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第二章 【西の王国】
2-32 偶然の背景
しおりを挟むハルナの後ろを、リリィがついて歩く。
すっかり気に入られたようだ。
慕われて、ハルナも悪い気はしない。
だが、少し照れてしまうのは、元は引っ込み思案な性格だからなのだろう。
先程の浴場での会話を思い出す。
リリィは、いろいろと親から話を聞いていたみたいだった。
それはコルセイルから、娘の身を守るためでもあるのだろう。
リリィは、その話しを全てハルナに教えてくれた。
今回リリィは、コルセイルの半ば命令に近い形で王選に参加していた。
リリィの母親は、コルセイルの妹だった。
母親はコルセイルの思惑のため、商人であるミヤマエン家に政略的に嫁がされた。
貴族ではあるが落ち目の貴族の経済状況は、想像に難くない。
故に貴族として存続するためには、ある程度の資産を保有している商人が必要だった。
ガストーマ家では現在、長女であるコルセイルが一番決定権を持っている。
そんなコルセイルの最終目的は、”ガストーマ家の再興――”
幼い頃に見てきた、威厳のある一族の権威をもう一度この手に……
家が凋落していくその様は、思春期のコルセイルの記憶に付けた傷はあまりにも深過ぎた。
再興のためには、王家にも何らかのつながりを持ちたいと考えていた。
王都の中で探っていた情報網に、”王選”の話しが引っ掛かった。
王選に参加した精霊使いは、前回では王妃に選ばれたり、王宮の精霊使いとしても上の地位に抜擢されたり、大臣と結婚し町の管理を任されたりしている。
コルセイルはこれ以上のないタイミングを、何とかモノにしたいと考えた。
しかし、その考えはすぐに行き詰まることになる。
王選の精霊使いは王国および町長からの推薦が必要となる。
今回は、王国から推薦したモイスティアの人物の行方不明が噂になっていた。
コルセイルは、そこに目を付けた。
調べるうちに、モイスティアからの代表は聞いたことのない家の者が代表に選ばれていた。
ここをポイントに攻めるべく、浮かんだ案が”異議申し立て”だった。
この王国では、王の持つ絶対的権限を元に創った”第一種”法がある。
これは国王の名のもとに作られた法律で、王国の儀式や存在についての法律である。
ちなみに第二種法は、他国間や住民間の争いが起きないためや起きた時の取り決めなどを定めた法律である。
王選の第一種法への異議申し立てについては、発議者の他に王家に仕える大臣の一人以上の同意が必要とされている。
王家に仕える大臣たちは、最も王に近しい存在だった。
大臣たちは王に意見をすることができ、王も大臣の意見については重要視していた。
大臣になるためには、知識、技能、コミュニケーションなどの能力に長けていなければならない。
そのうえ、何よりも王に信用されている必要があった。
そういうことから、多くは王都の騎士団長や王宮精霊使いもしくは王選に参加した精霊使いから主に選ばれることが多かった。
よって、第一種法に対して異議申し立てを行う場合は、大臣の同意が必要であった。
その同意者がなぜ、エレーナの父である”エストリオ”だったのかは分からないという。
今回のコルセイルの行動に対して、何かの罪を負わせることが出来るかといえば無理だった。
表立って罪を犯しているわけではなく、よくある”一族の争い”程度の被害のためコルセイルを罰することはできないというのがミヤマエン家の認識だった。
なので、今回はずっと家族で話し合ってきた”絶縁”をすることになるだろうと話す。
こればかりは、ハルナはどうすることもできない。
心配するのは絶縁した後、リリィたちへ嫌がらせが及ばないかという点だった。
それに関しては、コルセイルも経済面での協力者がいなくなるため相手にとっても不利になる。
絶縁により二つの家が同時に消えてしまう可能性もあるが、これも一族がとらなければならない責任とミヤマエン家は感じているようだ。
こんな重い話を、ハルナだけで解決できるはずがない……
もっとこの国の事情に精通していて、貴族にも対抗できるある程度の権力があり、協力的な……
――あ
ハルナは思わず声をあげた。
「――?」
リリィは立ち止まったハルナの背中を見つめる。
ハルナはくるっと後ろを振り向き、リリィに告げる。
「これ、ローリエンさんに相談してみない?」
リリィはハルナが何を言っているか分からなかった。
いまハルナが口にした人物の名は、この国で王に次ぐ権力を持つ人物の名だ。
その方に軽々しく、話しを持ち掛けるなど……
すると、廊下の角から目的の人物が現れた。
「あら、ハルナさん、リリィさん。お身体はもう大丈夫?」
「あ!ローリエンさん、ちょうどよかった、お話ししたいことが」
「ちょっとハルナさん!?」
慌ててハルナを止めようとするリリィ。
「わかりました、よろしければ私のお部屋にいらっしゃいませんか?私もお二人とお話ししたいと思っておりましたので」
リリィは、呆然とする。
この国の二番目に偉い人物に、こんなにも気軽に話しかけるハルナ。
「リリィさん、行きましょう!」
遠くでハルナの声がした。
もう、二人は移動を始めていた。
「ま……待ってください!」
リリィは、小走りでハルナ達を追いかけていった。
リリィとハルナは、立派なテーブルの一辺に並んで座っている。
その向こう側には、王妃が座って二人の説明を聞いていた。
「……リリィさんにはそういう事情がおありでしたのね」
ローリエンは、神妙な顔つきで告げる。
「かといって仰ってた通り、今何ができるということもないですね」
結局、振り出しに戻るのだった。
「でも……話してくれて嬉しいわ。こちらでも注意しておきますので、あなた達はとにかく今はお休みください」
「あのローリエンさんの聞きたかったことって……?」
「いいの、別に急ぎじゃないから。また今度……ね」
そう言われたハルナ達は、話しを聞いてくれたことに対しお礼を言って部屋を後にした。
ローリエンはハルナ達が部屋を出て、割り当てた部屋の方向へ帰っていくことを確認した。
「……ディグド」
「なに?ローリエン」
姿を隠していた妖精が、ローリエンに呼ばれたことでその前に現れる。
「聞いていたわね、あなたはハイレインに今の話しを伝えてきて。それと引き続き、ハルナ(あの子)を見張っててちょうだい」
「わかったよ……王妃様」
ディグドはそういうと、再び姿を消してハイレインの元へ向かった。
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