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あの、B級とも言えない名ばかりな乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、今更ながらにゲーム開発者に文句を言いたい。
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『ああ、これがゲーム補正ともいうものなのね。』
そんな言葉が、ふと心の片隅に浮かんだのは…。
私、イライザ・ルゥ・フォトガイラが、とある春の日の午後、王宮の薔薇園の一角にて、王妃主催の茶会に参加しているときでした。
薔薇園に用意された長めのテーブルに着いているのは、公爵令嬢たる私を筆頭に、侯爵令嬢二人と伯爵令嬢一人、そして辺境伯令嬢一人の計五名。
対してテーブルの反対側には、主催者の王妃の産んだ双子の第一王子と第二王子、次代の王の側近候補の近衛隊隊長子息と外務大臣子息。私と同い年で義理の弟でもある財務大臣の子息の、これまた計五名。
歳の差が最大四歳差で、男女の人数が同じ。
本日の社会は、未来の王とその側近たちの、花嫁選びのための茶会であったのです。
そして、その日の茶会で婚約者候補全員が顔合わせをし、今後一年程かけて相性を見極め、それぞれが正式に婚約を交わすこととなる予定なのです。
もちろん、王子たちが私を含めた五人の令嬢の誰を妃に選んでも、政治バランスに問題はありません。なぜならば、妃に選ばれなかった令嬢たちがそれぞれの子息の花嫁となることで、勢力バランスがとれるように選ばれているからなのです。
そして、その栄えある顔合わせの茶会で、私イライザ・ルゥ・フォトガイラは、所謂「とあるきっかけで前世の記憶が蘇り、しかも現状が、前世でプレイした乙女ゲー厶の中の悪役令嬢キャラと言う、見事なラノベ展開な状況」を理解しました。
王宮で、しかも王妃の主催する茶会の会場である庭園に、突然「うわ、すんごくきれいなバラがいっぱいある~!」なんて大声で闖入してきたヒロイン。
私たちを見て、「あ!よかった人がいた。すいません、見学させてもらってたんですが、気付いたら迷子になってて。『新緑の庭』ってどうやって行けばもどれます?」と周囲(王妃)ガン無視で聞いてきました。
王妃主催の茶会よ? 侍女・メイド・護衛兵、どこでなにをしていたの? 部外者が紛れ込んでくる前に、止められなかったの? きづかなかったの? 王宮の警備、大丈夫?
そして、この茶会が婚約者候補との顔合わせであると理解しているはずの攻略対象者たちは、こぞって席を立って、そのヒロインに親切にも戻る道を教えているし、義弟に関しては送っていきましょうと、ヒロインの手を取ってエスコートを始める始末。
婚約者候補全員、置いてけぼり感半端ないですね。
そして、そんなヒロインにデレてる攻略対象者たちを見て、理解しました。
これがゲーム補正なのね、と。
乙女ゲーム転生者のパターンを踏襲し、私は記憶が戻ると同時にめまいを起こして卒倒し、それから丸二日、目を覚まさずに寝込んでしまいました。
熱がさがり、世話をする侍女その他を下がらせて、一人になった現在、自室にて自分の人生が詰んでいる現況に頭を悩ましております。
「前世」という記憶は、その人生すべて、というものではなく、前世の寿命やどうやって死んだのだとか、その辺はまったくなくて。
ただ、『ゲーム好き好き、時間があったどんなゲームでも遊びます!』というゲームオタクな父親と、『本大好き、活字を追うことこそわが人生。小説なしの世界など信じられない、時間があったら手当たり次第に本を読み漁ります!』という本オタクな母親に挟まれて育ったことと。
母の影響で、私もそこそこの本好きで、さらっと読めるラノベなんかを好んで読んで。いわゆる「乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました」なんて小説も沢山読んでいたことと。
そして一番鮮明な記憶が…。
ある時、父が「先月、ゲームのマニア誌にちょこっとだけ紹介されててさ、少し興味あったソフトが、発売からまだ10日も経ってないのに、中古ショップで売ってたから、買ってきたよ。父さん一昨日買ったゲームまだやりつくしてないから、先にしてみる? 結構有名どころなイケボを使ってるみたいだよ」と渡してくれた乙女ゲームをプレイしてみたことと。
その程度しか覚えていないんですよね。
そして、その程度しか覚えていない前世の記憶の中でプレイしていたその乙女ゲームの世界が、今まさに自分が生きているのとほぼ同じということに、人生詰んでいるとしか言いようがないので頭を悩ませております。
私は、その乙女ゲームの「悪役令嬢 イライザ・ルゥ・フォトガイラ」その人に、転生していたのです。
前世の母の影響で、ラノベの「乙女ゲームの悪役令嬢転生もの」も沢山読みましたよ?
