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第六章 【二つの世界】
6-88 ルーシー・セイラム9
しおりを挟む「私は、この国を守りたい……だからこそ、あなた方の力を……お借りしたいのです!!」
ルーシーの声には、今までにないほどの力強さを感じた。
ハルナは元の世界でも、こんなに必死なルーシーの姿は見たことがなかった。
サヤも今までと違うルーシーの姿に、ふざけた態度をとることもできずにハルナとその姿を黙って見つめていた。
ルーシーは、この国に違和感を感じていた。
セイラム家は代々、王国の戦力面で貢献してきた家の一つだった。
産まれてきた男性たちは全て騎士団へ入団しており、その力を王国に貸してきた。
だがルーシーは兄弟がおらず、これまで続いてきた騎士団への貢献もこの代で終わってしまった。
その後を狙う他家の数は多くはないが、すぐにその”位置”を狙った。
ルーシーは若いころから見合いをさせられ、つながりが強い”セイラム家”のパイプを利用しようとしている者たちが自分の周りに集まってくる。
そのことが嫌になったルーシーは、精霊使いとなることを決めた。
ルーシーの親はその意見に反対しようとした……何年もかけて努力をしても、その結果精霊と契約できなければかけた時間が全てが無に帰してしまう。
しかし、これまで娘に持ってきた縁談はすべて、納得のいくものではなかった。
その裏には全て、歴史あるこの家を利用しようとしている者たちばかりであることが判っていた。
理由はそれだけではない、騎士団は元々王宮精霊使いとお互いに反対側の位置にいるため、いい印象を持っているとは言えなかった。
”王国のために……”その思いが、代々セイラム家を受け継いできた者たちに与えられた使命だった。
精霊使いになれたとしても、王宮精霊使いになるには実績を重ねて推薦される必要がある。
今まで敵対してきたセイラム家の者が目指すとしたら、そのこと良く思わない者たちはその中にいることだろう。
そうすれば、ルーシーが王国のために貢献できる可能性は大きくはない。
だが、このまま何もしなければセイラム家はこの代で終わりを迎えてしまう。
ルーシーは父親と約束をし、精霊使いを”目指す”ことを許された。
一つは精霊使いになれなかった場合、二つ目は精霊使いとなったあと三年以内に王宮精霊使いとなれなかった場合には、父親が決めた相手と結婚し、家を継ぐということ。
ルーシーは、セイラム本家としてのプライドが邪魔に感じていた。
父親も母親もその呪縛のようなものに縛られて、自分に対する愛情の優先順位が低くなっていると常々感じていた。
そのことを両親に告げたことがあったが、その疑問について何が悪いかと言って、ルーシーが感じていることについてはまるで取り合ってくれなかった。
その時はきっと親も、自分と同じ境遇の中で自身の中で何かを殺しながら過ごしてきたのだろうと、ルーシーはそれ以上話すことを止めた。
それでも、精霊使いを目指すことが最大限の譲歩として納得した。
そしてルーシーは、その時と同じ女性たちが歩む道とは違う道を進むことを決意した。
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