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第六章 【二つの世界】

6-281 準備

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楽しかった数日間の余韻がいまだに胸の中に残っていたが、この感覚は大切に心の奥に仕舞っておいた。


翌朝、エレーナが昨日までとは違う立派な衣装を纏い、ハルナのことを呼びに来た。

ハルナはそのことをソフィーネから聞くと、部屋の中に入ってもらった。


エレーナとマーホンは、招き入れられた部屋の中で椅座ってい待つ、ハルナは支度の途中だったという。
支度を終えると、ハルナは別の部屋から姿を見せる。
その姿を見るとエレーナとマーホンはすぐに立ち上がり、立ち位置をずらして胸に手を当てて片膝を付く。



「おはようございます、ハルナ様」


「ちょ……ちょっと!?何やってんのよ、エレーナ!やめてよぉ!!」


「ハルナ……これからあなたは私たちの全てをかけるの。それに、ハルナは知らないかもしれないけど、その姿は王家が戦いに参加するときの衣装よ」


「え?こ、これが!?どおりで素敵だと……」





ハルナがみたこの衣装は、今までに見た衣装の中でも装飾が飾られていた。
全体的な造りは、身体の露出は少ないようになっているが、動きやすい造りになっていた。
精霊使い用に誂えたこの布の表面には四元素の模様が所々に散りばめられ、背中には大きな刺繍で大精霊と大竜神が左右に分かれて施されてあった。
ソフィーネによるとこの衣装は、国の有事の際に一番力を持つとされる王家の者が着用される衣装で、用意されてからこれまで誰も袖を通したことがないものだという。
それも当然で、用意はされてきたが今までに東の王国がそのような状況に陥ったことはなく、力でこの国を守る場面がこれまでになかったために、その衣装が一般に目につくことはなかったのだった。


一通りハルナが身に付けている衣装についての説明を終えた後、エレーナは再び友達から主従関係へと戻し、ハルナに次の行動を促した。



「……ハルナ様。そろそろステイビル様のところへ向かいましょう」


「う、うん……」



その言葉遣いにハルナ戸惑いながらも、先ほど聞いた説明と自分に与えられた役目を思い返しながらエレーナの言葉に従った。





――コンコン


ステイビルの部屋の前には、いつもいる警護の者はいなかった。
今日は重要な話し合いがあるためこの付近に近付かないようにと、騎士団長であるアルベルトから通達がおこなわれていたためだった。


扉の中から、入室を許可する声が聞こえた。
その声は男性ではなく、やさしく聞き慣れた女性の声だった。


「――失礼します」


そう告げるとエレーナは扉を開けて、部屋の中へと入っていく。


「よくきたな」


ステイビルは、いつも通りの言葉を掛け、この部屋に来てくれたハルナたちを労った。
ステイビルの近くには、先ほどの入室を許可する声の主であるニーナが立っていた。

ハルナは、ステイビルの姿を見て息をのんだ。
自分が身に付けている服装と同じ柄のものを着用しており、男性用に仕立て上げられた衣装は今までと違うステイビルの一面を見せていた。


この部屋に入ってから、誰もが多くを語らなかった。
それは、この部屋に来た理由がこの場にいる者たちは既にわかっており、その重大さも共有していたからだった。


ステイビルはこの部屋に訪れた者たちの顔をみて、一度だけ頷いて見せる。
それに応えて、他の者も頷き返した。


ステイビルは立ち上がり、秘密の扉を解除していく。


――カチャ


再び壁から、鍵が外れる小さな音がした。
ステイビルは扉の前に立つと、振り返った。



「……よし、行くぞ」


そう言ってハルナたちは、ステイビルが開いた隠し扉の後ろをついていった。






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