「だったらその知識利用して、ヒロインが同じ転生者かどうか、共闘できるかとか調べたり。他に転生者がいないか確認したり、攻略対象とのイベントを利用してバットエンドを回避したり、色々とやりようはあるでしょ? ゲーム開始時間軸に来てないなら、大丈夫じゃない?」と思う人もいるかもしれません。
ラノベにありきたりな、乙女ゲームの悪役令嬢バットエンド回避ネタ。使えるものなら使いたかったですわよ、私だって。
私が転生したのが、たとえ普通の乙女ゲームでなく、エロ系乙女ゲームだったり、ヤンデレ乙女ゲームだったりしたとしても、確かにやりようはあったでしょう。
でも私が転生したのは、乙女ゲームとは名ばかりの、発売直後購入者が即中古屋に売ってしまう、B級と言ったら他のB級ゲームに申し訳ない、B級と呼ぶのもおこがましいゲーム『悪役令嬢』だったのです。
はい、ゲームタイトルが「悪役令嬢」です。ここ、重要ですよ!
プレイヤーは、主役の『悪役令嬢 イライザ・ルゥ・フォトガイラ』としてゲームします。
そして、婚約者の周りに出没するヒロインを虐め倒して、貶めて、社交界から追い出すと言うストーリーです。
前世の父曰く、
「俺が若いころにな、江戸時代もどき設定で、悪い役人をゲーム主人公にしたのが発売されたことがあってさ。
悪い役人が主役だから、敵(?)は、とある布の問屋の隠居のじいさんと御付きの二人とか、自称冷や飯くらいの旗本の三男坊とか、肩から背中にかけて入れ墨してる遊び人だったりで、そいつらを成敗するって内容だったな。
あと男のロマン! 屋敷の女中の帯を掴んでくるくる回して外すミニゲームなんかもあったな! うん。
まあそのゲームは売れてシリーズが続いたからさ、この『悪役令嬢』を作ったスタッフ、そのゲーム知ってて、ヒントにしたんじゃないか?」
だそうです。
前世の記憶に引きずられてしまいますが、本気で「ふざけてろ!」と公爵令嬢としてはあるまじき悪態をつきたい私です。
ゲーム「悪役令嬢」の攻略対象は五人。ゲームでは、プレイ開始時に五段階に分けられた難易度レベルから一つを選び、その難易度によって攻略対象が変わるようになっていました。
簡単なレベルから並べると、義理の同い年の弟(財務大臣子息) < 外務大臣子息 < 近衛隊隊長子息 < 第二王子 <第一王子 となります。
ゲームは王宮を中心として繰り広げられます。この茶会の会場である薔薇園や温室。舞踏会会場と、王宮図書館。各大臣の邸宅での茶会とサロン。近衛隊の隊舎の近くの鍛錬場です。
ゲームでは、プレイ開始時に選択したレベルの各攻略対象が、プレイヤー・悪役令嬢たる私の婚約者になっています。
でも、現実で考えると『王子を含めた複数の男性と婚約している』なんてことはありえませんよね。なので、この状況もゲーム補正なんでしょうか。
ゲーム内で、私の取り巻き(というか手下)であった四名の名もなきモブ令嬢たち。その令嬢達と私を含めた五名で、王子を含めた攻略対象の婚約者候補となっています。
なので、ものすごく大雑把に説明するならば、私は(他の令嬢もですが)現時点で、攻略対象全員の婚約者と言えなくもないのですよね。
