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第六章 【二つの世界】
6-35 特殊な嗅覚
しおりを挟む「な、なぜあなたが……そのことを!?」
「これは……私たちの中でも一部しか知られていないはずなのに!?」
「え……っと……そ、それは」
ハルナは、自分の口にしたことを公開する。
の情報は間違ってはいなかったようだが、ドワーフの中でも知られていない情報を初めて会うハルナが知っていること自体に警戒感が高まっていくのを感じている。
だが、そこに助け舟を出してくれたのはサヤだった。
「……こいつにはそういうものを嗅ぎ分ける”鼻”があるのよ」
「「――な、なんですってぇ!?」」
サヤは、周りの者たちに自分の仲間は時々そういう力を発揮することがあると伝えた。
今までの旅の中でも、ハルナが相手の能力に気付いたおかげで危険な場面を何度かやり過ごすことができたとも付け加えた。
「……まぁ、まだどういう時にこの力が発揮されるかなんていうのは研究中だからあてにはならないんだけど……でも、うまく使えたら便利でしょ?これ」
ハルナはサヤのでたらめな説明に呆れてしまい、もう自分たちに与えられた設定とか面倒臭くなり、それらを覚えるのをここから放棄した。
しかし、嬉しかったのはこの偽の能力が常に発揮できるわけではなく、いつこの能力が発揮されるかわからないという点にしてくれたことだった。
これによって、知っていることは口に出してみて当たれば良しとし、知らないことは能力が使えないとしてしまえばいいという逃げ道も用意してくれていた。
幸いにして、ここまでこの世界に存在する者たちは今までとさして変わりがない。
ただ、その内容が変わっているだけだったため、各個人の能力はハルナが知っているものと一緒のようだった。
この世界の者たちと敵対するつもりには微塵もないため、前の世界の情報がこの世界での交渉の材料になればとうまく活用できるのではと思いつく。
そして、さっきのモイスの件を何とか取り繕うとした。
結局嘘は通用はせず、本当のことなど言ってもさらに通用しないのではないかと考え、どちらがこの場で正しい選択かを考えた上で。
「あ、ごめんなさい。さっきのモイスさんって……私の国の知り合いで……どうやら同じ名前みたいだったから……なんかわたし、勘違いしていたようですね……はは、はははは……は」
イナがハルナを見つめる目は、きっとこの発言が嘘であることがバレている目だろう。
しかし、その発言についてイナたちは何も反応することはなかった。
「わかりました……とにかく、あなた方はもう少しこの中にいていただきます。何かあれば、奥に見張りの者がいますので、その者に声をかけるといいでしょう……まぁ、逃走することはないと思いますので拘束もしません……よろしいですね?」
「ご配慮、ありがとうございます……イナ様」
そう言ってステイビルは、深々と頭を下げた。
その礼に対しドワーフの長老たちは何の反応を見せずに、振り返って出口に向かって歩き始めた。
デイムが手にしていた松明がこの場から消えていったことにより、周囲に設置された一本の松明の明かりだけになり、鉄格子の中は再び薄暗さを取り戻していく。
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