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第六章 【二つの世界】
6-132 ソイの記憶4
しおりを挟む「あの者は生真面目な性格で、例え私がそのようなことを命令したとしても、それに従う男ではない。むしろ、そのような命令をする私を叱り、王国と国民との関係とその重要性を淡々と私に諭して聞かせたであろうよ」
ソイはステイビルの言葉を聞き、何も言い返さずに黙ったままだった。
その反応を見て、ステイビルはさらに言葉を繋いでいく。
「……だが、私はお前が”嘘”を言っていないということも判っている。申し訳ないが、ここには嘘を見抜く者を配置している。だからこそ、お前の言っていることが間違っているものではないともわかっているのだ」
ステイビルはソイの発言が嘘でないか、ここで魔法によって監視をしていたイナに確認をしていた。
その結果、ソイの発言自体には嘘が無く本当にあったこととして、ステイビルに告げていた。
双方の情報を聞き判断した結果、ステイビルは自分の判断に迷いが生じていた。
イナの魔法も嘘に対しては反応を見せるが、本気で誤っている場合にはそれが事実と異なったとしても反応しないということが実験の結果から見えていた。
だが、人の生い立ちに関することに、嘘を本気で信じられるとは思えない。
相反する情報にたいして、ステイビルはどのような決断を下すべきか迷っていた。
そこに……
「……ねぇ、アンタ。その話は”本当”なの?」
「その声は……サヤか?その質問はどういう意味だ?」
「意味も何も、聞いた通りのこと。イナの魔法で、アンタの口から出た話は嘘じゃないってことだけど……」
「……アンタもさ、薄々気付いてる所があるんじゃない?」
「……」
ソイはサヤの言葉に、自分の中の奥に押し込めていたある事案が再び浮かび上がる。
――なぜジュエの痕跡を追うことができないのか?
自身の追跡や情報収集能力にはある程度の自信を持っている。
でなければ、これまで与えられた命令をこなすことや、危険な任務でもこの命を失うことはなかった。
ソイは国が集めている全ての情報に、制限を設けられることなく調べることが許されている。
王国の極秘任務をこなすためには、そのような制限をかけられては遂行することができない。
それに、ソイが恨んでいた王国に力を貸すことへの条件として、全ての情報の開示を求めていた。
初めは反対されたが、急にソイの要望は認められることになっていた。
ソイはそのことに対し、王国がそれ程自分の能力を欲しているのだと理解して王国からの条件を飲んで従うことにした。
王国の戦力の一部として働きソイは、王国の手先として動いている中での成果は上がっていく中、一番探していた妹であるジュエに関する情報や形跡は何一つ見当たらなかった。
それはソイにとって、目が覚めることのない悪い夢を見ているかのようだった。
そうして、砂漠の中に落としたほんの一粒の砂を探すかのような日々が続く中、ソイの中に思いたくもない考えが浮かんできた。
"――ジュエという人物は本当にこの世にいたのか?"
ということを。
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