現実の政治を含めた状況において、王子たちが私を含めたこの五人の誰を妃に選んでも、政治バランスに問題はありません。なぜならば、妃に選ばれなかった令嬢たちがそれぞれの子息の花嫁となることで、勢力バランスがとれるように選ばれているからなのです。
現実とゲームの設定とのバランスをとるための補正なのでしょうね、この状況も。
そして、五人全員の婚約者ともとれる立場になり、今後一年をかけて多数の茶会や夜会で、互いの相性を見極めて伴侶を決めるのです。
そこに、部外者になる『ヒロイン』がしゃしゃり出てきて横に侍っていれば、そりゃ苦言を呈するに始まって、排除しようと行動していくしかないのでしょう。
つまり、今からがゲーム開始ということですね。
同時に人生詰んだ感が、しまくってます。
もっと早く、前世を思い出したかったです。そうすれば、婚約者候補にならないように立ち回れましたのに。
ゲーム『悪役令嬢』は、普通の乙女ゲームとは違って「ヒロインが頑張って好感度を上げる」とか、「イベントクリアで親密度を上げる」というストーリーがないのです。そもそも、プレイヤーが動かすのはヒロインではないのですし。
悪役令嬢になって、攻略対象に寄りそうヒロインにあらゆるいじめや妨害をかけるというゲームなんですよ。
そのいじめや妨害は、すべてミニゲームなのです。そのミニゲームで取得したポイントが、ゲームエンドに直結していましたの。
攻略レベルに応じた各ゲームの取得ポイントの比率で、バッドエンドかハッピーエンドに分岐しますが、その比率バランスが難しかったです。
サロンでは、ヒロインに対しての悪口攻撃ゲーム。もちろん、モブ令嬢達と一緒です。選択肢の罵詈雑言のバリエーションが多数あり、その分野に関してのみ語彙力がつきましたね。
温室や通路での、足の引っ掛けゲーム。ヒロインが横を通る時にタイミングを見計らってコントロールボタンを押しで足を引っかけるのですが、なかなかの難易度でした。タイミング次第でよろける程度から、顔面から昏倒というものまでの差が。
茶会では、紅茶かけゲーム。コントローラーの操作具合で、ヒロインの制服にいかに紅茶をかけられるか。
王宮の階段からの突き落としゲームや、夜会でのワインかけ。あるいはドレスの裾を踏んで破るゲームなんてのも。噴水のある庭園で、噴水に突き落とすなんてものありましたか。
王宮の、それらの場所に立ち寄る度に必ずヒロインがいて、それらのミニゲームが強制開始されるのです。
さらに、図書館に立ち寄ると、ヒロインいじめはないけれど、教養ゲームという「どこのクイズ番組か!」っていうクイズが出てきてそれに答えないといけません。そのクイズの点数が低いと、攻略対象から蔑みの目で見られた上でのバッドエンド。どの攻略者も「その程度の教養で、私の隣りに立つつもりだったとはな」なんて冷めた声(イケボ)で言われるんですよね。
ゲームとは言え、画面の美形キャラにそんな風に冷たく言われて、楽しい? ほんとに楽しんでやるゲーム? って思いませんか?
