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第六章 【二つの世界】
6-108 争いの後
しおりを挟む――ドン!
「もう一度行くぞ!……せーのおっ!!」
――ドン!
同じよう行動が何度か繰り返された後、その現場を仕切っていた隊長の悲痛の声が響きわたる。
「……クソっ、ダメだ!おい、そこのお前!急いで精霊使いを呼んでこい!!」
隊長は警備兵だけで何とかしたかったのだが、結局どうにもならないと判断して頼みたくはない精霊使い達の力を借りることにした。
城の屋上に降り立った目標物に向かうため、兵士たちは何とか屋上へと出ていこうとする。
だが、唯一の屋上への入口の扉は、ハルナの精霊の力によって塗り固められていた。
何度も大きな固いものを打ち付け、壊して開けようとする音。
精霊使いたちが、作られた壁を元素に戻そうとする気配。
水、土、風の三つの元素を練り込んだ壁は、一属性しか持っていない精霊使いでは構造が複雑で解除することができなかった。
それ以外にこの場所にくる方法は、垂直の壁を登りくることだけだった。
その方法も現時点では、危険を冒してまで実行しようとするものはいない。
待ち受けている者たちが、その行為を許すとは到底思えないためその方法は却下され続けていた。
「大丈夫ですか!?お怪我などございませんか!?」
イナは小さくなっていくモイスの背中から飛び降りて、サヤのもとへ駆けてきた。
「あぁ、身体は大丈夫さ……なんともないよ。っていうか、アンタたちに何があったのか気になるところだけど……」
「ご心配ありがとうございます。ですがいまは、この場を離れることを優先いたしませんと」
「そうだね、みんな無事な様子だし。……うん、早速行こうか。もうこの場にいる必要もないから」
「「かしこまりました、すぐに準備を」」
サヤがそう告げると、二人のドワーフは同じような大きさになって首を巻きながら座っているモイスの方へ向き、逃走の準備を始めようとした。
その様子はまるで、ピクニックに来て時間になったため帰ろうかという雰囲気だった。
ほんの壁一枚の向こうで、自分たちを捕えようと大勢が試行錯誤していることなどまるで関係がないかのように。
実際、いまだに二つのグループを遮る壁は突破されてはいない。
地上で騒いでいた兵士たちも、モイスの姿が見えなくなったため静かになっていた。
いよいよ準備ができ、デイムが準備が整ったことをサヤに告げようとしたその時――
「ま、待って!?サヤちゃん、ちょっと待って!」
「ん?何……どうしたの?」
「ルーシーさん……大丈夫かな?」
「ルー……シー?あ、あぁ。何でかメイドの服を持ってて、それを貸してくれたあの人?」
「そう、その人よ!」
閉じ込められた空間から脱出し、王の部屋から逃げる際にフランムはルーシーのことが気になると言ってその姿を隠し、契約者の元へ向かうためハルナたちと別れた。
状況が落ち着いた今、ハルナはそのフランムの心配を理解していた。
「ルーシーさん、裏切ったと思われてないかな?っていうか、ルーシーさんの命が……」
「――ハルナ様!!」
ソイが飛び降りた場所から、精霊……フランムが飛び出してきた。
「どうしたの?フランムちゃん!?」
「ルーシー……ルーシーが捕らえられそうになって……どうか、お助け下さい!?」
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