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第二章  【西の王国】

2-3 揺れる心

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ハルナとエレーナの関係を心配し、ティアドはアーテリアの勧めでこの屋敷で一泊することにした。

時間が少し経ち、ハルナが落ち着いたところを見計らい、先ほどの話しをハルナに伝えようということになった。




ハルナは、ティアドが滞在している部屋に呼ばれた。


ティアドに部屋の中に招かれ、椅子に腰かけるよう誘導された。

とても気を使ってくれていることが、ハルナ自身にも伝わる。
だが、まだ笑顔を作れる余裕はない。

それ程、辛い出来事だった。


ティアドはソフィーネに、甘い暖かい飲み物を用意するよう告げた。
ソフィーネは部屋を一旦退出し、飲み物の準備をする。


ティアドはハルナに向き合い、優しく話しかける。




「……私も信じられないのよ。彼女に何かあったの?」


「……わかりません。ほんの数日前までは普通に過ごしていたと思います。特に……嫌われるようなことはなかった……はずです」


「モイスティアでは、あんなに仲がよろしかったのに。ほんの一か月くらいしか経っていないわよね」


「はい。その間に一緒に森の中で過ごしたり、普通に見回りとか一緒に行っていたんです……まったく感じませんでした。エレーナが私に不満を持っていたなんて……鈍感すぎます」


「違うわ、あなたはそんなに悪いところはないのよ。エレーナさんに何か事情があるのかもしれませんね。……そういえば、フウカ様はエレーナ様の異変について何か気付かれていなかったのですか?」




呼ばれたのだと勘違いして、フウカがハルナの背中から姿を見せる。




「フウカ様……エレーナ様に何か感じられていますか?」



ハルナの気持ちに感応するかのように、フウカの気持ちも落ち込んでいる。


「……何も……何も感じないのよ……いつもと同じなの」




「そうですか……こればかりは、エレーナ様の抱く不満を解消していくしかなさそうですね」



ソフィーネがノックをして、部屋に飲み物を運んでくる。
ティアドにレモンティーを、ハルナにはちみつ入りのホットミルクを持ってきてくれた。

部屋の中に良い香りが、広がっていく。
それぞれの飲み物の香りもぶつかり合うことなく、程よくブレンドされて気持ちが落ち着く芳香を生じていた。



「その問題については、私たちも何か情報を探ってみるから安心して、ハルナさん」


「有難うございます……」


ティアドはせっかくソフィーネが用意してくれた暖かい飲み物が覚める前にと、ハルナに勧めた。
一口含み、気持ちと一緒にゆっくりと喉の奥に降ろしていく。


落ち着いたタイミングを見計らい、ティアドは話を切り出した。



「ここからは、私が本来この町に来た目的についてお話しさせて頂いてもよろしいかしら?」



ハルナはその言葉に対して、静かに頷いた。

その返答にティアドは、感謝とハルナの今の状況に対して心配させないために優しさ込めた笑顔で返した。



「先程もお伝えしましたが、モイスティアとしては……ハルナさん。あなたを王選の代表としてお願いしたいのです」




騒動の中で混乱していたが、改めて聞くと大変な役目ではないかと戸惑っている。




「でも……確か本来は”ウェンディア”さんが選ばれていたんですよね?……なぜ私に?」



ティアドはまっすぐにハルナの目を見る。



「この提案には二つの理由があります。申し訳ないのですが、こちら側の都合による割合が大きいのでしょうけどね」



「お聞かせいただけますか?」



ティアドは頷き、ハルナに答える。



「まず一つは、モイスティア内には、あなたよりも目立った精霊使いがいないということです。王選は、比較的新しい精霊使いと王子が組んで旅をしていきます。そこで、ある程度の技能持ったものでなければ大事な方を危険にさらしてしまう可能性もあります。これは、精霊使いをどのように教育してきたのかという選出した者の責任でもあります」




ハルナは思い出す。
アーテリアのカメリアという女性の話を。

王子に取り返しのつかない”何か”が起これば、それはいろいろな問題になることがハルナでも容易に想像できる。
今ではそうではないが、カルローナのような行動を本気でやってくる者もいるはず。
そういう者たちに弱みを握られることは、その家にとっては大きなダメージとなる。



「次に、エレーナ様が選ばれていたことは公然たる事実であります。できればエレーナ様の旅が良いものとなるようにという願いも込めての提案であります。モイスティアは、今回の件の恩を少しずつでも、お返しさせて頂きたいのです」



「でも……」


「それに今回の件は極秘ですが……キャスメル王子のご意向でもあります」



――!!



「キャスメル様の?」




ハルナは忘れていた。あの人物も王子であったことを。



「キャスメル王子は、ハルナさんとエレーナさんが活躍することを期待しておられます。それに……」


ティアドは一度、口を紡ぐ。
そして、思いを決めてその言葉を口に出す。




「それに、ハルナ様はどのような力でか存じ上げませんが、”違う世界”からいらっしゃったとのこと。今ではフリーマス家におられますが、今回の件でスプレイズ家の後ろ盾も得られた方が、この世界で生きていくには有益ではないかと思います」




ハルナはこの世界の人間ではない。
この事実をハルナの周りの人物は、好意的に受け入れてくれている。
ウェンディアに似ているということもあったのだろうが、その事を除外しても異世界に来たハルナに対して好意的であることは間違いない。

ハルナは常々思っていた。
この世界で出会った最初の人物が”エレーナ”で良かったことを。

そうではないパターンも想像してみたが、恐ろしすぎて長くは続かなかった。


そんなエレーナは今……ハルナに対して敵意ある感情を持っている。





最初の状況から時間が経過し、今はティアドと少し話しをして落ち着きを取り戻している。
まず最初に思うのは、”……エレーナに何が起きたのか”。






黙っているハルナが、今一番何を気にしているのかティアドは考えた。
そして、ティアドはハルナにある提案をする。



「……ハルナさん、明日一緒にモイスティアに戻りませんか?」



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