ゲーム「悪役令嬢」のバッドエンドは、当然主役の悪役令嬢がヒロインに負けるので、最後の大舞踏会での断罪劇にて、婚約解消・身分はく奪国外追放。あるいは処刑のコース。
美しいキャラ様の、イケボな声で、非難されて最後に「刑場に引っ立てよ!」なんて言われて喜ぶ趣味は、私にはありません。
ではハッピーエンドはというと、攻略対象との結婚式シーンのスチルが出ますが…。
結婚相手によって多少のセリフはかわりますが、要約すると、
『政略結婚なんだから愛情などない。妻としての義務は果たしてもらうぞ。
(後継者はしっかり作るからな)
夫を立てて、その妻としてしっかり社交界でもふるまえよ。
(俺は紳士の嗜みとして、愛人作るけどな。候補はヒロインだ)』
と言われるんですよ。結婚式のスチルは、攻略対象者は唇にわずかの笑みも見せずに仏頂面のまんまで。
しかも後ろのモブのなかに、さり気にヒロインが立っているし。
いったい誰得のエンドなの!と言いたいです。
話が逸れましたね。
つまりゲーム『悪役令嬢』は、『悪役令嬢転生ネタのラノベ』のように、断罪回避するネタがないんです。
顔合わせの茶会で、初対面のヒロインにたいして攻略対象者は警戒もせずにかけよりました。婚約者候補を無視して。
ほんと、嫌になるぐらいうまい具合にゲーム補正が機能してますね。
ゲームではスタート時からヒロインとラブラブな状態で、常にヒロインの横に攻略対象者がおります。
つまりこれ以降、攻略対象者とヒロインの出会いイベントも親密度を上げるイベントなどもまったくないので、バッドエンドを回避するネタや圧し折るフラグなどありません。
「じゃあ、なんにもしなきゃいいじゃん」って思うでしょ?
どこにも立ち寄らずに、時間を過ごすだけだったり、ミニゲームで選択肢の一つ【なにもしない】を選んだこともありましたよ。でもね、ヒロインに何もしない、つまりはいじめをしなかった場合、攻略対象者から罪を捏造されての「婚約解消~処刑」コースまっしぐらというバッドエンドでした。
「じゃあ、ほどよくいじめれば?」といいますか?
それ、成功したら、政略結婚で愛のかけらもないハッピーエンドコースです。愛人にはヒロイン。しかも本宅はヒロインが住んで、本妻のはずの私は別宅なんてことも。
失敗すれば、婚約破棄の断罪ルート突入。つまりはバッドエンドですよね。
どう考えても、私の人生詰んでませんか?
今更どうにもならないと分かっていても、私は問い詰めたい。
こんな、誰得なゲームを作って何がしたかったのかと、ゲーム開発者たちに。
イケメンスチルにイケボで、ハッピーエンドでもバッドエンドでも冷たくされるゲームに、本当に需要があったのかと。ゲーム開発費を回収して利益を上げられるほどの、Мな趣味の購買層が厚かったのかと。
乙女ゲームとは、攻略対象者との駆け引きで、プレイヤーにキュンキュンさせたりするものじゃないのかと。なにが楽しくて、ヒロインいじめて、イケメンに嫌われなくちゃいけないのかと。
さて、顔合わせの茶会後半、私が倒れてしまったことと、攻略対象者が全員退席してしまってグダグダに終わってしまった茶会の仕切り直しとして、明日再び王宮の温室での茶会に、他の四人の令嬢ともども(そして攻略対象者も)招かれているけれど。
私はどうふるまうべきなのでしょうね。
行かないと、断罪コース発生。行っても、紅茶かけしないとこれまた断罪コース。行って、紅茶かけしたら、愛のない結婚コース。
どちらも嫌です。
私、政略結婚でもせめてお互いを尊重しあえる夫婦になりたいです。せめて笑顔で話し合える夫婦の仲になりたいです。
本当、人生詰んでいます。
本当に、ゲーム開発者にとことんクレーム入れたいです。できるのなら。
おしまい
■■■■■■
オリジナル作品仕上げるの、何年ぶり…十何年ぶりだろう。
リハビリで書き上げた感あります。
少しでも楽しんでもらえたら、嬉しいです。
*小説家になろうでも公開しています。
*悪役令嬢の名前のイライザ。父親の言ってた江戸時代もどきのゲーム。わかる人は同年代ですね。
そんな言葉が、ふと心の片隅に浮かんだのは…。
私、イライザ・ルゥ・フォトガイラが、とある春の日の午後、王宮の薔薇園の一角にて、王妃主催の茶会に参加しているときでした。
