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第六章 【二つの世界】

6-223 揶揄

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「ようやく……か」


「……なに?」


「いや、独り言だ。気にしないでくれ……その質問に答えよう、ニーナを連れてきた理由は先ほど見たとおり、”あの”状態を治療したくてやってきたのだ」


「なんだと?エレーナが診た時は、何の問題もなかったはず。それがどうして治療が必要なのだ?」


「ならば、ステイビルよ。お前の目から見て、あの状態は”普通”だとでもいうのか!?」





カステオは力が入り、やや怒りを込めた声でステイビルの質問に質問で返した。
その内容は当然ながら、反論できない回答となるように誘導された質問だった。



「……」


エレーナは二人のやり取りを、思うことはあったがただじっと見つめている。
仲の良い二人ではあるが、今は東西それぞれの王となった身。
そのやり取りに口を挟むのは無礼な行為であるし、部下が失礼な行為をとれば交渉する王が不利な状況を呼び込んでしまうため、エレーナはもうしばらく黙っていることにした。




「……いや、すまなかった。だが、”あれ”に原因がある病気ではない……のだろう?」



ステイビルは、エレーナにもう一度確認するために目線を送る。
その目線を受けて、エレーナは一度だけ問題なしと頷いて見せた。



「であれば、一体なぜこの国に”このような形”で訪れたのだ?カステオ」


この瞬間から、カステオが纏う空気が一瞬にして変わっていくのを感じた。
表情自体は、先ほどと変わらぬ様子をしているが、この空気は何かを決意した時と同じ感じであることをステイビルは感じていた。




「言ったであろう?ニーナの病気を治すため……だとな」


「治す?いったい何を・・・どうやって?」


「その前に……エレーナの力は間違っていないことを伝えておこう。ニーナは病に侵されてはいるが、何かに侵されたというわけではないようだ……それともう一つ聞いておきたい」


「……なんだ?」


「ハルナは……どうしている?」


「……?ハルナなら今、準備中だ」


「あぁ、そうだったな。お主とハルナの婚姻式の準備か……そのような忙しい中、お前もこんなところにいていいのか?」



ステイビルは、カステオの顔を見つめる……その視線にはかなりの感情が込められており、向けられたカステオは肩をすくめておどける動作をとる。



「冗談だよ……だが、そのハルナだが……ハルナは本当にお前と共にすると決めたのか?」


「……もちろんだ」




そう言いつつ、ステイビルは今までハルナから自分に対しての愛情を現す言葉を聞いたことがないことを思い出す。
これは意識的に心の奥底に沈めていた考えであったが、いまカステオから指摘されたことにより、いとも簡単に意識の中を恐怖が支配していく。


”本当は自分のことを愛していないのではないか”――という考えたくもない思いが。



「そうか……ならばよい。そこでお前に相談……というよりもお願い事があるんのだ」


「相談?それは一体どういうこ……」



そう返そうとしたステイビルの言葉は、カステオの動作によって遮られた。
カステオは両手、両膝を床に付き、ステイビルに向かって頭を下げた。







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