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第三章 【王国史】
3-161 ブンデルとナイロン
しおりを挟む「そう、ブンデ……いや、ナイロン。あなたの本当の名前はナイロンなの」
ナルメルは、事実をブンデルに伝える。
「俺が……ナイロン……いや、俺の名前はブンデル。そうでしょ、村長!?」
ブンデルは、信じがたい事実を突きつけられ困惑する。
そのことを否定されたくって、ブンデルは項垂れる村長に向かって強い口調で確認をとる。
だが、村長はその問いに否定することも肯定することもなく、ただ目を瞑ってかおを下に向けたままだった。
逆に、その沈黙が答えとなっていた。
ブンデルは両手で顔を覆い、首を激しく横に振る。
その反動でブンデルは机、椅子や壁などに身体をぶつけているがその行動を止めようとはしなかった。
その様子を見て心配するサナは、ブンデルに声を掛けることもできず悲しい目で見守っていた。
徐々に落ち着きを取り戻し、肩でしていた呼吸も次第に収まりを見せていった。
感情を必死に殺し、冷めた顔つきのままサイロンの方に向かっていく。
「村長……あなたは自分が何をしたのか、わかっているのですか?俺の名前を奪った……俺の自由を奪った……俺の時間を奪った。それはいったい……何のために?誰のために?」
ブンデルはゾンデルの前を通り、サイロンが座る椅子の前のテーブルに両手を付いてサイロンの顔に近付ける。
そこからさらに、ブンデルの言葉は続く。
「あの何もない薄暗い小屋で、夜長い時間をどれだけ過ごしてきたことか。一度も見たことのない自分の親や家族想像して寂しさを紛らわせてきたか。できなかった魔法ができるようになった時、一緒に喜んでくれる友人がいてくれたらと何度思ったことか……村長、アンタにこの気持ちがわかるかっ!?」
ブンデルは、机の上を何度も叩きつけてサイロンに詰め寄った。
しかし、何度か叩きつけたところでゾンデルがその自分を傷つけるような行為を止めた。
「ナイロン……いや、ブンデルか?もうそのくらいにしておきなさい」
ゾンデルはブンデルの両方を掴み、テーブルから引き離した。
触れた肩は感情が力となって現れ、硬く震えていた。
「我々も、お前には申し訳ないことをしたと思っている……お前を助け出せなかったこと……この村を変えれなかったこと……『友』も救えなかったことも。全て、私の力が足りなかったのだ」
その言葉を聞き、サイロンの身体が僅かに動いた。
だが、それ以上の反応は見えず、再びこの部屋に無言の時が流れる。
ブンデルの生い立ちに、言葉がでないこともあるのだろう。
このままでは何も進まないと感じたステイビルは、意を決してこの無音の時間を破ることにした。
「……とにかく。この状態どうにか治めませんと、この村は更なる危機的状況に陥ると進言しますが?」
その言葉を聞き、ゾンデルがこの場を取りまとめた。
「そうですな、人間の方がおっしゃる通りです。……ですが、今の状態ではまともに話し合いも出来ないでしょう。今日は一旦、これまでにして明日今後について話し合いを行いたいと思いますが……いかがかな?村長よ」
サイロンはその言葉に一、二回力なく頷いて、ゾンデルの案が決定された。
「それでは、皆さん。この場は一旦解散としましょう、マルスちょっと……」
ゾンデルはマルスを呼んで、サイロンを自室に連れて行って休ませるようにお願いした。
ナルメルは、昔使っていたこの屋敷の勝手を知っていたのでハルナたちに休む部屋を用意し案内した。
ナルメルは屋敷の中を歩き、寂しく思う。
ナイールがいた頃のあの賑やかさは、この屋敷の中にはもうない。
ナルメルは、ステイビルで一つ、ハルナ、エレーナ、アルベルトとソフィーネで一つの部屋へと案内した。
「……ここを使って」
ナルメルは、ブンデルとサナに部屋に案内した。
ここは、ナイールが最後に寝ていた部屋だった。
「ナイロン……ここはあなたが生まれた部屋なのよ」
その一言だけ伝え、ナルメルは部屋の扉を閉めた。
ブンデルは、ベットのシーツのシワをなでてその感触を確かめる。
この屋敷も、少し前までは捨て去られようとしていた。
荷物をテーブルの上に置いて、椅子に腰かけたのはサナだった。
そして、こちらに顔を隠しずっとベットのシーツをなでるブンデルの背中をじっと見つめていた。
声を掛けることが、今のブンデルの気持ちを壊してしまいそうな気がしてサナは声を掛けることができなかった。
「サナ……俺は一体……誰なんだ?」
ブンデルは小さな声で、サナに話しかけた。
「私にとって……あなたはブンデルさんです。それ以上でもそれ以下でもありませんよ」
サナはブンデルの問いかけに、すぐ返答した。
間が空いて余計なことを考えているように取られない様に、サナは思いついた偽りのない答えを返した。
ブンデルはそのサナの答えを聞き、次の質問を投げかける。
「これから俺は……どうすればいい?……今までと同じように生きていけるのか?」
「私は……ずうっとブンデルさんの味方です。何があっても……何が起きても……昔のことは分かりませんが、今のブンデルさんが好きですよ」
「サナ……」
最後の言葉にようやくブンデルはサナの方に振り向く。
サナは思った。
突然昔の話を聞かされて、情報と感情が頭の中で激しく渦まいて整理しきれない状況なのだろ。
他の種族の話に今は何一つできることはないが、目の前の付かれている人を癒すことはできる。
サナは手を広げて、ブンデルのこと待った。
するとブンデルは、フラフラと引き寄せられるようにサナの方へ向かっていく。
ブンデルも手を伸ばして、サナの手を掴もうとしたその時……
――コンコン
外からドアをノックする音がした。
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