薔薇園に用意された長めのテーブルに着いているのは、公爵令嬢たる私を筆頭に、侯爵令嬢二人と伯爵令嬢一人、そして辺境伯令嬢一人の計五名。
対してテーブルの反対側には、主催者の王妃の産んだ双子の第一王子と第二王子、次代の王の側近候補の近衛隊隊長子息と外務大臣子息。私と同い年で義理の弟でもある財務大臣の子息の、これまた計五名。
歳の差が最大四歳差で、男女の人数が同じ。
本日の社会は、未来の王とその側近たちの、花嫁選びのための茶会であったのです。
そして、その日の茶会で婚約者候補全員が顔合わせをし、今後一年程かけて相性を見極め、それぞれが正式に婚約を交わすこととなる予定なのです。
もちろん、王子たちが私を含めた五人の令嬢の誰を妃に選んでも、政治バランスに問題はありません。なぜならば、妃に選ばれなかった令嬢たちがそれぞれの子息の花嫁となることで、勢力バランスがとれるように選ばれているからなのです。
そして、その栄えある顔合わせの茶会で、私イライザ・ルゥ・フォトガイラは、所謂「とあるきっかけで前世の記憶が蘇り、しかも現状が、前世でプレイした乙女ゲー厶の中の悪役令嬢キャラと言う、見事なラノベ展開な状況」を理解しました。
王宮で、しかも王妃の主催する茶会の会場である庭園に、突然「うわ、すんごくきれいなバラがいっぱいある~!」なんて大声で闖入してきたヒロイン。
私たちを見て、「あ!よかった人がいた。すいません、見学させてもらってたんですが、気付いたら迷子になってて。『新緑の庭』ってどうやって行けばもどれます?」と周囲(王妃)ガン無視で聞いてきました。
王妃主催の茶会よ? 侍女・メイド・護衛兵、どこでなにをしていたの? 部外者が紛れ込んでくる前に、止められなかったの? きづかなかったの? 王宮の警備、大丈夫?
そして、この茶会が婚約者候補との顔合わせであると理解しているはずの攻略対象者たちは、こぞって席を立って、そのヒロインに親切にも戻る道を教えているし、義弟に関しては送っていきましょうと、ヒロインの手を取ってエスコートを始める始末。
婚約者候補全員、置いてけぼり感半端ないですね。
そして、そんなヒロインにデレてる攻略対象者たちを見て、理解しました。
これがゲーム補正なのね、と。
乙女ゲーム転生者のパターンを踏襲し、私は記憶が戻ると同時にめまいを起こして卒倒し、それから丸二日、目を覚まさずに寝込んでしまいました。
熱がさがり、世話をする侍女その他を下がらせて、一人になった現在、自室にて自分の人生が詰んでいる現況に頭を悩ましております。
「前世」という記憶は、その人生すべて、というものではなく、前世の寿命やどうやって死んだのだとか、その辺はまったくなくて。
ただ、『ゲーム好き好き、時間があったどんなゲームでも遊びます!』というゲームオタクな父親と、『本大好き、活字を追うことこそわが人生。小説なしの世界など信じられない、時間があったら手当たり次第に本を読み漁ります!』という本オタクな母親に挟まれて育ったことと。
母の影響で、私もそこそこの本好きで、さらっと読めるラノベなんかを好んで読んで。いわゆる「乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました」なんて小説も沢山読んでいたことと。
そして一番鮮明な記憶が…。
ある時、父が「先月、ゲームのマニア誌にちょこっとだけ紹介されててさ、少し興味あったソフトが、発売からまだ10日も経ってないのに、中古ショップで売ってたから、買ってきたよ。父さん一昨日買ったゲームまだやりつくしてないから、先にしてみる? 結構有名どころなイケボを使ってるみたいだよ」と渡してくれた乙女ゲームをプレイしてみたことと。
その程度しか覚えていないんですよね。
そして、その程度しか覚えていない前世の記憶の中でプレイしていたその乙女ゲームの世界が、今まさに自分が生きているのとほぼ同じということに、人生詰んでいるとしか言いようがないので頭を悩ませております。
私は、その乙女ゲームの「悪役令嬢 イライザ・ルゥ・フォトガイラ」その人に、転生していたのです。
前世の母の影響で、ラノベの「乙女ゲームの悪役令嬢転生もの」も沢山読みましたよ?
