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第六章 【二つの世界】
6-164 見覚えのある者10
しおりを挟む「――その赤子……我らに渡してもらうか」
男の言葉にアルベルトもエレーナも驚きは見せない、きっとそういうこともあるだろうということは頭の中に考えていた。
だからこそ、その言葉に対して何の感情も抱かない。
そのことを不思議に思ったのか、男はその反応がないことをどうとらえようか悩んだ。
ほんの数秒間だが無音の時間が流れ、このままでは話が進まないため男はベットに近寄り生まれたばかりで泣き疲れて眠る小さな存在に近付こうとする。
アルベルトはその行動に対し、男の進行方向の途中で腕を伸ばし遮った。
男はようやく、アルベルトたちからの反応が見られてホッとする。
だが、それでもアルベルトのとった行動は、自らが与えられた”作戦”を妨害する行為であるため、そのことをただ黙って許すことなどできはしなかった。
「アルベルト……どういうことだ、これは?お前は王国の命令に逆らうというのか?騎士団の一員でありながら」
「王国の命令ですって?人の子をさらうことが……」
「黙れ、エレーナ。いまは騎士団の一員としてアルベルトに騎士団の一員としての心構えを問うているのだ。精霊使いであるお前の出る場面ではない!」
「……このっ!?」
エレーナがその言葉に噛みつこうとした時、アルベルトが二人の間に身体を割って入り込んだ。
これによってエレーナからは、アルベルトの背中しか見えない。
その背中は幼い頃から見てきた、安心感のある背中だった。
男に何か一言でも言ってやろうという思いは消え、この先を含めた全てをアルベルトに任せることに決めた……どんなことがあろうとも、二人でこの子を助けてみせるという思いのもとに。
アルベルトはその背後の気配を感じ取ったのか、腰に下げていた剣の鞘を下げている側の手で掴み、いつでも抜刀できる状態にした。
アルベルトの剣と鞘には封がされており、これが破られた場合は王国の命令以外の場合厳しく罰せられることになっている。この処置は、アルベルトだけに課されていた。
だが、今回はそれすらも覚悟の上での対応だった。
その覚悟を見た隊長の男は、片手を挙げ後ろの部下に合図を送る。
すると、部下の者は扉を開けて外で待機していた者たちを部屋の中に呼び寄せた。
その中には精霊使いもおり、エレーナに対応するためにこの場に呼ばれたのだとアルベルトは理解した。
呼びつけた一人の精霊使いに、男はエレーナの横で眠る子供を連れていくように命令する。
その行動をアルベルトは身体を張って遮り、理解を求める目で精霊使いを見た。
「うぅ……でも……」
その女性も命令とは言えども、こんなことはしたくはなかったのだろう。
アルベルトからの訴えかけられた視線に、良心が反応をして行動を制止させる。
「……何をしている。早くしろ」
その女性に命令した男が、冷たい声で女性に命令を遂行するよう告げる。
アルベルトはは女性を自分の横にやり、男との距離を離した。
そして、ゆっくりと反対の腰に下げていた剣の柄を握りその封を解いた。
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