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第六章 【二つの世界】

6-55 ニナの提案

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「ところで、これからどうされるのですか?ステイビル様」


これから先のことを心配したドイルは、ステイビルが不安になっているだろうと考慮して優しく問いかけた。




山の入り口付近の騒動は落ち着き、ステイビルたちは町の中の司令本部の中に場所を移した。
周囲はエルフとドワーフの協力で警戒してもらい、警備兵たちは通常通りの町の侵入者と王国側の使者に対して対応することが決まった。



「……このことは、近いうちに王国もすぐ異変に気付くことだろう。そして我々はここを拠点に防衛線を張り、王国の軍を迎え撃つつもりだ。もちろん攻撃が主体ではない、できれば話し合いをおこない、この地がドワーフとエルフの物となるように認めてもらうように交渉をするつもりだ」


「……そう簡単に、事を運ぶことができますでしょうか?」


「難しいだろうな……だが、これは約束したことだ。それを裏切ることは出来ない」


「そのことでステイビル様に提案があります」





そう、横から告げたのはニナだった。
ニナはかぶっていたローブのフードを外し、その顔をこの場にいる者たちに晒した。
人間たちの視線が集まってくるが、それはドワーフという種族で女性であるという物珍しさからではない。
この場に集まった、今後のことを考えていくためのアイデアを待つ視線だった。
ステイビルは名を呼ばれたため、ニナにその提案の内容を求めた。






「ニナ様……その提案とは?」


「それは、この土地を我々……エルフとドワーフと人間……さらには他の亜人たちも共同に生活ができる”共同特区”にできないかということです」


「そ……それは……私としては嬉しい限りですが?なぜ……そのようなことを」


「その理由……今この場で告げる理由はありますか?」


「いや……そういう……何と言いましょうか」




ドイルの困った顔を見て、ニナはハッとして自分の口調が強めになっていることに気が付いた。





「すみません……ですが、いまこちらから提案できる……しかも譲歩できる最大の提案です」


「ですが……王国側が、それを承諾できるのでしょうか」


「ステイビル様……あなたのあの”言葉”は偽りなのですか!?」





ステイビルの言葉に対して、デイムが声を荒げて身を前に乗り出した。
その言葉で再び、”政権奪還”という言葉がステイビルの中に浮かび上がる。
ステイビルが政権をとることができたのならば、その案も実現可能となる。
だがそれは容易なことではなく、国が二つに分かれる事態になることも考えられる。いや、分かれるならまだましな方だ。



(私に味方をしたドイルたちの命は……)



このことを提案してくれたのはサヤだったが、サヤ自身は”大丈夫大丈夫、平気平気”と気軽に言っていた。
その言葉はきっと、ステイビルの緊張感を解してくれるものだとステイビルは考えていた。

(しかし、これしか道はない……それにもう事態は動き始めた。私が気弱でどうする、しっかりしなければ)



「すみません……そして、ありがとう。デイム殿」



デイムはステイビルの目の奥に力が宿ったことを確認し、”フンっ”と鼻から一つ息を吐きだしニナの後ろの元の立ち位置に戻った。

それと同時に、ステイビルはこの場にいて欲しい人の姿が見えないことに気付いた。



「……あのお二人は……どこへ?」




その問いに答えたのは、ナルメルだった。




「あのお二方は、いまグラキース山の頂上を目指しております」







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