「だったらその知識利用して、ヒロインが同じ転生者かどうか、共闘できるかとか調べたり。他に転生者がいないか確認したり、攻略対象とのイベントを利用してバットエンドを回避したり、色々とやりようはあるでしょ? ゲーム開始時間軸に来てないなら、大丈夫じゃない?」と思う人もいるかもしれません。
ラノベにありきたりな、乙女ゲームの悪役令嬢バットエンド回避ネタ。使えるものなら使いたかったですわよ、私だって。
私が転生したのが、たとえ普通の乙女ゲームでなく、エロ系乙女ゲームだったり、ヤンデレ乙女ゲームだったりしたとしても、確かにやりようはあったでしょう。
でも私が転生したのは、乙女ゲームとは名ばかりの、発売直後購入者が即中古屋に売ってしまう、B級と言ったら他のB級ゲームに申し訳ない、B級と呼ぶのもおこがましいゲーム『悪役令嬢』だったのです。
はい、ゲームタイトルが「悪役令嬢」です。ここ、重要ですよ!
プレイヤーは、主役の『悪役令嬢 イライザ・ルゥ・フォトガイラ』としてゲームします。
そして、婚約者の周りに出没するヒロインを虐め倒して、貶めて、社交界から追い出すと言うストーリーです。
前世の父曰く、
「俺が若いころにな、江戸時代もどき設定で、悪い役人をゲーム主人公にしたのが発売されたことがあってさ。
悪い役人が主役だから、敵(?)は、とある布の問屋の隠居のじいさんと御付きの二人とか、自称冷や飯くらいの旗本の三男坊とか、肩から背中にかけて入れ墨してる遊び人だったりで、そいつらを成敗するって内容だったな。
あと男のロマン! 屋敷の女中の帯を掴んでくるくる回して外すミニゲームなんかもあったな! うん。
まあそのゲームは売れてシリーズが続いたからさ、この『悪役令嬢』を作ったスタッフ、そのゲーム知ってて、ヒントにしたんじゃないか?」
だそうです。
前世の記憶に引きずられてしまいますが、本気で「ふざけてろ!」と公爵令嬢としてはあるまじき悪態をつきたい私です。
ゲーム「悪役令嬢」の攻略対象は五人。ゲームでは、プレイ開始時に五段階に分けられた難易度レベルから一つを選び、その難易度によって攻略対象が変わるようになっていました。
簡単なレベルから並べると、義理の同い年の弟(財務大臣子息) < 外務大臣子息 < 近衛隊隊長子息 < 第二王子 <第一王子 となります。
ゲームは王宮を中心として繰り広げられます。この茶会の会場である薔薇園や温室。舞踏会会場と、王宮図書館。各大臣の邸宅での茶会とサロン。近衛隊の隊舎の近くの鍛錬場です。
ゲームでは、プレイ開始時に選択したレベルの各攻略対象が、プレイヤー・悪役令嬢たる私の婚約者になっています。
でも、現実で考えると『王子を含めた複数の男性と婚約している』なんてことはありえませんよね。なので、この状況もゲーム補正なんでしょうか。
ゲーム内で、私の取り巻き(というか手下)であった四名の名もなきモブ令嬢たち。その令嬢達と私を含めた五名で、王子を含めた攻略対象の婚約者候補となっています。
なので、ものすごく大雑把に説明するならば、私は(他の令嬢もですが)現時点で、攻略対象全員の婚約者と言えなくもないのですよね。
