、制服に新入生と、何より自由を体現したような極彩色の髪と改造済の制服だ。

 私立灰桜高校、通称“はいこう”。多分灰高と廃校をかけているんだと思う。その通称のとおり、灰桜高校《はいこう》は廃校寸前といっても過言でないほど、荒れ狂った高校だったらしい。らしいというのは、手を付けられないほど荒れ狂っていたのは少し前までで、経営者が変わってからは色々改革を行い、勉強のできる真面目な生徒とできない不真面目な生徒とを選《よ》り分けた結果、なんとか玉石混交の状態まで漕《こ》ぎつけたからだ。つまり、今の灰桜高校《はいこう》は、荒れ狂ってる部分とそうでない部分とが混在しているわけだ。と。つまり荒れ狂ってる部分とそうでない部分とが混在している。

 その具体的な選り分けをどうやって行ったかというと、端的に成績とクラス分けによって行っている。灰桜高校のクラスは、特別科と普通科に分かれていて、出願のときはどちらかを選ぶことができるし、特別科を希望しても成績が悪い場合には普通科への合格とされる。入学後は、特別科と普通科はクラス替えもないし、校舎も別々だ。それでもって特別科はその名のとおり、特別な待遇もある(課外授業が充実してるとか、奨学金を貰うのに有利だとか、要は進学クラスみたいな扱いだ)。つまり、特別科と普通科は色々な側面から厳格に区分けされていて、お互いに交わらないようになっている。

 それは灰桜高校を知る人にとっては共通認識で、受付をする子と親とが「普通科棟は動物園だから」なんて揶揄《やゆ》しているのが聞こえた。

 そんな親子の後に、おばあちゃんと並んで受付前に立つ。

「……1年5組、三国《みくに》英凛《えり》です」

 受付を担当している(おそらく)3年生から二度見された。

「三国……、5組……?」
「5組の、三国です」

 繰り返すと、3年生は「ね、三国英凛さんなんだけど……」と隣の3年生に耳打ちした。2人で名簿を覗き込み「あ、あるじゃん」「いやあるんだけどさ……」とコソコソ内緒話をする。

「……5組で、間違いないですよね?」
「間違いないです」

 もう一度頷くと、コホンと3年生が咳払いした。

「……どうぞ。ご入学、代表挨拶、おめでとうございます」

 胸につける花のリボンには「新入生代表」と書かれていた。5組の列に向かいながら胸につけようとすると「英凛ちゃん、不器用なんだから、こっち向きなさい」とおばあちゃんにつけられた。

「ね……なんで5組なんだろ」
「間違えたんじゃないの?」
「代表なのに?」

 コソコソと聞こえる声を背に、逃げるように体育館に入った。
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