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第三章  【王国史】

3-199 東の王国3

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二人は、先ほどまでの夢の中のような出来事を頭の中で反芻しながら村への道を歩いて行く。





「すっかり遅くなっちゃったわね……」


「お母様も心配してるわね、きっと」





走ることはしないが、かなり速足の部類で進んで村を目指して行く。

普通に歩くと四、五十分くらいかかってしまうが、この速度であればその半分くらいの時間で着くことができるだろう。




二人は家に、何も言わずに出てきていた。

少し驚かせたいという考えもあり、いつもうるさい両親を心配させたかったことが理由だ。
今までに一度も、親に本気の心配をさせたことはない。

娘たちの将来にしても本気で心配される年齢ではないし、いざとなれば言い寄ってくる異性はたくさんいることも両親は知っていた。
ただ、当の本人二人がいつまで経っても相方を見つける気が起きていないことに焦りを感じていただけだった。

その気があれば、将来的にその者が村の長となる問題はどうとでもするつもりでいた。






深く入り過ぎた森も、最初に積んでいた野草が群生するところまでもう少しのところに来ていた。





「あ、ちょっと待って。靴ひもが……」




その時――




ガっ!!!



しゃがんだセイラの頭を何かが飛び越えていった。



「セイラ!!」




その様子を見ていたエイミが、叫び危険を伝える。
そこには野生の狼が二頭程、二人のことを狙っていた。





セイラは、振り返りその姿を確認したがそのまま恐怖で身体が動かない。
オオカミは二頭で頭を低くしながら二人の周りをゆっくりと回っていく。


いつでも、襲いかかる準備は整っていた。







エイミは、急いでセイラの身体を引き上げた。
靴ひもを結ぶために地面に置いた籠をもち、オオカミから距離を取ろうと走り出した。

最初は、引っ張られるように走っていたセイラも恐怖を乗り越えて自分の意思で走り始めた。




「ハァ!……ハァッ!」



エイミは走りながら後ろ振り返ると、そこにオオカミの姿は見えない。

だが、草木の中に隠れて二人のことを追っている音は聞こえてくる。
その状況が更に恐怖心を掻き立て獲物を追い詰めている、これがオオカミたちの狩の方法なのだろう。





エイミは再び前を向いて、速度を落とさずに走っていく。
ここで、脚に何がが辺り躓いてしまった。




「……あっ!」





エイミは前方に倒れ、滑り込んだ。
採取したつぼみの入った籠は放り出され、散らばっていく。




「エイミ!?」






並んで走っていたエイミの姿が視界から消えたことに、セイラは立ち止まって後ろを振り返る。

そこには倒れ込み、地面に身体を打ち付けた痛みで顔をゆがませるエイミの姿があった。




セイラは少しだけ戻り、エイミの身体を起こそうとする。
辺りには二人を追従してきたオオカミの存在が感じ取れるが、物音ひとつ立てずに移動しているためどこにいるのか判らない。



周囲に気を付けながら、今度はセイラがエイミの身体を引き起こす。
だが、倒れ込んだ身体の接地面が広く、容易に引き上げられなかった。



「エイミ……早く!!」




セイラは、引き上げようとした姉の腕を一旦手放した。
草むらを移動する音が消えたことに気付き、籠を両手で持ち見えない敵に備えた。





『――ガゥァッ!!』




草むらの中から牙をむき出しにしたオオカミが、セイラに向かって飛び掛かってくる。




「――っ!!!!」





セイラは目をつぶって思い切り、手にした籠を横方向に振りぬいて襲ってくる影に向かって叩きつける。





バン!!



籠の中に集めたつぼみがはじけ飛び、その衝撃で竹のような強い素材で編んだ籠も取っ手の部分から壊れてしまう程叩きつけた。




『ギャン!!』







オオカミは悲痛な声をあげ、目標物であったエイミの軌道から外れ地面に転がり落ちる。

草むらに隠れていた一匹が状況をみて、倒れ込んでいる人間は抵抗する状態ではないため後でゆっくりと始末できると判断した。
もう一人は一匹の仲間を攻撃し体制を崩して反撃できないと判断し、好機と考えその獲物に狙いを定める。







『ゴワァ!!!!』





「セイラ!!!」



倒れ込んでいたエイミが、顔を上げると自分を助けようとしたセイラに危険が迫り叫んだ。





隠れていたオオカミは草むらから飛び出し、後ろを向いている獲物の首元を狙う。
その視界には、その人間から飛び出した二つの白い粒が視界に入ってくる。


だが、そんなことは大した問題ではないと判断し、狙いを定めた急所だけに集中をした。

このままいけばエモノをこの牙で噛み、いつもの温かい血が流れこの喉の渇きと飢えを満たしてくれる。
確実にそうなるものだと信じて疑わず、久々のエモノを求めてオオカミはもう少しだけ口を大きく開けた。




しかし口の中に入ってきた者は、大量の水だった。


白い粒は大量の水を放出し、オオカミをセイラから退けた。


セイラの周りをまわるもう一つの白い粒から、火炎放射のような炎が噴き出す。

その炎は、籠をぶつけられたことによって脳震盪を起こしているオオカミに対して吹き出された。

炎はオオカミの毛を焼き焦し、毛が焼ける独特の匂いを発する。






自分の身に起きた異変を感じ、オオカミは自分の焼ける匂いを嗅ぎながら悲痛な声を出しながら森の中へ逃げていく。
水をまともに食らったもう一匹のオオカミも外れた顎関節をそのままに、逃げたもう一匹の後を追って走り出す。




そして、エイミはセイラの姿を見て無事であることを確認し、ゆっくりと身体を起こした。









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