現実の政治を含めた状況において、王子たちが私を含めたこの五人の誰を妃に選んでも、政治バランスに問題はありません。なぜならば、妃に選ばれなかった令嬢たちがそれぞれの子息の花嫁となることで、勢力バランスがとれるように選ばれているからなのです。
現実とゲームの設定とのバランスをとるための補正なのでしょうね、この状況も。
そして、五人全員の婚約者ともとれる立場になり、今後一年をかけて多数の茶会や夜会で、互いの相性を見極めて伴侶を決めるのです。
そこに、部外者になる『ヒロイン』がしゃしゃり出てきて横に侍っていれば、そりゃ苦言を呈するに始まって、排除しようと行動していくしかないのでしょう。
つまり、今からがゲーム開始ということですね。
同時に人生詰んだ感が、しまくってます。
もっと早く、前世を思い出したかったです。そうすれば、婚約者候補にならないように立ち回れましたのに。
ゲーム『悪役令嬢』は、普通の乙女ゲームとは違って「ヒロインが頑張って好感度を上げる」とか、「イベントクリアで親密度を上げる」というストーリーがないのです。そもそも、プレイヤーが動かすのはヒロインではないのですし。
悪役令嬢になって、攻略対象に寄りそうヒロインにあらゆるいじめや妨害をかけるというゲームなんですよ。
そのいじめや妨害は、すべてミニゲームなのです。そのミニゲームで取得したポイントが、ゲームエンドに直結していましたの。
攻略レベルに応じた各ゲームの取得ポイントの比率で、バッドエンドかハッピーエンドに分岐しますが、その比率バランスが難しかったです。
サロンでは、ヒロインに対しての悪口攻撃ゲーム。もちろん、モブ令嬢達と一緒です。選択肢の罵詈雑言のバリエーションが多数あり、その分野に関してのみ語彙力がつきましたね。
温室や通路での、足の引っ掛けゲーム。ヒロインが横を通る時にタイミングを見計らってコントロールボタンを押しで足を引っかけるのですが、なかなかの難易度でした。タイミング次第でよろける程度から、顔面から昏倒というものまでの差が。
茶会では、紅茶かけゲーム。コントローラーの操作具合で、ヒロインの制服にいかに紅茶をかけられるか。
王宮の階段からの突き落としゲームや、夜会でのワインかけ。あるいはドレスの裾を踏んで破るゲームなんてのも。噴水のある庭園で、噴水に突き落とすなんてものありましたか。
王宮の、それらの場所に立ち寄る度に必ずヒロインがいて、それらのミニゲームが強制開始されるのです。
さらに、図書館に立ち寄ると、ヒロインいじめはないけれど、教養ゲームという「どこのクイズ番組か!」っていうクイズが出てきてそれに答えないといけません。そのクイズの点数が低いと、攻略対象から蔑みの目で見られた上でのバッドエンド。どの攻略者も「その程度の教養で、私の隣りに立つつもりだったとはな」なんて冷めた声(イケボ)で言われるんですよね。
ゲームとは言え、画面の美形キャラにそんな風に冷たく言われて、楽しい? ほんとに楽しんでやるゲーム? って思いませんか?
ゲーム「悪役令嬢」のバッドエンドは、当然主役の悪役令嬢がヒロインに負けるので、最後の大舞踏会での断罪劇にて、婚約解消・身分はく奪国外追放。あるいは処刑のコース。
美しいキャラ様の、イケボな声で、非難されて最後に「刑場に引っ立てよ!」なんて言われて喜ぶ趣味は、私にはありません。
ではハッピーエンドはというと、攻略対象との結婚式シーンのスチルが出ますが…。
結婚相手によって多少のセリフはかわりますが、要約すると、
『政略結婚なんだから愛情などない。妻としての義務は果たしてもらうぞ。
(後継者はしっかり作るからな)
夫を立てて、その妻としてしっかり社交界でもふるまえよ。
(俺は紳士の嗜みとして、愛人作るけどな。候補はヒロインだ)』
と言われるんですよ。結婚式のスチルは、攻略対象者は唇にわずかの笑みも見せずに仏頂面のまんまで。
しかも後ろのモブのなかに、さり気にヒロインが立っているし。
いったい誰得のエンドなの!と言いたいです。
話が逸れましたね。
つまりゲーム『悪役令嬢』は、『悪役令嬢転生ネタのラノベ』のように、断罪回避するネタがないんです。
顔合わせの茶会で、初対面のヒロインにたいして攻略対象者は警戒もせずにかけよりました。婚約者候補を無視して。
ほんと、嫌になるぐらいうまい具合にゲーム補正が機能してますね。
ゲームではスタート時からヒロインとラブラブな状態で、常にヒロインの横に攻略対象者がおります。
つまりこれ以降、攻略対象者とヒロインの出会いイベントも親密度を上げるイベントなどもまったくないので、バッドエンドを回避するネタや圧し折るフラグなどありません。
「じゃあ、なんにもしなきゃいいじゃん」って思うでしょ?
どこにも立ち寄らずに、時間を過ごすだけだったり、ミニゲームで選択肢の一つ【なにもしない】を選んだこともありましたよ。でもね、ヒロインに何もしない、つまりはいじめをしなかった場合、攻略対象者から罪を捏造されての「婚約解消~処刑」コースまっしぐらというバッドエンドでした。
「じゃあ、ほどよくいじめれば?」といいますか?
それ、成功したら、政略結婚で愛のかけらもないハッピーエンドコースです。愛人にはヒロイン。しかも本宅はヒロインが住んで、本妻のはずの私は別宅なんてことも。
失敗すれば、婚約破棄の断罪ルート突入。つまりはバッドエンドですよね。
どう考えても、私の人生詰んでませんか?
今更どうにもならないと分かっていても、私は問い詰めたい。
こんな、誰得なゲームを作って何がしたかったのかと、ゲーム開発者たちに。
イケメンスチルにイケボで、ハッピーエンドでもバッドエンドでも冷たくされるゲームに、本当に需要があったのかと。ゲーム開発費を回収して利益を上げられるほどの、Мな趣味の購買層が厚かったのかと。
乙女ゲームとは、攻略対象者との駆け引きで、プレイヤーにキュンキュンさせたりするものじゃないのかと。なにが楽しくて、ヒロインいじめて、イケメンに嫌われなくちゃいけないのかと。
さて、顔合わせの茶会後半、私が倒れてしまったことと、攻略対象者が全員退席してしまってグダグダに終わってしまった茶会の仕切り直しとして、明日再び王宮の温室での茶会に、他の四人の令嬢ともども(そして攻略対象者も)招かれているけれど。
私はどうふるまうべきなのでしょうね。
行かないと、断罪コース発生。行っても、紅茶かけしないとこれまた断罪コース。行って、紅茶かけしたら、愛のない結婚コース。
どちらも嫌です。
私、政略結婚でもせめてお互いを尊重しあえる夫婦になりたいです。せめて笑顔で話し合える夫婦の仲になりたいです。
本当、人生詰んでいます。
本当に、ゲーム開発者にとことんクレーム入れたいです。できるのなら。
おしまい
■■■■■■
オリジナル作品仕上げるの、何年ぶり…十何年ぶりだろう。
リハビリで書き上げた感あります。
少しでも楽しんでもらえたら、嬉しいです。
*小説家になろうでも公開しています。
*悪役令嬢の名前のイライザ。父親の言ってた江戸時代もどきのゲーム。わかる人は同年代ですね。
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